愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!   作:イングラマン

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第十九話 VSファントムその2

 東京テレポート側のレインボーブリッジ出入口で、停車中のレイバーキャリアを発見した。

 島全体を覆う妨害電波の影響で無線は依然として使えず、車内で待機を続けていた進士さんへとスピーカー越しに声をかけた。

 

「進士巡査、2号機キャリアへの搭載をお願いします!」

 

「りょ、了解!」

 

 後ろ歩きで移動し、ジャッキアップしたキャリアデッキの縁に踵をひっかけ、コンテナに2号機を格納する。降りてきた固定バーが2号機の胸部にはまり、自動的にボルトが締まった。

 

「ふぅ…………あっつ」

 

 ヘッドギアを脱ぎ、額に汗で張り付いていた前髪を手で拭う。寒風が吹きすさぶ12月の深夜に関わらず、戦いの緊張で汗をかいていたみたいだ。膝に置いたヘッドギアを見下ろす。

 隊長への報告をどうするべきか道中悩んだものの、結局、陸自の件は香貫花と相談したうえで黙っておくことにした。

 

「進士巡査!ただちに2号機の充電を、ヒカルはこっちにきなさい!」

 

「え?香貫花さん!」

 

 香貫花は戸惑う進士さんに構わず2号機の充電作業を命じた。ボクはそれらを尻目に指揮車側面のバーを掴んで飛び乗る。身を切る様な冷たい風が火照った体を冷ましてくれて、心地いい。

 指揮車で向かった先では、隊長が冬の夜風に肩を震わせながらも、ミニパトの前でボクたちの帰りを待ってくれていた。後藤隊長の前に停車し、二人で整列する。

 

「おー。おかえりー。どうだった」

 

「あ、はい…えっと」

 

 敬礼する……けど。なんで隣にテレビクルーと桜山さんがいるんだ。

 バッチリカメラが回っているし、桜山さんはこちらに興味津々だ。テレビクルーの前で話していいんだろうか。

 

「気にしなくていい。それよりも報告」

 

「yes……敵はブロッケンが4機。うち2機を太田機が仕留めました。それと正体不明のレイバーが1機」

 

 もたついたボクに代わり、香貫花が報告を始めていた。

 話を一通り聞き終えた隊長はうんざりした顔を作り頭をかいた。

 

「あちゃあ……やられたな」

 

「はい……」

 

 頭上ではヘリコプターのプロペラ音が聞こえる。

 妨害電波を受けている東京テレポートの異常に報道陣が気づき始めたみたい。大丈夫かな陸自の人たち。

 

「連中の目的がなぁ……やっぱそうなんかなぁ。まいったね、どうも」

 

「……隊長。お気持ちはわかりますが」

 

「言わんでもわかってるってぇ」

 

 隊長ができれば今すぐにでもウチに帰りたそうにしていたので、声を掛けると苦い顔をされた。

 気持ちは察するけど、我が物顔で往来を闊歩するレイバーを前に、レイバー隊が現場をほっぽって帰るというわけにはいかない。

 バッテリーの充電の支度を終えた進士さんもこちらに合流した。整列したボクたちの前で隊長は少し考えてから、作戦を決めた。

 

「ブロッケンが4に、不明のレイバー……こんだけ大がかりの仕掛けをしたんだ。何の指示もなくこれだけのレイバーが勝手に動いているとも思えん。どこかで指揮をとっている奴がいるはずだ。可能な限り戦闘は避けて、そいつを探せ」

 

「「「了解!!」」」

 

 各自が持ち場に散る。ボクはレイバーキャリアに戻り、急速充電でバッテリーを回復させた2号機を起動する。

 隊長も用心のためにミニパトではなく、進士さんが運転するキャリアの方に乗り込んでいた。

 

『行くわよ!』

 

「うん!」

 

 香貫花と共に先ほどまでいた現場近くに向かう。

 道中、急所を滅多刺しにされて倒れている4機目のブロッケンを発見。おそらく追撃に向かった陸自のヘルダイバーによる手管だろう。

 周辺を捜索していると爆発音が聞こえた。音を頼りに先を進むと東京湾海岸付近にでた。そこでは目から高熱線ビームを放った怪獣レイバーと陸自が操る空挺レイバーが戦闘状態に突入していた。

 しかしヘルダイバーの様子がおかしい。二機のうち一機は倒れたまま動いていない。パッと見たところ大きな損傷はないようだ。にも拘らず、危機に陥っている仲間を前にして身動ぎすらしていない。

