都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった 作:薬指〝笛吹派〝スチューデント
結局、シンクレアが見つかることはなかった。
俺の裏路地での経験則や知識、ありとあらゆる人脈を使ってもシンクレアに関する情報は欠片も見つかりやしない。
俺は、まるでシンクレアが手の届かない天上の星になってしまったような気がして、一旦学園に戻ってからシンクレアとの談笑の場になっていた図書室の床にへたり込んだ。
「どこに行っちまったんだよシンクレア、失踪した直後なら裏路地を浚えば見つかると思ったんだがなぁ。
まさか情報一つ出てきやしないとは、シンクレアは余程機密性の高い組織に連れていかれたのか?そうなると益々連中の可能性が出てきて厄介だな」
シンクレアが行方不明になった原因で心当たりがあるのは、おそろくこの世界線でも正史の通り行われたクソアマポジションとの邂逅からのL社の覗き見事件、そしてクソアマポジションによるシンクレアの家族殺害。
おそらくだが、シンクレアの家族殺害...そこからのシンクレアの運命が正史とは違うものに派生している可能性が限りなく確定に近い。
「シンクレア、やはりあの女に着いていってしまったのか」
シンクレアに話しかけてきたあの女、ファウストとか言ったか?忘れていたがファウストといえば確か人格の一つに...クソアマ枠はやはり奴か。
そうなればこの世界線でシンクレアに定められた道は『握らんとする者』だな。
ならば俺がやるべき事は一つ、あいつが何処の翼の巣に現れようが駆けつけられるように、顔パスで巣に入れるくらいに実績を積み上げること、そのために再び〝フィクサー〝としての活動を始めるとしよう。
全く、年齢詐称して学園に入ったせいで次にシンクレアに会う頃にはおっさんになってそうだな俺。
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数年が経った、シンクレアはまだ見つかっていない。
フィクサーとしての実績はある程度積み上げて幾つかの翼の巣には入れるようになったが、それでも目的を達成するにはまだ足りない。
N社についても調べてみたが、やはり職員の情報は社外秘ということかシンクレア所属如何についてはなにもわからなかった。
ただし収穫も一つある。
あのクローマー擬きのファウストは今確かにN社にいる。
ならば、いずれ『握らんとする者』として活動を始めるシンクレアもそこにいると見て間違いだろう。
ならばと思いN社にカチコミかまそうかと思ったんだが...紫ババアに拠点凸されてな、危うく四肢切断されかけたぜ。
それはあんたの弟子が将来やられるやつだろうに、勘弁してくれよ...アグレッシブ過ぎるだろあのババアめ。
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...クソが、こんな時に限ってクソみてぇな最低最悪で失敗と泥にまみれた記憶ばっか思い出すとか...はぁ、まじの走馬灯ってか?
「何故、何故ですか村雨!僕は、僕は選ばれたんですよ?貴方も喜んでくれたじゃないですか、なのに何故!!!」
泣き叫ぶようなシンクレアの声がする。
...ははっ、俺はお前を見捨てたうえに沈むような夜闇の中から救い出してやれなかったようなぼんくらだぜ?
「ファウストは理解出来ません、何故貴方は我々を攻撃するのですか?」
自分とシンクレアに向けられた曇り一つないしろがねの刃を見つめながら、クソアマの枠であろう『握る者』ファウストは言葉を紡ぐ。
『悪夢は終わりだ...全てから覚める時間がやって来た』
「悪夢ってなんですか...覚めるってなんですか?僕は、僕は選ばれたと思うことにしてようやく納得出来たのに、そう思うことにしたのに、何故今さら僕をこの汚泥の中から引きずり出そうとするんですか!!!」
嗚呼...そんなに叫ぶなよシンクレア、喉痛めるぜ?
俺は決めたのさ、あの日救えなかったお前を...今度こそはこの薄汚い卑怯者の命を消費してでも救いだしてやるってさ。
だからお前は泣かなくて良い、この世からどうでも良い塵が一つ減るだけだから。
『血をはらいては散華せり、三歩飛んで幾万の歩み』
そう、悲しむ必要はない。
『ほどいては結び、結びては解き、解きし編み目より幻水生ずる』
別れは一瞬だから。
「さようならシンクレア、次は...出来れば違う形で会いたいものだ」
幻結は決した...
「何故です村雨、何故自分を斬ったんですか!」
『全部無かったことにする、その為にはお前の前でこれをやる必要があった』
嗚呼、始まるぞ。
『世界の解け、揺り戻しが起きる...此処がその中心だ』
幻鏡万華、この世の散華となりけり...いざや征かん無窮の果てへ。
「此処は観測されたことで確定された世界、その観測者の判定を俺自身に写し...そして俺ごと斬る事によって全てを無かったことにしてやり直す。
勿論観測されたこの世界で発生した全ての苦痛はそれを転写した俺に収束するし、その分の痛みは全て俺が受けることになる。
...だが、それで良い。
それでようやくトントンだから、友達を見捨てるような奴には丁度良い罰だろうよ」
「村雨、何故そんなことをしたんですか?君は僕にそこまでの事をするような義理なんてない筈です。
確かに友達だったかもしれません、少しの間仲良くしていたかもしれません。
それでも此処までの事をする理由にはならないじゃないですか!」
『最後に一つ教えよう...〝助けたいと思った〝それ以上の理由ねぇんだわ俺』
本当にそれしかなかった。
友達だったからってのもあるし、お前が本当に辿るべき在り方を知っていたってのもあるが、ただ助けたいとそう思ってしまった。
それだけでは不足か?
「ファウストには理解不能です、このままであれば貴方もまた我々の元へ迎え入れられていた筈です。
そうなれば、貴方の目的もまた達せられていたのでは?」
はははっ、元凶が何か言ってらぁ...確かに馬鹿かもしんねぇな。
「じゃあなシンクレア」
俺の体が砕け散るのがわかった。
やっぱ、世界一つ分を無かったことにして無事で済むわけねぇよな。
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全てが遠のき、音が消える。
やがて視界が極彩色に染まり、俺の意識は再び無に帰った。
筈だった。
「おいおいどうした事だこれは?何で俺は五体満足でいやがるんだ?」
気づけば、俺は再び都市の何処かで目覚めていた。
【登場人物紹介②】
『握らんとする者シンクレア』
・久しぶりに会った友達が自分の選んだ道を否定してきたうえに目の前で自害したことで宇宙猫と化した。
ちなみに世界線を無かった事にされたが多少の影響が残ってて村雨との記憶が残滓程度に残っている。
『握る者ファウスト』
・最近全身義体化お姉さんの人格が生えてきたらしいのでこいつに被せたら面白そうだと思っている。
『主人公』
・ 意 味 不 明 !