青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編18話 裏で蠢くモノたち

 お姉様の泣き顔は、私達の認識阻害と防音結界のおかげで他の人に見られることは無く。

 ついでに、大学の五月祭で見せた態度が素なんじゃないかと言われて、唖然とした顔も同じく。

 気付いてなかったのかと盛大に突っ込まれた頃に、人が戻ってきてうやむやになった。

 

 その後、バカンスの際に少々訓練したからか、思いっきり力を使える環境だからか。

 時々、高町なのはやお姉様側の転生者達も訓練で別荘に来たがるようになり、結果的に、時々合宿の様な事をするようになった。

 見た目の隠蔽が難しい儀式魔法や実際の空中戦など、日本ではやり辛い訓練もあるから気持ちは解る。

 主と高町なのはの砲撃合戦は花火みたいでなかなか綺麗だけど派手だし、夜月ツバサが全力で儀式魔法を使おうとするとたまに失敗して爆発する。どちらも隔離環境じゃないと色々問題があるし、真鶴亜美は能力ではなく魔法での治療の練習が可能だし、長宗我部千晴は練習対象を障壁や結界系に絞って流れ弾を利用して強度を確認したりしてる。訓練内容等に問題は無い。

 お姉様は、せめてミッドチルダに行ってる人達が戻ってこないと、魔法戦闘の組み合わせが少なくてつまらないとぼやいてた。お姉様や私達は実力の隠蔽的な意味で、守護騎士達は蒐集等で忙しいから、従者達は力不足を言い訳にして、戦闘訓練には参加してない。

 ちなみに、アースラ組の2人は、基本的に観戦はいいけど参加は禁止。どこでどの程度の訓練をしたかとか、訓練メニューの記録的な意味で、とても問題があると判断した。

 参加者の目的の一部が割と豪華な食事や、遠慮が要らないほど広く人の少ない海の様な気がするけど、まあ気にしない。

 調理には黒羽早苗も参加してるし、感想やちょっとしたアイデア等も聞けて、そっちの研究も捗りやすくなってる。材料は基本的に別荘産で、仕入のコストはかからない。

 やっぱりと言うべきか、黒羽早苗の作った料理は、何らかの回復効果がある模様。疲れが取れてるという感想が出やすい。注意して見てるけど、特別何かをやってるわけでも、魔法の効果が発動してるわけでも、魔力素が動いてるような様子も無い。謎すぎる。

 

 嘱託魔導師の試験組とプレシア・テスタロッサの裁判は、かなりいい感じになってきた。

 協力者がそれなりにいるのも、順調な要因。証人として、かつてプレシア・テスタロッサの助手で、現在は時空管理局ミットチルダ地上本部で連隊長になってるディラン・ヒューイットが現れたのは私達もプレシア・テスタロッサも驚いたけど、全力で弁護する構えだった。レジアス・ゲイズを抑える効果も期待出来るし、有り難い援護。本人も善意の様だし、有り難く受け取ってる。

 こんな感じでどちらもかなり目途が立ちつつあり、遅くとも2か月、恐らくあと1か月前後で片が付きそう。

 

 ミッドチルダといえば、ギル・ガーメスは思った以上に真面目。

 原因の1つ目は、日本での逃亡生活。だいぶ精神的に参ってたから、変わるきっかけには充分。

 2つ目は、今の環境。魔法や王の財宝(レアスキル)を特に隠さなくて良いのは、日本よりも楽に見える。

 3つ目も、今の環境。原作の人物、チンクとは金子狗太対策で出来た協力関係がきっかけで仲良くなってる。セインやディエチともそこそこ仲良くなってるし、恋愛感情は無く、ハーレムにはなってないけど、美少女が近くにいる事で精神的な安定は得られたらしい。

 今は、この環境を維持する目的で協力するという姿勢に変わってる。その一環として犯罪行為に難色を示してるし、ジェイル・スカリエッティもその辺は考慮してるみたいだから、どちらかと言えばストッパー的な感じになってる。

