青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編17話 知らないトコロ

 その後、金子狗太とジュエルシードを陸上警備隊に引き渡し、ついでに色々と情報を提供。

 地球から姿を消した人物だという点、特殊能力持ちが複数関わっていたと思われる事から大きな組織が関わっている可能性がある点まで含めてだし、後で色々大騒ぎになる事は間違いない。

 でも、今はレジアス・ゲイズや最高評議会への圧力になれば充分。今すぐ敵対する気は無いし。

 

 そんなわけで、こっそり入れ替えた18個のジュエルシード・イミテーションはばれる事無く時空管理局の倉庫に納まり、お姉様の手元には21個全てのジュエルシードが揃った。

 こんな事もあろうかと準備しておいたイミテーションも、ジュエルシードが劣化した場合にこうなるだろうというレベル。本物との比較も難しいから今後研究材料として使われたとしてもばれる可能性は低い上に、難易度が高い割に結果が微妙な技術ばかりを使ってるからそっち方面での価値も低く、ガジェットの動力源として使った場合は原作より性能が劣化する。

 完璧。

 褒めて褒めて。

 

「……そこまでやったなら、何も言えんな。

 それで、蒐集した情報やらで黄金律やハーレム体質に関する調査は進みそうか?」

 

 また呆れられた気がする。

 闇の書の蒐集は、魔法じゃないレアスキルは対象にならない可能性が浮上。

 少なくとも、文字として現れた情報にそれらしい部分は無い。

 アルフやその辺にいた犬を闇の書と接触させても、特に影響は無かった。

 金への変換資質も再現は確認出来ず。

 蒐集してるけど発動してない可能性もあるから、調査は続行。

 

「そうか……まあ、ニコポナデポ持ちの転生者連中から蒐集しても、大事にはならない可能性が高まったという事は喜ぶべきか。

 それで、私に隠れて色々やっているようだが、他には何を仕出かしている。たまに私の魔力を使っているだろう?」

 

 やっぱりばれてーら。

 お姉様から使い魔達への魔力供給を参考に、特殊な人工リンカーコアもどきを開発中。

 うまく成功すれば、SSS級の魔力を他者に供給可能かも。

 供給元はお姉様と私達。複数のリンカーコアから魔力を供給し続けるカートリッジ的な何か。

 S級相当量を供給出来る接続を2秒ほど繋げるところまで成功。出力の上昇と供給時間の延長はこれから。

 

「誰に使わせるつもりだ。そんなものを使わなくてもアコノには供給出来るし、他にSSS級に耐えられる奴なんていないだろうに」

 

 第1候補は夜天とユニゾンした八神はやて、決戦時の最悪を想定。

 防衛プログラムからの侵食を一時的にでも押し返す場合や、疲弊時には役に立つと予想。

 これも、こんな事もあろうかと、ってやりたかったのに。

 

「……解った解った、聞かなかった事にしておいてやるから、拗ねるな。

 それで、阿呆の身柄と情報を受け取った管理局の反応はどうなっているんだ?」

 

 割と大騒ぎ。

 金子狗太のリンカーコアは回復不可なくらいボロボロ。それを告げられて自棄になったのか、ジュエルシードや闇の書だけでなく、ジェイル・スカリエッティ、レジアス・ゲイズ、最高評議会の情報まで喚き散らしてる。但し、原作の情報だから、差異も色々ある。

 

 チクァーブの撮影した情報は映像機器メーカーの製品テスト中に偶々撮影された事になってて、犯罪行為の現場映像としてメーカー経由で正式に提出されてる。

 八神シャマルが蒐集してる場面は背中しか映ってなくて、空中でビクンビクンしてるだけに見えるから問題無い。犯行現場や、クロノ・ハラオウンが砲撃を躱す場面はばっちりで、ここに関しては証拠として充分。

 チンクがセインに回収される場面は、砲撃を撮影してたから記録してない。つまり、セインは映像に残ってない。フェイト・テスタロッサが箱を回収する場面も同様。

 砲撃を行ったディエチと逃走の手伝いをしたギル・ガーメスについては、後ろ姿だけ。砲撃が行われたと思われる方向にいたという事しか示さないし、顔も映ってない。

 ついでに、クロノ・ハラオウンの記録にも蒐集時の腕は記録されてない。記録する時点で幻影を使って偽装してあるから、データを改変した痕跡もない。

 結果、金子狗太の立場だけが悪くなってる。

 車両からケースを運び出した記録があるチンクすら、何らかの事情があるのではないかという話が出てる。バカと叫んでる声も記録されてるし。

 

