青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編16話 その手の内に

 世間と言うか、地球の小学生組が夏休みに入った。

 半泣きで勉強をしていた高町なのはや夜月ツバサも何とかテストを乗り切った模様。お姉様に釘を刺されたりしてた以上に先日の様な醜態を度々晒すのも嫌だったようで、同じ学年という事もあって合同で勉強会をするようになった夜月ツバサと原作3人娘は、夏休みの宿題に追われてる。

 ついでに、1学年上の主、同学年の八神はやて、1学年下の扱いになっている八神ヴィータも、宿題や課題を持って参加中。今日の会場は月村家なので、部屋の広さも問題なし。

 子犬モードのザフィーラも八神はやての護衛として同行してるけど、月村家の猫達の興味を引いてちょっと困った顔になってた。

 

 他の守護騎士達は、通常営業。

 

 八神シグナムは、剣道場で非常勤の講師として働き始めてる。非常勤なのに人の多い時間や曜日にはほぼ顔を出し、残りの日のほとんどを蒐集や鍛錬に充ててるのは、きっと生真面目な性格のせい。

 今はミッドチルダに近い管理世界で、違法研究施設を襲撃中。警備に雇われてたゴロツキくらいしか魔導師がいないから1人1人は大したことないけど、人数が多くて治安部隊が手を出しあぐねてた場所。蒐集や、現場の人や世論的な得点稼ぎにはそこそこ有効と判断。

 

 八神シャマルは、翠屋のウェイトレスとして人気上昇中。

 料理の腕は、学習能力がバグってんじゃねーのとか言われる水準。味付けは味見をする事でやや改善してるけど、下味の薄さを後付けで誤魔化したりするから、やっぱり出来上がりは微妙。

 気付いたらレシピに無い物を入れてるという悪癖は本人も悩み中で、外から見える範囲で守護騎士プログラムの解析も進めてるけど、現状では打つ手なし。地道に見守るしかなさそう。

 今は本人なりに悩みながら、八神家で料理の練習をしてた。人を実験台にするなとみんなに言われてるから、自作の料理を半泣きで食べてる。

 

 アースラの現地拠点とそっちに関係する転生者達は、訓練や連絡の頻度をちょっと上げた模様。

 と言っても、入り浸ってるわけじゃない。先日の危険人物失踪を受けて、可能な範囲で連絡を密にしようとした結果らしい。

 ちなみに、失踪についてはお咎め無し。魔法文化の無い世界からの個人転送を予測するのは困難だろうと言う事だけど、最高評議会的な意味での横槍も入ってるらしい。

 要するに、危険人物の排除と研究対象の確保を兼ねた、暗部らしい行動の結果という事。私達としては色々と情報を落としてくれてるから、期待以上の結果にはなってる。問題ない。

 

 他の人は状況的に大きな変化は無いから、あまり変わってない。

 でも、今日はちょっとしたイベントが発生。

 

「珍しいね。僕と外で模擬戦をしたいなんて」

 

「決まった相手や場所ばかりでは、慣れてしまうからね。

 それに、エヴァさんがバインドマスターと称した腕にも興味があるよ」

 

 というわけで、嘱託魔導師挑戦組の3人がクロノ・ハラオウンを模擬戦に誘ってる。

 とはいっても、ここにいるのは成瀬カイゼのみ。

 セツナ・チェブルー、フェイト・テスタロッサ、アルフの3人は、軽く運動すると言ってトレーニングルームに行ってる。

 

「今日の午後は予定も無いし、構わない。場所の目星は付いているのか?

 模擬戦をするなら、使用許可を取っておかないといけないんだが」

 

「カリムさんに、ミッドチルダの郊外で許可を取りやすい場所を教えてもらっているよ。

 手続きも頼めそうだったけど、先に予定を聞いておいた方がいいと思ってね。このメモを渡せば解るだろうと言われているよ」

 

「そうか……うん、ここは何度か使った事がある。広い代わりに遠いからあまり人気のある場所じゃない。許可は大丈夫だろう。

 カートリッジを使うペースがだいぶ早いとマリーから聞いているんだが、準備や体調に問題はないか?」

 

「問題ないよ。エヴァさんの指針の範囲内だし、自覚も診断結果も問題は出ていないよ」

 

「そうか、それならいいんだ。

 昼食の後で合流しよう。この近くの食堂で食べるつもりだから、そこでいいか?」

 

「問題ない。他の2人にも伝えておくよ」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 というわけで、昼過ぎのミッドチルダ郊外に4人の人影があった。

