青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編13話 遠い世界へ

 あれから1週間とちょっと。具体的には月曜日。

 お姉様はこの間に蒐集用のデバイスを用意。色は黒を基本としてる。

 両刃の片手半剣を基本に、連結刃、バトルライフルの形態も持つレーベレヒト。

 頭部が大き目の戦槌で、普段から一方がドリル状になってる、ヴィルヘルム。当然、巨大化もロケット化も併用可能で実装済み。

 トンファーに似た形状の、ゲオルクティーレ。探知系を超強化、最大限に発揮させるときはダウジングのスタイルで。近接用に蹴りの補助も強化してある。

 守護騎士3人が使ってたデバイスの使用感や魔法をそこそこ再現しつつ、闇の書の蒐集を加速するための補助機能も追加したもの。

 しかも、ベルカ式の使用感で表面的にミッドチルダ式を再現。近代ベルカ式の逆になるはずの、トンデモ仕様。用意してある魔法しか補助出来ないし、偽装処理もあって負荷が少々高めになってる上に、カートリッジは搭載してるけど原則不可としてあるから出力は落ちる。でも、その辺は技術でカバー出来ると信じたいし、闇の書やお姉様との関連を匂わせない為にはとても有効なはず。

 

 活動する際は髪の色を黒く変えて、騎士甲冑も黒を基本としてある。顔をマスクやバイザー等で隠したりもしてるし、軽く認識阻害もしてある。

 この黒い騎士甲冑も、八神はやてがノリノリでデザインしてた。イメージを変えるためか、どこかの狩人さんのゲーム的だったりするけど、実用上問題無し。乗り過ぎて変身のポーズまで考案してたけど、素顔を晒せないという理由で却下されて凹んでた。

 ちなみに、レイア、ザザミ、ベリオXに似てる。何がとは言わない。お姉様に麒麟を没にされて残念がってたとも言わない。

 ついでに黒で統一という事で、呼称は黒の騎士団に。クロノ・ハラオウンが日本語を学ぶと悶えるかもしれない弄りネタ。いつ気付くか楽しみ。

 

 八神ヴィータに関しては、大人モード自体は適用不可が確定したけど、幻術等を組み合わせた魔法先生ネギま方式に近い年齢詐称モードをヴィルヘルムに実装。18歳相当151cmという守護騎士の妹ポジションを維持したような疑似大人モードが実現して、それでも予想以上に喜ばれた。

 お姉様の変形が時間超過した場合のために準備した年齢詐称術式が役に立った。

 ちなみに、髪はショートヘア。100tの刻印がお姉様に阻止されたのは心残り。

 

 これに慣れる必要もある為、守護騎士達はゆっくりと蒐集を行ってる。現在はミッドチルダで動いてるから、早速、時空管理局地上本部の上の方には疎まれ始めた。

 とはいえ、現場に近い局員の心象はさほど悪くないし、即座に排除しようという動きも無い。知名度のある凶悪犯罪者を優先しつつ、ミッドチルダの陸上警備隊や首都航空隊を助けたりしてるのが功を奏してる。

 黒の騎士団を義賊として報道に乗せられた事も効果を発揮してる。記者やライターの従属属性使い魔化おいしいです。お姉様には言えないけど、元々捜査網作りで使い魔を活用してるから、その延長上の作業。ばれてない。

 

 捜査網をより広げるために、私達の増員もお姉様に申請。

 無事、許可された。

 早速増員を開始、今回は2か月かけて2倍にする方針。

 これが完了したら、2万人。元ネタ的に追い付くけど、特に感慨深くは無い。

 

 地球と言うか、日本の状況は平和なもの。

 危険物系転生者の動きは無く、協力的な魔導師達の訓練も順調。

 ギル・グレアム関連、要するに書類の返却やらも問題無く完了し、余計な手出しもされてない。

 

「ど、どうしよー、助けてアリサちゃん!」

 

「最近は魔法の練習ばっかりやって、勉強してなかったからでしょ。

 元々、社会は点数良くなかったんだし」

 

 高町なのはが騒いでアリサ・バニングスに窘められてるけど、勉強を強制する気が無いお姉様的には問題無い。

 でも、当人的には抜打ちテストの点数が大問題だったらしい。家族である高町家の人達にも問題だと捉えられた。

 というわけで。

 

「今日は、魔法の練習はお休みにしなさい。勉強会するわよ!」

 

「頑張って、なのはちゃん」

 

