都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった 作:薬指〝笛吹派〝スチューデント
あの結婚式の日以来、先生は子を失った母親のようになってしまわれた。
先生はヨハンとハンナを特に可愛がっていましたから、本当にショックが大きかったんでしょうね。
そして、前にも増して自室に籠るようになり作品の完成に心血を注いで没頭するようになりました。
「先生、無理をなさっていませんか?偶にはちゃんと休息を取らなければ倒れてしまいます」
「エドでしたか、すいませんね...もう少し、本当にもう少しなんです。
あの子たちの願いも、マエストロ殿に見せる為の特別で鮮烈な彩りも、私が目指すその全てがもうすぐ成就します。
だから私は、後少しだけ堪えて頑張る必要があるんですよ」
「そうですか...ところで先生、最近いつも工房武器を作る際に用いておられるという例の血で作られた形状記憶流体合金を量産しておられますが、あれもこの前見せてくださったあの作品と何か関係があるのですか?」
先生が我々生徒や画材調達班に配っていた腕に巻き付ける布のような工房武器、あれには特殊な流体金属が使われている。
いわく、人の血液から精製したものであるという噂があるが、その真偽は誰も知らない。
「血は全てを記憶していますから、知識、経験、その人が歩んできた道筋、その全てを血は憶えているんです。
だから私の作品、真血流体とそれで作られたこのソムニアは、色んな形を記憶しているのですよ」
最近の先生は会話が成り立っているのかも怪しい、愛用の工房武器にして薬指に身を置いてから作ったという作品『ソムニア』を常に傍らへ携えて夜な夜な裏路地に1人歩いて行かれているようなのですが、如何に先生がマエストロ殿と同格クラスといってもいずれ何かしろのボロが出てしまう可能性がある。
そういえば、先生の作品『ソムニア』についてはまだ資料を完全に纏めていませんでしたね。
そろそろちゃんと片して置かないといけません。
先生の作品『ソムニア』は状況に応じて形を変える流体金属で構成されたいわゆるツインブレードと呼ばれる類いのものです。
ただ形がとても奇抜で、何故か両端の刃にあたる部分が彼岸花のよう形状なんです。
ええ、両端にお花が咲いているわけですね、でもうけ狙いとかそういうわけではなく、その花弁一つ一つが凄まじい切断性を持つ硬質な刃になっているらしく、先生はそれを物凄い勢いで社交ダンスを踊るように回転させて凪払うのです。
そして、色んな形を記憶しているという先生のお言葉通りソムニアは幾つかの派生形態を持ちます。
つまりは変形機構ですね。
それが非常に厄介で、間合いがずれるので実力者程戦いのペースを掻き乱されるという本当に敵に回したくない特徴を持ちます。
しかし、先生はあれ程までに複雑な武器をどうやって扱っているのでしょう?変形機構にも謎が多いですし。
あぁ、そういえば一つだけ先生に言わなければならない事があるんでした。
「先生、お忙しいところ失礼を承知のうえでお聞き願いたい事があるんです」
「大事な話かな?それは此処で話しても大丈夫な内容かい?」
「...」
「そうか、それじゃ着替えて来るから少しだけ待っていてくれ」
先生...ごめんなさい。
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「さて、お話というのは何かな?...といってもまぁ、もう何となく察してはいるんだよ?
君なんだろ、ヨハンとハンナの結婚式の情報を協会に流してあの式場を襲撃させたのは、私はそうだと確信してるけど...でもそうだね。
私は、君自身の口から聞かせて欲しいんだ...何故君がそんな裏切り者に成り下がったのか、その理由をさ」
「...やっぱり先生には全部わかってしまいますよね。
そうです、私が2人を売り渡しあの式場をフィクサーたちに襲撃させた張本人であり、セブン協会所属2級フィクサーのエドです」
「成る程、私としては変装がお得意なツヴァイあたりかと思っていたのですが、どうやらあてが外れたみたいですね。
でも、本当に残念です、貴方はとても優秀な生徒でしたから、えぇ...本当に期待していたんですよ?貴方がもしかしたら薬指の次代を担う寵児足り得るのではないかと、そう思っていました。
けど、貴方には最初から別の目的があったんですね」
嗚呼、先生にはやはりそんなところまでバレてしまっているのか。
「はい、私は先生を協会へお連れする為に薬指へ潜入しました」
頼むからうまく行ってくれよ?此処からの会話が全て未来への一歩に繋がるのだから。
「先生は酷くまっとうなお方です、本来であればもう少しちゃんとした形でお話をしたかったのですが...えぇ、単刀直入に言いましょうか。
我々セブン協会とツヴァイ協会は貴方を我々専属の工房長として迎え入れたいと思っているのです。
貴方はこんなところにいるべき人じゃない、貴方の作る工房武器はとても画期的で、誰かを守るのにこれ以上ない程に適しているんです!だから!!!」
「...嗚呼エド、私の可愛い生徒の1人、でもね?そんな風に泣き腫らしたって、裏切り者の君が死なないわけがないじゃないですか」
「先生?」
「本当に悲しい事です、貴方は私の可愛い生徒ですが、それと同時に私の可愛い生徒たちをフィクサーに売り払った裏切り者でもある。
そんな貴方は、私の可愛い生徒だと言えるのてしょうか?いいえ、貴方はもう私の生徒ではありません。
貴方はもう、ただのクソッタレだ。
最後に一つだけ聞いておきます、貴方は私の生徒ですか?それとも忌々しいセブン協会のフィクサーですか?」
「私は、私は...!セブン協会所属2級フィクサーエドです!」
「そうですか...貴方は本当に真面目ですね、とても残念です」
子供は本当に悲しそうだったわ。
確かに目の前にいるのは裏切り者だけれど、子供はそれでもまだ信じたかったんだ。
この子は自分の生徒だから、愛おしい蕾たちだからって、そう信じたかったみたい。
でもね、この都市においてそんな願いは絶体に叶わないの。
だって、この都市はこんなにも苦痛に満ちているから。
【登場人物紹介】
『セブン協会所属2級フィクサー:エド』
・潜入捜査の達人で、ありとあらゆる組織に入り込んで悪事が行われる前に潰すことを信条にしていた。
ヨハンとハンナに関しては親しい友人たちではあったが、薬指なんかに所属してしまったのが運のつきだったのだと割りきっていた。
・先生こと曼珠、もとい主人公の事を協会側に引き入れるために送り込まれたが、よりにもよって生徒たちが大勢集まる場所の情報を流して襲撃させるという最悪なムーブをかましたせいでぶちギレ過ぎて青キチ兄さんみたいになった主人公に締められかけている。
『主人公』
・やってる事がゴリゴリ薬指と化している、生徒たちをフィクサーに売り払ったのがこれまた自分の生徒だったことでメンタル崩壊が更に進んだ。
でも当初の目標は忘れてないので薬指親方ホンルに鮮烈な彩りを見せようと頑張っている。
後少しだけ『血の散華』フェーズは続くが最終的には『薬指親方』を本筋としたシナリオに回帰する。
解決済みの人格ストーリー(例えば握らんとする者)の後日談は必要ですか?
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必要
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必要ない