青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編21話 結審

 試験から3日後。優秀な成績だった事、優秀で協力的な魔導師はなるべく確保したいという時空管理局の表の意思、真正古代(エンシェント)ベルカの術者を無下に扱いたくない聖王教会の意図等が影響した結果として、通常よりも早く、嘱託魔導師の資格が3人に与えられた。

 ハラオウン親子や地球側を警戒する裏側の動きは、事実上封殺された。表立って主張出来る、積極的に反対する理由を作る事は出来なかった模様。

 

 目標をクリアしたフェイト・テスタロッサは、早速家族に報告。重度の親馬鹿になりつつあるプレシア・テスタロッサに流石私の娘と抱きしめられ、妙に姉ぶるけど基本子供のアリシア・テスタロッサにもおめでとーと抱きつかれてた。

 どうしていいか解らず、戸惑いつつも嬉しそうに恥ずかしがってるフェイト・テスタロッサは、可愛い。変態(ロリコン)のサーチャーは3個ほど潰しておいたけど、他に無いかちょっと心配。

 

 というわけで、お姉様の祝言を昨日のうちに受け取っていた成瀬カイゼとセツナ・チェブルーは、今はカリム・グラシアとお茶をしてる。

 目的はもちろん、地球行きの日程について。

 

「私の気持ちとしては、すぐにでも帰りたいです。

 その前に、先生達に挨拶くらいはしておきたいですけど」

 

「それに、故郷とはいっても、デバイスの持ち込みには多少の手続きが必要だからね。

 持ち出してきた個人所有のものだから、さほど複雑な手続きにはならないとは聞いているけど、今日明日にというわけにもいかないらしいね」

 

「こちらの準備も少々かかりますから、そこまで急がなくても大丈夫でしょう。

 ですが、ある程度の予定と言いますか、状況の確認をしておきたいのです」

 

「地球に帰る日程については、急ぐとは聞いていないよ。

 移動については、僕達はアースラの移動に便乗するか、管理局の転送ポートを使わせてもらう事になると思うけど……カリムさんも便乗出来そうかい?」

 

「地球へ赴く理由として、ベルカ式の魔法が伝わっていた理由を探るという公式の命令を、聖王教会から引き出す目処が立っています。

 情報の共有を条件に時空管理局、つまり第97管理外世界に拠点を確保し調査を行っているアースラと協力するという事に出来そうですから、移動と衣食住に関しては問題ありません。

 ただ、これらを確定させるまでに、少々時間がかかりそうなのです」

 

「なるほどね。だけど、割と重要な任務になるんじゃないかい?

 それこそ権力亡者が煩そうだけど」

 

「カリムさんがいない事をいいことに、強引に排除する……とかも、ありそうですし」

 

「父や母もおりますし、正式な任務で、時空管理局が調べている所へ後追いで入る事になりますから。何かあるとしても、何も結果を出せずに帰った後でしょう。

 それに、聖王教会で身分のある方々は、当然ですが時間や立場に縛られます。ですから、時空管理局と協力して長期に渡り管理外世界へ赴く任務に就く、という事はまずありえません。任務自体は嫉妬の対象にはならないと思いますよ。

 そもそも、賓客待遇で迎えられている貴方がたの接遇役として選ばれた者が、その故郷や技術入手場所へ赴くのです。これを表立って批判したり、その任務中に不用意な手出しをしたりする事はないでしょう」

 

「つまり、行動自体に問題は無いという報告だね。

 今の話を纏めると……僕達の手続きを少し遅らせた方が良さそうだ、という事になるね」

 

「申し訳ないのですが、お願い出来ますか?」

 

「僕は構わないよ。まだまだここで知りたい事も多いからね」

 

「私も大丈夫です。

 でも、遅らせるってどれくらいですか?」

 

「行動を開始するのは、アースラが動ける、つまり、リンディさんが動けるようになってからでしょう。

 あの方も事件の後始末で大変だったみたいですけど、ようやく落ち着いたようですし」

 