 

 そのすぐ側に居る杉並英春は、魔改造中。

 レリックに似た魔力結晶体を利用した、改造人間化の道を着々と歩んでる。明らかにレリックウェポンに通じる技術の実験台。だけど、本人はこれで自由な行動が可能になると信じてるし、失敗する可能性の説明を受けた上で選択した未来でもある。

 全ての情報を得られたわけじゃないけど、理論だけで見れば可能性はあると思えるし、別に助ける義理も無い。結果的に真人間になる可能性も考慮して、今のところは様子見。

 

 ジェイル・スカリエッティは、今の所あまり大きな動きは無い。

 元々派手な行動は少ない人物。レリック研究中の事故も速やかに自身の痕跡を消して撤収するはずだから、当然とは言える。

 

 というわけで、八神家のお姉様と主の部屋で、発生した事件を報告なう。

 

「聖遺物の盗難、か……こんな時期だったのか?」

 

「ヴィヴィオが生まれるまでに、時間があり過ぎだと思う」

 

 お姉様と主は不思議そうだけど、時期は原作と比較しても間違ってない。

 無印やA’sの10年後の話であるStrikerSの20話で、10年ばかり前の出来事だとジェイル・スカリエッティが言ってた。

 成瀬カイゼを通してカリム・グラシアに警告済み。不審人物の洗い出しは始めてたけど、間に合わなかった模様。

 

「……あまり、無理はさせるな。

 充分な権力基盤があるわけじゃないんだ、下手をすると排除されるぞ」

 

 それも本人に警告済み。だからこそ、不審人物の調査しかしてなかった。

 結果的に、それが盗難を早めた可能性はある。

 犯罪者組織に狙われている可能性があるという情報をもたらしていた事で評価は上がったけど、捜索に加わるよう指示を受けて、どう探すかをシャッハ・ヌエラと相談してる。

 盗難は秘匿されてて、捜索も秘密裏に行うよう言われてる。他に動いてる人の情報も貰ってないから、困ってる模様。

 

「つまり、手を貸すかどうか、か?」

 

「手を貸す事自体は可能? 現状で情報があるかという意味で」

 

 可能。完璧に追跡してる。

 予想通り、ジェイル・スカリエッティの研究室に運び込まれた。

 道中、チクァーブ及び変態(ロリコン)も追跡してる事を確認済み。

 

「……あいつらも調べていたのか。

 というか、変態(ロリコン)は何をやってるんだ……」

 

「真面目に情報収集をしている可能性はある。

 グレアムの背後とかの割と重要な情報も捕まえてるから、これもその一環かもしれない」

 

「確かに、その可能性はあるが……まさか、ヴィヴィオを見たいからとかいう理由じゃないだろうな?」

 

(あーあー、テステス、It's fine today(ほんじつはせいてんなり)、ニャンコ子ニャンコ孫ニャンコを渾身の力で魔術師手術中)

 

(止めんか鬱陶しい!)

 

 何というタイミングでの管制通信。

 しかも内容がおかしい。

 

(相談したい事があるので、まずは連絡をと思ったのですが。

 いきなり押しかけるのは問題ですし、何か別の問題でもありましたか?)

 

(問題だらけだ! いや、先に連絡するのはいいが内容がおかしいだろう!)

 

(せっかくエヴァちゃんとお話するのですから、少々可愛い感じにしようかと。

 お気に召さなかった様ですので、過去を忘れて本題に入りたいのですが)

 

(……聖遺物の話か?)

 

(やはり、あの気配はチャチャちゃんでしたか。流石ですね。

 所在はこちらでも把握していますが、どの様な方針で対処するか相談したいと思いましてね)

 

(そうだな……お前の事だ、誰が捜査に動いているか把握しているな?)