 そして、もう一機は怪獣レイバーの太い腕から繰り出すネックハンギングツリーを受けて宙吊りに晒されていた。このまま放っておいたら陸自のレイバーがやられてしまう。

 

「はぁぁあ!」

 

 咆哮と共に横合いからおもいっきり2号機の肩をぶつける。

 弾かれた怪獣レイバーが大きく転倒した。その隙に、首のジョイントを締め上げられ、窮地に陥っていた陸自のヘルダイバーを抱き起こした。

 

「すっ……すまない!」

 

 乗っていたのは先ほどの女性だった。苦痛に綺麗な顔を歪ませている。

 上空から報道ヘリのローター音が迫りつつあった。その音は女性の耳にも届いたようで、表情には疲労の他に焦りが窺えた。

 

「ここは任せて、早くいってください!」

 

「しかし……っ」

 

「報道のヘリがもうすぐそこまで迫ってきているんです!皆さんが、ここにいるのは秘密なんでしょう!それにあなたたちには先ほど助けていただきました……今度はボクたちの番です!」

 

「……すまないッ!」

 

 女性はヘルダイバーを走らせ、倒れ伏した僚機の肩を担いで起こした。

 

「一曹、いけるか?」

 

「す、すみません!今、システムの方を再起動しています……っ」

 

「わかった。無理はするな」

 

 女性はボクに向き直った。

 

「気を付けて、奴は強力なECM……電磁波攻撃。それと目晦ましをもっていたわ」

 

「はい!」

 

 そうか。だから無傷な筈のヘルダイバーが、味方のピンチを前に戦線に復帰しなかったのか。

 不明機が発した強力な電磁波攻撃を浴びせられ、システムを強制停止させられて……他にも目からビームをだしたりと、まるでスーパーロボットみたいなメカだ。

 

「……またどこかで。お嬢さん」

 

 二体のヘルダイバーはビルの影に溶け込むように姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――再び怪獣レイバーを見据える。向こうも体勢を整えて、やる気満々って感じだ。

 突如、背中から羽のように装甲を二つに突き出した。

 ボクの脳裏に眼孔から放たれた熱光線の威力が過ぎった。

 

『例のやつがくるわよ!』

 

「この太田ヒカルに同じ手が通用するかーーッ!」

 

 即座にリボルバーカノンを引き抜き、標的であるレーザー発射孔を狙撃する。

 いくら小さかろうと止まっている的を当てるなんて造作もない。うちのお父さんだってこれぐらい容易くできる!

 眼球に当たるレーザー発射孔は比較的脆いようで、弾丸に貫かれた事でショートを起こした。限界寸前まで充填していたエネルギーが暴発し、レーザーを上空にまき散らす。

 放射状に散りばめられた眩い閃光が、雪が降り注ぐ東京テレポート上空の闇を切り裂いていく。

 

『やったわ!』

 

 逃げ場のない、圧倒的な熱量が奴の頭部をドロドロに崩していく光景に、香貫花が喜色ばんだ歓声を上げた。

 少しして―――満身創痍のレイバーはまた再び動き出した。足取りはゆっくりだが、上半身が融解した状態でこちらにむかってくる。恐らく奴も無人機なのだろう。殆ど半死半生の状態なのに、戦意に衰えが見られない。まるでゾンビだ。

 頭を溶かされても性懲りもなく挑んでくる不明のレイバーを前に、香貫花が舌打ちを打った。

 

『ちッ化け物め……いけそう?』

 

「もちろんッ」

 

 すぅっと香貫花が深く息を吸い込んだ。

 

『ならいいわ……さっさとやっつけてみんなで笑ってイブを迎えましょう!』

 

 香貫花らしからぬ最高に私情塗れな命令に、ボクは笑って顔をあげた。

 

 

 

 

「了解!!」

 

 

 

 

 奴が殴りかかる。ダメージを感じさせない動きだ。

 横へ飛ぶ。躱せたと思ったが、奴は急制動をかけてこちらに体当たりした。

 

「くはっ!」

 

 膝のアクチュエーターの負担なんて気にしていない動きだ。

 無人機だからか、それとも深手を負い最早生還なんて望むべくもないからか。

 

『相手は手負いの獣よ!遠慮なんてしていたらあなたがやられるわ!!』

 

