戦闘描写でかなり苦戦しました。
今回は、刀鍛冶の里のどこか開けたところで宇髄と次郎丸の模擬戦。
宇髄が結構苦戦しますが、原作中ほど本気を出していないので力をフルで出されたら勝負は違ったかもしれません。
「からくりの君」での、次郎丸の仕掛けの技は、「からくりサーカス」のあるるかんの仕掛けの技とほぼ同じ攻撃方法で、字が違う同名です。
あと炭治郎達は影薄いです。
それでもOKって方だけどうぞ。
いいですね?
「ふっ!」
残像を残し宇髄の姿がその場から消える。
直後に次郎丸が体を前に向かって捻ると次郎丸の背の刀の鞘に宇髄の日輪刀の刃が命中していた。
「刀を抜く気はないのか? 抜かないで俺をやれると思ってのか、おい?」
宇随が後方に跳び、次郎丸から距離を取って挑発的に声をかける。
「じゃあ、こうしますか?」
「なんだ?」
「次郎丸の刀を使わないとならないぐらい、がんばってください!」
「ほ~~~? それはつまり…、この俺を派手に舐め腐っているってことか?」
「次郎丸の耐久実験ためです! がんばってくださいね!」
「よく言ったな、この野郎。派手に後悔しろ!」
「隙あり!」
「うおっ⁉」
ヴァルの言葉に血管が少し浮いた宇髄に次郎丸をけしかけるヴァル。
寸前で日輪刀で防御したが反応が遅れていたら脇腹を鞘の先端でド突かれていた。
次郎丸の体が更に捻るように動く、鎧をまとっていたらできない動きだ。
足の動きも速く的確で、回転するように動き宇随の後ろに回り込んでいた。そして反対の刀の鞘の先端で宇髄の背を殴った。
「ぐおぉぉ⁉」
エビ反りになってよろけた瞬間、背後に完全に回り込んだ次郎丸の片足が宇髄を蹴り飛ばしていた。
宇随が軽く横に吹っ飛び、地面に転がるが素早く立ち上がる。
「っ…、って~な……。今の、刃が丸出しだったらグリ、グサってなってたってことか? 舐めてたわけじゃないが……、鞘に収まってたってことに少しばかり安堵しちまったじゃねーか。」
「太郎丸を基準にしない方がいいですよ。不殺目的とは言え、人間の骨の一本や二本。頭の骨が陥没するぐらいは容易ですから。ザクッと斬られるのと、ボコボコにされるのと、どっちが痛いでしょう~か?」
「どっちもイテーだろーが。」
「ですよね~。せっかく良い男なんだから、その顔が一生台無しになるのが嫌なら……。」
ヴァルが指に付けている糸と繋がった指輪の付いた指と腕を動かす。
ヴァルの繰りで次郎丸が動く。身を低くし今にも突進してきそうな構えになった。
「この技…、仕掛けを、頑張って耐えてください!」
次の瞬間、次郎丸が宇髄に向かって凄まじい速さで走り出した。
宇髄は二度目は効かないとばかりに二振りの日輪刀で防御し、次郎丸の鞘や持ち手部分を使った体当たりや打撃を的確に防いでいく。
その間に、ヴァルの手と腕が今までにない動きを見せる。
「次郎丸! 『虎乱(こらん)』!!」
宇髄が次郎丸を強引に弾いて距離が空いた時、次郎丸の腰と腹部の間がガコンと浮き上がり、大事な背骨部分らしき部分を中心に小さな部品で構成された数個の輪っかが回転を始める。
回転はあっという間に勢いをつけて速くなり、それに合わせて次郎丸の上半身が高速で回転を始めた。
回転によってその場につむじ風のような強い風が起こるほどだ。
「んなっ⁉」
竜巻のごとき回転攻撃が迫る。宇髄は、驚きつつもその素早い技で防ごうと後退りながら刀を振るい、刃が接触するたびに火花を散らしながら攻撃を防ぐ。
単に回転しているだけなら反撃の余地は十分にあった。
宇髄には忍びとして鍛えられてきた恐ろしいほど早い判断力と分析能力があるのだ。
だがこの回転攻撃がヴァルの恐るべき人形繰りによって打撃に用いる二本の剣の鞘の角度や次郎丸の向きに変則的な動きをつけているため宇随に反撃を許さないとばかりの手数の攻撃となっているのが厄介だ。