 

(いやぁ、買いかぶり過ぎですよ。

 とりあえず、カリムちゃんが動いているのは把握していますし、他にも何人か動いているようですが、全体は把握していませんよ)

 

(そいつら自身が発見出来る可能性はあるか?

 手を出した司祭が口を割るとか)

 

(彼は永遠の口止めをされてしまいましたから、その線は無いですね。

 直後に魂を全力蒐集してみたのですが、どうも相手を普通の神官の女性だと思っていた様です。生きていたとしても、まともな情報は得られなかったでしょう)

 

(……何をやっているんだお前は。それに、随分と解析が早くないか?)

 

(いやぁ、聖遺物に仕掛けておいた警報の反応で慌てて駆け付けたら、丁度体の中から大きくて硬いモノを抜くところでして。まるで天に昇るような表情を見てしまいましたよ。

 いい年の男女が抱き合ってそんな事をしている所に声を掛けるなんて、とてもとても)

 

(表現がおかしすぎるだろうが!

 何をどうやったら殺人現場がそうなるんだこのド変態!!)

 

(間違った事は何も言っていませんよ?

 そうそう、記憶の解析についてですが、本当に簡易的にしか行っていませんからね。詳細に調べると別の情報を得られる可能性は否定しません)

 

(……ああもう、貴様はもう口を開くな。

 とりあえず、カイゼを通じてカリムに情報を流す。それでいいな?)

 

(おや、手助けはしないのですか?)

 

(別に回収出来なくても、私は困らん。

 何か不都合でもあるのか?)

 

(私としては是非ともカリムちゃんに回収して頂いて、得点を稼いでほしいのですがね。

 エヴァちゃんが動かないのであれば、私が少々動いてみましょう。どう動けば邪魔にならないかは、チャチャちゃん達と相談すれば良いですか?)

 

 変態(ロリコン)と相談する?

 内容はともかく、行為がやだなぁ。

 

(それでは、間にカイゼ君やセツナちゃんに入ってもらいましょう。

 私と直接会う必要は無いという事ではどうでしょうか?)

 

 それなら何とか?

 カリム・グラシアと直接会うのはあの2人だから、どこかで話をする必要はあるし。

 

(……おかしなことをするようなら、滅するぞ。それでいいな?)

 

(ええ、構いませんよ。

 それでは、今から蒐集した魂の記憶を精査しますから、打ち合わせは2人の訓練が終わった後という事で)

 

(あいつらのスケジュールも把握済みか。まったく、本当に不必要な事はしていないんだろうな?)

 

(当然です。必要な事しかしていませんよ)

 

(その基準が信用出来んのだこの阿呆!)

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 そんな感じで、8月に入って3日目。

 動きがなかったギル・グレアムが、ちょっと動いた。

 具体的には、会いに来た。

 

「目的は、私の見極めだな。

 本人だけが来るとは思わなかったが」

 

 なんと、猫も来てない。正確には、地球に来てるけどイギリスにいる。

 対するこちらは、お姉様に主に八神チャチャ、八神はやて、守護騎士が3人と1匹。

 解りやすく言えば、全員いる。

 

「ここで警戒して誠意を見せないよりも良いと思ってね。

 それに、はやて君に詫びなければならない事がある」

 

「私に、ですか?」

 

「ああ。

 済まなかった」

 

 ギル・グレアムが、テーブルに擦り付ける勢いで頭を下げてる。

 椅子じゃなく座布団に座ってたら、土下座になってた。

 

「え、えーと、何がですか?」

 

 八神はやて、困惑中。

 謝られる理由が理解出来てない。

 

「父の友人を騙った事。君を孤独にした事。君の命を犠牲にする計画を進めていた事。

 どれも、決して許される事ではない」

 

「頭を上げてください。私は、不幸と思ってませんから。

 おじさんが管理してくれていたおかげで、不自由なく生活出来ました。

 隔離してくれていたおかげで、魔導師の介入が無かった可能性があるとも聞いています。

 計画も、今の技術では他に手段が無いんじゃないか、って」

 

