青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編14話 遠い世界で

「……で、千晴を虐めた結果がコレか?」

 

「予想以上に優秀で御座いましたな。まさか、ここまで行けるとは予想外で御座いました」

 

 翌朝、お姉様のいる部屋に現れたチクァーブ。

 提出してきたのは、ジェイル・スカリエッティの研究所のほぼ全容と研究資料。関係のある犯罪者の情報もある。長宗我部千晴とユニゾンした場合の能力検証のついでに、ミッドチルダまで行ってきたらしい。

 おまけで、聖王のゆりかごの現状も判明。状態はさほど悪くないけど、聖王不在により起動出来ない模様。聖遺物がまだ盗まれてない事も確認出来た。

 

「全く……普通なら淫行罪で潰すところだが」

 

「ネズミの姿では雄であるという構造上の証明は御座いませんから、潰されるところは生命しか御座いませんな。必要であれば、該当部分のある人の姿となりましょう。

 可能な間に報告を致しますが、千晴嬢の能力は予想以上で御座います。自由にコンピュータを使えるという転生特典によるものと思われますが、認証や権限制御を踏み倒す効果を発揮しておりました。

 デバイスには無力の様ですので闇の書対策に直接役立つ力では御座いませんが、魔力探知に捕まらない能力はそのままで御座いましたから、情報収集能力では間違いなく群を抜いております。

 それと、内部から観察したところ、恐らく魔力量はA相当だと思われますぞ」

 

 該当箇所って、要するにショック死し得るアレ?

 遠慮なくぷちっとやるのに一票。

 長宗我部千晴の魔力量は使用魔力からの推測通りだから、目新しくないし。

 

「ふぅ……千晴には話をしておくから、情報収集に手を借りれるなら、借りていい。

 但し、強要は禁止だ。報告を聞く限り、初回のアレは今後一切拒絶されても文句を言えんぞ」

 

「ええ、少々ウキウキと浮かれすぎて、やってしまいました。

 今は海よりも深く反省しております」

 

「やれやれ、今は人外でも、せめて前世の分くらいのデリカシーは持っておけ。

 孤独が好きなわけでもないんだろう?」

 

「それはもう。その為にも、ペンチを持参して参った次第で御座います」

 

「……何をどう潰される気で来たんだ。それをするくらいなら、魔法弾で撃ち抜くぞ。

 とにかく、今日の夕方にでも話をしておくから、接触は明日以降にしておけ。それまでに接触したり、強要したりした場合は本気で撃ち抜く。

 いいな?」

 

「了解で御座います。それでは、今日明日は管理局の情報調査に邁進致しましょう。

 それでは失礼いたしますぞ」

 

 半ば逃げるように、チクァーブは部屋にあったパソコンへと消えた。

 この部屋にパソコンがあるのは、ほぼ電子精霊用。直接使う事は、誰かが来てる時の調べもの程度でしかない。

 

「やれやれ、人外だからと言ってアレは無いだろうに」

 

「妹達の説明の仕方も悪い気はする。

 声を聞く限り、そういう現場にしか聞こえないのは確かだけれど」

 

 お姉様のぼやきに、今まで黙ってた主が答える。

 ここは八神家の、主とお姉様の部屋。ダブルベッドが置いてあるけど、普段使うのは主のみ。お姉様は泣いた時以来やっぱり寝てない。

 ちなみに部屋割りは、八神はやてと八神ヴィータ、八神シグナムと八神シャマルの組み合わせ。

 あと2部屋使えるけど、何故かこの3組という形で落ち着いた。

 

「だがまあ……いくら2人分の特典の合わせ技といっても、随分とぶっ飛んだ能力になるな。

 デバイスには無力と言っても、コンピュータとの境界は曖昧だ。それ次第では、一部のデバイスや魔導具も対象に出来そうだが」

 

「組み合わせて完成するという事なら、私達も似たようなもの。あり得ないわけじゃない。

 それに、コンピュータ相手の情報収集としては確かに強力だけど、紙の資料には無力。この辺は電子精霊と変わらない」

 

