都市は都市でも人格ストーリー世界線に来ちゃった   作:薬指〝笛吹派〝スチューデント

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『終幕劇演者』④

 あれは炎拳事務所に所属してすぐの事だったか、俺は少しでも早くあの事務所に馴染もうとしてある仕事を受けた。

 

 といっても、所属したてのフィクサーが受けられる仕事なんて限られてる。

 

 例えば失せ物探しとか何処かの町の観光案内とかそんなもんばかりだ。

 

 そういった仕事の中でもわりと当たりのものがある。

 

 それは飲食店関連の仕事だ(ただし23区の裏路地を除く)

 

「肉は此処に置けば良いか?」

 

「あぁ、助かるよフィクサーさん」

 

 ウンボンのチキン酒場、その臨時店員兼警備が今回の仕事だった。

 

 シンクレアの時は、フィクサーとしての仕事が終わる度に此処のチキンで良く打ち上げをしたもんだ。

 

 まぁどっかの腹黒クソチキン屋のせいで閉店しちまったから途中で大好物のウンボン特製チキンセットをテイクアウト出来なくなって最悪な気分になったけどな!

 

「悪いね、お店が忙しくなって手が足りなくなってしまったから本当に助かるよ」

 

「俺はこういう仕事こそ好きだから別に構わないよ、ドンパチもねぇし食欲が失せるようなきっしょい化物と殺り合う必要もないから、むしろ俺からすると天国まである」

 

 実際そうだからな、裏路地は少しでもミスると気味の悪い掃除屋どもと出くわすし、運が悪いと指のどれかと鉢合わせて即座にドンパチやらかす羽目になる。

 

 まぁ仕事を受けられるって時点で恵まれてるかもしれねぇけどな。

 

 フィクサーの中にはその日の暮らしを賄うことすら難しいってのもざらに居るし、何より裏路地とかに拠点置いてるとまぁ面倒な事が良く降りかかるんだなぁこれが。

 

 んじゃなんで俺が巣の中に入れて、しかもそこで仕事まで出来てるかって聞かれればそれは通行証を持っているからとしか言えないね。

 

 前の通行証がそのまま使えるとは思わなかったよ。

 

「あっ忘れてたわ...店主さん、今夜の夜警は店主さんちょっと店の奥から出ないようにしといてくんない?」

 

「いったいどうしたんだい?」

 

「どうにも良くないお客さんが来そうな感じがするから、今はそれしか言えないかな」

 

「!?...わかった」

 

 いやぁ店主さんが素直で助かるよ、またこの店のチキンが食えなくなるのは嫌だからね俺。

 

 そして日も暮れた頃どころか真夜中に、やはり良くないお客さんは店の裏口からこっそり入ろうとしてきた。

 

「あぁっ...!あったぁ、これがこの店の秘伝のレシピ!これでもうこの店はおしまいですね...」

 

「やぁ、やっぱり来たね」

 

「ヒィィィィィッ!?誰ですか貴方は!」

 

「こんな真夜中に来るなんて、君は余程此処のチキンが食べたかったのかな?まぁわかるよ、此処のチキンは旨いんだなぁ...皮はパリパリしてて肉は弾けるような溢れんばかりの肉汁て満ちてる。

 

 でもそんな旨いチキンを二度と食えなくしようとしているフリット希望者がいるみたいなんだ...わかるだろう?」

 

 嗚呼、そんなに怯えてしまって...それじゃまるで屠殺前の子羊みたいじゃないか。

 

「ねぇ君、捌きたての豚がどんな顔になるか知っているかい?チキンを作る為の鶏が首を切るとどうなるのか解るかな?」

 

「えっえっと、それは...!」

 

「はははっ時間切れだ...正解はね、豚は死後硬直で笑顔になるし鶏は首を落とした後も体は暫く元気に動き続けるんだよ。

 でね、俺は思ったんだ...豚と中身が大体同じ構造をした人間ならもしかして、それと同じような事が出来るんじゃないかってね。

 

