デモンズソウル転生とか罰ゲームでは? 作:青ファントム
「──あっぶね」
軟体を器用に扱い魔物が男を引き倒したおかげで、ソウルの光は男の背を掠めていった。
「分身の方が強い魔法を使うとかまんまと騙されたな」
愚か者の偶像──女王の姿を模るデーモン──は再度転移を行い、その数を5つに戻した。
男は生み出した魔物を先行させることで魔法陣の罠を強引に突破し、聖堂の端へと駆け出した。
本体を見極めることが難しいなら、本体を見極めなくてもよい方法をとればよい。
五体のデーモンを視界に収めた男は、竜の炎で聖堂内の全てを焼き払った。
炎が鎮まった後に聖堂に残っていたのは、男と
「──ん?」
ソウルの光から逃れるために聖堂の柱へ身を隠した男は違和感を持った。
愚か者の偶像は与えたダメージに応じて分身の数を増やすデーモンであり、最大で五体の分身を召喚する。攻撃範囲を重視して炎を放った以上仕留めきれなかったことは納得できるが、分身の数が四体から増えない程度の威力では無かったはずだ。
分身の数を減らして、ソウルの光のような強力な魔法が放てるように能力が変化しているのか、それとも最初から十分なダメージを与えていたのか──
「・・・そういうことか?」
男は女王の似姿にはわき目も振らずに再び聖堂の中を駆け出し始めた。
予想が正しければ、聖堂の中央付近にいる五体はどれを攻撃しても意味が無い。
それに最も有効な竜の炎は、後先を考えずに最大出力で放ったせいでしばらくは使えそうにない。
「いた──」
祭壇の脇にある柱の陰に男は六体目の女王の似姿を見つけた。
投槍で痛手を負わせて以降、男の前に現れたのは全て分身だった。本体は柱の陰に身を潜め、広範囲の攻撃は柱を盾に凌ぎ、敵が疲弊するのを待つ。そういうデーモンになっていたのだろう。
「知らなきゃ違和感も持てなかったかもな」
刃の無い大斧が偶像を打ち砕いた。
愚か者の偶像を斃した後のことをド忘れしていた男は、楔の神殿に戻る前にガーゴイルに連れ去られた。
人外の力を手にした男だが人間を完全にやめているわけではない。重力は偉大だ。落下の恐怖と危険性を克服できていない男はガーゴイルタクシーが安全運転で運行することを祈るしかなかった。
塔の上部から滑り落ちれば、如何なる魔法や奇跡をもってしても死を免れることはない。
この先で戦うデーモンは落下の脅威が付きまとう以上、他のデーモンを斃し力を取り込んだところで、勝ちやすくはなるがある一線より負けにくくはならないデーモンである。
しかし、落下と並ぶもう一つの脅威は今の男であれば対処が可能である。
男は霧を越え、己と同じ──魔に堕ちた人間のいる場所へ踏み出した。
「数には数──」
鉄のデモンズソウルを取り込み、槍と盾をより強力なモノとした魔物の兵によりデーモン達を数で押し潰す策を男は選び──
──マンイーターはその強靭な翼で、男の策を文字通り飛び越えることを選んだ。
ドゴォッ!
