都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった   作:薬指〝笛吹派〝スチューデント

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『握らんとする者』①

 意味がわからない、それがこの世界で目覚めてすぐに俺が抱いた印象だ。

 

 一つ聞きたい、何故俺の目の前に握る者と化したファウストと一緒に義体保持者をクラッシャーしまくるシンクレアがニッコニコの笑顔で寄ってきている?(それは我々が聞きたい)

 

「村雨!来てくれたんですね...」

 

「あっ、あぁ...ファウストさんから今日はシンクレアの初仕事の日だって聞いてな、必ず見に来た方が良いって言われて早めに仕事を終わらせてから来たんだが、パーティーには遅れたみたいだな」

 

 俺の頭には即座にこの場で必要な情報の数々が流れ込んでくる。

 

 おいおい、まるでバッドエンドスチルだけをまとめたフォルダみたいだな。

 

 ひっでぇ情報ばかりだ...この世界のシンクレアが辿った道筋が全部ダイレクトに伝わってくる...あぁくそ、まじで吐き気が込み上げて来そうだ。

 

「大丈夫ですか村雨?」

 

「悪いな直前の仕事が結構きつめだったもんだからふらついてるみてぇだわ、わりぃな...お前の初仕事をちゃんと見てやれなくてよ」

 

「村雨は非常に状態が悪いようですね、もし必要であれば我々の拠点で休むことをファウストは提案します」

 

 あっやっべ親玉が来ちまったよ。

 

 この世界での握る者、そしてゲゼルシャフトとやらによってあらゆる自分と繋がる情報お化けたるファウストさんだ。

 

「いやぁ、まさかシンクレアの初仕事と同じ日に協会経由でN社から血鬼の討伐依頼が来るなんてすっごい偶然だな!」

 

 空気は最悪だ...まぁこうなることを予想していなかったかというとそれは嘘になってしまうが、俺は別に悪意でこんなことを言ってるわけじゃない。

 

 ただ事実だけを淡々と、粛々と伝えただけなのだから。

 

「本社からの依頼、ファウストは把握していません」

 

「そりゃそうだな、多分俺に嫌がらせしたい困ったちゃんの仕業だろうしその辺はまぁ仕方のないことだ。

 ところで、初仕事を終えてどうだシンクレア?あぁ息を整えてからで良いぞ、お前今すっげぇ呼吸が乱れてっからさ」

 

 どうしてこうなったのか、目覚めてしまった俺という記憶とここに至るまでの経緯を整理しよう。

 

 まず俺は、こことは全く違う世界から零れ落ちてこの世界に再誕した。

 

 そして、まず最初に認識したのはおそらく子を産むのに必要な内臓だけを残して全身に強化施術と義体化を施した両親であり、その異様な両親の姿から己がよりにもよってプロジェクトムーンと呼ばれる会社によって創造された世界観、俗に都市と呼ばれる世界にて産まれてしまったという絶望的な事実を理解出来てしまった。

 

 だが、産まれてしまった以上は悲観していても現状は変えられないのだから、俺は結局のところ進み続ける事を選び、そうして年の頃がある程度まで重なった時、俺はこの世界線における運命に出会う。

 

「あの...よろしくお願いします」

 

 ある日、いつも通りK社の巣にある学園で暇潰しに本を読んでいると1人の少年が話しかけてきた。

 

「あぁ...確かシンクレアっていったよな?他の生徒たちが妙に噂してたのを聞いたような気がする。

 まぁ、俺はそんなもん興味なかったもんだから適当に聞き流してたんだが...成る程ね、あんたがその噂の主ってわけだ」

 

「どうやらそうみたいですね、僕としてはあまりそういう噂になってほしくはないんですけど...あの、もし良ければこれからも時々話し相手になって貰えませんか、クラスの皆とは中々うまくいかなくて...」

 

 あぁ、そういやシンクレアの学園時代って子供たちがいつも自分が如何に凄いかを競い合ってるくっそ面倒な感じだったよな?

 

 それで他の生徒連中と全くつるんでない俺に声をかけたってわけか、頼むからもしクローマーって女が声かけてきても紹介してくんなよ?もしそいつが俺の知ってる通りの奴ならもう大惨事確定だからな。

 

「わかったよ、でもほんとに時折にしてくれよ?俺もぶっちゃけ他の生徒連中に目立ちたくないんだわ。

 何せ、俺は本当のところは巣の住人じゃなくて特別に此処へ通うことが許されてるだけの裏路地出身者だからな、何をきっかけにあらぬ噂をかけられるかわかったもんじゃない」

 

「えっ、村雨君って巣の出身じゃないの?」

 

「ストップ、此処ではその話は無しで頼む...まじで噂になられると困るんだわ」

 

 いやほんとまじで頼む、この学校今まで色々転々としてきた中でもトップクラスに居心地良いから、なるべくなら出ていきたくないんだよな。

 

 そんこんなで時折話すようになったシンクレアだったが、それから少ししてからどうも行動がおかしくなった。

 

 しきりに学校を抜け出すようになったし、後をつけて見たらどうにも怪しい連中とつるんでいる。

 

 それを知った日から俺はあいつを少し避けるようになったが、例えばあいつが俺と話そうとした時に既に教室にいなかったり、例えばあいつが俺の肩を叩こうとした瞬間に姿を消してみたり、色々とやってるうちにあいつは学校へ姿を見せなくなった。

 

 気づけば良かったんだ。

 

 あいつは何か良くないことに巻き込まれていて、俺に話しかけてきたのも誰かに自分の話を聞いてもらって不安を和らげるための自己防衛手段であり、それを見逃した俺が生涯消えることのない後悔と定められた代償を負うことになったのは必然だったのだろう。   

 

 俺はあいつを見捨てたのだから。

 

 そして、のうのうと自分1人で学園生活を送っている俺に最悪の報せが届いた。

 

「シンクレアの家族が全員死んでシンクレア自身も行方不明?嘘だろおい、学校で例のクソアマと会ってるような様子なんか見せなかったじゃねぇか!!!...いや待てよ?そういえばあいつ」

 

 俺の記憶に一つだけ引っ掛かるものがあった。

 

 それは今より少し前、俺がいつも通りシンクレアと話していた時の事だ。

 

「初めましてシンクレア、ファウストは貴方にお話があります」

 

「えっ...僕!?」

 

 シンクレアに話しかけてくる女がいたんだ。

 

 そいつは今までに見たことがねぇような美人だったが、どうにも怪しいというか信用ならねぇ雰囲気を纏っていやがった。

 

 白髪に此方の全部を見透かしてるような目、あんなのとはなるべくなら関り合いになりたくないが、そんな女とシンクレアは話していた。

 

 よくよく考えてみれば、あれがクソアマに近いポジションにいる奴だったんじゃないか?

 

「シンクレア、俺お前の事なんもわかってなかったよ...ごめんな」

 

 俺の心には後悔と一緒に、消えることの無い罪もまた深く刻み込まれた。




【登場人物】

『シンクレア』
・リンバスカンパニーの中でもトップクラスにやべぇ奴が友達にいるけど本人は囚人の中だと結構常識的な枠(ただしとあるやべぇ女とクリスマスが絡むとえらいことになるぞ)
 
『ファウスト』
・作者は名前を聞く度ギルティギアの方が思い浮かぶ呪いにかかっている。

『村雨』
・今作の主人公、名前の元ネタは二つある。

・一応リンバスは5.5章『肉斬骨斬』までは進めているがストーリーをちゃんと理解出来ているか非常に不安である。
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