 後始末と言うか、余計な手間と言うか。

 ジュエルシードの扱いで揉め、管理外世界に現れた高ランク魔導師の扱いで揉め、厳重封印するはずが盗難騒ぎに繋がり、その際に現物が現れた未来知識持ち関連であちこちに呼び出され、リンカーコアの損傷騒ぎがあり。

 切り札兼法務処理で身軽な執務官が事後処理に追われてるとはいえ、巡視等の任務はこなせる時空管理局の次元空間航行艦船。その艦長が本局に居るのは、別にサボってたわけじゃない。

 

「裁判はもうすぐ終わるそうだし、そう遅くはならないかもしれないね。

 ここから移動するには、アリシアの退院が必須だろうとは思うけど」

 

「アリシアちゃん、ですか。

 かなり躍起になって調べられているそうですし……小さな子供ですから、負担になっていなければよいのですが」

 

「体力的に弱っているだけで、他は特に何も見つかっていないらしいね。そのせいもあって、プレシアの遺体保存技術が注目されているとは聞いているよ。

 短い距離なら歩けるようになっているし、検査入院もそろそろ終わるんじゃないかな」

 

「そうですか。でも、その様な情報はどこから?」

 

「友人だから、アリシアの見舞いくらいは行くよ。

 プレシアも裁判中とはいえ、娘と会う事まで禁止されているわけじゃないからね」

 

「病院に入り浸ってるらしいですよ。フェイトちゃんも、行けば2人に会えるかもという事でかなり行ってますし。

 というか、今も行ってるはずです」

 

 3人で会えるのは病院だけだし、合格の報告も病院だった。

 プレシア・テスタロッサもフェイト・テスタロッサも時間に余裕があれば顔を出してるから、遭遇率はなかなか高め。

 もちろんやるべきことはキチンとこなし、自分の時間もそれなりに確保してる。これからは自分を犠牲にしないというのが、プレシア・テスタロッサとフェイト・テスタロッサの間で交わされた約束。

 

「そちらは、未来の情報というわけではないのですね」

 

「そうだね。僕達も不確かな情報に踊らされるのは嫌だから、確認出来る事は確認する。

 外れつつある未来の情報よりも、確かめた事実を信じる事にしているよ」

 

「そうなのですか。自身を律する事が出来ているのですね」

 

「その辺は色々とあってね。詳しい話はあっちでしてもらえるかもしれないから、もう少し待ってもらえると有り難いね。

 それより、上層部の説得を急いだ方がいい。

 裁判が終わったら、すぐにでも移動しようとすると思うよ」

 

「ええ。結審から数日で手続きが終われるよう、準備しておくつもりです」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 こんな感じで、プレシア・テスタロッサの裁判も大詰めへ。

 

 現在治療中のフェレットもどきも証人として参加。魔法を使う用事じゃないから問題無し。

 無罪確定済みのフェイト・テスタロッサとアルフも同様。

 執務官のクロノ・ハラオウン、ミッドチルダ地上本部から来たディラン・ヒューイットと一緒に、証人席に入っていった。

 

 アリシア・テスタロッサは、付き添いで来てるエイミィ・リミエッタと共に傍聴席へ。

 椅子になるトロリーバッグを貰って、休みながらだけど自分で歩き切っての登場。

 

「アリシア!? 車椅子はどうしたの!?」

 

「もう、だいじょうぶだもん!」

 

「アリシアちゃん、ママが頑張ってるんだから私も頑張るんだって、歩いてレールウェイに乗ってきたんですよ。

 ねー」

 

「ねー」

 

「ああ、偉いわアリシア……」

 

「わぷ、くるしいよママー」

 

 事あるごとに娘に抱き着くプレシア・テスタロッサはどうしたものか。

 

 もちろん、当のプレシア・テスタロッサは被告席。

 司法取引等で無罪はほぼ確定してるし、本人も別に争う気も無いから、悲壮感は全くない。

 むしろ、娘分を補給して元気いっぱい。それはそれで問題な気はするけど、真剣さは失ってないからたぶん大丈夫。

 

