あれから2週間。八神家は、とても平和に過ごしてる。
八神シグナムと八神ヴィータ、時々八神シャマルが、黒の騎士団として地道に蒐集を続けてる。この活動について、現状では少々遅い以外の問題は出てない。
手が空いている時、八神シグナムは近所の剣道場に顔を出してる。表立って使える剣の技や一般的な動きを見ておく事で、日本での行動水準の判断基準にするためだった。でも、師範に気に入られてしまい、非常勤の講師として誘われてる。
本人は迷ってるけど、八神はやてが表での活動を推奨してるから、きっと受ける事になる。
八神ヴィータは、八神はやてと同じく通信教育。裏側の手を使いつつ義務教育の体裁を整えた上で、土日は公園に遊びに行ってる。
精神年齢のせいか、子供達とはあまり馴染めてない。でも、お年寄りには人気。アイスクリームを貰ったりして、餌付け……じゃない、可愛がられてる。
八神シャマルは、週に何回か翠屋でウェイトレスをしてる。
一度料理もさせてみたけど、料理を作る際は余計な物、具体的には野菜の皮やレシピに無いものを入れたい衝動に駆られたり、塩以外の調味料類を必要以上に節約したりするという悪癖が発覚。それが何とかなるまでは、店での料理は不可と言う結論に達した。
「魂が叫ぶんです。これを入れた方が元気になれる、これは残した方がいい、って……」
という本人の告白通り、栄養面だけで考えれば納得出来る選択や、材料……主に調味料を限界まで有効利用しようとするからと思えるため、過去の境遇を考えると有効な能力だったと思えなくはない。特製おかゆは、味はともかく栄養面はかなり良かったし。
だけど、日本での味覚や食感的には大問題。
日本で料理するならもうちょっと考えるべきという事で、八神はやてや八神チャチャが先生となって、料理の練習を開始してる。
ザフィーラは、八神はやての傍を離れない。
ギル・グレアムを抑えたと言っても他の組織等が来ない保証は無いし、ペットの子犬という立ち位置から見ても無難な選択。
八神はやては学校への編入を画策してるけど、八神ヴィータが通信教育をしてる言い訳でもあるから、闇の書が何とかなるまでという条件で自重中。
別荘で主が魔法を練習している姿を見て羨ましそうにしてたりもするけど、負荷を考えると当分は使用不可。もうしばらくは我慢の生活が続く。
主は、平常運転。学校にも行ってるし、魔法の練習もしてる。
家族と触れ合う時間は増加。私達が直接手出し出来る環境になった事もあって、いつもジャージ姿という状況ではなくなった。
とりあえず小野家の元両親に写真を送ったら、物凄く感激された。
長宗我部千晴は、お姉様が直接行って話をした上に、チクァーブがペンチを持参して全力で謝ったため、とりあえず許すという事になった。
「こちらを使って頂いて、捻り潰される覚悟も出来ております」
「人になるんじゃねーよ! 脱ぐな! 脱ぐんじゃねー!!」
とかいう会話が謝罪の際にあったのは、愛嬌としておく。
そしてお姉様は今、高町家の道場にいる。
この場にいるのはお姉様と高町恭也の2人だけ。お姉様の手には木刀に見える物がある。
「つまり、俺達でも魔法を使える可能性がある、という事か」
「そうだ。少なくとも、私の従者での検証実験は概ね成功している。
だが、従者達は元々ある程度は魔法を使えていた者が多くてな。そうでない者も日常的に魔法に関わっているから、魔法に対する感覚がある程度養われた状態なんだ。
魔法に殆ど関わっていない人物がどの程度で扱えるようになるのか、躓くとしたらどこか。私が知りたいのはそういう点だ。
協力に対する謝礼としては、魔法の指導と必要な物の供給を考えている。もちろん、習得した技術は回収出来ないし、供給は調査が終わった後も続けるつもりだ」
「扱えない事は想定していない、という事でいいのか?」
普通は想定するはずの事ををしてないせいか、高町恭也が不思議そう。
だけど、素質は充分なはず。
「必要な素質を考えると、最終的に扱えない事はほぼあり得ないと判断している。
もちろん、すぐ扱えるとは考えていない。訓練中の翠屋が心配なら労働力も追加で提供するが」
「いや、そこまでは不要だ。
最後に一つだけ確認しておきたい。これは、なのは達を守る為に使える力か?」
「魔法も技術だ。その意味では剣の技と同じだから、この先は説明するまでも無いだろう?
