都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった 作:薬指〝笛吹派〝スチューデント
体が刻まれる度に、その隙間から幾つもの光景が零れ落ちる。
刀を振るう青と黒の長髪の女性、雨に打たれながら行進する軍勢とその先頭を駆けるボロボロの男、青く研ぎ澄まされた剣を握る者、墨の入った双肩を露わにする女、傘を被った1人の男、幾人もの瞳を率いる隊長、瓦礫の中で1人佇む哀れな者。
これはかつて己が救えなかった者たちの記憶、その残滓だ。
『アンジェラにローラン、やはり記憶の中の君たちと変わらずか』
「お前何か変な薬でもやってんのか?俺らはあった事もないだろう」
『この姿ではな、アンジェラとあった時は玉座に座す者として、お前の前には薬指として立ちはだかった事もあるがそれは今どうでも良い。
お前たちは一冊の本を手に入れる為、ただその一点の為に数多の者を殺し本を集めている。
けれどな、それは報われることのなき終わりのない煉獄への道に過ぎないのだ。
かつて私がそうであったように』
「どういうことかしら?」
『私はかつて、たった1人の大切な誰かを救う為に無数の道を歩んだ。
そこに至るまでの過程に数え切れない程の命を選び、そして潰えさせたよ。
その果てに得たのは、己が消える事こそ最善の結果を生むという結論だけだったのだ。
そして私は理解した。
もし己がいなければ、己が何もしなければそれで無事に幸せで過ごせたと云うのなら、私が存在するという事実ごとこの世界から悲劇全てを消してしまえば良いと』
「貴方は、一体なんだと云うの?」
『その答えは君自身が一番よくわかっているんじゃないかな?人で無いが故に人になろうとする者よ。
そうだ...君は1つの答えに辿り着いたのだよ。
人で無い者が人に成った後に辿ったその末路、その果てに在るのがこの私であり、君と私は今や鏡合わせの鏡像のように似通っている。
不思議なものだな、まるで古い鏡を見せられているかのようだ』
「...お前はさっき俺たちが接待してたやつらに村雨って言われてたよな、俺にはその名前に聞き覚えがある」
その言葉に少しだけ眉を動かす村雨を見て、ローランの中でそれは確信に変わった。
「ちょっと前に友達から聞かされてたんだよ、ハナ協会が管理してる依頼に不自然な空白があるってな
最初は何かの不正か、それとも記載ミスを疑ってたらしいが、その空白の依頼を調べると必ず出てくるフィクサーの名前があり、その名前が現れた依頼は実はいつの間にか解決済みだった。
その名前が現れると後に残るのは不自然で真っ白な余白だけ、だからハナ協会はこの謎のフィクサーに1つある種の敬意を込めて贈り物をする事にしたらしい」
『それはなんでしょうか』
「『白い虚無』それがハナ協会から送られた贈り物で、そのフィクサーに付与された『色』だ。
そんで、俺は1つの仮設をたてた。
そのフィクサー、お前なんじゃないか?もしそうなら色々と説明がつくんだよ」
瞬間心に走る動揺、それは唐突に訪れた過去の残響であり村雨の心を揺さぶるには十分過ぎるものだった。
「まず一つ目がお前の着てる着物、それは空白の依頼の中でも最も大きな案件が解決した後2つの指から依頼を完遂したフィクサーへ送られたもんにそっくりだ。
友達に見せてもらったから知ってるが、その依頼は相当にでかい案件だったらしいな?だがそれを解決したというフィクサーの記録が何処にも残っていなかった。
そして2つ目が村雨という名前、この名前は記録には無いはずなのに度々現れる名前で、その名前が現れた場所では誰の記憶にもないのに依頼が完遂されたという事実だけが残る現象が頻発していたらしい」
順番に暴かれていく己の過去に、村雨は身を引き裂くような感覚を覚えながら耳を傾け続けた。
