デモンズソウル転生とか罰ゲームでは? 作:青ファントム
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ソウル抑制と姿隠しを使用した男は、黄衣の老人が居た場所へとひっそりと戻っていた。
そこには、黄衣を纏った黒いソウル体が座して祈りを捧げていた。先程まで戦っていた黄衣を纏った敵は、祈りを受けて復活する能力──女王の似姿に近しいもの──を持った分身だったのだ。
何故、最初から祈りによる復活が為されなかったのか、それは祈る者が黄衣のデーモン自身だからだ。男の前から身を隠すまでは隙だらけな祈りの体勢をとる訳にはいかなかったのだ。
黄衣のデーモンは、自らが生み出したデーモン──愚か者の偶像──が持つ賢しい特性を更に発展させ分身が消滅しないようにすることで、敵対者に無為な戦いを行わせつつ、本体は安全に隠れ続けていたのだ。
背後から忍び寄った男は、今度こそ逃がさぬように黄衣をデーモンの怪力を以って強く掴むと、黄衣が消滅するまで苛烈な攻撃を加え続けた。
要石の先に存在した全てのデーモンを斃した男は、禊の神殿に帰還した。
黄衣のデモンズソウルを己の力とした後、禊の神殿に戻っていた心折れた戦士に謝罪し、古い獣のもとへ向かうことや、何か禊の神殿に異常があれば逃げてほしいことを伝えると、男は黒衣の火防女の後を追って獣のもとへ向かった。
獣の体内へと入った男は──
──手始めに黒衣の火防女を背後から貫いて殺害した。
偽王のデモンズソウルから得た吸魂の力により火防女のデモンズソウルを手中に納めた男は、素早くソレを取り込み力にすると、更に獣の体内の奥深くへと進んでいった。
ファランクスのデーモンを倒した後に、男は要人に問いを投げ掛けた。
霧に呑まれ拡散した存在は、古い獣を鎮めることで戻ってくるのかと。
要人はひどく誠実に残酷な事実を告げた。霧に呑まれた存在は、二度と元には戻らないと。
続けて要人は訴えた。
だが、世界は残り霧に呑まれんとする国々が救われる。未来に可能性を託すことができると。
しかし、男にはどうでも良かった。
元より、男はこの世界に愛着がない。世界が唯一無二の尊い存在でないと知っている。
それでも世界を救うために努力を重ねたのは、故郷とそこに住む人々に愛着があったからだ。
それが戻らぬというのなら、我が身を犠牲に世界を救う気もない。
──だが、獣に傅く気はない。故郷を滅ぼした原因の一つだ。
報復をしなければ収まりがつかない。
男に声が掛けられる。
“貴様・・・なんのつもりだ──ブッ”
故郷を滅ぼしたもう一つの原因、獣を目覚めさせたボーレタリアの王、オーラントに一発こぶしを叩き込むと、男はオーラントの前に座り込んだ。
目の前居るオーラントは人の形を失っている。
肉体は醜悪な肉塊に成り果て、人間であった頃の面影はない。
“・・・デーモンを喰らう者よ。何を目論んでいるか、あるいは、何も考えてないのか。どちらにしろ、はじめての巡礼者だ、歓迎しよう”
“先の非礼も・・・許そう。最早この身は王ではない。なり損ないのデーモンである。故に礼は不要だ”
王であった者は、王城でも聞いた絶望の深く刻まれた、しかし威厳の残る声で男に語り掛けた。
“貴様のそのソウル、取り込んだデモンズソウルを己の形に変化させることなく維持している”
“そのソウルの比重を限りなくデーモンのものに傾かせつつも、己の持つ人のソウルを完全に保ち続ける妙技は称賛に値する”
ソウルの業を深く探求した者は男の業を高く評価した。
強大なデモンズソウルをそのまま取り込んだことで、そのソウルをほぼデーモンのそれへと堕としながらも、男は自分自身のソウルだけは固く保持していた。
“だが、気付いている筈だ。己のソウルがデーモンのそれへ変貌していることに”
“わかるか。もとより、世界とは悲劇だ。デーモンと人を分け隔てる壁は無く、我らは薄氷のような虚構の上で、与えられた役割を演じているだけだ”
人のソウルとデーモンのソウル、二つを隔てる壁は無い。聖女が人からデーモンへと堕ちたように、マンイーターがデーモンへ堕とされたように、切っ掛けさえあれば容易く人はデーモンに変貌する。
それは何故か──
「全てはソウルが、そういう形をしているだけだから。そうでしょう?」
ソウルの最小単位ともいうべき存在、それらが異なる結び付き方をすることで、この世界の万物には差異が生まれている。
人もデーモンも、もっと言えば霧に呑まれ拡散した草木や土地、建物さえもその根本にあるのは同じだ。それ故に霧と共にすべては拡散したのだ。
“獣は悪ではない。あれは神の用意した終幕だ。ソウルを解きすべての悲劇を終わらせるためのな”
“貴様・・・分からないか・・・本当は──”
「──古い獣、世界の理を滅ぼしたい」
“──何だと?”