「そう言ってくれるのか……有り難う。

 それにしても……」

 

 ちょっと涙目になりつつ、ギル・グレアムが再び頭を下げてる。

 でも、お姉様を見る目が不思議そう。

 

「何か?」

 

「いや……あれだけ言っていたにしては、随分と優しい説明をしているのだね。

 極悪人と罵られる可能性も考えていたのだが」

 

「エヴァさん……グレアムおじさんに何やったん?」

 

「グレアムが進めていた計画の問題点を指摘した上で私の力と方針を示し、理解と協力を求めただけだが」

 

「あれをそう表現するのか……なかなかの狸だ」

 

「何か問題はあったか? 表現方法は少々強引だったと思うが、ああでもしなければ止まれなかっただろうに。実績も持たない小娘が下手に出て翻意出来る程度の覚悟だったなら、失望するぞ。

 それに、罵られて贖罪した気分になられるのも不愉快だ」

 

「ややなぁ、何も恨んだりしてへんゆーたよ?」

 

「だから、別に煽ったりしていないだろう?」

 

「なるほど、リンディ提督の説明は事実という事か。あれほど明確に力を示されなければ、とても信じることは出来なかった事も事実だろう。

 だが、君に聞きたい事がある」

 

「闇の書の現状について、か?」

 

「ああ。現状について、きちんと把握しておきたいのだよ」

 

 組織を説得する手札としても、自身が納得するためにも、必要な事。

 リンディ・ハラオウン経由で少しは聞いてるはずだけど、それだけだと心配なのは理解出来る。

 

「話はリンディから聞いているだろうが、闇の書は既に起動している。そっちにいる4人が守護騎士だ……っと、ザフィーラ、ちょっと人の姿になってくれるか」

 

「了解した」

 

「ああっ、もふもふがっ!」

 

 とん、と床に降りて、人の姿になるザフィーラ。

 八神はやてが残念そうに手をパタパタさせてたけど、とりあえず尻尾をもふる事にしたらしい。

 

「友好的な関係を築けているようだね。

 作業の方は、どうだ」

 

「そうだな……どこまで聞いているか知らんから、順に説明するぞ。

 まず、闇の書を夜天の魔導書に戻す事が最終的な目標だという事は、以前言った通りだ。その為に、改悪や改変をされた部分を調べる必要があるんだが、現状では防衛プログラム……最も改変が酷い、闇の書の闇が邪魔をしている。

 そこで、夜天の魔導書の管制人格を目覚めさせるために、現在は蒐集を進めている所だ」

 

「蒐集を? 被害は出ていない様だが、どうやってかね?」

 

「被害は出ているぞ? ミッドチルダあたりの犯罪者限定だがな」

 

「それは……まさか、黒の騎士団かね?

 あの者達はミッドチルダ式の魔法を使っているはずだが」

 

「守護騎士達が違和感無く使える魔法とデバイスを用意したんだ。古代ベルカ式の魔法をミッド式に見せかけた、近代ベルカ式の逆の様なものだと思ってくれればいい。

 表向きは義賊としてならず者から蒐集しているし、回復までの時間を稼ぐために魔力封印を施しているからな。公式には被害無しだ」

 

「そうか……それが、問題を抑えるための手札という事か。

 随分と周到に用意しているのだね。間に合わなければ意味は無いが、順調かね?」

 

「そうだな。蒐集は……どこまでいっている?」

 

「もうすぐ200ページ、やったか?」

 

「はい、主はやて」

 

 八神シグナムが頷いてるけど、正確には186ページ。

 初期のデバイスや魔法に慣れるまではゆっくりペースだったし、今も犯罪者の情報を確定してからだから、決して早くは無い。

 ただ、八神はやても了承しての行動。隠れてやらなくていいし、情報収集は私達がやってる分、負担等はかなり少ないはず。

 

「遅いと感じるかもしれんが、当面の目標は管制人格を起動出来る400ページだ。

 起動後も継続するかは、その結果次第だな」

 

「ふむ、完成させる事も有り得るという事か」

 

「基礎部分への介入が、完成前でも可能かどうかで変わるんだ。

 介入可能なら、管制人格と協力して何とかする。

 出来なければ、完成後に使えるようになる管理者権限も使う事になるだろう」

 

「そうか。最悪の場合は、戦う事も視野に入れているのかね?