 つまり、講師役のクロノ・ハラオウン、生徒役の成瀬カイゼ、セツナ・チェブルー、フェイト・テスタロッサという面々。アルフはプレシア・テスタロッサに連行されたから、今回は不参加。

 そして今はクロノ・ハラオウンとセツナ・チェブルーが対戦中で、他の2人は見学兼休憩中。

 

「それにしても、凄いな君は。

 まさか、手加減する余裕も無くなるなんてね。全てを切り伏せられる勢いで迫られるとは思わなかったよ」

 

「それはどうも。ですけど、かなり必死なんですよ」

 

 今は少し距離を置いて睨み合ってる状況だけど、さっきまではクロノ・ハラオウンがバインドと誘導弾でセツナ・チェブルーを捕らえようとし、セツナ・チェブルーはその全てを切り捨てるか神業的な回避技術を見せつけるように避けてた。まだ魔法弾を投げ返す技量は無いけど、的確に破壊や回避する感覚と技術は恐るべき水準。

 しかも避けながら無誘導の魔法弾をばらまいてたから、クロノ・ハラオウンもある程度は防御や回避をせざるを得ない。結果、なかなか見応えのある模擬戦になってた。

 

「やっぱり、すごい……」

 

 同じく空中高機動戦を主体とするフェイト・テスタロッサが、セツナ・チェブルーの一挙一動を食い入るように見てるのは仕方のない事。

 直接対決では魔法の熟練度がモノを言って、フェイト・テスタロッサが優勢。だけど、速度で負けないためにソニックフォームを開発済み。セツナ・チェブルーと成瀬カイゼに、速度を求めたのは解るけど目のやり場に困るから露出を増やさないでと言われてた。

 

「やはりバインドを有効に使うには、相手の動きを読み切る必要があるね。

 少なくとも、一般的な魔導師の動きをもっと知っておくべきか……」

 

 正面突破よりも搦め手を好む成瀬カイゼは、クロノ・ハラオウンの戦術に注目してた。誘導弾や設置型バインドで詰将棋の様に逃げ場を塞いでいく手法は、大いに参考になる模様。

 その上でセツナ・チェブルー相手に苦戦してるのは、一般的なセオリーが通じない事も大きいと判断してる。それが、フェイト・テスタロッサを完封出来るクロノ・ハラオウンが、セツナ・チェブルーに苦戦する理由のはず。

 

 組み合わせを変えつつ何度かの試合を行い、休憩しようと3時頃におやつを食べて。

 体力や魔力も回復したし、そろそろ続きを始めようかという時に、成瀬カイゼのデバイスから子ネズミが飛び出してきた。

 

「緊急事態に付き、少々失礼いたしますぞ。

 クロノ・ハラオウン執務官殿に連絡事項が御座います」

 

「何かあったのか?

 艦長やエイミィからの連絡は来ていないが……」

 

「当然でございます。

 つい先ほど、遺失物の輸送中に事故または事件が発生し、その直後に輸送車からケースの様なものを奪った者が乗った車が走り去った事が確認されたので御座います」

 

「……情報の精度については?」

 

「この目で、しかと。記録映像等も確保しております。

 最大の問題は、該当の遺失物がジュエルシードであり、走り去る車に金子狗太……突然地球から姿を消した要警戒の転生者が乗っていた事で御座います。

 この演習場を通るルートで逃走している様で御座いますから、現行犯で捕らえる事が可能ではないかと判断した次第で御座います」

 

 そう言いながら、チクァーブは空中モニターを展開し、付近の地図を表示した。

 だいぶ離れた場所にXの文字が、こちらへと移動する点の傍にVとKの文字が赤字で書いてある。

 他に、青字でC、F、S、Nの文字もある。

 

「この赤字のKが、金子でございます。同乗者が遺失物の輸送車両から盗んだ証拠も御座いますので、纏めて捕らえる事に問題は無いと判断いたします」

 

「そうか、解った。

 この赤字のXとVがこの近くにいる敵勢力だね?」

 

「理解が早くて何よりで御座います。

 Vが車両からケースを奪った実行犯。この時の映像を確保しております。

 証拠を押さえる事には失敗しておりますが、Xが輸送車両を狙撃した実行犯で御座います。

 こちらへ近付いているVの外見は幼女で御座いますが、侮れない戦闘力を持っております故、油断は禁物で御座います」

 

「……エヴァンジュの様な人物だと思えという事か」

 

「そこまでとは申しませんが、状況次第では現在のフェイト嬢でも敗北する可能性があると判断いたします。

 主な戦闘スタイルはナイフによる近接戦、並びに触れた金属物を爆発物に変化させる能力を使用したナイフ爆弾でございます。

 爆発を避けるには、触れられない事と投げられたものに注意すれば充分なようでございます。飛行は出来ない、もしくは苦手なようですので、最悪の場合でも空中に逃れる事が出来れば何とかなりますから、この様な開けた場所であれば何も出来ずに負ける事は無いと判断いたします。

 その他、必要と思われる情報はデバイスに転送してありますから、早めに確認をお願いいたしますぞ」

 

「随分と詳しいね。それも、原作に関する知識なのか?