なのはは今後も魔法に関わるつもりの様だから、同じ系統の技術を知っておくことにも意味があるはずだ」
「そうだな、知識は重要な力だ」
というわけで、実際に色々試してみたお姉様と高町恭也。
真っ先に躓くのは、魔力の扱い……と思いきや、何となくではあっても気という形で魔力素を扱えていたせいか、これはとてもあっさりとクリア。
カートリッジから供給した魔力を保持して防護服に近い鎧を維持するのも、短時間なら成功。魔力切れによる強制解除を考慮して、元の服をそのままにした追加装甲として実装したのは間違ってなかった。
攻撃魔法や防御魔法は、もっと容量の大きいカートリッジで体への負荷を調べながら検証する予定。今は極小出力のカートリッジでの検証する段階で、一気に負荷をかけるのは良くない。
たとえモノが時空管理局の仕様で作ろうとした時の失敗作としても、用途には適合してるし、安全性も確認した範囲では問題なかったから、有効利用。魔力の9割を無駄にして放出に100倍以上の時間がかかる欠陥品、だけど、そこそこ製造しやすい魔力蓄積装置。
低ランク魔導師が時間をかけて高出力魔法を行使する役にも立ちそうだし、たまには失敗するのも面白い。超小型魔導炉や人工リンカーコアと違い、技術等が漏れてもさほど問題がない辺りが素敵。クリーンなエネルギーを謳う時空管理局が実用化していないのが意外と思える代物。
「理論的には大丈夫だと思っていたが……随分とあっさり成功したものだ。
もう少し手こずると思っていたんだがな」
「基礎が出来ていたから、と言っていたな。
だが、これは魔法文化を根底から揺さぶる技術なんだろう?」
「根底を崩すほどではないし、文化は強化する方向だろう。だが、社会構造という意味ではそうだな。だからこそ、身体強化に特化した形で気の鍛錬が可能な剣術か体術を考案出来ないか?
気に関しては、私達もにわかでしかない。貫や神速といった御神の技を使わない、純粋な鍛錬を目的としたものが欲しいんだ。ある程度広まっても問題無いものが、な」
「ふむ……つまり、一般的な鍛錬の範疇で、技として昇華可能な程の身体操作技術を身に付ける、という事か」
「かなり無茶な要求だとは思っているが、ある程度以上は魔法の技術ありきで構わん。最終的には魔法と気を同時に鍛錬する形になるだろうからな。
ちなみに、このカートリッジシステムは10年後にはミッドでそれなりに広まる技術になる可能性がある。気の操作技術は、その負荷を軽減出来る可能性もあるんだ」
「なるほど、なのはが使う技術にもなる、という事か」
「察しが良くて助かる。
当面はなのはの鍛錬を目的に作ってもらって、それを参考に一般的なものを考えればいいかと思うが……どうだ?」
「希望は理解したし、本当の基礎的部分は、既にやっている。
だが、この先の技術はまだ広めない方がいいのは予想出来るが、1人で全ては難しい。誰になら協力してもらって大丈夫だろうか?」
「そうだな……高町と月村は大丈夫じゃないか?