 完成させるという事は、暴走に立ち会うという事でもあるはずだ」

 

「完成させる場合は、そうなるだろうな。

 安心しろ。そうなっても無人で可能な限り生物の居ない世界で行うし、暴走に関する被害も最小限に抑えるさ」

 

「ふむ……ならば、こちらでも安全策を取らせてもらって構わないかね?

 完成を目指す事が確定した場合は、闇の書に関して情報を公開したいのだ」

 

「公開した際の問題はいくつも思いつくはずだ。

 それを把握した上だとして、私を説得出来るだけの理由があるのだろうな?」

 

「暴走と事後処理に関して、最低限の手札が欲しいのだよ。

 その代り、無人世界の用意はこちらで請け負おう」

 

「つまり、暴走する現場にアルカンシェルを持ち込ませろ、という事か」

 

「意図は説明したほうが良いかね?」

 

「失敗した際の保険と同時に、今までの犠牲者の鬱憤を晴らさせろ……といった所か?

 そうだな、アースラにアルカンシェルを積み、発射はリンディの判断で行う事。

 次にこんなチャンスが来るのは何時か解らんから、短絡的に撃てば未来に闇の書の被害を出す事に繋がると、搭乗する関係者全員が理解する事。

 この2点が守られる事が最低条件だな。それが守られるか解らん現状では、了承しかねる」

 

「察しが良くて助かるが、他にも理由があるのだよ。

 やはり、悠久の翼の方針を変えるのは難しい。現状ではまだ起動していない事にしているが、いずれ気付く者も出るだろう。色々探っているクロノに聞いたが、背後に何やら良からぬ動きを見せる者もいるようだ。一部の者には、既に情報が漏れ始めていると言ってもいい。

 そういった者達の動きを牽制するために、ある程度は情報を公開したい。表に出るのが嫌だと聞いているから、発見者として私の名を使う事も考えている」

 

 やっぱり、組織を抑えるのは簡単じゃなかった。というか、現状では何もしないのはある意味正解。それに、口ぶり的には最高評議会辺りも蠢いてそう?

 でも、今後の展開を考えると。

 

「駄目だな。お前が発見者として表に出た場合、以前のはやてとの関係を持ち出されると面倒な事になる可能性がある。

 そもそも、その為にプレシアを用意したんだ。裁判が終わり、地球に来た後であれば近辺を調査して見付けた事に出来る。アースラの拠点近くに住むだろうから、イギリス人でミッド在住のお前より言い訳もしやすいはずだ。

 お前はお前で、友人の娘を助ける為に、純粋な抑え役として働くといい」

 

「そうか……なかなか、難しい事を要求してくれる」

 

「技術的に一番難しく管理局では不可能な、闇の書を何とかする部分は私が請け負っているんだ。

 時間稼ぎは……そうだな、何かきっかけを作って、ユーノを無限書庫に放り込んで改めて対処法を探させる事にしたらどうだ。発掘や調査に適性があるスクライアの少年で、今はクロノ達と一緒に居る。そうやって表から手を回している格好を取れば、少しくらいなら何とかなるだろう。ついでに、無限書庫の有効利用にも役に立つぞ。

 それに、私だと脅すか殲滅するくらいしか出来んからな。少しの知恵くらいなら出してやるが、その他の有象無象の対処を任せるくらいは、構わんだろう?」

 

「我々は、我々の為に働けということか。

 随分、厳しくも優しい女神だ」

 

「ふん、私は俗人だ。そんな高尚な代物に成り下がる気は無い」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 そんなわけで、ギル・グレアムが会いに来てから1週間。