 時空管理局の一部、裏側的には最高評議会に連なる連中が騒ぎそうになってたけど、弁護側に立つディラン・ヒューイットの存在が大きく、声は小さかった。

 しかも、事前に該当者の私室に手紙とごつい封筒を届けてあげたら、みんな静かになったし。

 昔の事件の詳細な情報とか、事件にすらなってない些細な事とか、今発生してる事件の詳細とかについて、色々教えてあげるからちょっと静かにしてて、って伝えただけなのに。

 素直な人ばかりで、おねーさんはちょっと心配です。

 

 というわけで、事実上無罪が確定。

 保護観察官は家族纏めてギル・グレアムが名乗りを上げてるし、娘の友人が出来た管理外世界へ移住する方針についても、今後はなるべく魔法に関わらないようにすると言う建前と保護観察官の出身世界という事実があるせいか、特に指摘等はされてない。

 時空管理局の表としては、動向が把握出来て違法行為をしないなら、問題にする気は無い模様。

 

 また、これ以上アリシア・テスタロッサを検査で縛るのも無理と判断されたのか、何も特別な点が見付からなくて諦めたのか。

 理由はともかく、家族の元へ帰る許可が出た。

 

「というわけで、次は日本への移住ね。

 いつ頃なら動けそうかしら?」

 

 自室に関係者を集めたリンディ・ハラオウンが、今後の予定を確認してる。

 もちろん、集まってるのはお姉様に直接関係する関係者達。ギル・グレアム、カリム・グラシア、アースラのスタッフは含んでない。

 

「私達は、今すぐにでも。ようやく娘達と暮らせるのだから、早いほどいいわ」

 

 ソファーに座り、両方の腕に1人ずつ娘を抱えてるプレシア・テスタロッサは、心ここに在らずといった感じ。フェイト・テスタロッサの膝の上には子犬モードのアルフがいるけど、その目は何だか複雑そう。

 アリシア・テスタロッサは病院から出たばかりだし、フェイト・テスタロッサも嘱託試験の準備に追われてたから、私物なんてビデオレターと身の回りの物程度。簡単に荷物を纏めれば、後は手続きだけの問題。

 

「僕達も、手続きが終わればすぐだね。

 ただ、数日かかるかな?」

 

「そうですね。カリムさんもそれくらいかかるそうですし、少し観光とかお土産を買ったりする時間があるくらいですか?

 あ、お世話になった人に挨拶はしておきたいです」

 

 成瀬カイゼとセツナ・チェブルーも、私物についてはフェイト・テスタロッサと変わらない。

 関わった人も少ないし、実に身軽。

 

「アースラの出航準備も必要ですから、出発は早くて5日後でしょう。

 出航前でも部屋の用意は出来るから、まずはその頃に部屋を移る準備はしておくこと。

 手続きの内容は、後で確認しよう」

 

 クロノ・ハラオウンは、アースラの整備や補給、人員の状況を確認してる。

 執務官がいる状態での巡察を兼ねるという体裁を取る予定だから、予定表の提出と承認も必要。

 人や荷物の準備だけじゃないのは、組織の一員として仕方が無い事。大勢の人が動く以上、お金等々もかかるわけだし。

 

「それじゃあ、5日後にアースラに引っ越し、その後可能な限り早く出発かしらね。

 あまり見れるところも無いかもしれないけれど、少し本局を案内していいかしら?

 少しこちらの雰囲気に触れたり、買い物したりもいいでしょうし。ね、プレシアさん」

 

「いいわね。皆で行きましょう」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 というわけで、手続きやらの承認や完了待ちとなった次の日。

 本局で一番多くの店が集まっている区画に、9人の姿があった。

 今日は、アルフも人……子供ではなく、高校生くらいの方の姿になってる。但し、ズボンが長くなってたり、Tシャツを着て腹出しじゃなくなってたりするのは、きっとプレシア・テスタロッサのせい。

 そして、リンディ・ハラオウン、プレシア・テスタロッサ、エイミィ・リミエッタの3人が、明らかに他の女性達を捕らえて離してない。

 つまり、連★行、再び。

 

「こうなると長そうだね。前回も大変だったと聞いているけど」

 

「どうも、そうらしい。

 エヴァンジュを弄り倒したと母さんに聞いた時は、随分度胸があると思ったものだ」

 