但し、月村……忍やすずかに協力してもらう場合、特に管理局に情報が漏れないよう言っておいてくれ。裏社会的な繋がりで、どう情報が漏れるか解らないからな」
「了解した。少し時間がかかるかもしれないが、やってみよう」
◇◆◇ ◇◆◇
というわけで、気に関する調査に高町家を巻き込んだお姉様。
様子を見てると、まずは高町士郎と高町美由希の2人と相談をしてる。まだ高町なのはには知らせず、ある程度内容が決まってから段階的に鍛錬に組み込む方針の模様。
お姉様や私達よりもよほど熟練した人達。比較的早く成果を出してくれると期待。
そして目下の問題は、文字通りお姉様の目の前、但し下方にいる
夜に女性の寝室に侵入するとは、ふてぇ野郎だ。
ちなみに、お姉様は大人モードで、相変わらずのパンツルック。スカートの中なんて無い。
「それで、何か弁明はあるか?」
「いやいや、依頼された情報を持ってきたのですが、有無を言わさず踏まれるとは予想外です。
薄手の靴下で踏まれるのはご褒いたたたたたた」
「下らん冗談で誤魔化そうとするなら、このまま割ってやってもいいが」
「ギブ! ギブ! 新しい世界の扉が見えてしまいます!!」
「無限転生か? いつでも飛べばいいじゃないか。
それとも、被虐趣味にでも目覚めるのか?」
「アコノちゃんに依頼された東渚に関しての調査結果を報告に来ただけですので、扉を開けるのはそのあいたたたたたたたミシって言いましたよミシっと!」
なぎさちゃんの観察ノートと書かれたルーズリーフでお姉様の足をぺしぺし叩く
お姉様が幼女モードなら、間違いなく変な意味になりそう。主も助ける様子は無いし。
「で、何が解ったか言ってみろ。
内容次第では緩和してやらんこともない」
「むぅ、いけずですね。
ええと、どうやら彼はジュエルシードが命中した最初の人だったみたいですね。
記念として、原作の知識が蘇った際に、会話した際に教えられた情報も思い出したようです」
「ほう。その情報が1回制限やらの根拠という事だな?
私はそんな記憶は無いが……封じられたか、本当に無かったか。これは考えるだけ無駄か」
「そうですね。私にもありませんし、思い出す事を前提とした情報提供なのでしょう。
というわけで、その情報についてですね。特典破壊の効果範囲は自身を中心とした半径10メートル。この範囲内にいる転生者は漏れなく影響を受けるそうです。
破壊するのはその時点で持つ特典そのものだけで、結果を破壊するものではないという事だそうですよ。命を奪うことは出来ないとか、魔力の特典は成長要素の付与なので破壊以降は大きくは成長しなくなるとか、容姿は加齢等で崩れやすくなるとか、そんな感じですね。既に持つ魔力や容姿は、特典の結果扱いの様です。
もちろん、成長途中で解除した場合は望んだ水準に届かないのですから、言い分としては間違っていないでしょう」
「その流れなら、物を要求していた場合は既に手元にあれば結果扱いでそのまま手元に残り、未入手なら入手出来なくなるという事か」
「特典以外の破壊は無いという事ですから、そうなりますね。
逆に、発動するタイプの能力は完全に力を失うのでしょう。無限の剣製やニコポナデポが該当しそうです」
「1度限りの根拠がこれか。自身の特典破壊能力も例外ではないという事だな?」
「正解です。
何故神様転生に近い感じだったかですが、どうも数人の潜在的な望みを総合したと言っていたようです。裏特典のような何かだったのかもしれませんが……詳細は不明ですね。
どうでしょう。お望みの情報は得られましたか?」
「期待以上。これなら、私に特典破壊を使わせる事を躊躇う必要は無いと思える」
主の特典は、沈着冷静、若く綺麗でいたい、多くの魔法を使いたいの3つ。
確かに、既に結果は出てる。
「本当にいいのか?
確かに、危険性は低そうだが……裏特典の様な何かの存在も気になるぞ」
「私はエヴァの主で、容姿や魔力はほぼ固定になった。つまり、明示的な特典の内2つは既に役目を終えているし、自分でも不明な特典は気にしても仕方がない。
残りの沈着冷静が破壊出来れば、感情が戻る可能性がある。
破壊出来なくても今と変わらない。賭けてみる意味は、ある」
「そう……だな。せっかく日本に残っているんだ、試す価値はあるか」
「ああ、その彼ですが、地球残留の最大の理由は、原作娘ハーレムではないようですよ。
その意図も全くないわけではないようですが、どちらかと言えば、サーチャーを使って自由に覗きやらが出来なくなる事が問題の様です。
いやぁ、むっつり君ですねぇ」
「……それは、笑うところか? それとも、嘲うべきか?」
むしろ、
「スカリエッティの所だと、自由に魔法を使えないと思ったという事?」
「アコノちゃん、正解です。
もっとも、原作娘達はエヴァちゃんに守られていますし、高町家はレイジングハートも防御に参加していますからね。少し前はユーノ君も参加していましたし、彼の実力とデバイスでこの壁を超える事は不可能です。
普段は専ら、銭湯やプールを覗いているようですよ。デバイスが非力過ぎて、街中で見掛けた美女を追跡して家を突き止める事すら難しい辺りが、更なる残念さを醸し出しています。
ああ、ご心配なく。記憶が壊れる際はなるべくその辺を優先する様に頑張りながら魂を蒐集しましたし、デバノートも処分していますから」
「壊す記憶の調整が効くのか……随分と器用だな」
「デバノート?」
「ええ、そう書いてありましたよ。出歯亀ノートじゃないですか?
