愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!   作:イングラマン

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 原作では第二小隊の名声は超超低空飛行することで犯罪者から恐れられました。
 こちらは超高高度飛行することで恐れられております。

 今回は野明が主役です


第二十一話 小隊、海を渡る!その1

 北海道札幌市。特車二課第二小隊は一時に限り首都圏防衛の任務から外れ、雪まつりシーズンの札幌にはるばる出張していた。

 苫小牧を故郷とする泉野明を含めた小隊員は、雪景色に染まった北の大地への新鮮味と首都圏防衛を疎かにした憂いがあった。

 パトカーによりかかり、ボランティアスタッフや陸上自衛隊のレイバーによる雪像の組み立てを見学していた後藤のもとへ、香貫花と遊馬が経過報告に訪れた。

 

「1号機、2号機。デッキアップ完了しました」

 

「出発前に寒冷地仕様で調整してくれましたが、シゲさんがこの寒さに心配していました」

 

「大丈夫じゃないのー。他の皆さんのレイバーはちゃんと動いているし」

 

 汎用機と銘打たれてはいるがイングラムはその実、都市部での活動を目的とした陸上機だ。故に環境に併せて都度調整が求められるデリケートなレイバーである。

 尤も旧型である筈のタイラント2000が、雪国でせっせと雪像づくりに励んでいるのだ。心配は杞憂になるだろうと後藤はあたりをつけていた。

 

「じゃあ俺、テントにいくから」

 

 敬礼する二人の部下に見送られ、後藤は道警との打ち合わせに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イングラムの足元では雪まつり設営の見学者で溢れ返っていた。

 SNS全日本放送を始め各放送局で連日のように取り上げられている第二小隊が、はるばる首都圏から篠原重工製イングラムを携えて出張してくる。その噂が匿名掲示板や地元ローカルで瞬く間に話題となり、東京の有名人を一目拝もうと大勢の札幌市民が大通会場へ押し寄せていた。

 キャリアからデッキアップしたイングラム1号機、2号機を来場者が見上げている。

 

「あれだろ、関東の守り神、首都圏の鬼瓦ってこいつらのことか」

 

「怪獣や、軍事兵器相手でも勝てちまうんだろ。おっかねーよなー」

 

「雪まつりの設営のお手伝いで来てくれたってさ。太田ヒカルってあの子かな、テレビで見るより顔ちっちゃ…!」

 

「あんなちんまい娘っ子が、えれーてーしたもんだぁーっ」

 

「ママー!ヒカルちゃん、ヒカルちゃんがいるー!」

 

 数人の警備スタッフを従えた太田ヒカルの前には、雪まつり会場を訪れた札幌市民が途切れる事無く列を作っていた。

 イングラム2号機を背に、一組ずつ家族写真の撮影が進んでいく。ヒカルは幼稚園児や小学生くらいの子どもを片腕でひょいと抱き上げ、眩しい笑顔をカメラへ向けていた。中には篠原重工謹製パトレイバーフィギュア持参の猛者もおり、撮影時にヒカルにポーズを取ってもらうなど非常に高い人気を博している。

 そんな来場者との記念撮影に応じるヒカルを指揮車のそばに集まった特車二課第二小隊の面々は、距離を置いて見守っていた。

 

「ヒカルさん人気ですねぇ」

 

「まぁもともとあいつを目当てによんだもんだからな」

 

「そうなの?」

 

 野明の疑問に応えるように、遊馬は今回の雪まつり設営任務に込められた本庁の目論見を、自身の推測を交えながら滔々と語り始めた。

 

「サービス、ボランティア……何と呼んでも同じだけどな。この札幌雪まつりにおける特車二課をマスコミのレイバー隊のイメージ向上ひいては警察の印象を上げようって魂胆なんだろう。それと警視庁が誇るエースであり、人気アイドルを使った……まぁ早い話、点数稼ぎだな」

 

「そうなんだ」

 