 それとも、調べ上げる伝手があるという事か?」

 

「ある意味では有名な人物に連なる相手で御座いますし、確認済みの原作知識でも御座います。

 ジェイル・スカリエッティが生み出した戦闘機人と言えば、理解しやすいかと」

 

「……確かに、有名人に連なる相手だ。

 それに、裏には最高評議会がいるという事か」

 

「ジュエルシードの輸送を指示したのは、その筋の人物の様で御座います。

 移動経路のリークも同様で御座います。御誂え向きの狙撃地点があるのも、こちらへの援護狙撃も恐らくは可能であろうことも、作為的な物を感じる次第で御座います」

 

「ふぅ……解った。

 僕は今から、地球から消えた人物への接触を試みる。

 それと、小ネズミには姿を消していてもらう。最初から捕縛目的ではあからさま過ぎる」

 

「問題御座いません。それでは、我等は記録に専念いたしますので、これにて失礼いたしますぞ」

 

 チクァーブは小さく頭を下げると、成瀬カイゼのデバイスにに吸い込まれる様に姿を消した。

 それを見送ると、クロノ・ハラオウンは小さくため息を1つ。

 

「ふぅ……いったいどれほど君達の手の上で踊っているのか、想像したくないな」

 

「演習を頼もうかという話を始めた時点では、こんな事になるとは思っていなかったよ。

 そこは信じてほしいね」

 

「ですね。カリムさんに手頃な場所を尋ねた時にも、ジュエルシードの周囲が怪しくなってきたって話しか聞いてなかったですし。

 こんな事になったのは、昨日の夕方なんです」

 

「そんな話、私は聞いてないよ……」

 

 仲間外れにされてたせいか、フェイト・テスタロッサがショックを受けてる。

 私達が全てをお膳立てしたわけじゃないし、事情があったんだもん。ウソじゃないもん。

 

「エヴァさんに、なるべく家族の時間を過ごさせてやってくれと頼まれているからね。

 それに、こんな裏の話は僕の領域だよ」

 

「だけど、私だって恩を返したいよ」

 

「少々不本意な部分もあるが、結果的に僕達の事を考えて行動してくれているのは間違いない。踊るべきところなら踊り切るべきだろうが、踊らなくていいなら静かにすべきだ。

 それより、そろそろ移動しよう。場合によっては戦闘になるかもしれないから、気は抜かない事。

 狙撃された場合は……」

 

「僕が警戒しておくよ。全力ならSクラス以上の砲撃らしいから撃たれたら防げないけど、妨害くらいは出来るかもしれないからね。

 それと、最初は僕とセツナは離れるふりをして姿を消しておくよ。転生者が相手だから、余計な情報は与えない方がいいんじゃないかな」

 

 成瀬カイゼにはある程度の情報を渡してあるから、そこからの判断。

 ジェイル・スカリエッティに連れ去られた3人の転生者には、姿を見られてない。

 

「そうだな、頼む。

 これは全員に頼みたいんだが、基本的に手を出さないでくれ。例え戦闘が始まっても、牽制以上の行動は禁止だ。

 僕達は即席で連携出来る程には手の内を理解し合っていないし、必要以上に手を出してしまうと君達の立場が悪くなる可能性もある。

 攻撃された際の自衛は問題無いが、深入りしない事。いいね?」

 

「逃げた場合も、追わなくていい?」

 

 一応前線に近い位置に立つはずのフェイト・テスタロッサは、方針の確認。

 戦闘でも牽制程度止まりだと、それ以外の場合の対応もその程度という予想はきっと正しい。

 

「1人でも捕縛出来ていれば、その監視は任せるかもしれない。

 だけど、捕らえるのは権限と責任のある僕の役目だ。補佐してもらう事はあっても、君達だけで行かせることは出来ないからね」

 

「うん、解った」

 

 というわけで、見えてきた車の方へ飛び立つクロノ・ハラオウンとフェイト・テスタロッサ。

 成瀬カイゼとセツナ・チェブルーは、逆方向に幻影を飛ばした上で姿を消した。

 今まで動かなかった理由はもちろん、近くに来た車の中に知った顔があったから声を掛けたという事にするため。建前を真実に見せる努力は必要。

 