「ぬっ・・がぁッ──」
飛翔の勢いを乗せたマンイーターの突進が、盾と防護の力越しに男を叩いた。
魔法の武器に類する方法で魔法の力を纏っていたのか、物理的な攻撃に対しては絶対と言っても良い防御をマンイーターの攻撃は易々と貫いていた。
衝撃で男は吹き飛ばされるが幸いにも落下は免れ、通路を転がるだけで済んだ。
魔物の兵は反撃の投槍を放つが、マンイーターは空中で器用に避けていく。速度そのものは飛竜に劣るが、体躯の違いと小回りが効くことにより回避能力はマンイーターの方が上回る。
宙を舞うマンイーターが放つ魔法を、男は落下に気を付けながら避けていく。
塔の騎士とは違い、マンイーターは男を執拗に狙って攻撃を繰り返している。
魔物の兵が男によって生み出される以上、数を減らしても無意味だと理解しての行動か単に身に宿したデモンズソウルに惹かれたかは分からないが、巻き込まれた魔物以外は攻撃を受けないなら都合が良い。
方針に変更はない。数の力で押し潰す。
増加していく魔物から放たれる無数の投槍でマンイーターの移動を少しずつ誘導していく。
囲い込むように並んだ投槍で回避の方向を強制し、放物線を描いてマンイーターの斜め上から飛来する槍で前後の移動を制限する。徐々に行動範囲を制限し、槍の一斉投擲で生まれた面の攻撃に対して衝撃波による迎撃を選ばせたところで──
ボオォッ──!!
飛竜の炎がマンイーターを焼いた。
空中で深手を負い体勢を崩したところに、更に無数の槍の追撃が降り注ぐ。
偉大なる重力は抗うことを許しても、逃れることは許さない。
空中を舞う力を一時的に喪失したマンイーターは深い闇の中へと落下していった。
そして二体目のマンイーターが男を強襲した。
「──ッ!」
男の背面より飛来したマンイーターはその腕で男を持ち上げ、空中へ連れ去ろうとするが──
「警戒済みだっ!」
男は服の上から魔物の兵を生み出して、強引にマンイーターの拘束から抜け出した。
既に通路の外へと連れ去られてた為、男はそのまま落下を始めるが、槍を自分の持つ盾に向かって射出することでその身を通路へと弾き戻した。
その後は語るまでもない。
男の身代わりになった魔物の兵は重力の偉大さをその身で余すことなく味わい。
二体目のマンイーターも同じ道を辿ることになった。
人形と混成、二つのデモンズソウルを得た男は楔の神殿に戻ることを決めた。
この塔の最後に待ち受けるデーモンは男の知恵をもってしても予測のできない存在であるため、先に他のデーモンを斃して力を取り込んでおくべきであるし、そうでなくても既に二つ得たソウルを自分の力としておきたかった。
楔の神殿に戻った男はふと自分の
男は転生者である。
自分の覚えてる限りでは一度目となる前世では、ボーレタリアよりもソウルの業を除いて殆どの技術が発展した国で過ごしていた。
完璧ではない──人間である以上当然ではある──が、素晴らしい両親に育てられ、家を出て、仕事で苦労しながらも余暇には趣味であるゲームを楽しめる日々を送っていた。
その終わりが如何なるものであったかは、記憶になく想像もつかないが、両親の死を憶えていないところをみるに、親よりも先に死んだ不孝者であったのだろう。
二度目の誕生では親の顔を見ることはなかった。捨て子であったそうだ。
教会で拾われた男はそのまま神職を目指した。
一度目の人生では信仰という存在に触れることも無かった──前世で別の教えに触れていても逆効果かもしれないが──男には役に立つ経験などほぼ存在しなかったが、他の子どもよりも早く礼節を身に着け、熱心に教えを学ぼうとする姿勢はよく褒められた。
ボーレタリアという国の名とオーラント王の名を聞くまでは、男は幸せなままでいられた。
男は嵐に包まれた孤島を歩いていた。
この祭祀場に男が求めたデモンズソウルがある。
審判者を上からの一斉射撃で封殺し、死神を思わせる装束を身に着けた影人の司祭を葬った男は白くべたつくナメクジのいる泉を抜け、霧の中に踏み込んだ。
古い勇士の眠る広間を歩きながら、男は魔物を生み出すのと並行して姿隠しの魔法を己にかけた。目覚めた勇士との戦いは、魔物達から一斉に放たれる投槍を合図に始まった。
古い勇士の攻撃とそれに伴う衝撃波は、一振りごとに複数の魔物を消滅させていく。
盾を容易く砕き、放たれる槍を攻撃の余波で吹き飛ばしながら勇士は魔物の兵を殲滅していく。
衝撃波を貫いて飛翔するソウルの光に体を貫かれながらも勇士の猛攻は止まらない。
ソウルの光が放たれた方向に攻撃することで盲目ながらも脅威となる魔法の使い手を攻撃しようとするが、男は攻撃を分身に任せて勇士から離れた位置で気配を殺していた。
魔物の兵の再生成が勇士の殲滅速度に間に合わずに数を減らしていき、その分だけ勇士の攻撃がソウルの光の発射方向へと向けられていくことで分身の消失も早くなっていく。
それでも魔物が尽きるより先に、ソウルの光が勇士を斃した──筈だった。
────オオオオォォォォッ!!!!