 雪まつりに訪れた来場者たち2号機だけでなく、イングラム1号機にも興味深々といった様子で見入っていた。

 中にはカメラ付き携帯電話を構える者もいれば、数年前から普及し始めたデジタルカメラと呼ばれるフィルムを使わない最新式カメラでシャッターを切る者の姿もあった。

 

「…みんな私のアルフォンスもみてくれてるね」

 

 ヒカルのついでかもしれないが、手塩にかけて育てたアルフォンスが世間に認められたみたいで、そのことが野明にはたまらなく嬉しかった。

 

「でも本当にそれだけかしら?」

 

「なにが?」

 

「それだけで首都圏の守りを第一小隊に任せるかしら?今や、日本警察の切り札として数えられている彼女までこっちに送って」

 

「ふ~む」

 

 軍用レイバーブロッケン4機と正体不明の怪獣レイバーを単独撃破。

 その上、囚われていた人質を解放したとしてSNSテレビに大々的に報道された太田ヒカルは、いまや日本最強のレイバー乗りとしての称号を欲しいままにしていた。

 その名声は犯罪の抑止力にも繋がり、特車二課は警視庁の切り札、日本の鬼瓦等々様々な悪名異名を持ってテロネットワークを経由し、不穏分子から恐れられていた。

 

「そういえば最近の相手なんて酔っ払いぐらいで、テロリストとか喧嘩の類は減ったよなぁ」

 

「殿下の事件を最後にけっこう経ちますものね」

 

 遊馬のぼやきを山崎が補足した。

第二小隊は、かつて小国ながら石油埋蔵量世界3位の中東の産油国からレイバー隊の視察のために来日した皇太子殿下を護衛していた。その際に皇太子の命を狙う暗殺者が駆るレイバーを撃破している。

 あれから2週間たつが、もともと週に2回のペースの出撃がついにゼロになった。誤報やイタズラもあるがそれはカウントしない。

 

「あれ見てますます気が削がれたんだぜ。きっと」

 

「これまでと違って無人レイバーじゃなかったしね」

 

「全く事件が起きないから、本庁も安心しているのかもしれませんね」

 

 三人の話に香貫花は難しい顔をして腕を組んだ。

 

「……油断して足元を掬われなければいいけど」

 

「おーい、おしゃべりもいいけどな。設営のお手伝い、お願いね」

 

「「「「はーい」」」」

 

 道警のテントから戻ってきた後藤隊長の注意に四人は揃って返事をした。

 だが遊馬だけは別の方向へ視線を向けたまま、不意に後藤へ尋ねた。

 

「ヒカ…あーっと……太田巡査部長はどうするんですか?」

 

「あいつはー」

 

 後藤たちの目線がヒカルに注がれる。地上波のバラエティやワイドショーで取り上げられている太田ヒカルを一目見ようと大勢の人だかりが2号機の前に出来上がっていた。

 握手をしたり歓談したり、来場者である家族連れや友人らと笑顔で写真撮影に励んでおり、とてもおいそれと抜け出せそうにない。

 

「そうだな……強いて言えば今日のアレがあいつのお仕事だわな」

 

「……はぁ」

 

「ほら、お仕事お仕事」

 

 ヒカルから視線を外し、後藤に促された隊員たちは各自の持ち場へと散っていった。

 瞬間―――ドォオンッ!という、会場全体を揺るがす凄まじい衝撃が突き抜けた。轟音と恐怖を与える耳をつんざく音と、肌をびりびりと震わせる空気のうねりに、誰もが一斉に身を竦ませた。

 激しく揺れるガラスと、本能的な恐怖を掻き立てる轟音に怯えた者たちは腰砕けになり、その場にへたり込んでしまった。

 

「な、なんなの!」

 

「爆弾よッ!みんな伏せなさい!」

 