 着せ替えの輪から外れ、買い物に付き合わされてるお父さんばりにベンチにいる、成瀬カイゼとクロノ・ハラオウン。2人は、なるべく店の方を見ないようにしてる。

 ユーノ・スクライアは、退院が間に合わなかった。今日行ってる結果次第だけど、希望的観測では数日中の予定だから、ギリギリで助かったらしい。

 

 今日の被害者その1は、白い半袖のシャツにチェックのミニスカートを着させられて、せめてスパッツも下さいと泣きが入ってるセツナ・チェブルー。

 

 今日の被害者その2は、白いエプロンとフリフリが目立つ、青いメイド服を着させられてるアルフ。どんな風に改造するつもりなのか、さっぱり解らない。

 

 白い長袖のシャツに深い青のネクタイリボンとミドルスカートを合わせ、黒いタイツを穿いてるフェイト・テスタロッサについては、特に本人も抵抗が無いみたいだから被害者認定しない。

 

 白とピンクがベースのワンピースに大きなリボンを付けたドレス風の服を自分から嬉しそうに着てるアリシア・テスタロッサも、どう見ても被害者じゃない。

 

「……エヴァさんも、あんな感じで遊ばれたんだろうね。

 だけどあの人は、懐に入れたら大事にする感じはするよ。気に入った仲間や身内と呼べる人に対しては、かなり甘いんじゃないかな。

 そうじゃないと、あの状況で暴れない理由が思い付かないよ」

 

「そうだな……その意味でも、大勢の人をその中に入れられたらいいんだが」

 

「あの人を組織に取り込むつもりかい? それは難しいだろうね。

 権力も金も必要以上には求めていないようだし、あの件が終われば本当に隠居してもおかしくない方針で行動している。むしろ、隠居する方向だよ」

 

「だからこそ、なんだが。

 それに、君達の様に表立った関係も作っているんだ。完全に断絶する可能性は低いと考えている」

 

「どうだろうね。こちらに来てる僕達は日本での立場が無くて、そのままでは無国籍の違法入国者だったんだ。日本での生活がある人は、誰もよこしていないよ。

 生きる道をいくつか示してもらっているだけで、僕達が離れると言えば、エヴァさんは引き止めないんじゃないかな。謝礼はあの件で出来る限りの協力をすれば充分だと言いそうだ」

 

「逆に言えば、君達がエヴァさんと良い関係を続けながら時空管理局の局員になる事も、止めはしないだろう。

 もちろん、膿は何とかしろと言われそうだが」

 

「敵には容赦しないだろうからね。

 それでも、敵対する前に何とかしろと言われるなら、まだ見捨てられてないと言っていいんじゃないかな」

 

「本来は言われる以前に、こうなっていてはいけない事なんだが。

 現在の法に照らしても、時空管理局の理念としても、許していい事じゃないんだ」

 

「僕達は新参者で、ある意味では部外者でもあるからね。

 その辺はエヴァさんと一緒に、お手並み拝見と洒落込む事にするよ」

 

「……そうだな。

 ところで、まだまだ時間がかかりそうだ。何か飲むか?」

 

 店の中では、相変わらず着せ替え中。

 流石女性が楽しんでる買い物。終わる様子が全くない。

 

「そうだね。これも経験だ、少し甘めの物を頼もうかな。

 ああ、あの劇甘のお茶は遠慮するよ」

 

「了解だ。あのお茶の被害者をこれ以上増やす気は無いから、そこは安心してくれ」




山岳リニアレール(STS04話)は貨物とか長距離系、レールウェイ(STS10話)は街中の旅客系を指すんですかねー?
動力が違うとかもありそうですが、この辺は魔法技術が前提の世界ですから、とりあえず近い場面で使われた用語を尊重するという事で。


ちなみに今回の着せ替え(コスプレ)は、元キャラ制服のベストとネクタイ抜き、時を止めるメイド、腹ペコ騎士王の私服、19巻の福音様でした。分かりにくくて申し訳ない。


2014/01/05 対応役→接遇役 に変更
2015/04/06 執務官が事後処理に→切り札兼法務処理で身軽な執務官が事後処理に に変更

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