青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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アルハザード編6話 研究と相談

 あれから、1年。

 

 お姉様の言葉遣いは概ね矯正され、普段の会話もアルハザード語になっている。

 アルハザード語は、お姉様の記憶に相当する言語は無い。

 強いて言えば、ラテン語に類似する単語が存在。

 お姉様のラテン語知識では、近似と言えるだけの情報も無い。

 

 お姉様は、最初の落ち込みから任務は任務と割り切れる程度には立ち直っている。

 それでも、普段は戦場に立つことは無く、資料庫に籠ったまま。

 時折命令で戦場に立ち、その度に私達の人数や、保持するリンカーコアと魂は数を増やしている。

 その結果、私達は既に500人を超え、処理能力に余裕も出ている。

 

 新しい概念、新しい魔法への挑戦。

 お姉様と私達の希望を叶える。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

(コンピュータに似たシステムの再現か。

 概念としては類似するものは無いようだが、厄介な部分は魔法で何とかなりそうか?)

 

 リンカーコアを動力源、魂を演算機及び記憶装置と設定。

 今の私達も似た構造。

 コンピュータとして不要と思われる部分を、可能な限り性能に割り振る。

 冗長部分は確保。劣化対策は必要。

 4ビットの実証機は問題なくクリア。

 

(仕様や規格は決めているのか?)

 

 お姉様の知識を参照。

 試作機は16ビットと32ビットのハイブリットから。

 上位互換を維持、可変長で最後まで残せる命令のみを想定。

 最終的に64ビットの超並列を想定。128ビットは一部の値のみで十分と判断。

 お姉様の知識、特にぐぐーるのサーバー構成情報は目標として有用。

 

(予想以上にやる気だな?)

 

 お姉様の影響。

 役に立てる実感。

 役立つものを作る達成感。

 物作りの楽しさ。

 後戻りは不可能。

 

(……そうか。楽しいなら何よりだ)

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 ネギまの別荘。

 当初より候補筆頭。

 

(確かに、便利そうなものだが。

 まずは必要な要素の抽出からだ)

 

 空間作成?

 空間圧縮?

 時間軸分離?

 内部と外部は転移で移動。これは座標が特定できるなら問題ない。

 

(新しい空間を作るよりも、圧縮して外から見たよりも広い空間を持つ方が容易か?)

 

 空間の歪曲は、現在重力の専売。

 過重力空間での生存は困難。

 空間のみに重力を適用?

 

(物の大きさを変える魔法は無いか?)

 

 既存術式は不完全。

 生命維持に支障。

 生物が想定外。

 精密品にも適用不可。

 情報が劣化。完全には元に戻らない。

 

(その情報も集めるとして、扱うべきはやはり空間か)

 

 魔力の負荷も高いと予想。

 魔導炉や人工リンカーコアの情報を収集すべき。

 複数の魔導具による補助も検討すべき。

 インテリジェントデバイスによる調整も必要と判断。

 魔導具、デバイス、人工リンカーコアの生産技術が必要になる。

 人工魂魄や各種AIの技術も軽視はできない。

 魂はリーナの得意分野。協力は有意義と判断。

 魔力操作に関する情報も集めるべき。

 カートリッジやAMFに至る技術?

 少なくともこれらに耐える必要がある。既存技術での破損は回避すべき。

 封印、魔法解除の情報も必要。

 

(ずいぶんと大がかりになるな。

 有用な情報が集まった際に順次検討に留めるべきか)

 

 明らかに高難易度。

 きっかけを見つけるところから始めるべき。

 

(しかし、次元転移もどこか違和感があるんだが……

 近距離の転移とは違う構成なのは間違いないんだが)

 

 違和感の正体を予想。

 近距離転移に比べて、規模の割に消費が多くない事?

 世界を超えるという大仕事の割には、構成が単純な事?

 同一世界転移は星系を出ることも出来ないのに、次元転移は可能な事?

 

(それもあるんだが……

 そもそも、他の世界が座標で示せるという点がな)

 

 位置特定手法?

 方法論は確立済み。

 何故これで良いか、理論は不完全。

 研究者としての血が騒ぐ?