 パニックでよろめきながらも、爆発物に知見のある香貫花の警告を受けた者たちが一斉に四つん這いに伏せた。

 注意深く爆発音の発生源に目を向ける。イングラム二号機の足元から、黒煙と火の粉が激しく舞い上がっている。そこはヒカルと来場者たちがいたはずの場所だ。

 つい先ほどまで来場者とのふれ合いで賑わっていた場所は、今や火の粉がパチパチと弾け、黒煙が立ち上る陰惨な事件現場と化していた。一瞬、最悪の想像が脳裏を過ぎり隊員たちの呼吸がヒュッと止まった。

 

「ヒカルゥーーッ!!」

 

 青ざめた香貫花たちが一斉に駆け寄る。撮影場所となっていた2号機の足元で、腰を抜かしてへたり込んでいる来場者を香貫花が強引にかきわけて奥へと進む。

 ほどなくして開けた空間に飛び出す。撮影場所となっていた2号機の足元では、バチバチと火の粉が音を立てて爆ぜていた。そしてヒカルが何かを抱きしめるように、その小さな体を丸めて蹲っていた。

 ヒカルの防寒コートが黒く焼け焦げ、血相を変えた香貫花が急いで駆け寄る。

 

「あなたたち、救護班をここへ寄こしなさい!……ヒカル、ケガをしているんでしょう!?早く見せなさい!」

 

 傍で狼狽えていた警備スタッフに素早く指示を出すと、蹲っていたヒカルを香貫花は抱き起こした。

 コートの背中側が爆発の衝撃と火炎で大きく焼けこげている。だが、ヒカルの体に目立った外傷の類は見受けられなかった。

 

「ボクは平気……だいじょぶ、だいじょうぶ」

 

「ヒカル……」

 

 ヒカルは平静を装い小さく声を出した。よくよく見れば彼女は自身の胸に年端もない少年を強く抱きしめており、少年もまた小刻みに震えながらもパトレイバーフィギュアをギュッと握りしめていた。ヒカルはそっと少年を離すと、眼を見て話しかけた。

 

「君はケガはない?痛い所とか……あったら遠慮せず、お姉さんに言っていいんだからね」

 

「……う、うん。大丈夫」

 

「そっかぁ…………怖かっただろうによく泣かなかったね!えらいぞー!」

 

 ヒカルがもう一度、今度は力いっぱいに震える少年を抱きしめた。

 

「ぎゅ~~っ………よしよし!さっすが男の子!かっこいいぞ!」

 

 そして何でもないようにニコッと明るく微笑む。男の子は突然の爆破騒動に巻き込まれた恐怖で怯えていたが、ヒカルの柔らかい体と体温を堪能した少年は今は頬を赤くして、とびっきりの笑顔を向けるヒカルにコクコクと頷いていた。ヒカルは立ち上がると雪で汚れた少年の背中を軽くはたく。

 自分の安全よりも子供の命を優先した相変わらずなヒカルの姿を見た第二小隊は、ほっと胸をなでおろした。すぐに少年の保護者らしき女性が現れ、少年の背中に手を回し深々と頭を下げてお礼を述べた。

 その光景を後藤は窪んだ眼で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪まつり会場で起きた謎の爆発事件。ただちに会場周辺には北海道警の警官たちの手により厳戒態勢が敷かれ、現地に捜査本部が設置された。

 北海道警察の仮設テントには大勢の捜査員が詰めかけていた。テント内がザワザワと騒がしい。パイプ椅子に腰かけた後藤は部下の篠原遊馬からの捜査報告に耳を傾けていた。

 

「―――現場の爆発物については以上です。幸い、ケガ人は一人も出ませんでした。太田巡査部長が不審者が投げた爆弾にいち早く気づき、咄嗟に蹴り上げたおかげで被害を最小限に抑えられました」

 

「そうか……太田に怪我は?」

 

「防寒用の分厚いコートが盾になって怪我はありませんでした。コートはダメになりましたが……巡査部長が言うには体格から170センチぐらいの男で服は深緑のロングコート、顔はキャスケットで隠れていてわからなかったと」

 

「……いかにもな風体だなぁ、現場付近のゴミバコとかから見つかったんじゃないのぉ?」

 