「そうだな。今回で千晴が拗ねなければいいが……」

 

「一応女性として許せない?」

 

「いや、元男として許せん。無理矢理襲うのは最低だ」

 

 その辺は同意。

 ジェイル・スカリエッティの隠れ家に、ちょっと動きがあった。

 具体的には、お話が終了。

 

「誰かがべらべらと喋ったか?」

 

 多く喋ったのは金子狗太。視線はチンクに固定、とても解りやすい。

 内容は無印とA’sの範囲。StrikerSに関しては知識が無いか、喋る気が無い模様。

 能力についてはぼかしてたつもりみたいだけど、呟きなども含めて考えると、強大な魔力、黄金律、ハーレム体質の3つの模様。

 

「魔力は確かに多いな。黄金律が金への変換資質か……。

 ハーレム体質?」

 

「確か、雌犬とか叫んでいたはず。

 監禁場所に犬が多かったことを考えると、雌の犬に好かれる体質になった可能性があるかも」

 

「そうなると、アルフを近付けるのは危険か?

 だが、蒐集にそれが含まれてたとしても、アルフを戦力外にするだけでSランクの魔力の蒐集が可能か。悪くはないな」

 

 金子狗太を蒐集候補と認識。

 杉並英春はあまり喋ってない。発言もはぐらそうとはしてるけど、StrikerSも少しは知ってるような感じ。体が動かない件を何とかする事と引き換えに協力するという感じで決着。

 体が動かないと何も出来ないという感じで、レリックウェポン化を本気で検討してそう。能力としては、高い魔力と剣術の才能は言明。偉くなりたかったとも言ってたけど、これの効果が予想不能。

 

「体が動かないのに剣術の才能、か?

 それを悲観して自ら実験台になるか。気持ちは解らんでもないが……」

 

「相手が悪い。でも、こうなってるのは特典の影響の可能性?」

 

「どうだろうな。一応嘘になっていないという原則から外れているようにも見えるが。

 言葉遊びをするなら“えらい”を大阪弁で解釈して……どう考えても無理があるな」

 

「疲れたと言うには、身体能力の低さは異常。

 保留にすべき?」

 

「うーん……蒐集して問題となる様な能力ではなさそうだ、とは言えるんだがな。

 防衛プログラムの巨体で剣術は意味が無いだろうし」

 

「なら、要観察だけど、蒐集候補には挙げておく?」

 

「そうだな」

 

 杉並英春も蒐集候補に。

 ギル・ガーメスは、逃亡生活を何とかしたかっただけに見える。

 どうせ犯罪者だから宿と飯の分くらいは働く、と言ってた。

 働くためにデバイスを要求する辺り、3人の中では一番まともな思考にも思える。

 能力の説明は、多い魔力、所有物の召喚、笑顔で惚れさせる能力。要するにニコポだけど、戦闘機人にも効果は発揮してない模様。

 

「ふむ……やはり蒐集可能か。ニコポが問題になりかねんが……イマジンブレイカーか東の特典破壊が解析出来ればいいんだがな」

 

 ジュエルシードからの解析は、やはり困難。現状では手掛りなし。

 東の特典破壊も、夜月ツバサが読み取った情報では1回限り。

 過剰な期待は禁物。

 

「だけど、大きな魔力を要求すると、性格か思考がおかしくなる?

 少なくとも、スカリエッティに攫われた3人に共通している」

 

「こいつらの要求の内容だけ見ればそうだが……どうなんだろうな。チクァーブも魔力を要求しているし、カイゼやアコノも間接的だが要求しているようなものだ。そうだと同意はしかねるぞ。

 それに現時点の魔力量で言えば、直接は魔力を要求していない私、変態、アコノがトップ3だ。

 行動がおかしかった下出は、確かBくらいだったか? 割と少なめだったはずだ。それに、カイゼが殺した2人も少なめだったな?」

 