しかも回転しながらでも次郎丸の足の動きは、完全に確保されており回転しながらでも速い動きで前に進んでくることができるため距離を取ろうとしても詰めてくる。横に避けようにも回転しているせいかすぐ対応してきて離れられない。
足元を狙おうにも少しでも防戦の手を緩めたら強烈な一撃が入ることが予想でき、そこから連撃が来ることが分かっているため忍者だった時に身に着けた小道具による不意打ちや反撃の隙を作ることもできない。
最悪なのは相手が人間でも鬼でもない、無機物の人形だということだ。そのため藤の毒みたいな五感を刺激する攻撃も使えないときた。
空気の流れを利用して操り手のヴァルを狙うということもできるのだが、虎乱による攻撃を防ぐの精一杯。
爆薬を使えばなんとかできる可能性もあったが、爆発で相打ちか、爆発でも止まらないかしか思い浮かばなかったため煉獄が欠けたことで他の柱に重要任務が分散される現在の状況ということもあり、無駄な怪我を負うのは避けたかった。
防戦一方だが宇随ほどの反応速度があることが最低条件で一発でも防げていなかったら次々に攻撃を受けて、それが何十、何百、千以上の打撃攻撃となって一方的に攻撃されて敗北する。高速で回転させることで一撃入れば、間を置かずに回転が止まらない限り無限に攻撃が来るということだ。
確かにこんな攻撃を集団のど真ん中でやられたら、一気に倒せるだろう。太郎丸と運用目的が違うというのは本当のようだ。
相手は人形。宇髄は人間。
体力の面で言えば宇随の方がもたない。このまま防戦一方では敗北は必須という状況だった。
宇随は、自分の奥の手が使用可能になるまで耐えられるかどうか分からないと感じ始めていた。防御を捨てて機動力を重視した人形がこれほどの脅威となるとは思わず、模擬戦とはいえ敗北の可能性が宇髄の脳裏をよぎった。
その時だ。何かが壊れる音を善逸と宇髄は聴覚で聞き取った。
文字通り糸が切れたように次郎丸が止まったのだ。ぐにゃりと地面に倒れこむ姿は、操り人形が糸を失って力なく倒れ落ちた人形そのものだった。元々、葛籠に折り曲げて入れる仕様であることことや等身大だから、さっきまで凛と立っていたし、凄まじい足の速さを見せていたのに、骨はどうしたという形でグニャグニャに倒れる様のせいで余計に不気味さがある。
「…おい、…どうした?」
永遠に思えるほど続いた虎乱による攻撃を防ぐのに必死だったせいで荒い呼吸をする宇髄がヴァルに聞いた。
「すみませ~ん。どうやら候補の部品が耐久限界がきちゃったみたいです。」
「ああ?」
「やっぱり、『虎乱』には耐えられなかったか~……。思ったよりは持ち堪えたけど」
ヴァルがそう言いながら動かなくなった次郎丸に近づき、次郎丸を地面の上に仰向けにして次郎丸が身に着けている布地を一部外してその下の仕掛けを見た。
そこに指を入れてヒビ割れてしまった六角形の金属の部品をひとつ抜き取り、じっくりと目と指で調べていた。
表裏は凹凸と光沢のせいでなんとなくごつく見えるが、横から見るとかなり厚さが薄い金属の部品だ。
「う~ん……、やっぱりこの薄さを維持して、このまま使うのはダメか~。ってことは、鍛冶場で金属から配合して……。金型と…。」
どうやらこの薄い形状で使うには耐久値が足りなかったようだ。
厚みを増やせばいけるだろうが、それだと全体の部品の見直しが必要なるため別問題が出てくる。
「その部品を交換すりゃ、次郎丸は動くのか?」
宇髄がヴァルに聞いた。
「動きますよ。ただし、他の個所に影響がないかどうかも後で調べますから、それ次第って部分もありますけど。」
「からくりってのは、埃ひとつ入ってもダメになっちまうからな。しかもここまで細かいと……。」
次郎丸の布の下を見た宇随は、嫌そうに顔を顰めていた。
これほど精密な部品でくみ上げられたからくりを見たことがない。宇随が見たことがある時計の内部構造もここまでじゃないと記憶している。
恐らく先の時代の技術によって実現された物だと宇随は考えた。これだけの物をイチから造り上げたのが、一見15ぐらいの少年に見えるヴァルの人形師としての腕だというのも信じ難かった。