 遠慮なんて最初からしてないけど、パートナーの香貫花にはお見通しだったのかもしれない。かぶりをふる。

 

『いつもの戦いの時のクレバーなあなたはどうしたの!?本気でかかりなさい!』

 

「……スゥ」

 

 深く息を吸う。12月深夜、東京の凍てついた空気がボクの肺を満たし、頭の中をスッと冷やしてくれる。香貫花の叱咤を受け、奴を見る。

 

「こい」

 

 怪物レイバーが両腕を広げる。イングラムをその太い腕と怪力で締め上げて腰骨を砕こうというのだろう。

 ボクはベアハッグを避けるのではなく、合わせる様にして前に踏み込む。

 2号機が加速する。拘束されるよりも早く両肩を掴む。脛蹴りと金的、左右の連打、ステップを刻み、相手の側面に回り込む。

 

 パワーはあるが追従性能はそこまでではない。というか物々しい見た目に反し体捌きが育まれていないと感じる。

 怪物を中心に円を描くような細かいステップを踏みつつ、鈍重そうな見た目の割によく動く怪物の膝や膝裏をチクチク蹴る。時折フックやボディブローなど大きめの殴打を加えてリズムを崩す。アルフォンスとの格闘訓練で2号機も足捌きが育まれているのを実感する。

 振り払う様にがむしゃらなスイングパンチをバックスウェーで躱す。その間も打撃を加えるが有効打には至らない。

 少しして2号機の攻撃を脅威とはみなさなくなったのか、ダメージを無視して強引に掴みかかろうとしてきた。チャンスだ。

 

 僅かに空いた隙間に足を入れて爪先を踏む。肩を当て、空間を作る。

 奴は広げた両腕で2号機の胴体を抱きしめた。締め上げられた2号機の腰骨にあたるフレームが軋み上げる。ベアハッグだ。

 踏んだはずの爪先が宙に浮く。肘打ちをガンガンと何度もくらわせてやるが効果が見受けられない。顔のない化け物が笑った気がした。

 

『ヒカル!?』

 

「ツゥ……イングラムを、舐めるなぁあ!!」

 

 右手首のレールをグインッと拡張、怪物が腕を広げた事で隙間の空いた右肩関節部に手を刺しこむ。即興の貫手だ。残った左手で首の付け根を掴み強引に右肩から先を引き千切った。

 レイバーとしては軽量級でありながら、自重すら支えきれる怪力が持ち味のイングラム。レイバーの腕を引き千切るぐらいワケがない。拘束が解け、2号機が地面に着地する。千切れて用済みとなった右腕を地面に投げ捨てる。

 本来は脹脛のガンホルダーからリボルバーカノンを引き抜いたり、災害救助に使われる伸縮機構だが、思わぬところで役に立った。

 

 右腕を失った事でバランスを欠いた怪物レイバーがイングラムから距離を離す。奴の腹がせり上がる。すかさず銃を撃つが、奴は残された左腕で腹を防御した。

 複雑でゴテゴテとした機械が張り巡らされている。モニターに砂が走り、目の前が見えなくなった。恐らくあれが例の電磁波装置だろう。近づくのはマズイ。

 

『有視界に切り替えなさい!』

 

 香貫花の指示が飛ぶ。スイッチを押し、座席を鎖骨部に移動させて視界を確保する。

 こちらが距離を取るとその分向こうも寄ってくる。不用意に近づけば機能停止したヘルダイバーの二の舞になる。

 接近戦対策―――太い腕が駆動部を隠しているし、なかなかに厄介だ。

 手をこまねいていると、スピーカーで香貫花から新たな命令が飛んできた。

 

 

『上よ!あれを撃って!』

 

 

 言われて建設途中のビルの屋上を見上げる。資材搬入用クレーンとその先端に建築に使う資材が吊るされている。

 どうやら作業中に事件が起きたせいで、建材がクレーンに懸架されたまま放って置かれていたようだった。

 香貫花の意図に気づきリボルバーカノンでクレーンのワイヤーを狙撃する。建材を吊るしていたワイヤーが千切れ、下にいた怪獣レイバーに大量の鉄骨が降り注がれた。

 

