デモンズソウル転生とか罰ゲームでは? 作:青ファントム
「あぁっ──!?」
突如として放たれた炎によりその身を焼かれ、悶え苦しむ聖女。
彼女が戦況に関われなくなったことで状況は少しずつ悪化していった。
蘇生の奇跡を受けられなくなったことで、戦士たちは数を減らし、二度目の復活を遂げた男と魔物の兵の連携により暗銀の騎士も斃された。
男がしたことは単純だ。
聖女が魔法の発動と判断した混成のデモンズソウル、それと槍の射出と判断した鉛のデモンズソウルの活性化の際に男は魔物の兵に蛇を与え、幾つかの力を与えていたのだ。
その力は三つ、魔物の召喚、分身、そして竜の炎である。
乱戦と男が発動した反魔法領域──竜の炎が魔法判定かどうか検証していなかったので念のため──を避けて、聖女を射程に捉えた魔物は、分身と共に竜の炎で聖女を焼いたのだ。
男のソウルを注視するが故に、男のソウル以外から目を離した聖女の隙を、魔物の兵は見事に突いたのだ。
全ての護りを失い焼かれ続ける聖女に、巨大な刃が叩きつけられた。
嵐の祭祀場に続いて腐れ谷を攻略した男は、禊の神殿に戻っていた。
聖女アストラエアが所持していた純血のデモンズソウルには4つの用途があったが、その内の一つ蘇生の奇跡について男は使い道が思いつかなかった。
デモンズソウルから直接力を引き出している以上、アストラエアのように屍に再び活力を与えるような真似も可能だろうが、男には恩恵が少ない。
男の攻撃の多くは広範囲攻撃だ。
当然味方を巻き込む。聖女との戦いでは魔物の放った飛竜の炎に男も少し焼かれた。
他者を生き返らせたところで、まともに共闘など出来ないのである。
広範囲攻撃の使用が制限される分、逆に戦いづらくなるまである。
無論、武器の召喚など他者を巻き込まない方法もあるにはあるが、男の本質はソウルの業を使う者だ。近接戦闘の技術も磨いてはいるが、本分ではない。
一応、心の折れた戦士に使用して自身が召喚した存在以外にも蘇生の奇跡が有効だと判明したが、青くなくなったニートが禊の神殿へ帰還するまでは、他者を救うためであっても乱用すべきではないだろう。
ソウルが戻った肉体が危機的な状況にあれば、蘇生したところで再び殺されるだけなのだ。
屍に対しても有効かどうかは後で確かめる予定だが、仮に有効であったとしても男にとっては無用の長物だ。
男が蘇生させたい相手は、ソウルも屍も手の届かない場所にあるのだから──
教会を離れ、小さな魔法学院に辿り着いた男は当初は歓迎されなかった。
男の言動には隠し通せないほど神職の気配が残っており、敬虔な人間からは──魔法という奇跡に似て非なるソウルの業を使うため──忌み嫌われやすい立場にある魔術師としては警戒するのが当たり前だったからだ。
しかし、打ち解けるのは早かった。魔法を見下さない男の態度とその知性は、魔法の探求するもの達にひどく歓迎された。
学院の長である賢者フレーキの弟子は、男が知る者ではなかった。高名なフレーキであれば、弟子を複数持つのも当然ではある。
賢者のもとで学んだ彼は、ソウルの業を多くの人々が学べるようにすべきと考え、学院を新たに開いたらしい。
得られる教えに比べて、どうにもみすぼらしい小さな学院を疑問に思った男は師へ尋ねたことがある。賢者フレーキは学院を開くことに反対だったのかと。
師は笑って答えた。
”賢者は魔法の探求以外に何かを費やす暇がないだけだ”
黙認している以上、フレーキは男の師の行いにほんの一欠けらの悪感情も抱いてないのだろう。
支援しようする気持ちもないのだろうが。
学院で多くの魔法を学び、ソウルの業への理解を深めた男は、一度里帰りをすることにした。
かつて巨人たちが治めていたとされる北の大地へ──
禊の神殿で所用を済ませた男は、坑道を訪れていた。
攻略の済んでいない3つのダンジョン──塔と坑道、王城──の内、男は坑道が比較的易しい道になると考えていた。
塔の最後で待ち受けるデーモンは未知数の存在であるし、王城の最後で待ち受けるデーモンもやや特殊な起源をもつデーモンだ。この世界において彼らがどのような強化をされているか、男は予想が出来ない。
逆に坑道の最後に待ち受けるデーモンは、人々の幻想から生まれたデーモンらしいデーモンだ。
嵐の王と同様に賢しい手を叩き潰す何らかの強化を施されている可能性もあるが、正攻法に従えば戦いやすいデーモンであるはずだと男は予想した。
坑道の仕掛けを起動しながら歩を進めた男は、霧を越えて巨大な蜘蛛と対峙した。
ソウルの業について奇跡と魔法の両面から学び、デモンズソウルとの接触を通して更に探求を深めた男は、魔法効果の重ね掛けを可能としていた。