 残留していた魔力量から考えて、多くてもA。恐らくB前後と予想。

 今でも引き篭もってる間宮萬太はDくらい。確認済みの転生者の中で1番少ない。

 

「となると、魔力量と性格の関連は薄そう。残念」

 

「だが、今まで異常思考を維持している連中が特典で魔力を要求しているのは確かだ。

 何かあるかもしれんが、情報不足だな。検証自体が不可能な気はするが」

 

 当面は、調査を継続。

 考察の時間はいっぱいある。検証は気長に。

 

「それで、闇の書関連の情報がスカリエッティに渡ったが……

 その様子だと、反応は薄かったか?」

 

 管理外世界で見付かった事までは知ってた。

 技術的興味はあっても、生命操作という観点では微妙と思われてる。守護騎士は疑似生命体だから、生命操作の本筋とは少々離れると思われてるせい。あくまでも人間を本体としたいらしい。

 局員や魔力を持つ生物が襲われる事についても、興味なし。

 黒の騎士団と関連付けする様子も無かった。

 

「予防線は張っているし、最高評議会に売るとも思えん。

 当面は問題なさそうだな」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 この半日後。時空管理局の本局では、成瀬カイゼとセツナ・チェブルーがカリム・グラシアとお茶を飲んでた。

 ちょっとした打ち合わせのための会議室に、3人だけがいる。シャッハ・ヌエラは入り口の外で番人状態。

 

「そうですか、限定的な未来の情報とは……また、扱いにくそうなものですね」

 

「そうだね。だけど、カリムさんの能力がそれなりに有効らしいとは聞いているよ」

 

「古い言葉の予言で、解読に時間がかかるんですよね?」

 

 話の内容は、要するに原作知識を元にした未来の情報。ロストロギアの影響で知った未来情報の様な物として紹介。

 予言能力に目覚めてるカリム・グラシア相手だから、あり得ないと流されることは無い。

 相変わらずセツナ・チェブルーの首が傾いてるけど。

 

「ええ。確かにそうなのですけれど、それも未来の情報として?」

 

「概ね10年くらい先の情報として得られた話だね。

 但し、現時点でいくつもの相違点が見付かっているし、違う結末を目指す動きもあるから、そうなるとはとても思えない。出来事としては信じられない物になってしまっているよ」

 

 成瀬カイゼは肩をすぼめてる。前提、つまり八神はやて、高町なのは、フェイト・テスタロッサの時空管理局入りとミッドチルダ移住とか、色々と変化する可能性が高い。

 表向きには、プレシア・テスタロッサの行動理由も違うという事になってるし、守護騎士も実在の人物に似た人がいるという事になってるから、ものすごく間違った情報に見えるし。

 現実としても、少なくともフェイト・T・ハラオウンになる事は無いし、夜天の消滅はさせない。

 

「それでも、その情報にある人物の能力や、既に作られているはずの物については、ある程度信用出来る可能性が高いという事ですね?」

 

「理解が早くて助かるよ。

 聞いた話だと、カリムさんが管理局の崩壊に関する予言をするそうだよ。

 既に違う歴史を歩み始めているから同じ事件が起こるとは思えないけど、予言をする人物が目の前にいる以上、その能力は持っているんじゃないかと思っているよ。

 扱いとしては良く当たる占い程度、と言っているそうだけどね」

 

「確かに、予言の能力を使う事は出来ます。

 良く当たる占い、ですか……現状では解析に時間がかかり過ぎるので、後出しの予言書でしかありませんし、解釈によっては適合するといった感じです。

 解析が早くなれば、その表現も納得出来ますね」

 

「というわけで、耳寄りな話が1つと、耳に痛い話が1つあるんだけど、聞く気はあるかい?」

 

「あの話をしちゃうんですか?