 ドーンという、凄まじい轟音と共に舞い上がった砂埃が怪獣レイバーの全身を覆った。アスファルトに弾かれた建材のいくつかが周囲にバラまかれる。

 ほどなくして宙を舞っていた砂埃が晴れる。視界に入ったのは、鉄骨が腹に深々と突き刺さった怪獣レイバーが必死に鉄の檻から抜け出そうともがき苦しむ姿だった。

 ぎぎぎっと、金属を擦りあわせる不快な異音をがなりたて、じりじりと前進してくる。

 まだ動くのか……本当に怪獣だ。だが不死身じゃない。

 杭の様に胴体を砕いた鉄骨が致命傷となり、あともう一息で息の根を止められそうだった。

 

『こいつに銃は効かないわ!電磁警棒でとどめを!』

 

「たぁあああッ!」

 

 脹脛のガンホルダーに銃をしまい、前進しつつ電磁警棒を抜き放つ。

 逆手に持ち替えて飛び上がる。ドロドロに融解し、むき出しの頭部から腹部にかけて電磁警棒で串刺しにした。

 電磁警棒から放たれた電流は奴の全身にかけめぐる。放たれるスパークは電子回路を悉く焼き尽くし、小さな爆発を誘発させている。

 

『ッ!?―――ヒカル!!離れなさい!!』

 

 串刺しにした電磁警棒はそのままに、怪獣レイバーに回し蹴りを叩きこみ、蹴った反動で飛びずさる。両腕を十字に交差し前面の防御を固め、この後起こりうるであろう爆発から身を守る。

 バチバチと全身の機械から大きな火花と稲妻が放たれる。そしてついにダメージの限界に達した怪獣レイバーは轟音を立てて爆発した。衝撃波でビリビリとイングラムが震える。

 

 何かの化学燃料にも引火したのか爆心地からはもうもうと黒煙が立ち上ぼり、爆発の余波で吹き飛んだ奴の残骸が、東京テレポートの海にパラパラと雨のように降り注いだ。

 恐らく爆発物でも内蔵していたのだろう、想像以上の大爆発だった。

 

『……終わったわね』

 

 指揮車から降りた香貫花が黒煙を上げる残骸を眺めつつ、一仕事を終えて深く息をついた。

 眩しい。いつの間にか雪は止んでいて、水平線に太陽が昇ろうとしていた。朝日だ。

 

「うん……」

 

 朝焼けの陽光に照らされた東京湾はキラキラと輝いていて、とても美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ファントム反応消失!破壊されたかと!」

 

「……」

 

「それにこのパイロット、たった一発でファントムのレーザー発射孔を狙撃しています!デタラメですよ!これ以上ここに留まるのは危険です!」

 

「黒崎さん!」

 

 部下からもたらされた報告に黒崎は眉間の皺を深く寄せた。

 これで手持ちのカードは全て使い果たした。経験値は確かに多く得られた。しかし最大の目標である2号機のデータディスクを奪い取れなかった。

 手元に切れるカードは存在しない以上、最早ここにいてもできることはない。名残惜しくグズグズすれば警察に捕捉されてしまう。決断を急かす彼らに黒崎は尋ねた。

 

「採集したデータは?」

 

「ここにバッチリ」

 

「では撤収するぞ。お客様も近くまで来ている」

 

 キーを回し、スタートしたエンジンがバンをゆっくりと前進させる。黒崎はポケットから掌に収まる程の小ぶりな機械を取り出し、赤いでっぱりを押し込んだ。

 たった一機のレイバーを手に入れようとして4機のタイプ7と試作のレイバーを破壊された。思い通りに事を運べられなかった黒崎は、フロントガラス越しに東京テレポートの夜景を睨んだ。ガラス越しに写り込んだ不機嫌な彼の表情は醜く歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前では轟轟と赤褐色の巨大な火炎が道路一帯を覆っている。立ち昇る熱波はあたりの空気を容赦なく舐り、暗闇に閉ざされていたはずの建設現場を煌々と照らしていた。

 進士は目前の惨状に驚愕し、隣で目を細めている後藤に尋ねた。

 

「タイチョー!?こ、これって!じ、自殺……」

 

「自殺?……まさか」

 

 後藤と進士は、つい先ほどビルの角で不審なバンを発見した。トレーラーのエンジン音を極力抑え、気づかれぬよう慎重にその後を追っていた。だが尾行を続けていたバンが突如、轟音と共に火を噴いた。

 爆発の衝撃は凄まじかった。引火したガソリンが道路へと飛び散り、一瞬にして巨大な炎の壁が行く手を塞いだ。

 まるでこの先は進ませないと後藤たちの追跡を妨げているようだった。

 

「……やるもんだねぇ」

 