「はい。該当するそれらしき服と帽子が」

 

「手慣れたもんだ」

 

 遊馬の報告を聞き終えた後藤は彼を下がらせ、コートのポケットから携帯電話を取りだした。

 アドレス帳から登録した番号を呼び出し、いくつかのコール音。スピーカーから女性の声が聞こえた。

 

『あら、かけてくるのが遅かったわね。そろそろこっちから電話しようかと考えていたから』

 

「あらやだっ……もしかしてシノブさん寂しかった?」

 

 電話に出たのは特車二課で待機任務に就いていた南雲隊長だ。

 ちょっと期待したような高い声を出す後藤に呆れた南雲はペシャリと叱りつけた。

 

『なに暢気なこと言ってるの。彼女……テロの標的にかけられたって、こっちではもうニュースになってるわよ』

 

「あらそう?さっき起きたばっかりなのに、早いのね」

 

『後藤さん、あなたが思っている以上にあの子は世間に顔が売れているんですから、しっかりなさいよ……彼女、ケガはないの?』

 

 確かにここ最近は出動もなくて気が緩んでいたかもしれない。

 後藤は油断を戒めようと伸び始めた顎髭をジャリとさすった。

 

「うん。不幸中の幸いでカスリ傷ひとつ負ってないよ。それでさ、頼んでおいたもの調べてくれた?うちが北海道まで駆り出されたワケ」

 

 首都圏の守りを第一小隊にだけ任せて、北海道に第二小隊を送った本庁の意図を測りかねていた後藤は情報収集を南雲に依頼していた。

 電話の向こうからは紙をめくる音が聞こえる。どうやら頼んでおいた成果はあったようだ。少しして南雲が要点にのみ絞り目的の情報を読み上げる。

 

『バビロンプロジェクトに猛反発を公言する過激な環境保護団体があるでしょ……『地球防衛軍』その下部組織のひとつ『山の小屋』に犯行声明を出すことを命じたらしいの』

 

「ほんとぉ?」

 

『ターゲットはそっちの雪まつり。厳重な報道管制で極秘扱いだけどススキノで使用されていた菱井のレイバーが2体、盗まれたって報告が入っているのよ』

 

「あらまぁ」

 

 それから『山の小屋』から送られてきた犯行声明の詳細を聞き終えた後藤は、一息つこうと職員から差し出された煎茶をひと口啜り、喉を潤した。

 そして南雲から齎された情報と先の爆破テロ事件を照らし合わせ、ヒカルを狙った爆弾犯の真意について、自身の推論を語り始めた。

 

「もしかしたら北海道は陽動かもと思ったけど。太田が襲われたワケだし、本命はこっちだろうねぇ」

 

『そうでしょうね……彼女いまどうしてるの?』

 

「見張りをつけて屋内に待機させているよ。さすがにマトにかけられているとわかったら、おちおち外を出歩かせるわけにもいかないからね……ハナからそれが狙いかもしれないけど」

 

『どういうこと?』

 

「太田の命を奪えればそれでよし、たとえ失敗したとしてもテロの標的にかけられているとわかれば、巻き添えを食らうのは罪もない一般市民でしょ。それで最強のレイバー乗りを封じられる……まったく卑しいことばかり考えちゃって」

 

『……彼女大丈夫なの?』

 

「まぁ今は山崎たちがそばについててくれているし、大丈夫でしょ」

 

 再び湯気の立つ茶を啜りつつ、手持ちの最強のジョーカーを間接的に封じられた後藤は、切れる手札について考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二小隊が借り受けている宿泊所の一室。

 ボクが今使わせてもらっているのは、設営中の雪まつり会場を一望できる、ちょっとした穴場の和室だ。東京からのゲストという事で札幌市が気を利かせてくれたらしい。

 今はボクに仕事はない。爆弾テロの影響で、隊長から屋内待機を命じられたからだ。おかげで今はぼんやりと雪まつり会場の設営風景を広縁の窓から眺めるぐらいしかやることがない。