古い勇士──嵐を探し続けるもの──が復活した。嵐との対峙を求め、勇士は死を覆した。
渾身の力で大剣を地面に叩きつけ、全方位への衝撃波により分身と魔物の兵を一斉に消滅させる。
衝撃波の轟音に混じって微かに聞こえた重さのある物体が地面に落ちる音へ向かって、勇士は大剣を振るった。
勇士の大剣は、
そして魔法と槍、炎が勇士の背へと殺到した。
混成のデモンズソウル──マンイーターのデーモンの力──から男が得た力の中に蛇がある。
マンイーター、それは狂気の実験により蛇を植えつけられ魔物へ堕ちた戦士である。
その力の源である蛇は、魔物の兵へと植えつけることで更なる力を与えることを可能とした。
男は戦いの途中から、蛇によって強化された魔物にも分身と兵を生み出させ、自身は戦場の隅でじっと盾を構えていた。
協力して魔物を生み出してもなお追い付けない勇士の殲滅速度と、全方位攻撃を用いてもう一つの魔物の生産源を叩いた判断能力は驚嘆に値するが、姿隠しの魔法が有効であるという弱点自体は残っていたことが勇士の敗因になった。
禊の神殿へ帰還し、勇士のデモンズソウルを己が力とした男は祭祀場にて嵐の王と対峙し、嵐と魔物の戦争が始まった。
嵐の獣と魔物の兵の間で棘と槍が飛び交い、獣が斃れ消滅しては嵐の外より新たな獣が飛来し、魔物が斃れ消失しては男か蛇を与えられた魔物によって新たな魔物が生み出される。
雑兵同士の削り合いは膠着状態に陥り、戦争の勝敗は嵐の王と男に託された。
嵐の王から射出される巨大な棘を建物の残骸を盾をしながら凌ぎつつ、槍と魔法、炎によって少しずつ体力を削っていく、そんな順調な戦いは嵐によって覆された。
嵐の王の体を暗雲が覆いはじめた。槍と炎は風に散らされ、魔法は暗雲に消えていく。
遠距離攻撃は無効化され、嵐を纏った棘は男が盾にしていた残骸を容易く吹き飛ばした。
男は祭祀場の奥へと駆け出した。
棘は盾で防ぎ、棘に伴った嵐の爆発の傷は再生の力で対処する。
暗雲を裂き、嵐の王を討つ力はこの先にある。そう知っている男は迷うことなく駆けていった。
そうして嵐の真なる支配者。空を裂く剣が蘇った。
ストームルーラーの攻撃が暗雲を裂き、生まれた隙間に攻撃が殺到する。
嵐の王は空中で苦しみのたうち、嵐がその勢いを弱めていく。
いつしか嵐の獣はその勢いを減じ、魔物の兵の勢いに負け次々と斃されていった。
最後の一撃──ストームルーラーの攻撃が消えつつある暗雲を貫き、嵐の王を討った。
天から差し始めた日の光に微かに目を細めると、男は祭祀場を後にした。
嵐の祭祀場にいる死神=影人の司祭というのは独自設定です。
アイテム:誰も持たぬ知恵
知ることは祝福であり、呪いである。
それは無知を癒す薬となり、安堵を侵す毒となった。