 いえ、止められてないですし、大丈夫だとは思いますけど」

 

 セツナ・チェブルーはちょっと心配そう。

 でも、StrikerSに関しては私達が2人に情報を流してる。

 おいでませカリム・グラシア。

 

「シャッハに席を外してもらったのは、聞く人を減らすためですか。

 対価は必要ですか?」

 

「未来に関する情報を持っている事やその内容を、必要以上に漏らさない事くらいだね。

 後は、内容を理解した上で行動してもらえば、きっと僕達が望む方向に行くと思うよ」

 

「そうですか。では、両方を聞かせてください」

 

「解った。

 そうだね、耳に痛い話からしてしまうよ。

 恐らくもうすぐ、聖王の聖遺物が盗まれる。10年後の出来事は信じられなくても、前提の変化なしに1年以内の出来事が大きく変わると思えないからね」

 

「聖遺物が!? どうしてそんな事が!」

 

「名前は解らないけど、管理を行っている司祭が聖骸布に手を出すそうだ。

 裏にはジェイル・スカリエッティという次元犯罪者がいる。実際に広域指名手配されている人物だね」

 

「そんな……何とかして防がなくては!」

 

「動くときは気を付けた方がいい。身分的に、疑う相手の方が圧倒的に上だからね」

 

「調査で気を使うのは当然です。ですが、黙って見ているわけにはまいりません!」

 

「まあまあ、今すぐ何か起こると言うわけじゃないはずですし」

 

「事を荒立てて余計な波風を立てるより、現場を押さえるか、事後の迅速な対応をした方がいい。

 まだ教会の内部で力を振るえる立場ではないと聞いているよ」

 

「それは……そうなのですが」

 

 セツナ・チェブルーと成瀬カイゼに止められて、カリム・グラシアはちょっと悔しそう。

 まだまだ実力も身分も不足してる。無闇に動くのはお勧め出来ない。

 

「それに、信用してくれるのは嬉しいけど、信憑性は微妙だよ。

 裏付けのある情報でもないから、冷静さを失わず、勇み足を踏むのを避けるべきだよ」

 

「……そうですね。

 犯罪者が関わっているという事は、不自然な人物がいるか、誰かが取り込まれているか。

 まずは、人の動きを注意して見てみましょう」

 

「ちなみに、司祭が女性に誑かされた結果で、相手は身体検査を欺く能力持ちだそうだよ。

 最終的には弟君の出番かもしれないね。思考を誤魔化す事は出来ないだろうし」

 

「そこまで知られているのですか……」

 

 驚きよりも、ちょっと心配といった表情のカリム・グラシア。

 どこまで知られているかと言う話はしてないから、気になってるはず。

 

「というわけで、次は耳寄りな話をするよ。

 古代ベルカに詳しい人に心当たりがあるんだけど、会ってみる気はないかい?」

 

「古代ベルカの研究は聖王教会が最も進んでいるはずですが、どれくらい詳しいのでしょう?」

 

「僕達が使っている真正古代(エンシェント)ベルカ式デバイスの製作者と言えば、予想は出来るんじゃないかな?

 きっと、期待を裏切らない水準だと思うよ。ただ、表に出る気が無いようだから、接触は秘密裏に行ってほしいみたいだけどね」

 

「古代ベルカのデバイス製造技術は失われているはずですが、そんな方が……今はどちらに?」

 

「僕達の出身世界だよ。ただ、僕達も気軽に行き来が出来る身分じゃないから、紹介は少し待ってもらっていいかな」

 

「嘱託魔導師の試験に向けて勉強中という事でしたね。

 ふふ、そういう事ですか。試験そのものを手伝うことは出来ませんが、準備についてはこれまで以上に力となりましょう」

 

「それはありがたいね。出来れば早く故郷に帰りたいという気持ちはあるんだ」

 

「そうですか。セツナさんも?」

 

「はい。お世話になった人とか、馴染みのある文化とか。

 やっぱり、離れると無性に懐かしく感じます」

 

「やはり、そうですか。

 早急に合格するためには当人の努力が最も必要です。頑張って下さいね」

 

「もちろん。頑張ります」

 

「当然だね。目標は3か月以内の一発合格だよ」




2013/11/15 無暗→無闇 に修正

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