 クロノ・ハラオウンは、ジュエルシード事件の事後処理で忙しい事を理由に捜査担当を辞退。

 結果的に、ロストロギア対策で駐留していた第97管理外世界からの誘拐という身内(アースラ)の失態を晒す事に繋がってるから、陰謀だと断定されてない。むしろ、情報の囲い込みをしていないという意味で、潔白を証明してる事になってる。

 

「なかなか面白い事になっているな。レジアスやらの耳には届いているのか?」

 

 もちろん。

 ジュエルシード事件の報告書を出してきて、現実との齟齬がある未来の光景とやらの可能性がある、妄言に惑わされるなとか言ってる。地球繋がりで、無視できない程度の説得力はある模様。

 この延長で、現実との齟齬がある過去の記憶の可能性、記憶改変に伴う精神汚染の可能性、ジュエルシードによる一時的な魔力増強だった可能性も示唆。上層部直々に情報を攪乱してくれてる。

 確実に金子狗太を切り捨てる方向になってるけど、望ましすぎて違和感がある勢い。

 

「そうだな。乖離し過ぎたせいで、修正力やらが働かなくなったせいならいいが……

 スカリエッティの様子は?」

 

 戦闘機人が無事だったせいか、あまり気にしてない様子。

 ジュエルシードに固執する気配は無い。現時点では、便利な動力源の候補でしかなかった模様。

 プレシア・テスタロッサが若返ったり、アリシア・テスタロッサが蘇ったりした事についても少し気になる程度で済んでる。後日、経過等を聞いてどの程度真実か判断するつもりらしい。それを果たしたロストロギアが消失してるなら、固執するのも無駄だと発言した記録も取れてる。

 ちなみに、チンクはイヤラシイ目で見られる事が無くなった事を喜んでる。

 

「自分から積極的に動いてたわけじゃないのか……脳味噌の指示か、ちょっとした興味本位でしかなかったという事か。

 そういえば、脳味噌の居場所は判明しているのか?」

 

 最高評議会の居場所は、ミッドチルダの時空管理局地上本部、地下施設の深部だろうと推測。

 接触している可能性があるドゥーエの完全追跡は失敗してるし、チクァーブとお姉様の電子精霊群では力不足。長宗我部千晴の協力があれば電子防壁を突破出来るけど、ユニゾンにいい顔をしないから、チクァーブも協力を要請してない。むしろ、下僕の様に尽くしてご機嫌取りをしてる。

 

「アレはチクァーブが悪いからな。千晴が納得するまでは、よほどの事が無い限り私からの要請も無しだ。

 だが、追跡は失敗か……」

 

 機会があれば再挑戦予定。

 ジェイル・スカリエッティを含め、時折超強力なジャマー結界を使う事があるし、各種技術を複合した探知を行う事もある。

 転生者に着けてたマーカーは既に見付かって破壊されてるから、侵入してる事を覚られない為にも、同種の手法や自動制御のサーチャーは使えない。

 妨害中に転移されると追えないし、何かやってる様子もあるけど、それは調べ切れてない。

 

「……流石に、完全なザルではないという事か。いや、普段の甘さ自体が罠なのか……?

 まあ、緊急で対処する必要がある相手ではないから、安全性優先だ。どんな罠があるか解らんから、警戒は怠るなよ」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 そんな状態で約2週間が経過して、7月も最終日になった。

 今の所大きな動きは無く、地道な努力が続けられてる。

 嘱託試験組は、あと少しという水準に達した。

 蒐集組は活動範囲を広げながら、ゆっくりと頁を増やしてる。

 小学生組は宿題と言う強敵と戦い、着実にその数を減らしてる。

 転生者組はそれぞれのペースで魔法の練習を続けてる。

 

「というわけで、連れて行ってもらうわよ!」

 

 そんな中、高町家の道場に来たお姉様に、アリサ・バニングスが開口一番で要求を突き付けてきた。

 今いるのは地球にいる関係者の過半で、随分と人数が多い。長宗我部千晴と真鶴亜美のペアどころか、珍しく黒羽早苗やエイミィ・リミエッタまで含むアースラ組もいるし、八神はやてと守護騎士も全員集合。

 高町なのはや月村すずかの家族まで来てたら、お祭りの再来に近い勢いだった。

 

「何がどういうわけで、何処になんだ?」

 

「別荘よ別荘!