「ふえぇぇぇぇ!?」

 

「アンタが勉強しなきゃ、どうにもならないでしょ!」

 

 という流れに。

 纏めると、高町なのはの勉強不足が発覚し、アリサ・バニングスと月村すずかの監修の下で勉強をするという事。

 場所は高町家、高町なのはの部屋。講師役兼監視役として同級生二人と、そして。

 

「シクシクシクシク……」

 

 半泣きを通り越して、マジ泣きしながら宿題をしてる夜月ツバサがいる。

 ここしばらく高町家道場に入り浸りすぎ、宿題をサボり過ぎて怒られたらしい。しかも、社会については前世と微妙な差があって混乱しがちな上に8年程のずれのせいで、油断すると所謂赤点転落の危機というオマケ付き。

 それでも道場に来たのは、魔法の掛け直しのため。勉強会をしていると聞いて、掛け直し後に会場に転がり込んできた。

 

「前世の知識とかがあっても、それに足を引っ張られるって情けない話よね」

 

「国語も、有名な作品名や作者の一部は駄目なんだよね?」

 

「もうちょっとで成立年の明記が無くなるはずなのに、何で1192年になってるのよぅ……人の名前も部分的に違うし、誰よ宮沢賢一と宮沢喜治って……秀吉が性別不明で秀頼が養子で、信長と光秀が取り合ったのが本能寺の変って、いったい誰得で、何で小学校で教えてるのよ……」

 

 成績優秀なアリサ・バニングスと、そこそこの成績ながら基本的な事はきちんと押さえてる月村すずかの同情的な視線を浴びながら、同じ小学校3年生の夜月ツバサは唸ってる。

 前世の知識やらが入り混じって、めっちゃ混乱してる。

 

 それに比べたら。

 

「うー、大泉純太郎って誰だっけ……」

 

「ほら、感動した、って言葉が有名な人だよ」

 

「ふえ? 作家さん?」

 

「アンタは論外だわ」

 

 うん、アリサ・バニングスに全面的に同意。

 やたら名前が売れてる現職総理大臣の名前が出ないのは、どう考えても論外。

 

「やれやれ。特技を磨くなとは言わんが、一般常識くらいは把握しておいた方がいいぞ?

 馬鹿にされる大人になりたいなら別に構わんが」

 

 アースラの現地拠点から、大人モードのお姉様が到着。

 ここしばらくはお姉様もミッドチルダ式の魔法を教えてもらってるから、よく顔を出しに行ってる。水準が違い過ぎる馬場鹿乃が来たから、お姉様は退席してきた。

 

「じゃ、じゃあエヴァちゃん、大泉純太郎って誰?」

 

「政治家だな。過去には厚生大臣や郵政大臣もやっている。

 ここまで言って今の立場が想像出来なかったら……どうしてくれよう」

 

「にゃ!? フェ、フェイトちゃんのビデオレター!?」

 

 高町なのはの目が点になりつつ、お姉様が取り出した封筒に釘付けになってる。

 なのはちゃんの所に行くならと、エイミィ・リミエッタから預かった物。

 封筒をゆっくり動かすと目が追ってくるあたり、他の事が頭から完全に抜けてる模様。

 

「やはり駄目だな。アリサ、これを持っていてくれ。

 きちんと勉強した後にでも渡してやるといい」

 

「ひ、ひどいよっ!」

 

「何がよ。今は勉強する時間でしょ」

 

「そうだな。フェイトなど資格試験の勉強中で、落ちるわけにいかないと必死だぞ。それに比べれば、学校の勉強など優しいものだろう?

 というわけで、問題無いと認められる程度になるまではお預けだ」

 

「もうちょっと頑張って、なのはちゃん」

 

「ふえぇぇぇ」

 

 お姉様から封筒を受け取りつつ、ちょっと冷たい目を高町なのはに向けてるアリサ・バニングス。

 月村すずかが励ましてるけど、その程度じゃ浮上できない模様。

 

「フェイトが日本に来た時、こっちの常識やらを一番近い立場で教えられるのはお前達なんだぞ。

 このままだとその役目はアリサの独壇場、もしくはアリサとすずか優位になるのは確定的なんだが、それでいいのか?」

 

「う……が、がんばる!」

 

 一本釣り成功。

 高町なのはが単純な思考で良かった。

 緊急報告。金子狗太の生命反応が消失、現在マーカーを追跡中。

 

(殺されたのか?)

