デモンズソウル転生とか罰ゲームでは? 作:青ファントム
楔の神殿に戻った男は、黒衣の火防女に神殿を訪れた者が居たかを確認した。
男が要石を攻略している間、新たに神殿に来た者が居ないと知って男は落胆した。
青くなくなったニートは戻ってきていないようだ。無事に職を見つけて外で上手くやっているとよいのだが、そうでないのなら申し訳ないことをしてしまった。
また、自分以外にデーモンを斃して回っている者が神殿に居ないことも確認できた。
既に要石によって繋ぎ止められたエリアの過半数は攻略され、デーモンも多くが男に斃された。それでも、それらしい存在が確認されないということは、この世界に今後”デーモンを殺す者”が現れる可能性が低いか、そもそも無いということだろう。
その場合、世界の命運を握ることになるのは恐らく男だ。
デーモンか要か、世界の奴隷か古い獣の奴隷か、覚悟を決めた男は王城へ向かった。
公使から奪った帽子が思いのほか着け心地が良かったので、男は帽子を被ったままつらぬきの騎士と対峙することになった。
突進しながら突きを放つ騎士に対して、男は魔物の兵による足止めと魔法による迎撃を選択した。
魔物の兵を貫きながらも勢いを大きく減じた騎士は、石像の陰へ素早く移動し魔法を凌いだ。
立ち並ぶ石像を盾としながら騎士は距離を詰めていく、魔物の兵を蹴散らされ、護りを失った男に刃が届く寸前、男は転移で大きく距離を離し、分身を生み出した。
戦場に散らばった分身により、騎士は隠れる場所を失ったに見えたが、騎士はその速度で魔法を躱しつつ、剣で貫いた魔物の兵を放り投げることで分身を消していく。
魔物の兵が存在する限り分身は投擲を受け続けるが、魔物の兵で足止めをしなければ、騎士に追いつかれる。転移は使用に難がある能力だ。石像が立ち並ぶこの空間では魔物の兵での足止め無くしては転移による回避は何度も成立しない。
魔物の兵による足止めを諦める場合、男は近接戦という騎士の領域でつらぬきの騎士を相手どる必要がでてくる。そんなことができるのは本物の騎士ぐらいだ。
どうにか足を止められないかと魔法陣を設置するが、騎士は地面を魔法を込めた剣で切り裂き、魔法陣を強引に無力化しながら戦場を駆ける。
騎士の二度目の接近に対して、男が転移先に選んだのは、戦場に立ち並ぶ石像の上だった。
当然、不安定な足場だが、嵐を纏い浮遊する男には問題にならない。
転移に合わせて魔物の兵は消しているため、騎士に飛び道具はない。
後は、剣の届かぬ空中から分身と共に撃ち続ければ良い。
分身を消すための投擲物を失い、空中からの攻撃に対しては石像も有効な遮蔽とならず、少しずつ騎士に攻撃が命中し始める。
遮蔽を求めて騎士が戦場を駆け回るが、男と分身は飛行しながらその位置を更新し、石像が遮蔽物として使われないように立ち回っていく。
そうして一方的な攻撃が続いた後、騎士が突然男の下方へ向けて駆けた。
空中にいる以上攻撃が届くとは思わないが、男は念のため後方へ飛行する。
だが、騎士の速度の方が遥かに速いため相対距離は縮んでいき──
──騎士が石像を駆け上った。
「ッ!?」
男の体は石像の上方にはない。だが、騎士の健脚なら十分に突きの届く範囲であった。
つらぬきの騎士、その名の由来となった必殺の一撃が、男に向かった。
空中に留まる男は転移による回避が行えず、騎士の剣に貫かれた。
デーモンの肉体が物理的衝撃で欠損を起こすことは稀、デモンズソウルを多数取り込みその肉体を魔へ近づけた男の体も同様に肉体を武器が貫くことはありえない──その理を捻じ伏せて突き刺さった剣を騎士は空中に居るまま器用に振りぬき、男を地へと叩きつけた。
防護の力を貫いた剣だが、落下の衝撃を含めてもなお男の命には届かない。だが、騎士に問題はない。騎士と男の距離は、かつてなく縮まった。戦いは騎士の領域、近接戦へ移行する。
形勢が逆転し、転移の隙も無い騎士の猛攻が男を追い詰めていく。
男も元は神職。武器の扱いも苦手ではないが、騎士の攻撃を凌ぎきれる技量はない。
デーモンという幻想であるが故の隙を、幻想であるが故の人外の膂力と敏捷で騎士は捻じ伏せる。
