青の悪意と曙の意思   作:deckstick

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A’s編26話 喧騒、終われり

 一方、お姉様のいる八神家では、必要な説明を終えて迎撃態勢を整えてる。

 前線担当となる成瀬カイゼとセツナ・チェブルー、それに、鉄扇型の新デバイスを貰った八神チャチャマル。32発のカートリッジを装備する、支援寄りの万能型。お姉様とお揃いだと喜んでたけど、色は白だから何か違う。ちなみに、名前は梵。

 

「私達は魔法禁止。何かあった場合は、エヴァンジュが本気を出すのだな?」

 

「つまんねーけど、これも必要な準備って事か」

 

 八神シグナムは木刀を、八神ヴィータはゲートボールのスティックを装備。AMF内に立ち、主と八神はやてを守る盾役になってもらう予定。

 

「今回の件で魔法がばれて、お前達にも教える事になった事にでもするさ。

 そうすれば、今後同じことがあっても魔法を使えるだろう?」

 

「そうなると、何人かは逃がす必要があるな。

 情報を持って帰ってもらわねば、偽装に説得力を持たせられん」

 

「その辺は何とかするよ。適当に打ちのめして、前線から引く程度の怪我をさせればいいね?」

 

 どちらにしても倒し切るのは不味い八神シグナムに、成瀬カイゼが声を掛けてる。

 遠距離狙撃や気配を消しての不意打ちが得意な成瀬カイゼは、本来は最前線が苦手。でも、今回は攪乱役で最も敵中に食い込む予定。

 

「出来れば少し離れて様子を見れる程度に、ですね。

 早めに撤退されると、証言として弱くなりますし」

 

 セツナ・チェブルーは、最前線の攻性防壁役。受け止めるには向かないから、襲撃者の最前線を潰して回る。

 

「該当のターゲットに逃げてもらうために、バインドも甘めが良いでしょうか。

 情報収集をしてもらうまでは、逃がさない必要がありますが」

 

 貰ったデバイスの調子を確かめてるのは、八神チャチャマル。突撃等を防ぐ盾役。

 補助リンカーコア装置は装備してないから、Bランク相当に調整した魔力とカートリッジで何とかする。

 

「こちらでも記録は取るから、逃げられても何とかなる。

 それに、何かで使えるかもしれないから、表側の証拠はあった方がいいはず」

 

 主も、デバイスを装備済み。

 性能に余裕があるし、映像記録を残す程度は全く問題無い。

 

「私は可能なら数人程度は潰すが、原則として後方支援だ。アコノのAMFの外で、前線の援護と横や後ろに回り込む連中への牽制だな。但し、数人はシグナムやヴィータと直接対決してもらうために通すから、しっかり対処してくれよ。

 先に言っておくが、カートリッジのロードで腕に傷を作るからな。わざとやっている事だから、気にするなよ」

 

「気にするなゆーても、怪我はあかんよ。

 みんな無事で終わってな?」

 

「こちらを舐めてもらうための演技だ。アースラでも何度かやっているし、すぐに治せるから問題無い。むしろ、大量にロードした時に怪我をしない方が色々と面倒な事になるからな。無事という意味では、必要な時にやらない方が問題だ。

 こんな予定だから、驚くなとは言わんが、動揺して迂闊な行動をしたりするなよ?」

 

「うーん……あんま了解したくないんやけど、了解や。

 要はアレや。足手纏いはすっこんでろ、って事やね」

 

「いや、そこまでは言わないからな?」

 

 そんな感じで迎撃準備を整えてると、到着しました24人の襲撃者。

 服装は揃いも揃って黒。デバイスも黒色を基調としてるし、髪も染めてる模様。

 全員で八神家を取り囲んで、砲撃魔法を準備なう。

 

「魔力的にバレバレなのは、私達に結界を張らせようという魂胆か?