「え?」

 

 相手の餌にかかり、まんまと出し抜かれてしまった後藤はクッと唇の端を持ち上げた。

 皮肉気に浮かべた笑みは、不明勢力の鮮やかな引き際と演出を賞賛しているようでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けた。東京テレポートをつなぐ海岸付近には、少なくない数の民間人が集まっていた。

 それはマスコミだけでない。調査にきて行方不明となっていた警察官や、元々開発中の東京テレポートに仕事できていただけの、不運にも囚われの身になってしまった作業員やサラリーマンが多く含まれていた。

 その中に見慣れない装備で統一された集団が紛れていたけど、そそくさと人目を忍ぶように現場から姿を消してしまった。

 ―――彼らが何者なのか、隊長に聞いてもはぐらかされた。つまり公にここにいる事が知られちゃいけない人たちなんだろう。事情を知ってそうな隊長が言及を避けた事からも、今回の犯人たちとは関係ないと思う。

 後藤隊長はミニパトに寄りかかりながら、物憂げな表情でぼんやりと東京湾を眺めていた。おそらく今回の事件と昨夜のテロ犯の行動を省みているのだろう。ボクと香貫花、進士さんの3名がミニパトの前で整列している。

 

「はぁ……試合に勝って勝負で負けちまったな。結局、犯人は一人も捕まえられなかったしさ」

 

「そうは仰られても、放り出すわけにもまいりませんし」

 

 ふむ、そりゃそうだと隊長は、ぽりぽりと頭をかいている。

 

「………にしてもこぉれ全部、ホントに太田一人でやったのぉ~?」

 

 う、うん。

 振り向けば擱座したブロッケンが4体と、正体不明の怪獣レイバーの残骸がある。しかし残骸の方は殆どの部品が爆発の衝撃と熱でドロドロに溶解し、元の姿が判別できない状態だ。

 そしてブロッケンのうち2体は陸自の人が撃破したんだけど、それは言わない約束なのでボクのお手柄となった。

 

「え、えへへ」

 

「……今度から太田を怒らせないようにするかなぁ~……あははは…はは…あはっ」

 

 ボクは照れくさくなって首に手をやって笑うと、隊長は肩を落とし、へらへらと力なく笑った。

 戦果を知った進士さんはブロッケンを見上げてポカンと呆気にとられているし、真相を知る香貫花は瞼を閉じて知らんぷりを決め込んでいた。

 

 

 

「―――スタジオ繋がっていますかー?みなさま、ご覧ください!昨夜から東京臨海副都心で起きていた謎の通信障害!その正体は、なぁあんとぉ!東京テレポートを占拠していた正体不明のレイバー集団によるものだったのです!―――そして、多くの行方不明者をも出していたこの怪事件をなんと!警視庁が誇るスーパーポリス!第二小隊と太田ヒカルさんの活躍によりレイバー集団は全て鎮圧、不法占拠されていた東京テレポートは解放され、囚われていた人々は無事に救出されましたー!」

 

 島を覆う強力な電波妨害も解けた事で結果的に、どの局よりも先駆けて事件を取り上げる事に成功した桜山さん率いるSNS全日本テレビのスタッフは興奮した面持ちでスタジオと中継を取っている。

 テレビクルーが構えたカメラには擱座したブロッケンと、原形が全く留まっていない怪獣レイバー、キャリアに掲げられた2号機。東京テレポートに囚われの身だった人々の屈託のない笑顔が撮影された。

 

 報道は生中継なので敬礼するボクだけでなくクール無表情の香貫花、照れ笑いする進士さん、タバコを咥えてぬぼーっとしている隊長と順に今朝の情報番組で全国に流された。

 フジテレビなんて自分たちの社屋がある場所を占拠されていたわけだから、そりゃあもう現場には大勢のテレビ関係者が犇めきあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場の後処理はおっとり刀で駆けつけた本庁の刑事らに任せ、ボクたち第二小隊は特車二課の棟屋に帰還した。

 イングラムをチェックしているシゲさんに2号機の状態を尋ねる。

 

「どー?シゲさーん。ボク、電磁警棒もなくしちゃったんだけどー」

 

「あー、見てたよ。大したもんだよ!あんだけの化け物とやりあって、ほとんどダメージも負わずに帰ってこられたんだから!もぉオレさぁワーギャー言っちゃって、我が特車二課のアイドル!ヒカルちゃんお願いだから死なないで帰ってきてちょうだーーい!って寿命縮まりそうになりながらみてたもん!」