動作の隙はあるが、起こりを見てからは間に合わぬほど斬撃が速いのだ。
盾で覆えぬ体を斬られ、怯んだ隙を再び貫き叩きつけられ、再生の力を上回る猛攻で男の命はついに尽き、復活の力が発動する。
幻想の騎士は動揺を見せず、再び必殺の突きを放つが──
──怪物の膂力をもって、男は突きを弾いた。
騎士は幻想であるが故に、必殺の一撃だけは同じ動作をとる。他の攻撃より溜めが長く、それゆえに只人の防御であれば容赦なく貫く攻撃は、怪物の膂力を持つ男にとって、最も対処の容易な攻撃となる。
必殺の一撃を躱されるのではなく、弾かれた。人々の想定に無い事象に幻想は大きな隙を作り、その身を異形の刃で打ち上げられた。
空中へ持ち上がった騎士へ、其の必殺の一撃を形だけなぞるように──しかし、貫かれぬが故に明らかに異なった挙動で──刃が振りぬかれ、地へと叩き落された。
もう一匹の飛竜を討ち、その力を手にした男は王城の最奥へと辿り着いた。
古い獣の目覚め、それに起因するボーレタリアの滅亡、その元凶となった王──老王オーラント──のデーモンが佇んでいた。
”デーモンを喰らう者よ、更なる力を求めるか”
その似姿よりずっと近い場所から男に声が届いた。
”無意味なことだ。とうに気付いているだろう。もとより世界は悲劇にすぎない”
厳格な声には、深い絶望が刻み込まれているように感じられる。
王の似姿が疾走する。
男は3体の竜のソウルを取り込んだことで強化された火炎を放ち、一面を火の海にする。
王の姿が炎の向こうへ消えるが、男は分身からも火炎を放ち、火の勢いを更に強める。
“そのソウル、伊達ではないということか”
玉座の間に満ちた火が老王の斬撃によって断たれ、水を纏った老王が男のもとへ飛び出してくる。
神速の突進と共に放たれた斬撃に伴う衝撃波により分身たちが薙ぎ払われ、追って放たれた三連撃が男の身を切り刻むが、防護の力により傷は浅くすんだ。
王の纏う水の鎧に対して、火の攻撃は有効ではない。それに加えて、先程の突進で見せた移動速度に対応するには視界を不良にする広範囲な火炎攻撃は不向きだ。
男は転移で距離をとると、魔物の兵を召喚した。
王は剣を振り衝撃波を放つが、盾を構えた魔物は耐え抜き、一斉に反撃の投槍を放つ。
水の鎧を脱ぎ、光を纏った王は剣で防ぎ、払い、時にその身で受けながら槍の雨を超えていく。
王と己を隔てる魔物の兵が、数を大きく減らされたことで男は二度目の転移を発動し──
──転移先へ移動していた王の似姿と対面した。
「なっ!?──ぐッ」
先回りされたことに動揺し、為す術なく掴み上げられた男は、神の怒りを発動することで吸魂を間一髪で回避し、炎の嵐で水の鎧を脱いだ王を焼こうとする。
「アンタもできるのか──」
火柱が上がると同時に後退した男の目の前に現れたのは、光と水の鎧を纏う王の似姿だった。
“只人の身では至難の業だがな”
王の声が、玉座の間に響いた。
「”ソウルと外界を繋ぐ道は多様だが同じものは無い”でしたか?」
ソウルの業の深淵、それに己より迫っていたであろう先達に男は問い掛けた。
“如何にも。それ故に同系統の魔法を同時に行使することは人のソウルには不可能だった。”
“そして無数の人のソウルの集合体であるデモンズソウルならば、その制約から逃れられる”
“我らはそう思い込んでいた”
探求者としての一面も持つ王は饒舌に答えるが、声に含まれた絶望は一層と深くなった。
王の似姿が魔力を纏った剣を男に向けて振るう。
男は盾で防ぎ、防御を貫いた魔力によるダメージは再生の力で補う。
それに対して放たれた追撃の剣は炎を纏うが、赤熱のデモンズソウルを取り込んだ男は、水を纏わずとも強い炎への耐性を持っている。
反撃に放たれたソウルの光を王はその俊足で振り切り、再度突進を行う。
炎を消し、代わりにその光を強く増した剣を男は転移で回避する。先程は転移先を予測され、先回りされたが、突進の最中であれば予測されても方向変換して先回りは不可能だろう。
その予想はあたり、距離を大きく離した男はソウルの魔法を放とうとする。
──が魔法は形を為さずに霧散した。
「反魔法領域!?」
“王が神職の真似事はしないと思ったか?”