覗きのためのノートですから、適切な名前ですね。
あと、調整は長年の経験と勘です。確実な物ではありませんから、あまり期待しないで下さい」
「ふむ……やはりそんな物か。
で、奴はつまりアレか。ただの覗き趣味か?」
病名としては、窃視症?
見て満足するなら、思ったよりは対処しやすいかも。
翠屋に来た理由が謎になるけど。
「残念ながら強姦未遂事件を起こしていますし、未発覚なアレコレも既に行動済みですね。裏でコソコソと動き、ばれない様に何かを仕出かす。詰めは甘いですが、姑息で厄介なタイプですよ。
泣き寝入りしている人を数名見付けたので、お節介かとも思いましたが、ちょっとケア的な事もしておきましたよ」
「……行動理由は納得したが、手段は間違えていないだろうな?」
「恐喝に使われた証拠やらの破壊と、被害者の肉体的な損傷があった場合はその治療ですね。
被害者の記憶には迂闊に手を出せませんから、事情を知っても癒してくれそうな人との仲を偶然という形で取り持った事もあるという程度でしょうか。基本的にはひっそりと動く方向ですよ」
意外に穏当な内容?
無闇に記憶を弄ったり本人に直撃したりするよりは、真っ当な手段。
「……まあ、その内容ならいいか。後は特典破壊を使わせた後で再生不能になるよう蒐集すればほぼ無力化可能だし、アレの対処はこれで良さそうだ。
他に特典を消したいのは……まあ、後で考えればいいか」
「ツバサちゃんくらいじゃないですか?
他の人はニコポナデポを破壊した方が周囲の人が安心出来るとか、その程度の理由になりますからね。本人が望む可能性は低いでしょう」
「何故お前が知っている?」
「これでも、人を見るのは好きなのですよ。あんな特殊な魔法を必死で習得しようとしているのですから、よほどの事情があるのでしょう?
ああ、プライバシーに踏み込む気はありませんから、自室に帰ってからの行動は知りませんよ。紳士たる者、その一線は超えられません」
「ほう……夜に女性の部屋へ、アポ無しで来たお前がそれを言うか?」
「いやぁ、調査結果が纏まったので、喜び勇んで来たのですが……いやぁ、失敗しました。
確かに失礼でしたね。2500年程本の姿で言葉も殆ど文字として見せていただけでしたので、忘れていまっ……」
お姉様の足元から、みしって音が聞こえたような?
まあいいや、音源は床じゃなくて踏まれてる
「お前が何か言えば、変な下心がある様にしか聞こえん。
情報の内容に免じて、このまま速やかに退出すれば見逃してやるが……どうする?」
「そうですね、新しい扉を開くのもアレですから、退出しましょう。
今度は、きちんとアポを取ってから来ますよ」
「次からは、手加減せんからな。覚悟しておけよ?」
「ええ、肝に銘じておきましょう」
長宗我部千晴(探知で悩んでる、探知されない事に価値を見出していない、コンピュータを使う特典のせいで小ネズミにスカリエッティの基地まで連れて行かれた)
馬場鹿乃(逆ナデポで悩んでる、王の軍勢は恐らく役立たず、従者は既存)
の2人も破壊してほしい可能性がある事を忘れてるよーというツッコミは、とても正しいです。
2013/11/21 特性→特製 に修正
2019/09/23 最初の1人→最初の人 に修正