 違和感とは異なる何か。

 

(うーん……まあ、これもおいおい、だな)

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 リーナの研究への協力、という名のお茶会。

 今回の議題はクローン作成時の能力付与。

 

「つまり、フェイトを作る際に魔法の素質やらが変わったという話に繋がるわけだな?」

 

「正にそれね。

 今の技術だとかなり偶然の要素が強いのよ。

 それを、ある程度意図的に操作出来ないか、って言われてるのだけれど」

 

「結果から見た原因の推測は?」

 

「魂やリンカーコアの影響が強いらしい、くらいかしら?」

 

「リンカーコアの変化要因は分かってるのか?」

 

「周囲の魔力濃度が適度である場合に出現率が高い、くらいね。

 ただ、濃度が適度だとそれなりの魔力量のリンカーコアを量産。

 濃度が高すぎると魔力量は大きいけど数は減る傾向が強いわ。

 濃度が低い場合は魔力量も数も少なめね」

 

「最後に運に頼りたくない、という事か。

 現状を見る限り、魂の影響が大きいのではないか、としか言えないか」

 

「魂も自由に操作できるわけではないから、なかなか実証が難しいのよ。

 ある程度性格の方向付けはできるし、記憶に関してはかなり融通が利くけれど。

 それでも、性格は記憶の影響を大きく受けるし、同じ記憶を与えても同じように定着するとは限らないし」

 

「残る影響は……クローンは培養液の中で促成か?」

 

「他の育成方法も検討や実験はされているけれど、一番安定するのはその方法よ」

 

「なるほど。

 他に考えられるのは、培養液の成分、温度、対流。外部からの光や振動、放射熱やらも影響する可能性があるな」

 

「素体ではなく外的要因が影響する可能性という事ね?」

 

「数十兆だかの細胞に増える過程は、加速しても省略はしていないのだろう?

 なら、ほんの少しの要因が後々まで影響しても不思議ではない」

 

「そうなると完全な状況再現や比較が必要になるけど……まあ、無理ね」

 

「だろうな。簡単に再現できるものなら、原因が特定できないとは思えない」

 

「可能性としては考慮すべきだけど、実質的に計測して比較……統計を取れるほどの資料が揃うとは思えないし、お蔵入りね。

 いい発想が無いかと思ったけれど、なかなか上手くいかないわ」

 

「悪かったな、素人の考えで」

 

「発想自体は悪くないわよ?

 可能性として考慮するには十分と思えるし、原因が特定できない理由を納得させられる内容だから」

 

「改善に役立たなくても、改善できない説明が出来れば十分か?」

 

「いくら私がクローンと魂操作技術の第一人者でも、過去に散々研究されたテーマを簡単に片付けられない点は説明できないといけないから。

 やっぱり、違う視点からの発想は面白いわね」

 

「そうかい」

 

「ところで、最近情報の流出が増えているみたいよ。

 それらしい情報は無い?」

 

「リーナの名前が入った、クローン技術に関する資料は夜天が見かけたらしい」

 

「どの程度の資料か、内容の調査はできる?」

 

「資料庫に同じものがあった。

 大体30年程前の論文に添付されていた資料だな。

 論文自体の流出は確認していない」

 

「間抜けと切り捨てるには微妙ね。

 クローン技術は結構厳密に管理しているはずだけど」

 

「クローンそのものと言うより、促成に関する部分だな」

 

「……手軽に頭数を揃える手法が目的かしら?

 その意味では30年前の資料でも十分。最近の論文より管理も甘い。

 いい腕のネズミがいるか、分かってる協力者がいるか」

 

「内通なんて、大きな力を持つ組織相手ならどこでも仕掛けるものだ。

 全てを防ぐ事は不可能だろう?」

 

「上層部は、悪い意味で達観してはいけないのよ?

 可能な限り防ぎ、可能な事後策を取る義務があるわ。

 私達にその義務は無いけどね?」

 

「それでいいのか……?」

 

「いいのよ。

 報告すら義務として設定されて無いもの」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 魔法薬の再現?

 

(唐突だな。エヴァンジェリンの使っていた物が気になったのか?)

 

 物理的な素材と魔法の融合は、デバイスや魔導具類で発達。

 消耗品としての利用は費用対効果が悪く、未発達。

 費用の問題を解決または無視できるのなら、有効?

 

(そうだな……アルハザード後を考えると、ある程度有用か)

 

 実力の隠蔽?