「俺も手先は器用だと自負してるが、本職は派手に狂った手先の器用さがねーと務まらねーのな」
「あと努力次第ですね。じゃ、次郎丸を工房に運ばないと……、小鉄く~~ん、手伝って~~。」
ヴァルが次郎丸を背中に背負うように持ち上げながら、模擬戦をこっそり見ていた小鉄に向かって声をかけた。
途端、短い悲鳴を小鉄が上げて茂みから転がり出てきた。
恐る恐る顔を上げる小鉄は見た。
ヴァルが超笑顔で小鉄を見ている。
「小鉄くん?」
「は、はひぃっ⁉」
「見物はいいけど、太郎丸の部品磨きは終わった? 終わってなくても、どれぐらい終わった?」
「え…、え~~~~~~と~~~~~……。」
気まず過ぎて手元をモジモジさせて落ち着かない小鉄。隠しても無駄だと分かっていても答えられなかった。
「小鉄くん」
「ひっ⁉」
ヴァルの右手が小鉄の頭を鷲掴みにした。
「手伝って」
笑顔で、明るい口調でそう言っているのだが、なんかすごく怖い。
「……………はい。」
小鉄は震えながら返事をするしかない。
「あ、あの! 俺も手伝うから!」
悪い空気を感じて炭治郎が挙手してきた。
「気持ちは嬉しいけど、たぶん無理かも」
「そんなことな…、っうぉ、重っ⁉」
近づいてきた炭治郎にヴァルは、次郎丸を背負わせようと渡す。途端に重さで潰されそうになる炭治郎。
太郎丸ほど重くないが次郎丸も精密部品(金属)の塊だ。部品数だけなら太郎丸より多いので鎧無しでもかなり重たいのだ。それでも太郎丸よりは軽い仕上がりになっているのだが、人間が背負うには重たすぎた。
「片足持ってくれるだけでいいよ」
潰れそうになるギリギリでヴァルが炭治郎から次郎丸を持ち上げて自分の背中に背負い直した。
「分かった…。う、重い。」
炭治郎がダランとなった次郎丸の片足を両手で持ち上げた。足だけでも結構重たい。
「……伊之助、動けそう?」
善逸が伊之助に声をかけた。
「この俺がこの程度で…、おっと…っ。」
「言わんこっちゃない! 肩貸すから!」
「くそっ! ぜってー、あの人形ってのをいつかぶっ潰す!」
「本当に人形って言っていいのかな……。あんな強い人形を造れるヴァルって奴なんなの?」
フラフラの伊之助に肩を貸して歩くことにした善逸は、糸で繰ることで絶大な力を発揮するからくり人形と、その製作者であるヴァルに不信感を持った。
「は~…、俺としちゃ少しばかり不完全燃焼だが仕方ねーか。そういや、もう1体お披露目してない奴があっただろ? そいつはどうした?」
「ありますよ。葛籠に入れてます。でも、出すのは後で。」
「そういや、竈門って言ったな、お前。」
「あっ、はい! なんでしょうか?」
「お前らなんでここに来た? こいつの顔を見に来ただけじゃないだろ?」
「それは…。」
「えっ、なんか用があったの? それじゃ、いったん工房に戻ってから聞くよ。」
それを聞いたヴァルがそう言った。
「その葛籠片手で担げるのか⁉」
「太郎丸と次郎丸が入ってない分、軽くなってるからね。大丈夫、大丈夫。」
「そうなんだ…」
葛籠に4体の。からくり人形が納まっていたのでクソ重たいことを知っている炭治郎は、今は一番重たい太郎丸が入っていないのと、次郎丸を外に出しているので結構軽くなっていると聞いてそう言った。それでも後2体分入っているはずなので重たくないはずがないが、ヴァルがそう言うのならそうなのだと無理矢理納得しようとした。
炭治郎が背中に背負っている木箱の内部からカリカリとひっかくような音が微かに聞こえた。
「大丈夫だから。ちゃんと頼み聞くから待ってて。」
そう中にいる禰豆子に言い聞かせると音は止んだ。
***
里に戻り、工房に用意していた人形を立てかけるために制作した十字架のような棒状の器具に次郎丸を立てかける。
小鉄は、しょんぼりしながら太郎丸の部品を綺麗にする作業に戻った。
「あれ? 部品が足りない…。」