 随分といいとこみたいじゃない。そんなトコがあるなら連れて行きなさいよ!」

 

「す、すまねぇ。まさか、訓練は転移で別荘に行ってしてるって言っただけで、どんなとこか当てられるとは思わなくて……」

 

「ほう……」

 

 自白したヴィータが、お姉様に睨まれて小さくなってる。

 事情を聴いてみると、真っ先に気付いたのは上羽天牙らしい。お姉様や主がどこで訓練してるか解らないというエイミィ・リミエッタのボヤキを聞いた時点で、確定的に明らかだった模様。

 

「……ネギまを知っているのだから、気付くのは時間の問題だったか。

 存在を確信されたのなら言っておくが、この面子以外には口外禁止だ。これを目当ての連中が押し寄せてきたら、口外した馬鹿の責任として全て対処させるからな。

 ヤバさで言えば……そうだな、状況によっては地獄に垂らされた蜘蛛の糸と同じ程度には魅力的に見えるかもしれん。善悪とは無関係に、な。

 犯罪者やらを追い払う役目を押し付けられたくなければ、口を閉ざす事だ」

 

「そんなにやばい代物なの……?」

 

「まさか時間加速とか、その辺まで再現してんのか?」

 

 いまいち理解出来てないのか、アリサ・バニングスが困惑してる。

 魔法先生ネギまもある程度知ってるらしい馬場鹿乃は、どんな物か想像出来るらしい。ちょっと外れてるけど。

 

「いや、時間の加減速は無い。その意味ではネギまのものを再現しているとは言えんな。

 知らない連中には、人が生活する事も可能な人工的な空間と言えば想像出来るか?

 なのはには、特殊なデバイスの格納領域の様な物と言えば、少しは伝わると思うが」

 

「え、えーと……」

 

 話を振られた高町なのはは、困惑顔。助けを求めるように視線が彷徨った結果、情けない顔で八神シグナムを見てる。

 

「理解出来ていない様だな。

 デバイスの格納領域は、外部からの干渉は困難だ。つまり、そこで生活出来るという事は、追われる者にとっては恰好の隠れ家になり得るということに繋がる」

 

「その可能性がある以上は、治安を司る権力者としても無視出来ない、という事でもありますね。

 普通は生活出来る程便利には作れないですけど、実現している以上、犯罪者や保護を求める人が押し寄せてくる可能性を否定出来ませんから」

 

 助けを求められた八神シグナムと、ついでに口を出した八神シャマルの解説は、とても適切。

 簡単に干渉出来る技術があるなら、例えばフェイト・テスタロッサやプレシア・テスタロッサは、レイジングハートの中にあると思ってたジュエルシードを直接狙ったはず。

 それらに簡単に気付ける守護騎士は、やっぱり戦乱の中で過ごした経験が生きてる。

 

「要するに、よ。

 本来は持ってない方がいいモノって事よね。どうしてそのまま使ってるのよ」

 

「中には1000人以上住んでいる上に、私の研究室的な物やらも多くある。要するに、迂闊に外に出せないがそう簡単に壊せない物も多い。

 現時点で箱と中身のどちらがより危険かと言えば、中身だ。箱が悪用されたら問題があるからと言って、住人を皆殺しにしたり、危険物を放出したりするのを良しとするのか?」

 

「……中の人とか物って、そんなに危険なの?」

 

「簡単に説明するなら、住人は狂信者で、危険物はジュエルシード級も多数あるな。

 箱の外に出すより、箱の中に隔離しておく方が安全だ」

 

「で、でも、はやては出入りしてるんでしょ?

 そこまで危険じゃないんじゃ……」

 

「私と敵対していないなら、という条件付きだ。

 危険物はそれなりに隔離してあるが、中に入れば住人と接する事になる。敵と認定されたら、生きて帰れないと思った方がいいぞ」

 

「そう、なんだ……」

 

 アリサ・バニングス、ドン引き。

 でも、ちらっと八神はやての方を見て、それに気付いた八神はやては伺いを立てる様な目でお姉様を見てる。

 

「……ふふん、わーかった。

 嘘は言ってない。でも、全てを語ったわけでもない。そういう事でしょ!」

 

「詳細はほとんど言っていないんだ。全てを語ったと言えるわけがないだろう?」

 

「そりゃそうよ。

 でも、はやてやヴィータ達が行ってるんだから、危険性だけを指摘して恐怖心を煽ってるだけでしょ。本当に危険なら、過保護者のアンタが連れてくわけないじゃない」

 