男は己の目的をオーラントに告げた。
男を動かしてきた動機は単純だ。故郷を滅ぼした原因への報復、それだけだ。オーラントの愚行が発端だから殴る。古い獣が原因の一つだから斃す。そして世界の理が要因なら、それを破壊する。
どれ程の残酷な真実があろうと、男は抗うことを止めない。
第二の人生が、ボーレタリアで始まった事に気付いた時に比べれば、衝撃は軽いものだ。
世界がどうしようもないことなど最初からだったのだ。
“・・・無駄なことだ。獣は尖兵に過ぎん。獣を滅ぼしたところで、次なる滅びが生まれるだけだ・・・”
オーラントの言葉は、男の意図を誤解したものだった。
確かに、世界の拡散があるべき流れだと言うのならば、現れた驚異を斃したところで、次が現れるだけだ。かつて、男が拡散の尖兵と対峙した時のように。
しかし、男が敵視した”古い獣”とは、オーラントが目覚めさせたデーモンのことではない。確かにこの強大な怪物も敵ではあるが、男が倒したいのはその源なのだ。
「これは、”古い獣”のデーモンだ。滅ぼしたいのは”古い獣”だ」
“・・・なに?”
男はその出自ゆえにこの世界に関する特殊な知識がある。それは断片的であるが、紛れもない真実であった。
“獣のデモンズソウル”それはこの場にある存在が”古い獣”のデーモンであることを示している。そして、デーモンは人が変じた存在を除き人々の想像より生まれた偽物である。
つまり、ボーレタリアを滅ぼした怪物は、”古い獣”──世界の拡散そのもの──への恐れが生み出した、ただのデーモンにすぎない。
「デーモンはその身を構成した想像に合わせて能力を持つ。竜なら翼と炎、剣士なら剣、そしてこのデーモンなら”古い獣”、世界の拡散に干渉する能力があるはずだ」
“つまり、「古い獣」のデーモンの力で、「古い獣」という世界の理に干渉しようということか”
オーラントの声には悲観的な響きがまだ強く残っている。
”愚かな・・・一枚の葉が樹を覆い尽くすことは有り得ぬ”
オーラントの言葉は正しい。
”古い獣”のデーモンの力は強大だが、デーモンの力の由来は世界の理である”古い獣”だ。
葉が樹自体より大きくなることはない。獣のデモンズソウルから得られる力は、古い獣という世界の理に対してひどく矮小なものだろう。
「無謀でしょうね」
男もそれは分かっている。
「けど、このままの世界は気に食わない。可能性があるなら、それに賭けたい」
「このどうしようもない世界の要になるよりも、このろくでもない滅びの奴隷になるよりも、この悲劇への反逆者となりたい」
この世界で第二の人生を歩んだことで、世界の要となる意義が見付かりもしたが、それは既に霧の中へ拡散してしまった。
第三の道の可能性があるのなら、男はそれに賭けたい。
”・・・そうか、では余のソウルも足しにして行け”
オーラントは男に提案した。
「・・・良いのですか?」
”・・・貴様があのデーモンを殺した以上、拡散の霧を止めるには貴様が「古い獣」を討たねばならない”
“貴様が見せた余のデーモンとの戦いは、些か心許ないものであった。「古い獣」への勝ち目を増やすには、デモンズソウルが多い方が良い”
”ならばこそ、この身に宿したなりそこないのデモンズソウルもその足しにするがよい”
「ひどく分の悪い賭けだと思いますが──?」
“貴様の言には筋が通っていた。恐らくその考えは真実なのだろう”
“であれば、他に拡散の霧を止める術は貴様自身が潰しただろうに”
“そうなれば、どれほど分が悪かろうと拡散の霧が止められる手段を取るべきだ”
“最早この身は、自らがボーレタリアを救い、過ちを贖うことさえ叶わぬのだ。それに──”
「──それに?」
”願わくば・・・この悲劇を止めて欲しい”
“このどうしようもない世界を破壊し、少しでも良い世界を未来に託して欲しい”
“頼む──”
「──わかりました。王よ」
王を討った男は、偽王と火防女の二つのデモンズソウルの力で強化された吸魂の力で”古い獣”のデーモンからデモンズソウルを奪い取ると、その身に最後のデモンズソウルを取り込んだ。
世界の拡散を司る”古い獣”、そのデーモンの力を男が手に入れたことにより、霧は晴れ、世界の拡散はひどく緩やかなものとなった。
要人、要石、これらを世界が求めることはしばらくの間無いだろう
──そして、男と世界の、形が残らぬ戦いが始まった。
霧が無くとも、世界は未だ拡散に向かいつつある。人の生がほんの一瞬に思えるような長い時間を掛けて、人が解け、天が解け、地が解け、世界が拡散していく。
男は獣のデモンズソウルを取り込んで得た力で拡散を抑え込みながら、世界の理”古い獣”を討たんと奮闘する。
世界の理に挑むという、一匹の小蟻が千里続く山を崩すよりも無謀な挑戦であったが、男は長い時間をかけて少しずつ、僅かずつ山を崩していった。
──そうして長い長い戦いの果てに”古い獣”は遂に斃された。
人の寿命を遥かに超えて戦った男は、その体を人でもデーモンでもない、強いて言えば植物に近い何かへと変えていた。
「──勝った」
その言葉を最後に、とっくの昔に人としての死を迎えていた最後の人間がその生涯を終えた。
長い戦いの中で多くの物が拡散していったが、命に溢れた緑の表層を拡散されながらも、灰色の大地が確かにその形を残していた。
男は次の世界へ、何かを遺して終われたのだ
獣は斃れ、しかし世界は新たなる理を求めた。
拡散の力を失った霧に覆われた灰色の大地には、新たに竜と呼ばれる存在が生まれ、長く世界を支配することとなる。
やがて、この世界には「火」が見いだされ、再びソウルを巡り世界をかけた戦いが行われていくことになるだろう。
──ソウルを求めよ!
アイテム:なりそこないのデモンズソウル
なりそこないのデーモンのソウル。デモンズソウルとしては無価値で、何の力も発現しない。
なりそこない故に、そのデーモンはボーレタリアの民に手をかけることが叶わなかった。