 奇襲が成功するとは思っていないのか、馬鹿なのか……まあいい、発射直前に私が封鎖領域を張るから、チャチャマルは同時に反射障壁、着弾確認後に戦闘開始だ。アコノのAMFも戦闘開始と同時に発動すればいい。

 防音結界は封鎖領域の展開後に解除するから、後はそれぞれの判断に任せる。いいな?」

 

「了解。細工は流々仕上げを御覧じろ、だね」

 

「そこまで自信有り気にしなくても。でも、負けませんよ」

 

 成瀬カイゼとセツナ・チェブルーが、やる気で戦闘態勢に入ってる。

 殺る、とか書きたそうな勢い。

 

「そろそろ来る。記録は開始したから、いつでも大丈夫」

 

「そうだな。では、始めようか。

 ……いくぞ!」

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 というわけで、襲撃者の過半数、具体的には13人を捕獲して戦闘終了。

 八神シグナムと八神ヴィータも何度か物理でオハナシ出来たし、お姉様がカートリッジで腕に傷を作るのも見せたから、設定目標は概ね達成。

 戦闘中に到着した武装局員とも共闘、相互支援をそれなりにこなせたのは良かった。

 

「さて、無事に終わったわけだが」

 

「無事やない。怪我はあかんゆうたよ」

 

「想定内、むしろ予定通りだ。

 で、一応全部の戦闘が終わったわけだが……」

 

 一番時間がかかってたのは、アースラ拠点だった。

 地球の自警団を名乗り、なぜ管理外世界に時空管理局がいるのかと詰問する感じで時間を稼ぎ、その後は全力でプレシア・テスタロッサの排除にかかられたらしい。

 装備がどう見ても管理世界製だけど。戦闘開始直後、反撃であっさりと壊滅したらしいけど。攻撃された本人は、正当防衛よ、とか言ってたけど。

 それよりも問題なのは、さっきから何度も鳴ってる電話。

 着信の番号を見ると、相手は馬場鹿乃。

 

「頼られてるんやし、信頼には応えなあかんよ?」

 

「助けられた人は、決してそれを忘れない。次に困った時もまた思い出す……だったか?

 甘やかすばかりだと、ダメ人間が出来上がるだけなんだがな」

 

 そう言ってる間に、また電話が鳴った。

 

「はぁ……壊れかけのロボ執事の話なんだろうな」

 

 お姉様はため息をつきながら電話を取ると。

 

「おかけになった電話番号は、現在疲れておりますん。

 ただ1度の応答もなく、ただ1度のピーという発信音もなし。

 問うぞ征服王、落ち着きの回復は充分か?」

 

『無茶苦茶なごった煮だなオイ!?』

 

「少し落ち着く時間を与えてみるかと思ったんだが。

 それで、用件は何だ?」

 

『それなんだけどよ、執事の爺さんがやばいんだよ。

 けど、どうやって直していいか判んなくてよ……管理局だと、ロストロギアや違法研究の成果物に思われたらまずそうだろ?』

 

「ふむ……そうだな、あれも確実とは言えんが、念のために質問だ。

 夜、人形、エーディリヒ。

 これで何か心当たりはあるか?」

 

 お姉様、質問しながら防音結界を展開、それも2か所。

 原作の原作、それもかなりデリケートな部分の話。部外者に聞かれていい事じゃない。

 

『……ノエルさんか!?

 って、吸血鬼設定が生きてんのか!?』

 

「余計な事を叫ぶな。

 但し、同系の技術だと思うが直せる保証は出来んし、夜の一族について記憶を抹消される可能性もある。

 修理に対するコストも発生するだろう。少なくとも、時間や材料はタダじゃない。

 それを理解した上で相談するなら、口添えくらいはしてやるが。どうする?」

 

『……可能性は、あるんだよな?』

 

「少なくとも、近いと言える技術を持つのは、月村以外に心当たりは無いな」

 

 別荘に魔道式の自動人形はあるけど、技術的にかなり大きな差があるし。これを大きく劣化させた感じの傀儡兵も同様。

 電気系を主体とした部品は、月村家が一番揃えやすいはず。

 

『…………頼む。

 爺さんに、死なれたくねぇんだ』

 

「解った。早めに話を通すが、しばらく待てるくらいの猶予はあるな?」

(忍に連絡。希望する報酬の案も聞いておけよ?)

 

『頼む。爺さんが言うには、日常生活くらいならどうにかなるらしい。ただ、強度がヤバイから力仕事や戦闘はきついんだと』

 

「そうか。で、夜の一族に依頼する事になるんだが、お前から出せる謝礼は何かあるのか?

 特殊技術の提供だ。機密の口外禁止は当然で、それなりのモノを提示せんと交渉にならんぞ」

 

『高校生だから金はねぇし、管理局の報酬も当分はデバイスの費用に消えるし……

 あとは、労働力やら血やらしか出せるもんはねぇぞ』

 

「ふむ……労働力は一般的な物以外に、戦力という事も含めていいのか?