『そこの車、止まってくれ。

 少し尋ねたい事がある』

 

 クロノ・ハラオウンが車から見える様、横を飛びながら拡声魔法で呼びかけると、中の2人はちょっと顔を見合わせてから車を止めた。

 そして、クロノ・ハラオウンのいる運転席側の窓が開くと、そこには妙な笑みを浮かべながらハンドルを握る金子狗太の姿が。

 

「ほぉほぉ、執務官殿ですかぁ?」

 

 喋り方まで変な金子狗太の脇腹をつつく、銀髪の幼女……もとい、チンク。

 どう見ても変な事を喋るなと言いたげで、念話の反応もあるから、実際言ってると予想。

 

「……会った事は無いはずだが、何故僕の事を知っている?」

 

「有名な最年少の執務官じゃないですかぁ?」

 

「有名かどうかはともかく、最年少は事実、か。

 確認したんだが、こちらで言う第97管理外世界、現地名称地球の日本にいた金子狗太君であっているね?」

 

「……何で俺の名前を知ってる? 何しに来やがった?」

 

 金子狗太の表情が硬くなった。

 時空管理局にばれてないと思ってただろうし、警戒するのは仕方ない。

 

「それだけ大きな魔力を垂れ流しにしていたんだ。現地で魔力の調査をした際に引っかかっても仕方ないだろう?

 ああ、君に対して何かしようと思っているわけじゃない。どう扱うべきか決まらない内にいなくなってしまったから、心配していただけだ。

 魔法が使える何者かに強引に攫われてしまったんじゃないか、とね」

 

「ほぅ、心配してくれてってやつか?

 生憎だが、今の生活が結構気に入っちまってなぁ? 帰るつもりはねぇんだ」

 

「そうか。念のため、連絡先と戸籍を確認させてもらっていいか?

 出身世界や経緯を考えると、違法な物でない事は確かめておきたい」

 

「……ほぅ?」

 

 金子狗太の表情が、更に硬くなった。

 ジェイル・スカリエッティの保護下にあっても、正式な戸籍は確保してない。

 だって必要ないし手札を晒す必要も無いし、的な感じで。

 

「時空管理局としては、僕達しかあの世界にはいなかったはずなんだ。

 だから、他に情報が渡るとすれば、当時発生していた事件に関与した人物からだろうと予想しているんだが、心当たりは無いかも聞いておきたい」

 

「……知らねぇな!」

 

 金子狗太、射撃魔法でクロノ・ハラオウンを撃って車を発進。明らかに逃走の構え。

 車からバカとか罵る声が聞こえてるから、チンクとしては不味いと思ってるらしい。

 予想してたクロノ・ハラオウンは顔面ギリギリに浮かぶシールドを消すと、デバイスを構えた。

 

「職務質問中の執務官への攻撃と、殺傷設定攻撃魔法使用の現行犯だ。

 これより、捕縛する」

 

『Stinger Ray』

 

 S2Uから放たれた白い閃光が車のタイヤを貫き、ガリガリと嫌な音をたててスピンした直後。

 明らかに切れた様子の金子狗太が飛び出してきた。

 

「何しやがる!」

 

「いきなり攻撃してきた君に言われたくはないが……君が使った魔法は殺傷設定だった。人への使用は違法行為だ」

 

「知った事かよ! 死に晒せ!!」

 

『Burst Blaze』

 

 金子狗太の手元に短剣が現れた直後、クロノ・ハラオウンがいた場所が爆炎に包まれた。

 

「ケッ、手応えのねぇ野郎だ」

 

 軽口を叩いてるけど、目は油断してない金子狗太。

 ジュエルシードが入ってると思しきケースを持ったチンクが、車から音も無く立ち去って……いこうとしたところに設置型バインドが絡み付いて、とりあえずお縄。

 

「君にも事情を聴きたい。もしこの男に捕らえられていただけなら保護する必要もある。

 何れにせよ、あまり暴れないでもらえると助かる」

 

「……わかった」

 

 煙の中、だけど爆心より少しずれた場所から現れたクロノ・ハラオウンが通告すると、チンクは静かに頷いた。

 特に驚く様子も無いし、こうなる可能性は考えていた模様。地下に微かな魔力反応があるし、救援を期待しての同意の可能性が高い。

 

「俺を無視すんなクソガキ!」

 

「同年代だろう!」

 