 アリサ・バニングス、渾身のドヤ顔。

 転生者連中からは、おお、とか、アレの茶々丸姉妹機も似たようなもんだろうし、とかいう賛同の声が聞こえてくる。

 

「アリサ……お前は一般人だと思ってたんだがな」

 

「な、何よ。何か問題でも?」

 

「いや、こちら側に関わるべくして関わった人材なんだな、と感じただけだ。

 なのはにも言ったが、お前も転生者とかじゃないだろうな?」

 

「違うわよ。で、どーなのよ?」

 

「どちらかと言えば不正解、だな。

 知られた際のリスク、存在する危険物のレベル、敵対時の危険性は、言った通りだ。これに関しては一切誇張していない。

 例えば……そうだな、ふざけていた時に窓を割った場合は、私の財産を丁寧に扱わない者として粛清対象になりかねんし、その結果は恐らく死だ。敵対と言うと重そうに感じるだろうが、あいつらの一部はその程度で閾値を超えるし、死ぬ理由としてはそれで充分だろう。

 はやてや守護騎士達は必要以上にはしゃぐ事もないし、敵対時の問題も理解しているから、連れて行っても問題はないと思える。

 だが、お前達が羽目を外した場合までは、保証出来ん」

 

「要するに、節度を守ればいいって事よね。

 転生者の人達ってのは、要するに前世とかいうやつの分、精神的に成熟してるはずでしょ。私達が最年少なんだから、それくらい出来るんじゃないの?」

 

 お姉様が負けてる。

 でも、確認するように周りの人を見たアリサ・バニングスの視線から逃げるように、馬場鹿乃が横を向いた。

 

「……ヤバそうな馬鹿が、最低1人はいるな」

 

「……いるわね。

 でも、自制する自信があれば大丈夫でしょ?」

 

「……やれやれ、行かないと言う選択肢は、お前には無いんだな」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 と言うわけで、やってきました別荘。

 熱海の拠点にある、外部との転送ポート……見た目はヘリポートに近い平らな場所に、17人と1匹が揃ってる。

 

「うわ……想像以上だ」

 

「何だか、長閑な感じね。お城は無いと聞いていたけれど、それでもちょっと想像と違うかしら」

 

 長宗我部千晴と真鶴亜美は単純に驚いてる。

 

「す、すごい……」

 

「魔法って、こんな事まで出来るんだ……」

 

「で、でもアリサちゃん。なのはちゃんも驚いてるよ……」

 

 高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかの原作娘達も、同じく単純に驚いてる。

 

「テンションを上げるな、はしゃいじゃ駄目だ、漲るなんて以ての外だ……」

 

「つ、ついてこない方が良かったかも……」

 

 馬場鹿乃と上羽天牙は、テンションを下げてる。能動的か受動的かはともかくとして。

 

「あれ? あそこの畑って……」

 

 黒羽早苗は、早速食べ物に目を付けてる。

 先週プレシア・テスタロッサから送られたレシピに、似た材料を使う物があった。

 なんてピンポイントな。

 

「こ、こんなの、どう報告すれば……」

 

「心配するな。リンディは知っているし来たこともあるから、別荘に行ったと伝えれば済む。

 但し、色々な機密に関わるからな。大っぴらに報告するのは止めておけよ」

 

「か、艦長ぉぉぉぉ……」

 

 エイミィ・リミエッタは、頭を抱えてる。

 いろいろ秘密にしてるせいで、辻褄合わせが大変なのは認める。

 

「さてと、アコノとはやて達は先に行って準備を頼む。

 連中への説明もしておいてくれ」

 

「解った。東風檜扇(コチノヒオウギ)、起動。ロードカートリッジ」

 

「私も先に行ってええの?」

 

「ここから歩きながら説明するつもりだし、車椅子に向いた道じゃないからな。

 ザフィーラ、2人の車椅子の運搬を頼む」

 

「承知した」

 

「参りましょう、主はやて」

 

 八神はやては八神シグナムに抱き抱えられ、ザフィーラは人の姿になり2つの車椅子を抱えて。

 6人は海の方へと飛んで行った。

 

「さて、私達は……アリサ、どうした?」

 

「あ、あ、あ、あの犬……」

 

「ん? ああ、ザフィーラか。守護騎士は4人だし、ユーノやアルフで姿を変える魔法がある事は知っていただろう?」

 

「今までそれらしい気配は全然なかったじゃない!