 旅館のお茶請けに舌鼓を打ちつつ、茶で流し込む――――あれ?……とても見おぼえのあるレイバーの姿に気がついたボクは、思わず身を乗り出して指さした。

 

「……あーーッ、見て見て!イングラムの雪像があるーッ!」

 

「え、あ、本当ですね」

 

 なんとタイラント2000がイングラムの雪像を作っていた。

しかもボクの2号機や野明のアルフォンスだけでなく、東京テレポートでボクと死闘を演じた例の怪獣レイバーの雪像もあった。

 ボクが狙撃し、のけ反った怪獣がビームを上空にまき散らすワンシーン。連日テレビで放映された映像を参考に作り上げたのだろう。遠目からでもハッキリそれとわかるぐらいディテールが細かく仕上がっている。

 流石、北海道陸上自衛隊とボランティアスタッフの皆様だ。

 

「……」

 

 後藤隊長から直々に待機命令を受けたボクは窓際の差し向かいの椅子に座り、ヒロミちゃんと外を眺めていた。不自由だがテロ攻撃の標的にかけられてしまった以上、仕方がない。最悪、ボク一人のために少なくない一般人を巻き添えにしてしまう。

 今は護衛……というよりも専ら話し相手としてヒロミちゃんが部屋に残ってくれている。あとは北海道警察の巡査が、客室の外で見張りをしてくれている。

 第二小隊の皆は会場の警備に駆り出されている。なにせ雪まつり会場は広く、しかも例の爆弾騒ぎだ。今や猫の手も借りたいといった具合なんだろう。

 

「あの怪獣レイバー動きは鈍かったけど、目からビームを出すしECMはあって迂闊に近寄れないしで、いちいち嫌らしい事ばかりするから戦うの大変だったなぁ」

 

「…はい。テレビでみました」

 

「まぁボクと香貫花の敵じゃなかったけどね!」

 

 ぬははっ!と笑うが、すぐ会話が途切れた。ヒロミちゃんも気まずそう。

 

「あの……よければテレビでもつけましょうか…?」

 

「テレビはつけないで」

 

 ボクがはっきり断ると立ち上がりかけたヒロミちゃんはまた椅子に座った。

 

「今はボクの話、聞きたくない」

 

「……」

 

 さっきテレビをつけたがボクがテロの標的にされたとか、爆弾で攻撃されたとか。被害をセンセーショナルに強調して報じる番組ばかりだった。テロによる被害は殆ど出なかったが、その影響で雪まつりの設営スケジュールに遅れが出ていると報道していた。

 局によってはテロが起きたのは、テレビ出演を繰り返す太田ヒカルが犯罪者を挑発し事件の遠因にもなったのではないかと、こじつけた仮説を立てる業界人やキャスターがいた。

 酷いものだと被害者の子供を引き合いにし、キャスターと名も知らない専門家が警察の落ち度をあげらつらう酷い報道もあった。ボクのことはどうでもいいけど、後者は見ていてとても不快な気分になり途中でテレビを消した。

 香貫花たちはどうしているんだろう。相手は一般人を巻き添えにするのも厭わずに、爆弾を群衆に投げ込むイカレた人間だ。危険な目に合ってないだろうか。

 

「香貫花さんたちなら大丈夫ですよ」

 

「……うん」

 

 ボクはヒロミちゃんと一緒に雪像の組み立てが続けられている会場を眺め続けた。

 窓の向こうではバビロンプロジェクトに出資する「新東京開発公団」が出品協力したという「バビロンの城」を冠した巨大な雪像が、タイラント2000の手により着々と建造が進められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆破された菱井のレイバーを前に第二小隊は集結していた。

 後藤は潰した吸殻を携帯灰皿に捨て、黒煙をあげるレイバーを冷たく見据えながらぼそりと独り言ちた。

 

「やっぱり標的はこっちか」

 

「南雲隊長の報告の通り、菱井の盗難レイバーのうちの一体です。時限爆弾が仕掛けられたまま放置されていたそうです」

 

