都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった   作:薬指〝笛吹派〝スチューデント

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『血の散華』④+『薬指親方』④

 視界に広がるのは見渡す限りの緋色、それはかつてフィクサーだった肉塊を苗床として咲き誇る赤い花である。

 

Come into flower♪Come into flower♪

 

 鮮血に染まり、何処までも広がる赤い景色の中で、その場に似つかわしくない子守唄のような歌声が響く。

 

Ring the bell♪

 

 それはこれから巣立っていく子供たちを思う歌であり...

 

「これが事件の前後にフィクサーたちが聞いたという童謡の正体ですか、そうですよね...ヨハンとハンナを特に可愛がっていた貴方なら憶えていますよね。

 あの2人はよく一緒に口ずさんでいましたから、彼らの故郷に伝わる巣立ちの時を迎える子供たちを思う歌。

 

 えぇ...全て私のせいです、私が2人を裏切ってしまったから、私が貴方を裏切ってしまったから、貴方はもうどうしようもないくらいに狂ってしまった」

 

 狂ったように歌いながら、踊るように得物を振るうその姿に生徒たちを愛していたかつての面影はなく。

 

Cute Children leaving home to celebrate♪

 

 代わりにその顔は、とても綺麗で優しさを湛えていたその眼は、今やどうしようもなく膨れ上がってしまった憎悪に満ち溢れ、赤く赤く、緋色の狂光に染まり切っていた。

 

 わかっていた...わかっていたんだ。

 

 もう止められないって事くらいあの日からずっとわかってた。

 

 私の罪はそれ程までに重く、そして非常に私の双肩へのし掛かる。

 

 わかっている、全ては私のせいなのだと、視界に広がる全ての悲劇はこの手によって、このあまりにも愚かな我が身によって招かれたのだと。

 

 だからこそ、私は...

 

「先生、もう私を見てはくれないのですね」

 

For you, my beloved ones I sing a song♪

 

 先生は泣くような、震えるような声で歌い続ける。

 

Sweetly tickling the nose scent of flowers together♪

 

 その手の中にはいつの間にか、かつて先生が私たちに見せてくれた中身の無い卵のような作品が、真っ赤に染まって...まるで赤子を扱うような手で先生の傍らに抱かれていた。

 

 いつからそれは其処に在ったのか、脈動するそれは今にも破裂しそうな様相を呈し、先生はそれを愛おしい我が子を見るような眼で見詰めている。

 

「本部より入電!間もなく討伐隊の第二陣が到着すると!」

 

「その中に1級以上のフィクサーは含まれていますか?」

 

「何故そのような事を?」

 

「あれはもう私たちの手に終える案件ではなくなってしまったかもしれません」

 

 先生の腕の中で抱かれ、脈動するそれは...今にも中から何かが飛び出して来そうな、最悪の展開を予想させる状態に成っている。

 

『さぁ...散華の時間ですよ、ヨハン、ハンナ』

 

 視界が暗く、夜のように黒く染まった。

 

 ヨハン...ハンナ?何故2人の名前が出てくるのですか先生?

 

『2人の御披露目の為に、沢山観客を集めておいたんです、マエストロ殿もこの催しを見ていてくれているんです。

 

 だからね、さぁ...共に再誕と再開の喜びを謳歌しましょう?

 

 ...散華なさい、ヨハン、ハンナ』

 

 いつの間にか先生をくるむようにして卵の中から植物の蔦のような、それでいて何かの肉のような質感をした何かが先生に絡みついている。

 

 そして、その何かは私たちに向けて、まるで罪人を貫く杭のように勢いよく伸ばされた。

 

 一瞬のうちに、いったい何人がそれに貫かれたのだろうか?

 

 視界を埋め尽くすそれで、最早何が起きているのかすらわからない。

 

 でも、何か恐ろしい事が起きているという事実だけは理解出来た。

 

「ごめんなさい先生...私が喋ってしまったから、私が結婚式の事を溢してしまったから、こんな事になってしまった」

 

 本当にちょっとした自慢のつもりだった。

 

 新しい友人が出来た...その友人たちの結婚式に出るのだと。

 

 でも、その余計な言葉から全てがバレて、ヨハンとハンナも先生も、あの楽しかった教室も、全部私が台無しにしてしまった。

 

『さぁ2人とも...観客の皆さんと一緒に凱旋パレードと行きましょうか。

 きっとマエストロ殿も喜んでくれますよ、あの人は貴方たちの事もずっと見てくれていましたから、だからこそ僕は許せなかったんです。

 

 私から貴方たちも、他の生徒たちも奪ったフィクサーたちが...ですが、今はもう皆私たちの友人となってくれました』

 

 先生の腕の中で、彼岸花と蔦のような何かが絡みついた卵が一際激しい光を放ち脈動し、それは殻を裂いて現れた。

 

『嗚呼、本当に美しい姿ですよ2人とも』

 

 あれがヨハンとハンナだというのか?あの化物が2人だったものだというのか?