 私達の増員が完了する頃、カリム・グラシアを中心とするチームが功績を勝ち取った。

 

 その前提として、2人(カイゼとセツナ)からカリム・グラシアへ、本の姿の変態(ロリコン)を幻の書として返却。つい最近まではカリム・グラシアの手元にあったのは間違いないし、気付いたら転移していたという説明文を変態(ロリコン)自身がページに表して押し通した。というか、その説明だけを示したまま、変態(ロリコン)は沈黙してた。

 本人(ロリコン)の弁護がない事をいい事に、古代ベルカ語を管理世界標準語に翻訳する事も可能な古代ベルカ製のロストロギア、通称幻の書として改めて紹介。意識のある本だから寝室や着替えを行う場所には置かない様にと警告はした。これについては話しかけると内容が変わる事から気付いてたようで、素直に納得してた。

 同時にジェイル・スカリエッティの研究所の位置情報と、そこに盗品が運び込まれた可能性が高いという未確認情報も提示。カリム・グラシア自身の予言能力と併せて、怪しい情報があったため警戒し、個人的に得た情報も併せて考察し場所を突き止めたと説明する事に。

 成瀬カイゼとセツナ・チェブルーはまだ嘱託魔導師でもないから、変に目立つのは良くないと判断。だけど、必要になったら、個人的に得た情報の情報源だと公開して構わないと伝えてある。

 

 その結果、聖王教会の騎士団が秘密裏に突入するという荒業を見せてくれた。

 踏み込んだのはカリム・グラシア、シャッハ・ヌエラ、4人の協力してくれた騎士。

 追加で、時空管理局からヴェロッサ・アコース、その上司で査察官のクレスタ・ビガーも参加。こちらは、聖王教会の暴走ではない事のアピールを兼ねれてる。

 踏み込まれたジェイル・スカリエッティの一味は、今まで使ってた研究所から逃亡。

 通路が潰されてたり探知妨害が酷かったりして全体の捜査は出来なかったけど、聖骸布は取り返してたし、よく連絡を取ってた時空管理局の関係者の情報も得てた。

 つまり、聖王教会寄りのカリム・グラシアとシャッハ・ヌエラは大手柄。警戒の早さと回収成功により、予言能力と行動力が共に高く評価された。

 

 時空管理局側としてのヴェロッサ・アコースとクレスタ・ビガーは、動きがおかしい。

 クレスタ・ビガーが最高評議会に連なるようで、突入情報を漏らしてジェイル・スカリエッティが撤収する時間を作ってた。聖王教会寄りのヴェロッサ・アコースの監視役も兼ねてると思える。

 ヴェロッサ・アコースはそれに気付いてて、時空管理局に関する情報の殆どを個人で確保。トカゲの尻尾の端っこだけを提出して、お茶を濁してた。情報は後々使うつもりでいるようだから、その際は是非とも後押しをしたいところ。でも、今は我慢。

 この研究所で調整してた戦闘機人は発見されなかったけど、現状維持で隔離処理されてた。隔離を解除しない限りは動けないのが確定したから、早期の戦力増強の芽を摘めたのは大きいかもしれない。

 

 というわけで、いい面だけを見れば、これ以上ないほどの成果。

 でも、成瀬カイゼやセツナ・チェブルーと会ってるカリム・グラシアは、あまり嬉しそうじゃない。

 

「つまり、短期間で成果を上げ過ぎた、と」

 

「大きい組織は、大変ですね」

 

「ええ……少々やり過ぎた様です」

 

 要するに、問題は上層部の一部に警戒されるようになった事。

 どうも他に動いていたのは司祭やかなり身分が高い者ばかりだった模様。その中で一番立場や戦力が弱いカリム・グラシアのチームが短期間で最高の成果を上げたのが、警戒の理由。