 魔導師としての力を含めていいか、という事だが」

 

 現時点では敵対勢力は出現してないけど、とらいあんぐるハートの設定が生きていた場合、親族との資産抗争が残ってる可能性がある。

 そうでなくとも、特殊な技術や体質を持ってる以上、戦力はあるに越したことは無いはず。

 

『それで爺さんを直せるんなら、構わねぇ』

 

「そうか、それならそれは候補に入れておく。

 血だが……秘密を共有するという事は、生涯連れ添う事になる可能性もあるぞ。忍と恭也のようにな。

 現状だと、相手はすずかになりかねんが……ロリコンの汚名を免れんし、それでもいいのか?』

 

『くっ……か、構わねぇ。

 但し、連れ添うとかって話は、俺を受け入れられたら、ってのが絶対条件だ。その点だけは譲れねぇ』

 

「その心は?」

 

『最悪、俺の気持ちなんて狂ったナデポでどうにでもなる。月村の姉妹は嫌いじぇねぇし、俺の事は考えなくていい。ナデポで惚れちまえば年齢やらが気にならねぇのは経験済みだ。

 けどよ、冷静に考えてみると、どうもある程度の好意を持った上で俺を撫でるって事が発動条件みたいなんだよ。それに、俺を嫌ってるのに血の為に付き合うってのもお互いに不幸だ。

 秘密を守るのは約束する。それこそ、記憶を読まれねぇ限り絶対だ。ナデポで惚れた相手だろうが、それくらいの自制は出来る。

 血も提供する。死なねぇ限り、いくらでも構わねぇ。

 だから、一番納得してもらえる条件で、頼む』

 

 ほぼ、自分の未来を投げ出す覚悟。

 ロボで執事だけど、育ての親ってのは大きい?

 けど、決定権が月村忍と月村すずかの2人に渡されたのは間違いない。

 

「そうか、解った。

 話をしてみるから、連絡するまでは普通に生活していろ。

 管理外世界を襲撃するなんてそう頻繁に出来る物でもないだろうし、今回失敗しているからな。

 しばらくは再襲撃も無いだろう」

 

『ああ……すまねぇ。よろしく頼む』

 

 電話、終了。

 なんというか……転生者の男の中では、一番マトモな気がしてきた。

 成瀬カイゼは思考回路が裏寄りだし、上羽天牙は軟弱だし、チクァーブやクーネはネジが飛んでる部分が多々あるし、踏み台な連中は論外だし。

 

(まあいい、せっかく男を見せたんだから、それなりに納得出来る結果を目指してみるか。

 馬場からの提供はさっきの通り。月村家への要求は、ロボ執事の修理と維持、それに馬場との同居の継続あたりだな。

 月村だけで修理が無理そうなら、得た情報の提供を報酬に私達も手伝うか)

 

 手伝う場合は解析にも参加するだろうし、実質的に無償協力?

 技術協力の下地を作る意味はあるし、親密になる効果は期待出来る。

 

(済まない、ちょっといいだろうか)

 

(ん? どうしたクロノ、何か問題でもあったか?)

 

(いや、今回の襲撃者について、何か情報があれば教えてほしい。

 行動を見る限りプレシアを狙っていたのは間違いないし、転生者を標的としていたとも思える。

 だが、君達……八神家が最も狙われていたし、その上で黒の騎士団を偽装した様子があるとなると、闇の書や君自身が本当の狙いだった可能性や、情報が漏れていた可能性も考えたい)

 

 確かに、排除していい可能性じゃない。というか、戦力配分的に最有力。

 ちなみに、撤退した襲撃者は比較的近い管理世界へ逃亡、そこで散る模様。

 今の所は命令で動いていたと思われる言葉が出てるだけで、黒幕に直接繋がる情報は無い。

 

(そうだな……来た連中が下っ端で黒幕が別にいる事と、逃亡先が管理世界だという事は確実だ。

 動きが殺しに慣れている者がいたから、恐らくは犯罪者やそれに近い連中も交じっている。

 ただ、お前達、特に武装局員に近い動きをしていた者もいたから、局員も含んでいた可能性も否定出来ん。

 ほぼ半数が私達に来たことを考えると、1月ほど前の襲撃と根が同じ可能性もあるが……証拠と情報が不足しているな)

 

(時空管理局が関係しているなら、かなり早い段階で護送命令が出る可能性もある。

 そうなると、取り調べも引き渡しまでという期限が出来てしまうし、彼らがそうなる事を知っていれば、それまでに口を割らせるのは難しくもなる。

 例の件も、進めにくくなるんじゃないか?)