 紹介ぐらいはしなさいよ!」

 

「紹介はしただろう、子犬の姿だっただけで。それに、魔法の秘匿にきちんと気を付けているという事を証明しているじゃないか。

 まさか、人前で姿を変えるわけにもいかないだろう?」

 

「そりゃあそうだけど……納得いかなーい!」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 別荘での話は、特筆する程のことは無く。

 ナーディやリルが一部の人に物珍しい目で見られたりしたけど、そこそこ普通に話をしてたり、主や守護騎士達の訓練に高町なのはが参加して目を回したり、みんなで大きなお風呂に入ったりした程度。もちろん、男女は別で。

 訓練で主が使用した誘導弾や障壁破壊弾を混ぜた高密度弾幕は、Sクラスの障壁でも丸ごと飲み込む。守護騎士達全員が防御を諦め、全力で逃走を試みる水準に至っていたりする。

 2つのデバイスを使用したカートリッジの持続的な乱用の恐ろしさを見せつけ、観戦してた人達の目を点にしてた。

 

 他には、黒羽早苗が食材の融通を依頼してきた事くらい。

 ミッドチルダか地球で入手可能なものに近い種類のみに限定し、それでも味等が異なる可能性を示唆し、入手経路の口外を禁止し、別荘外への持ち出しは相当額の支払いを必須とし、私達や従者達の料理研究に参加すると言う条件で、合意。

 こんな条件で合意に至った事自体が意外。料理の研究にかける情熱を甘く見過ぎてたかも。

 利点はあるし、食材の入手についても言い訳出来る範囲になってるから、とりあえず許容範囲。

 

 その後、人数は減るけど1週間後に水着等を持参でもう一回来る事になったのは、予想の範疇。

 お姉様と主、八神はやて、八神シャマル、ザフィーラ、高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングス、長宗我部千晴、真鶴亜美、夜月ツバサ、黒羽早苗が、今回の参加者。

 黒羽早苗は海には見向きもせず、料理担当の従者達と楽しそうに調理場に籠ってた。

 というわけで、海岸で遊んでる人は女性だけ。但し子犬モードのザフィーラを除く。

 

「プライベートビーチでも、あんたはそんな恰好なのね」

 

 アリサ・バニングスにジト目を向けられてるのは、お姉様。

 着てる水着はタンクトップにロングパンツ、加えてラッシュガードとサングラス、全部黒。おまけに幼女モード。

 ちなみにアリサ・バニングスの水着は、ピンクのワンピース。今は2人でパラソルの下に並んで座ってる。

 黒羽早苗と従者達は少し離れたところで昼食の準備中だし、他の人は海の方へ行ってる。

 

「何とでも言うがいい。私の前世は男なんだ、女の感性は解らん」

 

「だからって、隠し過ぎじゃないの?

 その姿も大人の姿も、美人なのは間違いないんだし。鏡で見て綺麗とか、可愛いとか、思わないわけ?」

 

「私が着飾れば無駄に変態共の視線を集めるし、男に言い寄られて喜ぶ神経は出来ていない。

 それに、着飾った自分を見るのは飽きた。美人は3日で飽きるとも言うし、外見がコレだろうが中身は私で、私は私が嫌いだ」

 

「それって外見だけで判断しちゃいけないって事じゃない。

 それに、自分が嫌いって、どういう事よ?」

 

「……なあ、アリサ。幸せって、何だろうな?」

 

「何よ、話を逸らすのに哲学に走るわけ?

 幸せねぇ……家族や友達と仲良く、ってのじゃダメなの?」

 

 経済的に恵まれた、少なくとも困ってないから言える事ではある。

 でも、精神面から見れば。

 

「いや、何も悪くない。模範解答ですらあるだろうな。

 そこで問題だ。不老は確実で、献身的な部下達に支えられた生活をしている、権力抗争に慣れ過ぎた私にとって、家族や友達とは誰を指すんだろうな」

 

「家族って、夜天とかいう人とかチャチャとか、あとはアコノやはやてじゃないの?