 親の地位や権力を使ったとか、実は内通者なのではとか、色々と誤解されてもいるらしい。

 それ、なんて醜い嫉妬? とか言っちゃうと、もっと悪化する。

 

「ですので、お2人には是非、早々に嘱託魔導師となって欲しいのです。

 具体的には、来週にも試験に合格して頂ければと」

 

「準備は順調ですし、大丈夫だと思いますけど……」

 

「予定より少し前倒しだね。どんな意図があっての提案かな?」

 

「貴方がたの故郷を見に行く、古代ベルカに詳しい方に会いに行く等、色々と名目は準備出来ますから、少々ミッドチルダを離れたいのです。

 まだ権力を持つ気はありませんから、その気の無さをアピールする為に。派閥に取り込もうという動きから逃げたい、という意味もあります」

 

「逃亡と見られる可能性は大丈夫なのかい?」

 

「第97管理外世界へ行く事は、自力での動きにくい、管理外世界への隔離にも見えるはずです。

 その上で行方をくらませでもしたら、私は内通者に認定され、聖王教会と時空管理局の仲に亀裂が入る事になるでしょう。

 あえて難しい状況を作る事で、少なくとも、様子を見る時間という猶予は得られます」

 

「なるほど、了解したよ。

 試験はフェイトも一緒かな?」

 

「問題が無ければ、3人が良いでしょう。

 私としては誰か1人でも合格して、第97管理外世界へ行く事が出来れば良いですし」

 

「私達としては、全員で合格したいですけど……」

 

「結果として全員が合格出来ればいいわけだから、大丈夫だと思うよ。

 試験の手続きは何時頃かな?」

 

「お2人の了承が取れましたし、後はフェイトさんに確認が取れたらになりますが、明日にでも早速。

 管理外世界という所は行った事が無いので、実を言えば少々楽しみなんです」

 

「僕達も、色々事情があるからね。全力で頑張らせてもらうよ」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 一方その頃、お姉様の別荘では。

 

「受けてみて。これが私の、全力全開!」

 

「赤き空、大いなる冬に星々は天より墜ちる。砕かれた世界に、響け終焉の笛」

 

『Starlight Breaker』

 

神々の黄昏(Ragnarök)

 

「だー! こんなの防げるわけねーだろーー!!」

 

「あらあら、治療出来る程体が残ってくれるかしら?」

 

「落ち着け千晴、流石にこれを防げとは言わん。

 それと亜美、一応非殺傷で傷は無い……という事になってるからな?」

(良かった……戦闘訓練をケアンズの訓練場に限定しておいて、本当に良かった……)

 

「ははは……ユニゾンで魔力が上がっても、意味がねぇくらいの差がありやがる……」

 

「遠すぎる……やっぱり、僕の物語は始まってすらいないんだ……」

 

 主と高町なのはがお互いをバインドで縛ったまま、大攻撃の打ち合いをしてた。

 最終戦争も真っ青。周囲の景色が凄い勢いで破壊されてく。

 長宗我部千晴がブチ切れて叫び、真鶴亜美は何か妙な方向に恍けてる中、お姉様が防御結界を展開。その中で、観戦してた馬場鹿乃と上羽天牙は魂が抜けたような顔で遠い目をしてる。

 着々と実力をつける2人を褒め称えるべきか、無理を叱るべきか、とっても困る。

 ……ホントどうしよう。




ラグナロクの長い詠唱は、独自設定です。
カートリッジを使ってのんびり魔力を注ぎ込む時間稼ぎを兼ねる、みたいな感じで。スターライトブレイカーも集束に時間がかかるので、特に問題は無いはず。
バインドブレイクしろよという千晴の心の叫びは、届きませんでした。


2013/12/12 止まれたかった→止まれなかった に修正
2013/12/13 理由があるよだよ→理由があるのだよ に修正
2013/12/15 魔法に失敗してたまに爆発する→たまに失敗して爆発する に修正
2020/08/09 問題だらけた→問題だらけだ に修正

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