都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった 作:薬指〝笛吹派〝スチューデント
「各協会代表の皆様、お集まり頂きありがとうございます。
これより都市悪夢級案件『血の散華』の第二次対策会議を始めます」
「では最初に我々セブン協会から、皆様お手元の資料をご覧ください」
各協会から会議に集まった代表たちの手元には、大量の赤い花に包まれたフィクサーたちの写真が貼付された厚い紙の束が置かれている。
「最初の事件は1ヶ月前の正午頃、ツヴァイ協会に所属する4級フィクサー3名が出所不明の赤い花に包まれた状態で発見されました。
その後数回に渡って同じような事件が繰り返され、現在に至るまでの犠牲者は計22名、内訳はツヴァイ協会所属フィクサー12名、セブン協会所属フィクサー6名、センク協会所属フィクサー3名、シ協会所属フィクサー1名、犯人は未だ判明していません。
ただしこの事件で犠牲になったフィクサーたちの殺害方法については既に判明しており、直接的な死因はこの資料にある赤い花によって肉体を内側から突き破られた事による大量出血、それによる出血性ショック死のようですね」
「それで『血の散華』と...でどうするつもりだ?この事件放っておいたら犠牲者の数が天井知らずに増えていくぞ、うちの所属フィクサーも一人犠牲になってるが、そいつは2級フィクサーで12人殺されたツヴァイ協会所属フィクサーの中には1級も一人いた。
他の連中も4級以上のフィクサーばかりで錚々たる面々だが、殺害方法が全て同一のものである事からしてそれを単独犯がやってやがるってんだ...半端な面子じゃ敵いやしないだろうさね」
「セブン協会も同意見です、今に至るまで我々にすら尻尾を掴ませないとは...脅威的な隠蔽能力を持っていると予想されます」
「我々ハナ協会としても今回の案件は非常に重要度が高いと判断しています。
ですので...今回の案件は〝特色フィクサー〝を投入する事も視野に入れていますが、それはあくまでも最終手段です」
特色、フィクサーの中でもハナ協会によって認められ〝色〝を与えられた者たちの総称であり、彼らは各々を表す色と特定の単語によって呼称される。
彼らが任される案件は、その悉くが並大抵のフィクサーでは裏路地によく転がっている肉塊の仲間入りをするようなものばかりである。
肉塊では済まないような案件も多いが...まぁそれは今どうでもよい事だ。
「現在犯人こそ判明していませんが、次の犯行が行われる可能性のある場所は何ヵ所か割り出しています。
どうも犯人はツヴァイ協会相手の時だけ非常に強い殺意を抱いているのか死体の損壊度が他の比になりません。
そして、これまでの犯行はツヴァイ協会に所属する少なくとも4級以上のフィクサーが在籍している事務所周辺で行われています」
「成る程ね、それで1ヶ月前からとなるとうちらは例の薬指掃討作戦が脳裏をよぎるよ」
「あれはかなり大規模な作戦でしたね、薬指が大きな催しを行うという情報が入ったことで急遽掃討作戦が組まれましたが、薬指が最近身に付けだした出所不明の工房武器の存在もあって我々に少なくない被害が出ましたね、幸いな事に辛うじて犠牲者は出ませんでした。
ただ、あの会場の中でも主催者らしき男女2人組についてはかなり厄介でしたね、何せ彼らによって会場にいた薬指メンバーの数人が外に逃げ出してしまいましたから」
「そういえば、殺られたうちら所属の2級フィクサーもその作戦に参加しとったな、後詰めで外に逃げ出した薬指構成員を狩る役割を受け持っとったが、もしやそん時の生き残りが報復行動に出とるんやないか?」
「どうでしょうか、あの作戦における薬指構成員の殲滅率は100%つまり生存者は0人だった筈ですから。
もしその考えが正しいのだとすれば、それは犯人があの会場に居なかったドーセントより上の階級の構成員ということになりますよ」
その言葉に会議に参加していた全員が口ごもる。
ドーセントより上の階級、マエストロクラスが関わっているのならこの案件は最早都市悪夢級では済まない可能性があるからだ。
「最後にもう一つだけ、役に立つかはわかりませんが...」
「今は少しでも多くの情報が必要でしょう、話してください」
「犯行現場付近に事務所を構えているフィクサーたちから提供された情報なのですが、事件前後に通りで今まで聞いたことのない童歌のようなものを口ずさんでいる女性を見たという証言が寄せられています。
今回の事件に関わりがあるかはわかりませんが、その人物が現れた前後に事件が起きているので犯人でなかったとしても何かしろの情報を握っているのではないかと現在我々セブン協会とツヴァイ協会による共同捜索を行っています」
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・・・1ヶ月前