 でもね、この実験には協力者が必要なんだ...嗚呼でも此処には丁度良く、真夜中なんかに人のお店へ入って来ちゃったフリット希望者が居たね」

 

「ヒッ、イヒヒヒヒッ」

 

「おっと、脅かし過ぎて気絶しちゃったか?店主さんもう良いよ~」

 

「君、中々えげつない事を言うんだね」

 

 まぁうん、自分でも結構えげつない事を言ってる自覚はあったし何だか薬指みたいで嫌だなぁとは思ったんだけど、こんぐらい脅かしてやらないとこういう馬鹿は何度でもやらかすだろう?

 

「取り敢えずこいつは外に放り出してくるから、店主さんは安心して明日の仕込みをしておいてくれれば良い」

 

「ありがとうねフィクサーさん、俺前からこの人に脅かされてたんだ」

 

 うん知ってる、だってこいつ前もそれでこの店を閉店まで追い込んでるし、なんなら秘伝のレシピを概念焼却機にかけるとかいうクソカスムーブ決めてるし、何故こいつが裏路地の夜にぶちこまれないのか本当にわかんないからね!!!

 

「フィクサーさん、これ」

 

「ん?何かな、おぉこれ此処の特製チキンセットじゃん!えっマジかよ貰って良いんすか!?」

 

「うん、君はうちの店を守ってくれたし、何より君の帰りを待ってる事務所の人たちがいるんだろう?その人たちにも食べさせてあげて欲しいんだ」

 

 嗚呼、やっぱりこの店最ッ高!!!

 

「ありがとうございます!今後も何かヤバい事とかヤバそうな事があったらいつでも連絡してください!!!」

 

「うん、またおいで」

 

 ・・・

 

「ってな事があってさ!そのお陰で事務所の皆にこのチキンを持って帰れたってわけ」

 

「本当に旨いなこのチキン」

 

「ですね、村雨さんのお陰で事務所の皆が美味しいご飯を食べられました、ありがとうございます村雨さん」

 

「「「ありがとよ新入り!!!」」」

 

 ...嗚呼、そんな楽しいひとときも有ったな

 

 何で、何で今思い出すんだよそんな事...俺はもう後戻り出来ないとこまで来ちまったんだ

 

 どうしてそんなにも手遅れな状況になった後に限って、楽しかった頃を思い出してしまうんだろうな

 

『嗚呼、本当に涙が出そうだよ』

 

 鋼の打ち合う音が嫌いだった...あれは鮮明に終わりを想起させるから。

 

 俺を掠める幾多の刃、矛先、鏃、殺意、数多の視線、その全てが今は酷く煩わしい。

 

「もう諦めろ、お前がその気ならば白い月の騎士以外は全て等の昔に其処ら中で転がる肉塊の仲間入りを果たしていただろう。

 そうだというのに、お前は一向に我々も白い月の騎士も殺そうとはしない。

 

 今であれば、血鬼に誑かされ操られていたことにしておいてやろう」

 

 はははっ、そいつは良い...でもな

 

『言っただろう?一度情が移ってしまったら最後まで見捨てられないって、それと同じくらい...俺は一度守るって決めたやつを裏切るのが嫌いなんだわ』

 

「そうか、協会にはお前が血鬼によって血袋にされてしまった事にしておいてやろう...残念だよ、若くて優秀なフィクサーが血鬼に与して没してしまうというのはな」

 

「誰が没するだと?」

 

 ...嗚呼、なんで来た

 

「白い月の騎士よ、貴様は私から父上だけでなく家族までも奪おうと言うのか!!!」

 

「サンチョ、来てしまったんですね」

 

 馬鹿野郎、俺そんなにお前と仲良くないだろうに...何で来やがった

 

『さっさと他の家族連れて逃げとけって言っただろうに、その為にわざわざちょっと前に逃がした第3眷属と渡りをつけたんだぜ?