 

「え?」

 

「あー。ほら、あれあれ」

 

 何かを探す様に視線を彷徨わせたシゲさんが、人差し指でクイッと一点を示した。第二小隊オフィスにあるブラウン管テレビだ。

 後をシゲさんにお願いし、テレビに近寄ってみてみる。テレビには遠巻きにだが、ボクの2号機が正体不明の怪獣レイバーと戦っている映像が流れていた。

 

 画面左上の表題には「怪獣レイバー対イングラム」と銘打たれている。

 ……あの現場で撮影できたとすれば桜山さんたちだけだ。こっそりと後をつけていたのか。

 

「レイバーがビームとはな…」

 

 オフィスにやって来た榊さんと共にテレビ映像を見る。

 2号機に狙撃され、のけ反る怪獣レイバーが東京テレポートの夜空をビームで切り裂いている。

 特撮映画みたいでめちゃくちゃ派手だ。口から破壊光線を発射する怪獣王が、東京を舞台に暴れ回る映画があるがそれに似ている。

 この映像には榊さんも深刻そうな顔……レイバンのサングラスに隠れていてわからないわ。

 

「はい。強力なECMも装備していて危なかったです」

 

「……まさしく怪獣だな」

 

 ボクが頷くと頭をポンポンと叩かれた。

 口元が微笑んでいる。そのまま榊さんは何も言わずに2課オフィスから立ち去って行った。

 ……ボクの頭ってそんなに叩きやすいところにあるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しは寝たらどう?」

 

「ううん。それならキャリアの助手席で寝たから大丈夫。進士さんが気を使ってくれたし。香貫花も仮眠室使ったら?」

 

「そんな気分になれないわよ。それにこれから空港までグランマを迎えに行かないといけないんだから」

 

 結局、関係者全員が徹夜仕事になってしまった特車二課中隊。火災現場の救助作業と消火作業のお手伝いを何とか終えた第一小隊が、その足で現場まで駆けつけにくれた頃には東京テレポートの一件は既に収束していた。

 応援として馳せ参じてくれた南雲隊長や五味丘先輩達を徒労に終わらせてしまったのだが、ボクたちが大きな怪我もせず、無事に任務を終えられたと知りホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 それと野明たち酒田組は山形からの帰り道、立ち寄った東北自動車道のサービスエリアで昨夜の事件を知ったらしい。

 コロッケ蕎麦に生卵のトッピング、山かけそば、山菜そば、お稲荷さんの詰め合わせ一パックによるご機嫌な朝食の真っ最中に、偶々やってた店内テレビで事件を知ったんだとか。報道を見た3人は取る物も取り合えず大急ぎでオフィスに電話をかけてくれた。

 慌てていたのはわかるけど、立ち食い情報は別に要らなかったよ野明。

 

 自分たちが2課を留守にしていた間に起きた大事件だけにとても心配していたけど、皆無事だよって伝えたらとても喜んでくれた。

 むこうでも大変な捕り物があったらしく二課に帰ったらお互いに情報交換をしようと約束をした。ついでにヒロミちゃんがハタハタたくさん買って帰ってくるとも。

 ―――香貫花が第二小隊オフィスのドアノブに手をかけた。

 

「……じゃあいくわね」

 

「うん!おばあちゃんによろしくね!」

 

「……メリークリスマス」

 

 薄く笑った香貫花は、今頃は成田空港で孫を待ち詫びているであろう、故郷のお婆ちゃんを迎えに特車二課を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人数用の巨大な鉄なべに並々と水が張られている。炊き出し用としてもかなり大きいサイズだ。

 昆布だって普通のじゃ足りない、ボンボンッと大量投入。

 

「おいおいそんなにいれるのかよ」

 

 ちなみに昆布は事情を知った整備員から快く譲っていただいた。

 なんで特車二課に出所不明の、しかも天日干しされた乾燥昆布が大量にあるかは詮索しなかった。

 

「だってこれだけのサイズじゃ1,2枚じゃ足りないし。火ぃ落とさないでね」

 

「わかってますよー!」

 

 遊馬が叫ぶ。吹き上がる炎の様子をみつつ、ドラム缶を小さく切り裂いてでっち上げた竈に薪を投入してくれている。

 そしてドラム缶を囲う様に突き立てられた串を通したハゼやハタハタが、パチパチと音を立てて火花を散らしている。この焼けた皮がまたなんとも香ばしい匂いを辺りに漂わせ、胃袋を刺激する。