「先生、その机の上の物は何なんですか?」
この日俺は、生徒たちに頼まれて作品たちが置いてある私室へ入れてあげる事になったのだ。
「嗚呼、それはもうすぐ出来上がる作品だね、いわゆるイースターエッグとでも言うべきものかな?でも完成させるにはまだ足りない要素があるんだ」
「先生、触ってみても良いですか?」
「構わないよ、手に取って...そして確かめてごらん。
そうしてその作品に足りないものがわかったなら、それを僕に伝えてみて欲しい。」
生徒の一人エドは作品を手に取りじっくりと見つめる。
作品は赤い花を象った装飾の施された大きな卵のようなものだ。
そして、手にとってみてすぐにいったい何が足りないのかをエドは理解した。
「これ、もしかして中身がまだないんですか?」
「うん、そうだね大正解だよ...このままではまだ中身はないんだ。
だからね、中身に何を入れるかは少し悩み所...この空の卵を満たす三つの要素、記憶、血、そして人を人足らしめるもの、その内二つは用意出来ている。
でもね、最後の一つである人を人足らしめるものを手に入れるのがかなり難しいんだ...あれは抽出するのにとても手間がかかるからね、でもその全てが揃った時、この卵は孵り...長きに渡る甘美なる散華を迎えるんだ」
「あの先生、一つお話があるんですが...」
「おや?どうしたんだいハンナ、そんな神妙な顔をして」
「実は私、今度ヨハンと結婚する事になったんです...だからその、先生に親族代表のスピーチをお願いしたいんです。
私たちには、もう結婚を祝ってくれる親族もいませんから...」
そっか、そういえばヨハンとハンナは裏路地で家族を亡くして彷徨っているところを薬指にスカウトされたんだったね。
都市ではよくある事だけど、それでもいつだってこういうのは慣れないなぁ...だって悲しいじゃないか、親からの愛を謳歌するべき子供たちが悲しみと苦痛に満ちた道を歩むしかないなんてさ。
だからこそ俺は出来る範囲で人をより良い方向へと導いてあげたいんだ。
俺に出来る事は少ないけど、それでもきっと何かしてあげられる事はある筈だって思っているから。
「いいよ、僕で良いなら喜んでやらせてもらうよ。
でも良いの?僕はそんなにスピーチとか得意じゃないから、もしかしたら本番で緊張し過ぎて嚙んじゃったりするかもしれないし、僕は君たちに親みたいな事はしてあげられていないから。
本当に僕で良いのかい?」
「はい、先生にお願いしたいんです」
そうか、そこまで言うなら俺の答えは一つしかない。
「それじゃ引き受けさせてもらおうかな、お祝いの品も用意するから楽しみにしててね」
子供は久しぶりに喜びの表情を浮かべていたんだ。
可愛い生徒たちが新たな門出を迎え家族となる。
ただそれだけで子供にとってはとても素晴らしい出来事だったのね。
でもね、この都市ではそういう幸せは長続きしないものなの。
それが裏路地でなら尚更ね...可哀想だけど、それでもまた子供は立ち上がるのでしょうね。
そして、とても綺麗な花を咲かせるのでしょう。
『人格の混線を確認、想定されるシナリオを再構築』
『鏡面再観測開始』
『観測完了、鏡観測人格シナリオ再構築「薬指肉体派マエストロ代理」→観測完了...人格ストーリー「血の散華」シナリオをアンロックします』
【登場人物紹介】
『規律正しいハナ協会代表』
・都市悪夢級案件「血の散華」の対策会議を招集したハナ協会からの代表、一応1級フィクサー。
『礼儀正しいセブン協会代表』
・「血の散華」対策会議における資料用意役として呼ばれたセブン協会からの代表、2級フィクサー。
『寡黙なセンク協会代表』
・センク協会から派遣された代表、一度も喋っていないが理由は得意ではない会議の場に無理矢理駆り出された為、一応2級フィクサー。
『柄の悪いシ協会代表』
・シ協会から派遣された代表、1級フィクサーだが課長ではない。
『エド』
・今回とうとう台詞を与えられた主人公の生徒、主人公の作品の足りないところを一発で当てた凄い子。
『ハンナ&ヨハン』
・この度結婚が決まったので先生に代表スピーチをして欲しいとお願いした。
死亡フラグがビンビンに立ち始めている気がするのは私だけか?
『主人公』
・作ってる物が結構ヤバそうな物で、今後それが面白い事を引き起こすかも?因みにこの作品とやらが親方ホンルに見せる為の〝刺激〝の一つらしい。
主人公が作ったこのイースターエッグ擬きの外観は、バスケットボール程の大きさがある卵に曼珠沙華、つまり彼岸花が沢山巻き付いたような意匠が施されているぞ。
解決済みの人格ストーリー(例えば握らんとする者)の後日談は必要ですか?
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必要
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必要ない