 

(そうだな……食事が終わってからでも、話をしに行こう。

 プレシアとリンディに伝えておいてくれ)

 

(そうか、解った)

 

 

 ◇◆◇  ◇◆◇

 

 

 その後、月村家のチャチャが担当した話し合いの結果は。

 執事もどきの修理は、主に月村家が担当、私達も手伝い程度に参加する事になった。

 馬場鹿乃は執事もどきと共に、月村家の警備員として働くことが決定。広い敷地の片隅にある使用人用の離れで生活する事で、実質的に住み込みに近い形での常駐戦力となるものとする。

 また、血液の提供は体に負担がかからない程度とし、月村姉妹が求めた際に健康上の問題が無ければ応じる事になった。なお、元々知識があった事と、最初から秘匿を宣言している事から、連れ添うかどうかは今後次第という事に。可能性は低そうだけど。

 期限は、執事もどきはメンテナンスの問題から、実質無期限。

 馬場鹿乃は、高校卒業までが目安となった。無償、つまり賃金無し家賃無しの期間もこれに倣う事に。家賃が不要になる上に、今の家を貸すなり売るなりする事で収入が得られる可能性もあるから、生活はむしろ楽になるはず。

 

 そして、お姉様が担当した話し合いは、リンディ・ハラオウンとプレシア・テスタロッサの3人だけの密会になって。

 

「今回の件で違和感を覚え、調査した結果として闇の書を見付けた。調査した理由は、娘達の安全のため。

 ……という事でいいのね?」

 

 話し合いというより、お姉様からの指示を確認してるプレシア・テスタロッサ。

 発見者かつ実務担当として動いてもらう以上、意思の疎通は大事。

 

「今まで見つけていなかった事の言い訳としても、SSクラスのお前以外が見付けると後が面倒だからな。

 実際問題としても、連中の意図が解らなければ、何らかの調査をしていただろう?」

 

「ええ。間違いないわ」

 

「というわけだから、今回を逃せば発見理由の説明が難しくなる。

 その次はリンディの仕事になるな。今代の主は話が通じ、協力して闇の書の悲劇の終焉を目指す事になった、という名目で動くことになる。

 ここまでは、報告が遅いだけで嘘ではない範囲だ。

 隠すのは、闇の書が既に起動している事と、蒐集がある程度進んでいる事。これは流石にまずいだろうから、管制人格の起動を闇の書の起動という扱いにする。その上で、闇の書の主の命が残り僅かだから、無理に蒐集を行って起動、内部へ介入する機会を作り出す、という筋書きにする。

 グレアム達が完成後数分間なら凍結魔法で封印出来ると考えていたから、そっちからも手が回れば、大きくは反対されないと思うが……リンディ、どうだ?」

 

「そうね、グレアム提督の作戦に戻す事が可能な範囲での行動、むしろそれを後押ししているようにも見えるのだから、内部の説得もし易いでしょう。

 問題は、既に蒐集した量が多い事かしら?」

 

「その辺は、幻影や有志の協力といった形で調整するしかないだろうな。

 魔力を持つ害獣の駆除も入れられたら、量の調整が楽なんだが……問題が無ければ、犯罪者からの収集と併せてグレアムとレティに話をしておいてくれ」

 

「裏だけで動くのもそろそろ限界だと思うし、いい機会かしらね。

 だけど、保護者のエヴァさんも騒動に巻き込まれる事になるわ。隠蔽していたと思われても仕方ないでしょうし」

 

「まだ管制人格は目覚めていないし、守護騎士相当の人物も親戚として存在していた。その上、私の知識にあるのは夜天の魔導書だ。

 原作情報で闇の書と呼ばれている事は知っていたが、それは既にいくつもの不一致が見付かっている不完全な物。本当に夜天が闇の書になっているのか確信を持てずに調べていた、辺りが無難だろうな」

 

 情報の齟齬による不信を報告しなかった原因にすれば、管理外世界の住人だし、積極的な違法行為として追及は出来なくなる。たぶん。

 闇の書に関する情報をプレシア・テスタロッサとリンディ・ハラオウンが補い、家族を救うために時空管理局との協力を開始する。

 筋書的には問題無いはず。

 