作業台に並べられていた太郎丸を構成していた大量の部品の一部が紛失しているとヴァルが気づいた。
「えーーー⁉ そこに置いてあったのに⁉」
「小さいから風で飛んだのかな? ネズミとかに持ってかれた可能性も……。」
「あ、あぁ…」
絶望する小鉄。
「あっ、あった。良かった良かった。」
「ほっ……。」
ヴァルが机の下を覗き見たら発見できたので小鉄は心底安堵した。
その部品は、人差し指の爪より小さい。
「こうやって簡単に紛失する恐れがあるから、取り扱い注意ね? 特に席を外すときは。……ね? 紛失防止用の箱置いてたのに使わなかったの?」
ヴァルは笑顔で机の上に置いてあった鍵付きの蓋のある箱を指差した。
「ごめんなさい~~~!!」
「も~、技術継承のための指導も兼ねてるのに、ちゃんとしてくれないと教えても意味ないじゃん。」
「そうだったの⁉」
「直に触る方が覚えるって思って。綺麗にし終わったら、組み立て工程とかを見てもらおうと思ってたのに…。」
「すみません…。ちゃんとやります…。」
小鉄は思いっきり項垂れて謝罪した。
「うん。俺のからくりのこと覚えたいって言ったの小鉄くんだもん。自分が言ったことやってくれないと困るよ。」
「本当にすみませんでした…。あまりにたくさんあって…。」
「気持ちは分からなくはないよ。しろがねの人も人形を使って戦うけど、こうやって分解したのを見ると引く人いたから。でも、壊れないように手加減して戦うことはできないから、気を遣わなくていいって言ってたんだ。」
「…大変ですね。」
「手加減してたら人形に殺されるのはこっちだからね。人形を逃がしちゃったら、それで被害者が増えるし。病気をまき散らされたらもっと最悪だし。じゃ、残りの作業任せるよ。終わったら教えて。」
「はい!」
小鉄は気合いを入れなおしたように大きな声で返事した。
太郎丸の部品を綺麗にする作業を改めて小鉄に任せてからヴァルは、工房から出た。
外に炭治郎達を待たせていた。
「それで、炭治郎は俺になんの用があったの?」
「そろそろ日が落ちる……。夜になってからしてほしいことがあって。」
「なになに~?」
「禰豆子がさ…。」
「禰豆子ちゃんが?」
「ヴァルのあの踊るからくりのことでグズって…。」
「そうなんだー! ウズメのこと気に入ってくれたんだ! ありがと!」
「ヴァルにお願いがあって…。」
「いいよいいよ! 今日の夕餉の後にする? みんな泊まるんならその方がいいかな?」
っというわけで、お泊りは確定であった。
もともと、奥地に隠されている鬼殺隊の要の要所なのだ。行きも帰りも大変である。
「竈門禰豆子があの白拍子を気に入ったのか? つくづく他の鬼とは違うんだな?」
その夜、用意された夕食をつまみながら、宇髄が柱合会議で見たウズメと禰豆子が一緒に踊っていた光景を思い出してそう口にした。
「鬼って、芸とかにも惹かれるんですかぁ?」
ヴァルが宇髄に聞いた。
「さあ? 鬼によるじゃねーのか? 大抵の鬼は一か所に潜んでてな、質の悪い奴だと複数人の人間を飼い殺しにして外に狩りに行かずともエサを供給するような狡いことしてやがる。そういう奴の中に、遊び感覚や生前の記憶が影響してか悪趣味なことに余裕を割ける奴がいたかもしれない。」
「胡蝶さんからも聞きました。一か所にとどまらずに、放浪している鬼もたまにいるっていうのも。」
「うろちょろしてる奴は逃がすと厄介なんだよなぁ…。逃げた先で人間を襲えば負った傷も回復するし、余計に力をつけちまう。見つけたら即座に項を切り落とすのが一番良い方法だから覚えとけ。」
「あの山で蜘蛛の鬼で覚えましたよ~。教えてもらったし~。でも、頸斬るのと太陽の光で倒す以外に効果的な手段ないかなって考えてます~。」
「鬼には、藤の毒が効くぞ。それも胡蝶から聞いたか?」
「はい。でも、すぐに解毒されてしまうから二度目は通用しないって。だから解毒される前に一撃で毒殺か、別の配合の藤の毒を使うかして仕留めないと他の鬼に耐性がついてしまうって。」
