都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった 作:薬指〝笛吹派〝スチューデント
ミスをした
数え切れない程多くのミスをした。
それはもう取り返しがつかない程に、俺は多くの苦痛を他者へ与えてきた。
良秀を救わんとした事を起点として、俺はより多くの悲劇を生み出す事になってしまったのだ。
俺が愚かであるが故に、苦しまなくて良い者、これ以上の悲劇に会いようがなかったであろう者たちにまで更なる苦痛と多くの悲劇を与えてしまったのだよ。
『わかるかいローラン?世の中には何もしない方が良い時も確かにあるのだよ』
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あの日、良秀を救わんとして親指の親方に処断された時に再び時間がもつれ、俺は良秀のいる場所とは違う鏡世界に渡ってしまっていた。
「ここは...俺はまた揺蕩うのか、あの子を救わねばならないと云うのに」
最初に、1つの完成を見た。
その後6つの悲劇を以て俺自身を鍛造し...最後にもう一度、最初の完成に立ち帰り私を完成させる。
そんな悲劇の物語、苦痛に満ちた叙事詩への第一歩を俺は踏み出した。
最初の悲劇はT社、いつも色褪せた薄暗い路地裏からそれは始まったんだ。
俺は一度T社の依頼を受けていた事がある、その時に使っていた時計と衣装がまだ幾つか残っていたから、俺は久しぶりに取り出すそれを見つつ1つ思い出した事がある。
俺は、前にも此処で無数の苦痛を振りまいて多くの悲劇を生み出した。
そんな俺が、此処にいても良いのだろうか?
そんな疑問が頭によぎり、俺がどうしようもなく自己嫌悪に陥っているうちに、気づけば身なりの整った男が俺をじっと観察するように見つめていて、その傍らには小さな子供の姿があった。
男とは対象的にその子供はボロボロで、おそらく他者から見れば悲しいくらいみすぼらしい姿なのだろうという事が理解できた。
それと同時に、俺はその子供の顔に見覚えがある事に気づく。
ヒースクリフ、悲しき猟犬、雨の中で咽び泣く1匹の狼、幼き日の彼がそこにはいた。
「君は我々に襲いかからないんだね」
「その必要があるのか?」
「路地裏の人間はそうすると聞いているが」
「嗚呼、確かに一般的にはそうだろうな...俺は、いや私は他者を襲ってまで欲しいものなど特にないし、それを持っている者が目の前の貴方であるならば、貴方はとっくにもう死んでいるだろうから」
「随分と難しい話し方をするんだね君は、お陰で良いことを思いついたよ。
もしかしたら頭がおかしいのかと思われるかもしれないがね。
君、良かったらうちに来ないかね?丁度子どもたちの家庭教師が欲しかったんだ」
「...はっ?ははは!随分と面白い事を云う御仁だな?良いだろう、このような愚か者で良ければ多少なれど役にはたとう。
私は村雨、一応1級フィクサーと云うことにはなっているよ」
こうして俺は、ヒースクリフと共にワザリングハイツへと誘われた。
「村雨、この問題について教えてくれ!」
「良いだろうヒンドリー、その問題の解き方はこうするのだよ」
ワザリングハイツでの暮らしは久しぶりに平穏なものであった。
良秀にもそうしたように、己の教えうる術理の限りを尽くしワザリングハイツの子どもたちを育てる。
それがたまらなく愛おしい時間になってくれたのだよ。
それでも...そんな優しくて美しい時間を以てしても、時間金庫へ押し込まれた良秀の事が頭から離れる事はなかった。
「ヒンドリー、君がいずれこの邸宅を継ぐと云うのならそれに相応し度量を身に着けなければいけないよ」
「度量?」
「君は入ってきた異物に対し必要以上に攻撃的になるきらいがある。
それはこの都市に生きるうえで悪くはないのだが、それも過ぎると他者との間に壁を作ってしまって必要な縁まで離れてしまうんだ」