「確かに無難な言い訳かしらね。

 だけど、情報が信用できない事まで利用するなんて。こういうのを、骨の髄までしゃぶる、と言うのかしら?」

 

「利用出来る物を利用しているだけだ。

 それと、連中の護送で本局に戻るなら、ついでにユーノを無限書庫に放り込んでくれ。蒐集からの回復も問題無く終わっているし、名実共に闇の書に関する調査が目的だ。

 あれでも歴史の調査が本業のスクライアだ。原作では10年かからずに無限書庫をまともに機能させて司書長に就任する逸材で、実際に検索魔法の適性もありそうだ。成果は期待出来るぞ。

 可能な範囲で私も協力する。これでもアルハザードの資料庫の長だったんだ、未整理の書類の山を何とかした経験も魔法も持っているからな」

 

「そうね、協力するという立場を取る以上、何かする必要があるし。

 ところで、時空管理局として本格的に動こうとするのは確実だけれど、それはどう止めるつもり?

 グレアム提督だけでは、止められないわ」

 

「私達の所に来た中に、局員と思われる奴がいたからな。外見の偽装を無理やりはがして映像を記録して、血液や魔力のサンプルも確保し、追跡用と個体認識用のマーカーを埋め込んだ上で逃がしてある。もちろん、本人はそれに気付いていないはずだ。

 こちらで追跡しているが、後でその情報を渡すから、そちらでも調査してみてくれ。局員だと確定出来たら、問答無用で襲ってくる馬鹿のいる組織を無条件で信用出来るかとでも言ってやるさ」

 

「かなりの力技ね。

 それだけの証拠を集めている事も驚きだけれど」

 

 リンディ・ハラオウンが呆れてる。

 対組織で最大の武器は、情報なのに。

 

「だけど、指令書、最終兵器、研究者に続いて、資料庫の長ね。

 いったい、どれくらいの肩書を持っていたの?」

 

 プレシア・テスタロッサは不思議そう。

 確かに色々と肩書があったのは確かだけど、資料庫に関しては外部にさほど知られてなかっただけ。内部ではとても有名だったのに。

 

「指令書は道具としての名だし、最終兵器は戦場に出た場合の呼び名だ。肩書と言うには少々微妙だな。

 私の最初の役目は資料庫の整理。当時存在した資料全てに目を通す権限と機会があったという事でもあるから、この時の実績が、全ての魔法に精通している等と言われる理由だろうな。巨大図書館の司書長が全ての蔵書の内容を理解しているのかという、現実的な疑問はあるが。

 その延長で資料庫の長になり、部下だけで大丈夫になってから追加で研究所を与えられたんだ。20年もいれば肩書が複数ある事くらい、別に不思議ではないと思うが」

 

 司書長の例は一般的な疑問で、実態は私達が全て精査してたけど。

 それでも、お姉様が全てを知ってるわけじゃない。曙天の指令書としては情報を持ってるけど、お姉様は知らないという事例も多々ある。

 

「それは、資料庫で得た知識の活用のため?」

 

「いや、研究所は私が趣味で研究していたものが認められたからだな。別荘用に研究していた空間魔法が上層部やらの興味を引いて、空間魔導師等と呼ばれるようになってからの話だ。

 ちなみに、アルハザードが滅んだのは、馬鹿が実施した魔法の実験中に、別の馬鹿がテロを起こして、結果的に虚数空間に落ちたからだ。その意味では、虚数空間の先にあるというプレシアの結論は正しいと言える。

 魔法が使えない環境を通り抜けて無事に辿り着く可能性など、万に1つもありはしないだろうがな」

 

「そう……今考えると、随分と無謀な方法を採ろうとしていたものね」

 

「精神干渉の魔導具のせいなのか、自身の命の短さに追い詰められていたか……まあ、両方と見るべきなのだろうな。

 それよりリンディ、捕らえた連中は色々と問題がある行動をしてくれたが、処遇はどうなる?」

 

「管理世界の人物なら、時空管理局としては主に管理外世界に対する法で扱う事になるわ。

 違法渡航、魔法に関する情報漏洩、魔法行使を含む現地人への危険行為は確定かしら。秘匿に関する問題があって公権力に渡すわけにいかないから、現地での処罰を優先出来ないし」

 

