早朝の真昼間、日の沈んだホームには人一人いなかった。
正確にいうのであれば観測者である私の視点から物事を述べているので私を一人にカウントしないというのは至極当然なことであると思うが、それでも読み手に限っては私の観測視点で語られるものを読み取っているということになるため結果として私のことをまるで人ではないかのように語るという仕組みに些か疑問を思えるのは仕方がな──電車がきた。
緩やかに減速し、ホームに入ってくる白黒の電車を目で追いながら私は、思考を中断する。
電車に乗る瞬間というのは、最も気を付けるものだと常々思う。ホームと電車の間に隙間が空いていることをアナウンスで伝えるぐらいだ。そういったケースを考えることは容易い。
もし、この隙間にスマホを落としたら。もし、この溝に足をかけて転んでしまったら。もしこの
奈落に体が滑り込んでしまったら。最悪の想像は私の足の重りとなって慎重さを増させた。
どうにか私がその足で谷を越えたとき思わず立ち止まった。車内は真っ暗で無人だった。
納得した。そうであるべきだと。乗り込むのが私一人の電車に人が乗っているはずがないというおかしな理論で。
先ほど真っ暗と表現した車内であったが、それは間違っている。実際、窓からはまぶしい暗闇が燦々とはっきりと濃い影を作り出していた。
私は歩を進めた。このままではドアに挟まれてしまうと思ったからだ。しかし、無人であるにもかかわらず、私は席に座る気にはなれなかった。座席は窓から差し込む闇によって、くっきりとした曖昧さによって陰に沈んでいるように見えたからだ。私が座席に座ると私自身も沈んでしまうようで怖くて座れなかった。
そんな恐怖心を振り払うように私はドアの窓の外の景色を見ようと正面のドアまで歩き、手すりを支えとしてそれを見た。
いつの間にか発車していた電車から見る景色は歪であった。
ただ『おかしかった』ことだけが記憶に残っている。詳細な説明不可
しばらくすると電車の前方がトンネルに入ろうとしていることを理解した。
トンネルの中に光はない。出口さえも見えない。そんな中に電車が取り込まれていくのに見ていることしかできないというのはどうにかもどかしかった。
少し経つと電車はトンネルに包み込まれた。前までは影の濃淡によってどうにかとらえることのできていた車内も完全な闇に飲み込まれてしまってはどうしようもなかった。
視覚が完全に失われたことによって。今度は感じさえしなかった電車の揺れと、うめく線路の音。
あと、つかんだ手すりの冷たさが遅れてやってきた。
私がそれらを身の置き所としているとふと、電車が減速してきているのを感じ取った。この暗闇で外のなにもかも見ることが出来ないのに。
ついに電車が止まった。音を立て滑らかに開く扉に目をやりながら私は外に出ようとその方向へ歩を進めた。
私がその時、扉をくぐる時。暗闇から、暗闇へ移る時、隙間は奈落と化した。
足はつかなかった。が、気はついた。
起きると深夜であった。湿気を含んだ布団を持ち上げ体を起こす。
もう一度寝る気にはなれなかった。私はスマホを立ち上げた。
風邪の時に見る夢
かぜのときにみるゆめ
きるめにとみのゆかぜ
切る目に富の湯か是