 

 隠蔽処理されて連れ去られてる模様。

 個人転送で次元世界を渡ってる。転送の隠蔽処理もかなり高いレベル。

 恐らくアースラは見失ってる。

 

(とりあえず他の連中の護衛及び監視を強化、警戒対象なら追跡優先で保護は2の次だ。

 下手人が誰で、どこに向かっているか解るか?)

 

 ミッドチルダ方面だけど、行先を確定するにはまだ早い。

 誰かも不明。まだ光学系で捉えられてないし、微かに感知出来た魔力反応もなんだかおかしい。

 人じゃない可能性が、割と高い。

 

(となると、心当たりはスカリエッティの戦闘機人か……?

 拠点を探れるかもしれん。見付からない様にな)

 

 了解。

 ミッドチルダの少し先くらいまでは、犯罪者の捜査網があるから追跡可能。

 この範囲に隠れ家がある事を希望。

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 そして、夜。金子狗太、杉並英春に続き、恐らく最後で3人目のギル・ガーメスが、収容先に到着した。

 場所は、ミッドチルダの山中にある地下施設。

 連れ去ったのはクアットロ。ステルス性能的に、時空管理局の設備では追跡出来ないはず。

 3人の前にジェイル・スカリエッティが現れたと思ったのですが、どう見ても変態博士です。

 

「東には接触が無かったのか?」

 

 接触はあった。魔力探知系は誤魔化されたけど光学系と音響系で捉えてるから、間違いない。

 東渚は、操り人形になる気は無いと明確に拒否。戦闘態勢に入ったため、クアットロが逃亡。

 

「正しい判断だろうな。既にレリックが見付かっていれば、いい実験材料だろう。

 だが、スカリエッティに原作や転生に関する情報が渡ると考えてよさそうだが……」

 

 日本では夜だし、一度寝てから話を聞くことになってる。

 特に金子狗太がチンクを見て鼻の下を伸ばしてたから、多分簡単に喋る。

 どこでも、どこまでも、どうなっても、ロリコン。

 ちなみに、チンクは眼帯をしてない。見た目は普通の銀髪なおこちゃまだった。

 

「聞かれてまずそうな影響は……プレシアへの横槍と、グレアムの立場が危なくなるくらいか?

 あの3人なら私は知られていないはずだし、今後知られたとしても、転生者だと勘違いされた方が夜天関係者だと思われにくくはなりそうだ。

 闇の書に手を……出してくる可能性は否定出来んか」

 

 お姉様や主に関しては、大丈夫なはず。情報攪乱という意味ではいい働きをしてくれると予想。

 必要なら処分する事は可能。監禁場所の警備システムはさほど厳重じゃない。

 プレシア・テスタロッサについては原作情報を踏まえた上で、見た目上は引き下がる方向で動いてる。元々関係者だから、原作知識を知られたからと言って大きく変わる事は無さそう。

 ギル・グレアムは裏で闇の書に関わっていた事が知られる。でも、組織が動いてる事を考えると、最高評議会やジェイル・スカリエッティに知られてないとは考えにくい。

 八神はやては、既にお姉様の保護下。当面は泳がせて色々と探る方向が無難?

 その上で、出された手を食い千切る準備を推奨。

 

「そうだな。スカリエッティなら犯罪者の伝手も多いかもしれんし、当面は情報源と情報攪乱のために役立ってもらおう。

 そのうちジュエルシードにも手を出すはずだからそれを奪うのもいいし、黒の騎士団からの情報という形でクロノに捕縛させるのもありだな。少しクロノに箔を付けた方が交渉で有利になりやすいだろうし、黒の騎士団の売名にもなるだろう。

 ついでに連中纏めて強制蒐集もアリか? 王の財宝や金の変換資質は脅威にならんだろうし」

 

 この辺は、残りの特典次第。

 ジェイル・スカリエッティや戦闘機人の魔力量はそれほどでもないから、蒐集的はそれほど美味しくない。

 情報が渡る事自体は問題だけど、ぺらぺらと喋る可能性が高いから、監視は強めで継続。

 成瀬カイゼから通信。転生者3人の移動に気付いた模様。

 

「状況と、現状では監視のみで手出し不要という事は伝えておいてくれ。

 あとは……状況によってはクロノ辺りをせっついて動いてもらう可能性が出てきた事くらいか」

 

 他に状況を伝える人は?