 情報を表に出せないし、魔法関連の法が無いし、犯罪者に関する交渉が出来る様な国交も無い以上、地球の国で裁く事は難しい。

 日本の法だと不法入国や実被害については追及出来るかもしれないけど、戸籍等が無いし、どうやって被害を出したかの立証に問題が山積み。

 だからと言って放置も出来ない。時空管理局が自身の法で裁こうとするのは、まあ仕方ないとは言える。

 

「やはり、その辺になるのか。

 それに合わせて、守護騎士連中が魔法を知って学ぶ事になった事にするぞ。いつまでも知らないままに見せるのは無理だし、せっかくの戦力だ。

 私がベルカ式を使えて、教えている事は知られている以上、同じように私が教える事にするのが一番自然に見えるはずだ」

 

「そうね。真正古代(エンシェント)ベルカ式のデバイスが作製出来るのだから、新しいデバイスが増える事も大きな問題にならないでしょうし。

 でも、平穏からどんどん遠くなるわね」

 

「研究者として扱われるなら、何とかなるさ。まああれだ、おとぎ話やらでありがちな、辺境に引き籠る魔女的な感じか。魔法文化から外れた場所に身を置くという意味では、似たようなものだ。

 あとは……こっち側の人間だが、東はどうする? 結界を使わず、魔法技術を使った痕跡を消しもせず、隠蔽を考えず行動したと言う点では連中と大きくは変わらんが」

 

「管理世界の人ではないし、どちらかと言えば被害者的な側面が強いから、どう扱うかをこちらから強制する事は出来ないかしらね。こちらで扱う場合は、情状酌量で教育プログラムを受けて終わりになる可能性が高いわ。

 だからと言って、本人への説明や記憶封印で何とか出来る範囲を超えているし、それで済ませていい相手でもないし。こちらに魔法を知る組織がある以上は、判断を委ねるのが一番でしょう。もちろん、共同で対処する事に異論は無いわよ」

 

 今回に限っては、管理世界の人間による襲撃が発端。襲撃が無ければこんな事にならなかったという主張が通ってしまう。

 管理外世界である地球の人物である以上、甘くない対処をするには、後始末をさせられた地球の組織が、秘匿等を理由に対処を主導するという形にするのが無難になる。

 

「窓口になるのは……月村か? それなら、対処法の提案くらいは出来そうだが」

 

「そうね……情報統制に動いてくれているみたいだし、エヴァさん経由での繋がりもあるから、それが一番無難かしらね。

 どんな対処を望むつもり?」

 

「今後同様な事件を起こさない為にも、魔力の完全封印をしたい。過去に何度も隠蔽無しで魔法の練習をしているから、今回の件で限度を超えたと判断するのは不可解ではないだろう。

 実態は回復不可能なまで蒐集して、魔導師として殺してしまう事だが」

 

「予防的な意味合いにしては、かなり強烈な扱いだけれど……いいのかしら?」

 

「管理外世界に行った違法魔導師の扱いとしては、こんなものだろう? 魔導師として無力化してしまえば、今後はこんな事にならないだろうしな。

 封印処理自体は行うし、封印を解除しても魔力が戻らない件は、昨今のリンカーコア破損と関連付けられれば問題無い。解除する予定も無いし、まあばれることは無いだろう」

 

 強引な手段だけど、魔力馬鹿には有効。

 でも、リンクを使って話を聞いてる主が、特典破壊は?って首を傾げてる。

 

「つまり、強制封印に私達が協力するという事でいいのね?」

 

「協力というか、対処された事を見届ける役目になるな。

 その時、アコノを参加させるのは……私が月村と直接話をするか。可能なら、蒐集前に特典破壊の能力を使わせてしまいたい」

 

「その結果、知識面以外はほぼ完全な一般人になるし、特典が蒐集されて問題を起こす事も無い、という事ね。

 他の人は参加しなくていいのかしら?」

 

「一応、全員に声をかけるつもりだ。

 対処法がこれでいいという事になってからだがな。まあ、忍には早急に伝えるし、大丈夫だとは思うが。

 というわけで、とりあえずは闇の書関連の手続きを任せる。大丈夫だな?」

 

「ええ。特に問題は無いでしょう」




2015/01/14 馬鹿が実施した空間魔法→馬鹿が実施した魔法 に修正
2019/09/23 反撃で壊滅した→反撃であっさりと壊滅した に変更

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