「頭壊れてるっつーわりに、ちゃーんと聞いてるじゃねーか。」
「必要なことは覚えれます。でも上手くできるできないがあるんですよね~。人形を相手にしてた時は、人形に芸を見せると人形が動かなくなるからその隙をつくってことも戦略だったんだけど、俺、芸ができなくって。」
「なんだそりゃ? 変わった弱点だな?」
「人形達は、自分達が造られた理由。つまり人形達の主人を笑わせるっていう最大の目的のために芸を学ぼうとするんで。だから芸を見て、観察して覚えるまでその場で動かなくなるんです。でも覚えたら動き出すんで同じ芸は通じないのがね~。俺、芸は苦手だから、人形で芸をしたらいけるか?って思って、ウズメを作ってみたんですよ。」
「あの白拍子は、そのためのだったのか…。」
「でも攻撃力がないんで、太郎丸とかが主力になってたから実戦で使ったことなかったなぁ。物理的にぶっ壊す方が早いっていうか、楽っていうか…。うん、ぶっ壊す方がすっごい楽だった!」
「相手が人形ならそうなるんだろうな。」
「中には、変な仕掛けを仕込んでるのがいたりするけど、だいたいは壊せば終わりだから! 鬼だってもとは人間だって考えれば倒さずとも、でっかい隙を作ったり、行動不能にする手段がありそうなんだけどな~。」
「鬼は二度も同じ手が通用しない。だから余計な力を付けられると退治しにくくなるから、頸を斬るのが一番なのさ。」
「………時代が時代だから、俺がいた時代よりまだ医学も科学も…。けど、やればできないことも……。」
「おい、余計なことして俺らの足を引っ張ろうとすんじゃねーぞ? ただでさえお前の立場ってのは、そっちの鬼の妹を連れてる竈門より鬼殺隊じゃ微妙な位置なんだからな」
「そーなんですかー?」
「からくりの強さは認められているが、下手をすると鬼側を強化させる一因になりかねないからだ。」
「確かに!」
「…分かってんのか?」
宇髄が疑わしそうにヴァルを見つめた。
絶対こいつは何か良からぬことをやらかすと、宇随の勘が警報を鳴らしていた。
実はここに来る前に胡蝶を通じてヴァルが持つ知識について聞いていたのだ。
からくり作りのために独学で学んでいるためかなり偏っているが、非常に高い科学の知識を持ち合わせており、対象の現在ではまだ未発見の物質などが持つ毒性や医療の知識まで豊富で、壊れていると本人が語る頭にそれだけの知識が本当に正しく詰まっているのか怪しいと胡蝶が顔を顰めているほどだった。
鬼についての知識を教えるにあたり、鬼に通用する攻撃方法などを特に興味深そうに質問をし、その過程で高い医療分野の知識を使えないかと対鬼への新たな攻撃手段を考察していたらしい。
下手をすると鬼側を強化する可能性が高いため、胡蝶が口すっぱく実戦に使うなら胡蝶や産屋敷などの責任者の承認を得てからにしろと言い聞かせたが、果たしてちゃんと行動に移さないでいてくれるか心配だと胡蝶が頭痛を感じていた。
僅かな日数で日輪刀を製造する技術を学んで身に着け、からくりのために大正時代で手に入る部品の材料探しまでしているのだ。
頭の中を壊されたが、人形作りという分野に興味を持ったことで壊れた状態が歪にくっついて復活できて今があると語っていたヴァル。
壊された結果、運動能力の一部が異常に発達したりもしたが、興味があるのはあくまでからくり人形。
からくり人形作りのためにどれだけの知識を吸収して物にしてきたかは、想像するしかないが常人の域を遥かに超えているということだけは現段階で判明している。
ヴァルの怖いところは、人形より鬼の方が壊しやすい(殺しやすい)だの、人形と違って鬼は生き物だという認識がありだから科学と医療が通用するのではないかと考えているところだ。
後の時代に実際に発生した、あるいは発見された人間にとって危険な知識がもとが人間である鬼に使えるかもしれないと躊躇なく考えてそのための手段を本気で実現しようとしているところだ。