 切り札としての役目。

 費用を盾に、乱用を防ぐ。

 動植物素材は、安定供給が難しい。世界が変わると材料が変わる。

 現在の魔法素材は元素、魔力、人間が材料。

 元素系素材は鉱物、大気、水からの化学合成に魔法合成を併用が多い。

 人間を材料とするのは大抵の国で違法。

 国や犯罪者組織が裏で生産。

 

(現状でも、ある程度それらしいものを作ることは可能という事だな?)

 

 魔力の蓄積は可能。

 現在は持続型魔法への供給が主な用途。

 人への供給は想定されていない。

 利用者側の技術も必要。

 高費用の魔力を利用する技術の習得より、魔法を使う訓練、魔力を増やす訓練が安定性で高評価。

 魔力の無い人は魔力の運用能力も欠如。利用がとても困難。

 結果的に、役に立たない技術と評価。

 

(魔力の弱い者の強化には、一応なるが……

 管理局より犯罪者組織が喜びそうな技術だな)

 

 現在も、裏の人間しか使っていない。

 利用目的も、ほぼテロや侵入しての内部工作。

 魔力が弱く警戒されにくい人間に、大きな力を使わせる場面限定。

 負荷が高く、扱いを間違えれば死を招く。

 

(実力を隠すにも使えるが……当面は不要か。

 情報収集は続けるが、積極的な研究は余裕が出来てからだな)

 

 他に研究したい材料が色々。

 妥当な判断。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

(ふと思ったのだが、虚数空間は確認されているな?)

 

 本当に唐突。

 人体操作と治療に関する資料の調査中とは思えない突飛さ。

 プレシアからの連想と予想。

 

(その通りだよ、まったく)

 

 空間破壊により現れる別の空間という一般的認識。

 魔法は原則使用不可。

 魔法式の前提が崩壊する。

 魔法式の変数に、騒音で虚数が入る印象。

 

(そこでは、本当に魔法が使えないのか?)

 

 専用または対応した魔法であれば行使可能。

 対応は困難。

 飛行魔法を対応させても、出口は大抵無いと思われる。開発されていない。

 転移は対応魔法が存在。但し、転移座標も虚数で騒音混じり。

 どう足掻いても補正演算が追い付かない。補正自体も騒音で汚染される。

 通常空間への転移に成功するまで、ひたすら試行。

 脱出には時間が必要。通常は生命維持の限界への挑戦。

 お姉様と私達が稼働時は、全員で補正演算が可能。

 ごく短時間ならまだ汚染も少ない。試行回数は激減可能なはず。

 

(そこでの捜索も、あり得ないほど困難って認識でいいな?)

 

 夜の荒れた海で1枚の木の葉を目視だけで探すに等しい。

 仮に見つけても回収までに見失う。

 恐らく無駄な労力。

 

(そうか。

 ふと思ったのだが、周囲で使用される魔法の魔法式に、強引に値を突っ込む方法はあるのか?

 虚数を突っ込むと、AMFが出来上がりそうな気がするが)

 

 相手の演算より高速に処理できれば可能と予想。

 AMF完成の糸口?

 この手法では、発動や維持の抑制のみ?

 完成された現象は干渉不可と予想。

 誘導妨害や魔法弾の破壊は可能と推測。

 見た目上は原作のAMFに近いと判断。

 

(ふむ。そうなると、割り込み手法の確立からだな。

 虚数が扱えなくても、妨害の手法程度には役に立つだろう)

 

 魔力操作手法の精査から開始。

 魔力操作と言えば、もう一つ。

 カートリッジシステムのこと、時々でいいから思い出してください。

 いっそ、魔導炉を直結。

 最近は主様も得意な一時強化手法。

 本来はリンカーコアや体に多大な負荷が発生。

 無限再生の前に負荷は細事。

 負荷による苦痛は大事。

 実力隠蔽時のブースト手法としては優秀と予想。

 

(……研究対象が増える一方だな)

 

 研究者の性分。

 改善不可能。




この話からは、アルハザード語で生活している設定です。
次話は、もっと時間が飛びます。アルハザード編は、駆け足ですよ。


2016/09/07 達観しては→悪い意味で達観しては に変更(指摘にあった「楽観」はしっくりこなかったため)

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