 なのに、よりにもよってあんたが逃げてなかったら全く意味がないだろうが!!!』

 

「我らの為にここまで献身を尽くしてくれた者に報いる事なく逃亡を選ぶなど、ラ・マンチャランド第2眷属たるこのサンチョが認めると思ったか?」

 

 嗚呼そうだろうな、あんたはそういうやつだよ...だからこそ助けたかったし逃げて欲しかった

 

 グレゴールにも絶対に迷惑がかかんないように色々と保険もかけた

 

 でもな、あんたが逃げてくれてねぇと全部無駄になるんだよ

 

 何もかも全部無駄になって、そしたら俺は何の為に此処まで来たのかわからなくなってしまうじゃないか

 

「来るが良い白い月の騎士よ、私は何処にも逃げはしない!私は此処にはいるぞ!!!」

 

 白い月の騎士バリ、ラ・マンチャランドの誇る第2眷属サンチョ、二人がその手に握る剣と槍振るわれ戦いが始まり。

 

 そして今、サンチョが白い月の騎士が放たんとする矢に穿たれる事で決着がつこうとしている。

 

 悪いなサンチョ、俺はそれを認めるわけにはいかないんだ

 

 血をはらいては散華せり、三歩飛んで幾万の歩み。

 

 あんたならもう大丈夫、きっと一人でも夢に向けて何処までも歩んで行ける

 

 ほどいては結び、結びては解き、解きし編み目より幻水生ず。

 

 だから此処からは、あんただけの物語を紡げ

 

 幻鏡万華...カムナ

 

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 あいつと分かれた後、事務所にすぐ戻っては良いがどうにも胸騒ぎが収まらない。

 

「どうしたんですかグレゴール?」

 

「あぁ姐さんか、村雨のやつ帰ってこないなと思って」

 

 そして、その胸騒ぎは最悪の形で現実となった。

 

「グレゴール...村雨って誰ですか?」

 

「...えっ?いやついこの間までこの事務所で働いてたじゃないか!ほら覚えてるでしょうあいつが持ってきたチキンの事!」

 

「あれ、それって確かグレゴールが持ってきてくれたんですよね?私が覚えている限りはそうですが、あっグレゴール!何処へ行くんですか!?」

 

「そんな筈はない、そんな事はあり得ない!だってあいつは少し前まで確かにいたんだ...何なら事務所に戻る前にも会ってて...」

 

 俺が最後にあいつを見た場所、災害ランク都市悪夢『ラ・マンチャランド』俺は全力でその場所に向けて足を動かした。

 

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「アルルカン?アルルカン!!!」

 

「何故?私の矢は確かに彼女を貫いた筈です」

 

『何がともあれ、此処には白い月の騎士によって第2眷属が討たれたという事実だけが残る...それ以外の如何なる罪悪も、その全てが無に帰した。

 

 だからもう、あんたらが殺し合う必要は無いんだ...なぁ、サンチョよ』

 

 さぁ、どうせ全部消えるんだ...最後くらい挨拶に行くか。

 

「待て、待つのだアルルカン!いったい何処へ...何処に向かうというのだ!!!」

 

『悪いなサンチョ、俺には最後にどうしても挨拶をしておかないといけないやつがいるんだ...だからもう、此処でお別れだ』

 

「待ってくれ、お前がいなくなったら!」

 

『さようならサンチョ、お前らと一緒につるむのは...中々に楽しかったぜ。

 それじゃあ、お前たちはもう悪夢から覚める時間が来ているようだから...俺はもう消えるとするよ』

 

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 路地裏を駆け抜けひたすらに疾駆する。

 

 そこにきっと、あいつは...村雨はいるのだから!