 

「なぁにが悲しゅうてクリスマスにハタハタ鍋なんぞしなきゃいけないんだよ」

 

「いいじゃん。どうせ夜にシゲさんたちと飲み会するぐらいでしょ」

 

「……けっ」

 

 図星だったみたいだ。

 醤油、みりん、酒、味噌を加えて味を調える。

 ドポドポと豪快に音を立てて調味料を注ぎ入れる。とにかく入れる大量に入れる。

 

「おいおい…」

 

 遊馬が頬を引きつらせて見ているけど、この鍋の大きさだとボトル一本使い切るつもりで入れないと水に負けて味が薄くなる。

 かき混ぜて、少し口にする。濃い目だけどこの後に野菜も控えているし、なにより特車二課は働き盛りで食欲旺盛な若い男の子ばかり。塩気マシマシは悪くないと思う。

 実際、匂いにつられて腹をすかせた若い整備員が、ちらちらとボクらの調理風景を盗み見ていた。

 

「もってきたよー!」

 

 エプロン姿の野明とヒロミちゃんと進士さんが、下ごしらえを済ませたハタハタを大ザルにこさえてきてくれた。

 他にも白菜やネギと大根、水菜、ニンジンなどの野菜と、更にキノコと一口大の豆腐を含めた食材を大量に。あと山ほどある刻んだ鶏肉も。

 これらの具材は整備班から選抜された買い出し部隊が、開店直後のスーパーをはしごしてまで買い込んできてくれた貴重な食材だ。野菜や肉の買い出しすら特車二課では楽じゃない。

 それら大量の食材を三人がドンドン大鍋に流しこんでいく。これが一煮立ちしたら、蓋をして蒸らせば完成だ。

 

「香貫花はこれないの?」

 

「聞いたけどお婆ちゃんのそばにいるって。今日は浅草寺にいくってさ」

 

「クリスマスに浅草寺ですか。趣があっていいですね」

 

 鍋の様子をみつつ雑談に興じる。あとは食器類をもってくれば完璧だが、空腹で待ちきれないのか手空きの整備班が言わずとも運んできてくれた。

 もったいぶるのも可哀そうだし、手近な整備班のお兄さんを捕まえて呼びかけてもらうよう伝言を頼む。頷くと、彼は帽子を押さえて急ぎ足で階段を駆け上っていった。

 

『炊事班より連絡!808完了!!』

 

 署内に調理完了を報せる放送が流れると、腹をすかせた整備員がわらわらとあつまってきた。ひとりずつ、器におタマで汁と具材を並々と注ぎ手渡ししていく。

 よそった先から列を離れた整備員がムシャムシャと勢いよく汁をかきこんでいる。ヒロミちゃんもお椀によそうのを手伝ってくれているが、ボクの列の方が人が多く途切れそうにない。

 しばらく炊き出しを続けていたら、目の前にすっとお椀を差し出された。

 

「あとはボクがやりますから、ヒカルさんもどうぞ」

 

「ありがとー!」

 

 ヒロミちゃんによそってもらった器をもって、野明の隣に座る。野明はふぅふぅと息をしながら既に食べ始めていた。とっても美味しいようで顔が綻んでいる。

 ハンガーのテレビには先日撮影した『働くお嬢さん!拡大版!』が流れていた。

 

「いただきまーすっ」

 

――クリスマスに食べるハタハタ鍋は美味しかったです。




〇ARAKO「あらー!今起きたのー!?ならすぐにテレビつけてよ!いや、用事ってほどの事じゃないんだけど、実はね、今うちの幹ちゃんがね……なんとテレビに映ってるのよー!そう、ぬぼっと凛々しくー!特車隊と謎のレイバー集団との一戦にうちの幹ちゃんがテレビで取材されてるのよー!しかも生中継よ!生!えぇ、別に生中継ぐらいどーーーってことないんだけどねー!オホホホ!折角だし教えてあげようかなぁなんて……見始めたのも途中からでしょ、偶々ちょうどビデオに録画しててねダビングしてウチの幹ちゃんの活躍お裾分けしてあげよっか?……え、これから朝ご飯の支度?子供を学校に行かせなきゃいけないの?そう……わかったわ。じゃあねー!さ、次はママに電話しなくちゃ、あぁ忙し忙し!」
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