 

 嘘だ...そんなわけがない。

 

 あんな、気色の悪くて毒々しい程に赤い花の化物があの2人のわけがない!

 

『エド、やはり貴方は2人の新しい友人たちになってはくれませんでしたね。

 でも構いません...丁度この光景を見届けるマエストロ殿以外の誰かが欲しかったところですからね。

 貴方にはその役割を担って貰います。

 

 それが、私から貴方に送る最後の授業であり...そして、貴方に対する私からの罰です』

 

「何故ですか先生、何故2人はそのような姿になったのですか!?」

 

 卵から生まれ落ちたそれは、青や赤色をした無数の肉の蔦が絡まり合い、無理矢理人の形に押し込められたような体をしている。

 

 そして、頭は人のそれの代わりに大輪の彼岸花赤々と咲いていた。

 

『2人からのお願いです、私の作品となり私と共に在りたいと。

 でも、それを叶えるのはとても難しい事でした...都市は同じ人間が存在し続ける事を許さないから、だから2人を混ぜる事にしたんです。

 

 2人はいつも一緒でしたからね、愛し合う2人はとてもよく馴染んでくれました。

 

 そして、其処にエンケファリンを濃縮還元して精製したコギトと大量の血を流し込むことで2人は散華の時を迎えたのです。

 

 それに、寂しくはないと思いますよ?もう2人だけではありませんから、2人には沢山新しい友人たちを用意したんです』

 

 先生の言葉が理解出来ない...いや、したくなかったのだ。

 

 先生のいう友人たちとは何を指すのか、もうわかってしまっていたから。

 

 あの2人が入っていた卵から伸びた蔦、その先に何があるのか。

 

『ほら、皆目覚めますよ』

 

「あぁ、嘘だ!?...あぁぁぁ!!!」

 

 それはかつてフィクサーだったのかもしれない、それはかつて私の同僚たちだったのかもしれない。

 

 でも、今はもう違う。

 

 そう、あの蔦の先に在ったのはそれに貫かれた討伐隊の面々で、それらは全て...ヨハンとハンナが成ってしまった怪物によく似た無数の花々へと変貌を遂げていた。

 

『あの子たちは、お披露目の為に何処までも行進して、そして新しい友人たちを増やしていくんです。

 美しいでしょう?あれが私と2人、そしてマエストロ殿が望む鮮烈な彩りになると、僕は確信しているんですよ。

 でも、とても残念ですね..その友人たちの中に貴方がいないというのは、でも仕方のないことかもしれません。

 

 もう私の価値観は、薬指という概念に染まり切ってしまいましたから、きっと普通の感性を持っていて普通の人である貴方には、さぞかしこの光景が悍まく写っているのでしょうね』

 

 そう語る先生の眼は、何処か寂しげであり...そして、悲しみを帯びているようだった。

 

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 惨劇の場より少し遠い建物の上で、マエストロたるホンルはその光景を嬉しそうに見詰めていた。

 

「やはり貴方は、ファウストとは違った形で私に鮮烈で新しい彩を見せてくれましたね曼珠。

 いえ、今は血の散華と読んだ方が良いのでしょうか?とても素晴らしいものを見せて貰いましたが...

 残念ですね、貴方はもうこれ以上生きるつもりがないのですね?だからこそこのような催しで最後の輝きを私の眼に焼き付けようとしている。

 

 嗚呼、本当に、本当にもう少しだけ貴方とお話がしたかったですね、マエストロ曼珠」

 

 そんなホンルの傍らに控えるファウストもまた、その光景にインスピレーションが湧いたのか、ファシアを擦りながら曼珠、ヨハン、ハンナ、そして大勢の新しい友人たちが織り成すグランギニョルを見詰めていた。




【登場人物紹介】

『エド』
・全てはうっかりと溢してしまった言葉から始まってしまった。
 新しく出来た友人の結婚式に出るのだと、そう事務所で語ってしまったのが彼の命運を分けたのだ。
 セブン協会は「潜入している彼の新しい友人、それすなわち薬指の構成員だろう」と勘繰り、そして全てを調べ尽くした。
 そしてあの悲劇は起こってしまったのだ。

 本人の望む望まぬに関係なく。

『薬指親方ホンル』
・めっちゃ良いものを見せて貰ったのでご満悦、でも主人公にもう会えなくなりそうなのがとても残念らしい。

『曼珠』
・なんかもうこの世界での死亡が近そうなフラグがビンビンに立ってるけどホンルは大喜びしてたからもうここで終わっても良いや状態、やけくそキチゲ解放状態ともいう。

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