“奇跡もソウルの業に過ぎん”
魔法と分類されないソウルの業も使えるが、魔法である転移が使用できないのは望ましくない。
男は後退し、反魔法領域の範囲外に出ると、王の似姿が突進の構えをとったところで素早く転移の準備をし、突進と同時に転移した。
反魔法領域は、範囲外で使用される魔法には無力だ。転移により距離を取りながら魔法を発動すれば問題はない。その考えは──
──突進とは逆方向、王の似姿の背後へ転移した男の、更に背後からの斬撃で切り裂かれた。
「なん──ッ!?」
強い魔力を纏った斬撃によりその身を深く切り裂かれた男は地面を転がり、追撃の剣を更に転がることで避ける。
その最中に男は先程の現象の正体を考えていた。
あの時、王の似姿が立っていた場所は突進の方向とは逆方向。それに加え、突進と同時に転移した以上、男の背後に回り込むには方向変換と相当な移動速度が必要になる。
しかし、突進の勢いはそこまで強いものではなかったはずだ。つまり──
「転移もソウルの業だから真似できるのか」
“聡明だな、出会いが違えば臣として取り立てていたかもしれん”
魔法学院で己の師が見せたような、僅かな喜色の滲む声で王が答えた。
王の似姿は、ソウルの業を探求した王がそうであったように多様なソウルの業を行使できるデーモンとなっていた。それは、水のベール、防護、魔力の武器のような基本的な魔法のみならず、反魔法領域のような奇跡や転移のようなデーモンの魔法、そして炎の武器ともいうべき存在しない魔法も含まれる。そして、その万能性をより驚異としているのは──
“これで魔法も封じた。次はどうする?”
──王の似姿、それをたった一人で構築した王である。
攻撃に合わせて適切な対策を行い、相手の用いたソウルの業さえ模倣する。デーモンの中で唯一、ただ一人の想いから生まれ、生み出した者が未だ存命であるからこそ、王の似姿はオーラントの望むがままにその在り方を変える。
他者の支援を受けるデーモンという点は女王の似姿にも近いが、大きな相違点に支援を行っている相手を排すという策が通用しないことがある。
オーラントはこの世にまだ姿を現さぬあるデーモンと共にある。そのデーモンを引きずりだすには、まず王の似姿を倒さねばならない。
女王の似姿のようにオーラントを倒さねば何度でも蘇るということは無いと信じたいが、己よりもソウルの業に通じた王とその意のままに在り方を変えるデーモンを斃すのは容易ではない。
男は硬質のデモンズソウルの力で炎を纏った槍で王の似姿を突く、剣で容易くいなされ、反撃を受けそうになるが、新たに召喚した異形の大斧を頭部に叩きつける。
水と光の鎧を纏っている以上、有効打にはならないが、無効化はされない。
魔法が封じられ、武器に道具を塗る時間が与えられない以上は有効打でなくとも地道に攻撃を与えていくしかない。槍の射出で動きを阻害しながら攻撃を重ねるが、少しずつ対応が早まる。
武器を召喚するより先に王の剣が防御の構えを取り、槍を射出するより先に王は移動を始める。聖女がそうしたように、王も男のソウルの活性を見切り、攻撃を予測できていた。
そして聖女よりソウルの業に通ずる王は、同じデモンズソウルの活性に対しても、僅かな差を読み取りどのような攻撃を行うかまでを正確に予測していた。
反撃を的確に封じられ男は追い詰められていくが、その中でふと疑問を覚えた。
自分は何故まだ斃れていない?
魔力を纏った剣の攻撃は防御の上から自分を脅かしているし、自分の攻撃は見切られ一方的に攻撃を受けている。大量のデモンズソウルを取り込み耐久力が大きく増し、再生の力により傷が癒え続けるとはいえ、未だ復活の力が発動しないのは奇妙だ。
そうして男は気付いた。オーラントのデーモン、絶対なる王の姿が虚栄に塗れていることに。
武器の召喚を止めた男は、重厚なメイスで王に殴りかかった。
叩き潰すメイス
重厚に鍛え上げられたメイス
単純で粗野な武器だが、敬虔な神職ほどこれを好む
誇りなさい、鋼の鍛錬、鋼の信仰を