 

『嗚呼、やっぱり来たんだなグレゴール...もしお前が来るならこの道だろうと当たりをつけて待っていたんだ。

 もし事務所に真っ直ぐ向かって、お前とすれ違ってしまったら大変だからな』

 

「村雨っ!お前今まで何をして...どうしてしまったんだその姿は!?」

 

『はははっ、ちょっとお痛が過ぎてしまったようでさ、もう此処には居られなくなってしまったんだわ』

 

 村雨の体は酷い状態だった。

 

 胸にはどでかい穴が穴が空いて、そこから放射状に罅みたいなものが全身に広がっている。

 

 今までフィクサーをしてきて一度たりとも見たことがないような傷だった。

 

「待ってろ、すぐに手当てをしてやるからな!」

 

『悪いなグレゴール、俺はどうやらこの辺が器らしい』

 

 村雨の体は今にも砕け散りそうなくらい罅が広がっていた。

 

 どうして、どうしてこんなになるまで無茶をしたんだ!!!

 

『なぁグレゴール、お前はなるべくゆっくり死ねよ、ずっとずっと日々を楽しんで...皆に囲まれて死んでゆけ。

 そうじゃねぇとさ、俺が化けて出てお前の枕元で説教してやんなきゃいけなくなるからさ。

 だからまぁ、あんまし気にして気負んじゃねぇぞ?今回は色々有りすぎて、お前と室長殿の記憶は消してやれそうにない。

 

 はぁ...気が重いぜ、それ以外は全部無かった事に出来ても、お前らだけはその事を覚えていてしまうだろうから、だからお前らだけが取り残されてしまうんじゃないかと不安で仕方がないよ。

 

 それでも、もうやってしまった事は元に戻らないから...さようならだよグレゴール』

 

「おい村雨っ...うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 グレゴールの悲痛な叫びが木霊するのと刻を同じくして、俺の体は完全に砕け散ってしまった。

 

『...次はもうちっとばかり平和な世界線にしてくんねぇかなぁ』

 

 駄目なんだろ...なぁ。




【登場人物紹介】

『サンチョ』
・自分や家族たちの為に献身を尽くしてくれた主人公を守ろうと思って戦ってたら何か目の前で主人公が死んだ。
 多分この後虚無るけどまた夢に向けて歩き出す。

『白い月の騎士バリ』
・サンチョを射った筈なのに全然違う人ぶち抜いたうえに、主人公のなんかあり得ないくらい罅割れた姿見て困惑した。
 多分内心「この人誰?」って思ってる。

『牙狩り事務所の皆様』
・何か戦ってたと思ったらいつの間にか全部終わってて何も覚えていないのだが?

『ウンボンさん』
・ゲスト出演、主人公が最初に降り立った世界が握らんとする者シンクレアの世界だったので当然K社の巣にも出入りしており、その時のお気に入りだった。
 今回の世界線でもK社の巣に入れるようになってすぐにチキンを買いに行った。
・因みに途中で出てきたクソチキン屋は、後日主人公の武器の材料になった。

『炎拳事務所生存者グレゴール』
・叫びノルマ達成、元はサンチョに化けた主人公を炎拳しちゃって発狂する予定だったがそれだとちょっと好みじゃなかったうえにこっちの方が面白そうだったから今回の展開になった。

『終幕劇演者アルルカン/村雨』
・炎拳事務所生存者グレゴールとラ・マンチャランド室長様以外の全てから『自分に関する記憶』と『自分がやった事』『ラ・マンチャランド関連の罪悪』を無かった事にしたうえで、ラ・マンチャランドて第2眷属が討たれたという事実だけを残すというくっそ器用な剪定を実行。
 この結果、グレゴールと室長だけが村雨Orアルルカンの事を覚えている世界になった。
 ぶっちゃけバリの矢によるダメージがエグすぎて二人の記憶まで消す余裕が無かった。

・尚、本人曰く「これしか二人とも生存させる方法が思いつかなかった」等と供述しており懲りてない模様。
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