 それに、私はもちろん、なのはやすずかだって友達と思ってるんだけど」

 

「夜天は確かに姉だから家族と言えるだろうが、話した事も無い相手だ。チャチャは私の部下、アコノは私の主だから上司に当たる。同じくはやては姉の上司、守護騎士達は姉の部下だ。

 お前達にしても、高町や月村の家としては……地球の生活を確保したりするための協力者、悪く言えば駒として見てしまっているんだ。

 転生してる連中は、敵か部下か保護対象か……この前居た馬場と上羽はさほど仲良くなっていないし、黒羽は協力者的な状態か」

 

「何なのよ、それ」

 

「この世界で目覚めてから一度眠るまでに20年以上あったが……その間に居たのは、親の様な上司、部下、利害関係者、敵。

 良くも悪くも、損得、上下、敵味方の関係しかなかった。

 自分の年齢や性別すらはっきりしない私は、誰を、どんな顔で友と呼べばいいんだろうな」

 

 お姉様は、海岸の方で遊んでる人たちを見てる。

 何だか寂しそうな雰囲気。

 

「まったく、アコノの感情が無いとか言いながら、似た者同士じゃない。これだから頭のいい馬鹿ってのは。

 誰を? 気が合った相手でいいじゃない。

 どんな顔で? 何で顔を考えなきゃいけないのよ。

 そんなややこしい事を考えなくてもいい相手が友達や家族でしょ。他に何がいるってのよ、家族らしく振舞えてるくせに」

 

「私は私が何者かすら決められていないんだ。

 リーダーとしての言動は必要だから作った仮面の様なもので、家族としては家長として振舞っているつもりだが……元の私がどんな人間だったかすらあやふやな上に、大学生の男と同じ行動をするのも自分で違和感がある。だからと言って、子供らしい振舞いも出来ん。

 それに、不老な幼女なんて余計な属性が付いているからな。様々な意味で必ず先に行ってしまうお前達と、どう接していいか……」

 

 お姉様は幼女らしい行動をしたことは無いから、外見相応の振舞いには慣れてない。

 永遠の幼女だから、人の様に成長する事も無いし。

 今の八神家で不老じゃないのは、八神はやてのみだし。

 

「自分が何者かなんて、私だって解らないわよ。

 それに、先に行くって、要するに先に死んじゃう相手って事よね。そんなの気にしてたら、お年寄りと仲良くなれないじゃない。すずかなんて私達よりだいぶ長生きするってのを話してからの方が明るいくらいだし、大したことじゃないわ。

 だいたい、ややこしい事を考えないって事は自然体って事で、偉そうでも小心そうでもいいから、要は自分が楽なように振る舞えばいいって事じゃないの。

 で、孤独な最強は避けたいとか言ってた人が、何で孤独なボスになりたがってるわけ?」

 

「……ははっ、やっぱり、お前達はどこかおかしいぞ。

 なのはといいすずかといい……本当に、お前達も転生者なんじゃないだろうな?」

 

「何でよ。一般人代表とか言ってたくせに」

 

「明らかに小学3年生の発言じゃないからだ。

 それにしても、頭のいい馬鹿、か」

 

「他人とどう接していいか解らないなんて、私は2年も前に通過した事だもの。

 文句ある?」

 

 口ぶりだけなら険悪そうだけど、お姉様もアリサ・バニングスも、笑ってる。

 

「いや、適切だ。今の私を表現するのに、これ以上の言葉が思いつかないくらいにな。

 これからも頼むぞアリサ。お前は私にとって、ある意味で最高に特別なんだ」

 

「な、何をよ。何も出来ないって知ってるでしょ?」

 

「いや、特別だ。少々金持ちの家に生まれて頭がいいだけの、知識以外には日本人として特別なものを持っていない、私の周囲で唯一の一般人と呼べる存在なんだぞ。

 はっきり言えば、平穏な日本の象徴だ。

 にもかかわらず、人外を極めたような私を見通すんだ。これが特別でなければ、何と呼べばいいんだ?」

 

「変な理屈つけなくても友達でいいじゃない、バーカ」

 

「研究馬鹿と言われた事はあるが、正面から馬鹿と言われるのも新鮮だな。

 友達……そうだな、友達、だな。友とは……そういうもの、だったな」

 

「ちょ、保護者キャラのくせに涙もろすぎでしょ!?

 ああもう、泣かないでよ! 泣くなー!!」




もう1人の一般人枠に入れるはずの高町桃子は、エヴァと直接の接触が少ない上に戦闘民族高町家の一員という色眼鏡のせいで、入れてもらえませんでした。


2013/12/06 通貨→通過 に修正
2013/12/08 入れ替え済みのジュエルシード→入れ替えた18個のジュエルシード に変更
2017/04/25 入手経理→入手経路 に修正

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