人間と同じぐらいの大きさかつ、鬼や柱と戦えるほどの強いからくり人形を自作し、それを操る技術だけでも恐ろしい域にあるのに、それだけで済まさないと簡単に行動しようとしている危うさがある。
「あっ、そうだ!」
ヴァルが良いことを思いついたように手を叩いて宇随を見た。
「宇髄さん、宇髄さん! 忍者なんですよね?」
「元…な。それがどうした?」
「ってことは、なんか小道具とかも使ったりしますよね? 毒とか。」
「…胡蝶に叱られんぞ?」
「ちゃんと承認しもらってから使ってもらいますから~。」
どうやらすでに対鬼用の何かを考え付き、制作しようとしているか、既に完成させているか、いずれかのようだ。
ニッコニコで軽い調子で、鬼を地獄に堕とす知識を惜しまず使うヴァルに、宇髄は背中に冷たいものが走る気がした。
その時。
「ヴァル! 禰豆子が起きた!」
日はすっかり落ち、鬼が活動しても問題ない夜になった。
炭治郎に連れられて竹の猿轡を付けている禰豆子が一緒に入ってくる。
「こんばんは、禰豆子ちゃん!」
「むー!」
ヴァルが笑顔で挨拶すると禰豆子が嬉しそうに片手を上げた。
「ウズメのこと指名してくれてありがと! 今から準備してくるから待っててね!」
そう言って一旦部屋から出ていくヴァル。
禰豆子はうずうずした様子でちょこんと畳に座って待った。
やがてウズメを持ってきたヴァルが、部品調達ついでに注文した打楽器や鈴などを手にしたウズメを繰る。
からくり人形が踊ると聞いてウズメを見に来た里に人間達まで集まってくる始末だ。
「うひゃ~、人形が…踊ってる…。禰豆子ちゃんがすっごい楽しそう…。」
「あれ人間じゃねーのか?」
「よく見てって。すっごい細い糸で指と腕を使って操ってるから。」
「…うお! なんかほっそいもんがいっぱいついてやがる! あの山にいた蜘蛛の鬼みてぇ!」
「糸だけど、蜘蛛の糸じゃないからさ。なんの糸なんだろ? あんな頑丈で細い糸なんて…。」
善逸は、禰豆子がウズメと一緒に楽しそうに踊っているのをほんわかしながら眺めつつ、ウズメが人間と見間違えるほど見事な動きでヴァルに繰られていることに驚き、伊之助がウズメが人間じゃないかと首を傾げたのでヴァルの指の指輪に繋がった糸を指し示したりした。
からくり人形を動かすために使用される糸は、特注品。
先の時代の技術で新製された物だったが、大正時代にある素材で代用して替えの糸は、既に製造済みであった。
しろがねの歴史が長いため、人形を操るための糸の確保と製造は要だった。だから大正時代に来ても割と簡単に対応できたのである。
なお、糸の製造技術は機密である。
宇髄は、ウズメの踊りと、里の人間達がやんややんやと楽しんでいる光景を酒の肴に自分なりに楽しんで夜を過ごした。
余談であるが、工房に籠ってやっていた太郎丸の部品の手入れが終わらずウズメが踊る姿を見れなかったことに、小鉄はひっそり泣いていたらしい。
このネタでの次郎丸の虎乱(こらん)と、あるるかんのこらんは名前と攻撃方法や仕掛けが非常に酷似しています。あるるかんの方が先。
あと細部で違うのであるるかんより強力だけど、それは操り手の技術があってこそ実現するものとしました。
高速回転しながらも細かい攻撃の強弱や攻撃当てる場所を指定したり、速く移動させながらの攻撃をさせるために足の動きまで同時に正確にこなすため宇髄ほどの力量があっても上弦の陸相手にするぐらい苦戦は強いられたという形にしました。
勝敗は、耐久テストで次郎丸に入れていた部品が破損したため模擬戦は強制終了。
大正時代に手に入る部品を加工して交換用の部品にできるか試したけど失敗。そのため金属から配合して作る方向にシフトします。
宇髄とヴァルの会話は、後の伏線です。
ヴァルは、鬼がもとが人間だってことに注目しています。
ヴァルには、2000年頃にはすでに法で禁止されたり、高度経済成長期に発見された人体への有毒性とかもろもろの知識があります。