「んで3つ目、お前現れた時に鏡を砕くみたいに空間を叩き割って現れたよな?そんな力を持ったやつに俺は1人だけ心当たりがある。
これも友達に聞かされた話だけどな、えらく昔の翼の1つに『人に最も見たいと思える光景を見せる鏡の特異点』を扱ってる会社がいたらしい。
でもな、この翼はとっくの昔に折れてなくなってるんだがそこの会社にはある秘密兵器があったらしい。
先に云った特異点の真逆で『人にとって嫌な事を写し取り自分ごと消し去る事で全てを無かったことに出来る特異点』それがもし未だにあるのだとしたら、全部説明がつくんだよ」
『...僅かな期間と情報で、よくぞ其処まで辿り着けたものだなローラン』
「んじゃあ、俺の推測は正しいってわけか」
『ああ、私という存在を構成する3つの核そのうち一つがお前の云うそれだ。
K社で使われていた鏡、かつて遠き翼の特異点。
そして、割れ...打ち捨てられた私に流れ込んだロボトミーコーポレーションが遺した数万年分の悲劇という負債、それらが今の私という存在を構成する要素であり...アンジェラ、私は君の妹に当たるのだよ」
その言葉に今度はアンジェラが驚愕する番となった。
「ありえないわ、私に妹なんて存在しないもの」
『直接的にはそうだな、だが私を構成するのは君が記憶し続けた数万年に渡る悲劇の記録。
ロボトミーコーポレーションが折れた時、その負債は何処へ向かったと思う?そう、その全てが偶然繋がっていた私に流れ込み私という存在が生まれた。
つまりはロボトミーコーポレーションこそ私の生みの親だ。
あぁ、なら妹という言葉は正しくないのか?ある意味君の娘であるとも云えるな、とはいえ直接的にあの悲劇を起こし続けていたのはAなのだから、そのAが放り出した負債から生まれた私は君の妹と云う事にはならないのだろうか?』
「あなたも、あの悲劇全てを体験したというの?」
『全て見た...私という存在はそれにより完全なものとして成立したのだよ。
つまりは全てにおいてAのやらかしであり、その後始末をしなかったのもAだ。
とはいえ私は君に責を求めるつもりはないのだよ...君ほどに悲劇を見続ける事を強いられた同胞は他にいないだろうから、私としては君と仲良くしたいと思っていた。
それでもね、君によって私の友人が本にされる事だけは見過ごせなかったのだ』
アンジェラの表情が少しだけ曇ったが、それは一瞬にして元に戻りいつもの図書館の首魁としての顔に成った。
「それで私たちの邪魔をしたのね、それで?これからも邪魔を続けるつもりかしら?」
『いいや、これにて私のやるべき事は殆ど終わったのだよ、シンクレアは逃げおおせたし...炎拳事務所の本は君たちが色々とやっているうちに回収させてもらった。
残る目的は1つだけだが、それは君たちがこの選択を続ける限り必ず果たされる願いだから、私はこれ以上何かをする事は殆どないと云っても良いだろう、幾つかの例外を除いてだがね。
それでは失礼するよ...そうだ、私に関する本を幾つかしたためておいたからそれを探してごらん、きっと良いことがあるから』
それだけ言って村雨は姿を消した。
【登場人物紹介】
『アンジェラ』
・急に妹が生えてきて困惑した、全部Aが悪い。
『ローラン』
・唐突に爆弾をぶち込んできたがプロムンではそういうのが常なので仕方ないね(リンバスのストーリーとかいきなり状況開始するから何か飛ばした!?ってなるし)
『村雨』
・前回からずっとローランとボコりあってたが、なんかいつの間にか特色にされてたし色々と厄ネタが出てきた。
『A』
・ 余 罪 が 増 え た な ! これもお前のせいだなA!!!
解決済みの人格ストーリー(例えば握らんとする者)の後日談は必要ですか?
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