 

「一応、リンディとエイミィには伝えておくべきか? 監視対象のロストだ、気付いていないとは思いにくいが、念のためだな。エイミィにはスカリエッティの名前は出さず、誰かが個人転送で攫っていったぐらいの方が良さそうだ。

 後は……まあ、協力者たち全員に、エイミィと同じレベルの話はしておくか。警戒対象のロストと、別の警戒が必要な相手のお出ましだ。情報が無いよりはいいだろう」

 

 了解。

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 一方その頃、長宗我部千晴の自室では。

 

「……マジ?」

 

「ええ、大真面目な話で御座います」

 

 チクァーブが、長宗我部千晴と話をしてる。

 危険人物がジェイル・スカリエッティに攫われたからある意味で安全に、ある意味で危険になったという事は、ふーんという感じでものすごく軽く流されて。

 驚かれてるのは、チクァーブの特性についての話。

 

「……で、何で私なんだよ?」

 

「それはもちろん、適性が高そうだと思えたからで御座います。

 いやはや、我等が最初に出会えたのは、偶然だけではないという事で御座いますな」

 

「偶然の方がいいよ。てか、そもそもが勘違いだと言ってくれ、頼むから」

 

 問題の特性と言うのは、要するにチクァーブのユニゾン能力。

 色々試した結果、要するに超広い意味でのユニゾンデバイスであり、コンピュータとユニゾンするような形で内部へ侵入していると判断出来たチクァーブ。

 では人はどうだと周囲を見た時、長宗我部千晴との相性が良さそうだ、と思ったらしい。

 電子部品やデバイスと高い適合性を見せる代わりに生物との適合性が低いのか、他の人物とはあまり相性が良さそうだと思えなかったとの事。

 

「では、必然という名の偶然という事に致しましょう。

 つまり、この地に高町なのは嬢と八神はやて嬢がいて、レイジングハートや闇の書と出会った事と同じで御座いますな」

 

「うっわ、嬉しくねぇ」

 

 長宗我部千晴は、本気で嫌そうにしてる。

 本来は魔法や原作と距離を置きたいという立場を取ってたし、ユニゾン可能だと言われても嬉しくないのは解る。

 でも。

 

「好奇心が止まらない、で御座います。それでは失礼いたしますぞ」

 

「うわ、くんな! 来るんじゃねー!」

 

 逃げようとする長宗我部千晴に襲いかかるチクァーブ。

 字面は犯罪的なのに、ネズミに襲われて逃げ惑ってる猟奇的な場面にしか見えない。

 そうしているうちに、チクァーブは長宗我部千晴の中に入っていった。

 

「ちょ、ちょっと……くっ、な、何だよこの異物か、んあっ!?」

 

(おお、ヒトの中というのは温かいで御座いますな)

 

 やっぱり犯罪臭しかしないけど、ユニゾンは問題無さそう。

 長宗我部千晴の外見が変わって、髪が銀色になった。

 これ以外は、チクァーブが調整。バリアジャケットを展開した状態になり、服装やらも変わった。

 

(成功で御座います。いい感じに仕上がった自信が溢れそうですぞ)

 

「て、てめぇ……訴えるぞ、エヴァ様に泣きながら」

 

 むしろ、既に半泣き。

 これは訴えていいレベル。

 

(それは困りますな。とりあえず、今の外見の確認をする事をお勧めいたしますぞ)

 

「外見って……何だコレ!?」

 

 机の上に合った鏡で自分の姿を確認した長宗我部千晴が叫んでる。

 銀色の髪をツインテールにして、白いワイシャツに超濃いグレーのネクタイ、黄緑色のベスト、ネクタイと同じ色のミニスカートを着てるのは、だいたいチクァーブのせい。

 

(電子で妖精と言ったら、やはりこれで御座いましょう)

 

「いったいどこのリルリルなアニメキャラだよ! ってか何をやってんだこのオタク!」

 

(いやいや、理解出来ている時点で同類で御座いますよ。

 それでは次の検証で御座います。参りましょう)

 

「参るってどこにだぁぁぁぁぁ!?」

 

 長宗我部千晴の姿が、パソコンに吸い込まれるように消えた。

 ユニゾン時は、長宗我部千晴も入っていけるらしい。

 えーと、流石電子の妖精とか言っておくべきなのかもしれない。




2003年当時の狩人さんにザザミやべリオが居ないとかXが無いとかは細事なので、気にしてはいけません。

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