 魔力にモノを言わせて、魔法弾をばら撒く金子狗太。クロノ・ハラオウンはシールドやらで防ぎながら回避してるけど、魔力差が大きくて技術で埋めるにも少々苦しそう。

 じりじりと距離を離されてく。

 少し離れたところにいるフェイト・テスタロッサに指示する様子もないし。というわけで、先生お願いします。

 

「クハハハハハ、その程度か最年しごぁっ!?」

 

 金子狗太の魔法行使、強制終了。胸のあたりから黒い衣装を着けた腕が突き出てて、その手には輝くリンカーコアが握られてる。

 その光が急速に弱まると、腕は胸に吸い込まれるように消えた。今回は隠蔽優先で封印無し。リンカーコアの損傷を見せる事になる。

 

「あれは……」

 

(砲撃来るよ。あっちにも増援がいて妨害は無理そうな上に、高出力で物理破壊の直射砲みたいだから、防ぐより回避を。

 早めにそこを離れた方が、彼を巻き込まなくて済みそうだ)

 

「何だって!?」

 

 成瀬カイゼからの情報に驚きつつ、クロノ・ハラオウンは気絶してる金子狗太をバインドで束縛した上で離脱開始。

 フェイト・テスタロッサも別方向に移動しようとしてる。でも、もうすぐチンクがバインドを破壊しそう。

 

(フェイトは、あちらの攻撃対象になっていないみたいだ。

 離脱する振りをしつつ、幼女を攻撃出来る範囲を維持して。恐らく砲撃と同時に地中を移動出来る特殊能力持ちが連れ去ろうとするから、可能ならケースを攻撃して確保してほしい)

 

 今度は、フェイト・テスタロッサ限定での念話が、成瀬カイゼから届いた。

 クロノ・ハラオウンには気付かれて無い。

 

(地中を移動? それより、手を出さないように言われてるのは大丈夫かな……)

 

(追うなとは言われてるけど、盗品を取り返すなとは言われていないよ。

 但し、無理はしないこと。成否に関わらず、安全に離脱する事を優先して)

 

(……うん、解った)

 

 明らかに詭弁だけど、フェイト・テスタロッサは頷いた。

 周囲を警戒して移動する振りをしながら、こっそりと突撃態勢を整えてる。

 

(来るよ)

 

 再び、成瀬カイゼから2人に対しての念話。

 直後、深紅の砲撃が飛び込んでくるけど、クロノ・ハラオウンは回避成功。同時にチンクの近くにセインが現れる。

 

「ちゃちゃっと行きますね。フィールドやバリアは『Photon Lancer』やばっ!?」

 

 絶妙なタイミング、チンクが防御を解いた瞬間に、フェイト・テスタロッサの魔法弾がケースを直撃。本人はそのまま突撃してくし、ケースは空を舞ってる。

 

「行こう。任務は失敗だ」

 

「は、はいっ!」

 

 上空からはクロノ・ハラオウンも向かってくる気配があるのを見て、2人は地中へと姿を消した。

 

(フェイト、連中は地中から確保しようとするはずだ。

 なるべく地面に近付かない様に、落ちる前に回収出来るかい?)

 

(解った、やってみる)

 

『Photon Lancer』

 

 もう一度魔法弾でケースを跳ね上げ、突撃の勢いのまま回収。

 そのまま上昇してクロノ・ハラオウンと合流した。

 

「見事な手腕だけど、無理はしないでくれ。

 相手は何らかの犯罪者だ、予想外の事を当たり前の様に仕出かす可能性がある」

 

「大丈夫。砲撃の方は?」

 

(あちらさんも撤退するみたいだね。ギルとかいう転生者が抱えて飛び去っていくよ)

 

 サーチャーで会話を聞いてた成瀬カイゼからの状況報告。

 どう見ても撤退の構え。これ以上の交戦の意思は無いと思える。

 

「そうか。1人は逮捕出来たし、奪われた物も回収出来た。

 4人に逃げられたのは状況を考えれば仕方ないだろうから、ここまでなら上々なんだが……あの手は、アレだろう? 何とか騎士団」

 

(黒の騎士団だよ。ただ、今回の手助けは秘密らしいね。

 模擬戦を続けられる状況ではなくなったし、余計な荷物は早いうちに届けてしまおう)

 

「そうだな。撤収だ」




STSの6話に出てきた車のハンドルは左側(はやて運転)と右側(フェイト運転)でした。
どういう事なの……?

それより、戦闘描写のセンスの無さに私自身がびっくりです。
ついでに、セツナの変わらない空気っぷりにも。


2013/11/29 広い代わりに遠くいから→広い代わりに遠いから に修正
2013/12/08 フェイト・ハラオウン→フェイト・テスタロッサ に修正

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