「あんたもヒースクリフの事を受け入れろって云うのか?」
「あの子の事か...あの子に関しては父君が悪手だったのだと思う。
暗がりに沈んでいたあの子に手を差し伸べた事自体は美徳かもしれないが、それでいきなり新しい家族として紹介するというのは段階を酷く飛ばし過ぎていたね。
けれども今はあの子も君たちの家族の1人になっているわけで、この問題は必ず尾を引くだろうし中々そう簡単に片付くものじゃないと私は思うよ。
でもね、最近はあの子も君たちと仲良くしたくて少なくない努力を重ねているみたいだよ?私に君やキャサリンと上手く話すにはどうすれば良いかとか、色々と人との関わり方を教えて欲しいと請いに来る。
私はねヒンドリー、血が繋がっていなくとも...例え完全ではないとしても、家族にはなれるんだとそう思いたいんだ。
だって、私がそうだったから」
「村雨先生が?」
「私も拾われ子だったのだよ、とあるフィクサーに義理の子として引き取られて育てられた。
けれどもね、私は結局あの人にとっての家族にはなりきれなかったんだ。
君たちには、そんな悲しい終わり方をして欲しくないとは思っているよ。
ああ!でも無理にとは言わないさ、父君の無茶ぶりが君を苦しめている事も十分にわかっているからね、やはり彼は段階を飛ばし過ぎだよ...何故私のような流れ者までもこの邸宅へ招き入れたのか、それだって疑問符を叩きつけたくなるような暴挙だし」
だってそうじゃないか、昨日まで1日を謳歌していた者が次の日には裏路地の腹を満たす糧になっているようなこの都市で、見ず知らずの者を招き入れる事ほと愚かな事もあまりないだろうし、そんな事をするやつは始めて見たかもしれない。
「村雨先生は優しかったじゃないか」
「それは結果論だよヒンドリー、もし私が人差し指の伝令や薬指のスチューデントだったりしたら今頃この邸宅は酷い惨劇が幕を開けていたところだよ。
君の言葉を否定するわけではないし、その言葉はとても嬉しいのだけれどね...私は君の父君のような方は少し心配になるんだ。
私は幾つもの悲劇を見てきたから...いけないな、子供の前でこんなにも悲観的な話ばかりしていては良くない影響を与えてしまう」
「村雨先生は、どんな事をしてきたの?」
「それは知らない方が良いだろうね、あれらの出来事は酷く悍ましい記憶の数々だから...君のような未来ある子らにはそんなものを記憶して欲しくはない」
結局のところ私は誤魔化しばかりをしていたから、子どもたちに良い影響を与えてあげられたのかはわからない。
でも、私はせめて子どもたちだけには美しくて愛おしいそんな日々を送って欲しかったんだ。
だって、それは子どもの特権だろう?
だけれども、それで誤魔化しばかりしていたからバチが当たったのかもしれないね。
結局私は何一つ変えられていなかった。
【人物紹介】
『アーンショウ』
・リンバス本編からしてわりと洒落にならない事やってる人、正直この人を擁護すんのなんかヤダ。
『ヒースクリフ』
・路地裏でアーンショウに拾われたが、アーンショウが色々と段階飛ばし過ぎてアーンショウの子どもたちも、何よりヒースクリフ本人もお互いに不幸になる道筋が出来ちゃってるの可哀想だと思う。
『ヒンドリー』
・リンバス本編だとなんかもう最後まで誰かの掌の上で終わってしまった感じがして可哀想だったのと、個人的に親近感が湧いてしまったので今回長めにスポットライトが当てられたが次回は多分出番が控えめか、今回の反動で最悪の形で出番が出来るかも?
・キャサリンがまだ出てこないのは溜め期間。
解決済みの人格ストーリー(例えば握らんとする者)の後日談は必要ですか?
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必要
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必要ない