水のベールと防護の力を両立した男への有効打を蜘蛛は有していない。
護りの力に慢心せずに距離をとり、無数の召喚した盾に隠れて坑道の入り口から一方的に魔法で攻撃を続けた男に対して、蜘蛛は何もできずにデモンズソウルを明け渡すことになった。
更に坑道の奥へと進み、迷路のように入り組んだ通路の先の霧を越えて、男は坑道の第二のデーモン、炎に潜むものと対峙した。
神殿のような建物を破壊して飛び出てきた炎の怪物は、魔物の兵を飛び越えながら男へ接近し、男の分身を殴り飛ばした。
盾で足止めしてからの分身との連携による魔法の一斉射撃を狙っていたことが幸いして、男は強烈な一撃を受けずに済んだ。しかし、予想以上の俊敏さによりソウルの光の追尾能力をもってしても魔法が怪物に届かない。
一計を案じた男は、人形のデモンズソウルから引き出した力を使い、怪物を罠にはめた。
分身により怪物をひきつけ、設置しておいた魔法陣で拘束する。
怪物の魔法への抵抗力の低さなら、魔法による拘束も有効だと想定しての策は見事に怪物を捕えることに成功した。残った分身からの魔法と魔物の槍が動きを封じられた怪物に殺到した。
──怪物が咆哮した。
咆哮に続いて放たれた爆炎が群がった魔物と分身諸共男を吹き飛ばし、その身に宿した炎の勢いを更に増した怪物が、男へと飛び掛かった。
「──ッ!」
転移によって間一髪躱した男は、すぐ側に魔法陣を設置した。
どれほど俊敏であろうとも、宙を舞うための力を持たない以上、怪物は必ず地に足をつける。
再度の飛び掛かりを再び転移で避け、側にあった魔法陣に拘束された怪物に、男は炎以外の全ての攻撃を叩き込んだ。
二体のデーモンを斃し力を取り込んだ男は坑道に潜む最後のデーモン。竜の神のもとへ向かった。
霧を越えた先にある通路を歩む最中、通路の先から赤い瞳が覗き込んだ。
──瞬間、通路を炎が埋め尽くした。
「マジかっ!?」
赤熱のデモンズソウルを宿し、高い炎耐性を身につけた男さえも焼く炎を、水のベールと盾で防ぎながら男は柱の陰に身を隠した。
炎が止むとすぐさま男は通路を駆け出した。
竜の神を正攻法で倒すには、まずは通路の先へ出る必要がある。
通路の先へ出た男の姿に竜の拳が突き刺さるが、それは囮の分身であった。
「嘘だろ──」
竜の攻撃を躱した男は顔を強張らせた。竜の拳で通路が崩落したからだ。
飛行能力があるため、仕掛けに辿り着くことは可能だが、建造物が盾として頼れないことは予想外であった。姿を隠す遮蔽にはなるかもしれないが、
通路から飛び出た男は分身を四方へ飛ばしながら、自身は古代人が遺した仕掛けへと駆けていく。
散開した男と分身たちに対して、竜の神はブレスによる一網打尽を選択した。
ゴウッ──!!
放たれた炎を水のベールと盾で凌いだ男は、自分を仕留めたと勘違いしたのか動きが緩やかになった竜の神に見つからないように、慎重に通路を移動していった。
姿隠しの魔法が効果を発揮したのか、それとも建造物が遮蔽として有効に働いたのかは不明だが、無事に仕掛けへと辿り着いた男は、竜の神にダメージを与えるために仕掛けを起動し──
竜の神はその半身を溶岩より引き上げ、仕掛けの側に素早く移動すると、仕掛けが動作するより先に叩き壊した。
瓦礫と共に落下していく男は防護の力で命を繋ぎ、瓦礫に押し潰されることを逃れたが激しく動揺していた。
そんな事を考えながら、男は分身を一つ生み出し、竜の神に拳による攻撃を誘発させると、空中へ飛び出し、攻撃を放っていく。
仕掛けの片方が潰された以上、竜の神の体力の過半数は男が削らなければならない。
否、竜の神が移動した以上は仕掛けが当たるかも不明だ。その場合は男の力だけで体力を削り切らねばならない。
構えた盾に槍を射出するという力技で速度を補いながら、竜の猛攻を避け反撃を続けていく。
顎の弱点は
だが、戦場になった空間に対して竜の神は大きすぎた。
男はやがて回避の先を失い、竜の拳で岩壁へと叩きつけられた。
だが、男は復活する。
その身に宿したデモンズソウルの力が尽きるまで、男は何度でも飛翔する。
男を再び叩き潰さんと迫る竜の喉元に──
──竜の留め具が突き刺さった
────ッ!!!!!
急所を貫かれ、男には目もくれず悶え苦しむ竜の神へ、男の攻撃が殺到する。
竜の留め具を急所に命中させる。それが男の考えた策であった。
生み出した魔物に起動を任せ、男は竜の神を誘導する囮となる。
策は見事に成功し、坑道に残った最後のデーモン、竜の神は斃された。
北の大地
かつて巨人たちが治めていたとされる土地。
既に巨人は消え去ったが、他の土地には見られない巨大な動物達が生息していた。
だが要石が砕かれ、全ては霧の中に拡散した。