 遊馬の捜査報告に耳を傾けていると、道警のテントから出てきた進士と香貫花が駆け寄ってきた。

 

「道警のテントハウスにまた犯行声明が届いていました」

 

「バビロンプロジェクトに鉄槌を云々といういつものパターンの他に…あと…」

 

「なんだ」

 

 歯に物が挟まったように口ごもる香貫花に先を促させる。

 

「いえっ…その…太田巡査部長に対し…非常に破廉恥なメッセージが」

 

「……そうかぁ」

 

 口にするのもおぞましい内容なのか香貫花が顔に嫌悪の色を滲ませ、後藤は厄介なことしてくれるなと後ぽりぽりと頭をかく。これでますますヒカルは身動きが取りづらくなった。第二小隊の面々がいつになく険しい表情を浮かべる中、遊馬が口を開いた。

 

「いつものパターンにしては連中、いやにヒカルに入れ込むじゃないの」

 

「でもこんなの許せませんよ!」

 

 卑劣なテロ攻撃で仲間の命が奪われかけた上に尊厳まで侮辱され、普段は気の弱さが目立つ進士が激しく憤っている。義憤に駆られる進士に皆も頷く。

 

「隊長……なんとかなりませんか?」

 

 テロリストに追い詰められつつあるヒカルを、どうにか救えないものかと切望する野明に、後藤は腕を組み「う~ん」と難しい顔で唸った。

 

「とにかく、レイバーはもう一機ある。奴らは使える物を余らしておいて、よしとするような連中じゃない」

 

「もう一度、レイバーテロを雪まつり会場で起こすと?」

 

 遊馬の問いかけに後藤は頷いた。

 各々がテロ犯の次の犯行について思考を巡らせていると、ジャリッと雪を踏みしめる音がすぐ傍で鳴った。

 

「あの……特車二課第二小隊の方々ですか」

 

 若い女の声だ。第二小隊の面々が呼びかけられた方へ振り向くと、そこにはロングコートを着た落ち着いた雰囲気を纏う長髪の女性と小学生ぐらいの少年がいた。

 女性は第二小隊の面々に会釈し、隣にいる少年も小さく頭を下げた。

 

「あ、君は……」

 

 少年は暗い顔をして俯いており、その小さな手にはパトレイバーの人形が握られている。

 野明はその少年の横顔と胸に抱えるパトレイバーの姿に見覚えがあった。

 

「久しぶりね、野明」

 

「え……っと」

 

 少年の隣にいた女性が不意に野明へ声をかけた。だが当の野明は相手に見覚えがないらしく、親しげに話しかけられて戸惑いの表情を浮かべている。

 

「うっそーー!忘れちゃったの、私の事!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる女性の顔をまじまじと眺める野明。やがて、記憶の奥底に眠る灰色の光景から色彩を取り戻した野明はハッとしてその人物の名前を口にした。

 

「……木山先輩?」

 

 東京での慣れない暮らしは、後輩に学生時代の先輩の顔すらすっかり忘れさせてしまうほど、多忙な日々を送らせていたようだ。

 驚きで瞼をパチクリと瞬かせる野明を、木山と呼ばれた女性はクスクスと口に手を当てて笑った。

 

「テレビで見たわよあなたのこと。東京に上京して婦警さんになって、特車二課に配属されたとは聞いていたけど……それがまさかあの有名な第二小隊のレイバー隊員として頑張っていたなんてね」

 

「あー。すいません。どなたで様しょうか」

 

 ただでさえ猫背気味な背筋をさらに小さく折り曲げて後藤は尋ねた。

 木山は慌ただしく頭を下げた。

 

「あ、すみません!申し遅れました、私、木山と申します。野明とは高校のバスケ部時代の先輩後輩の間柄でして、今は札幌の小学校で教育実習生をしています」

 

「はぁ……これはご丁寧にどうも。私は後藤といいます」

 

 東京で特機部隊の婦警として錦を飾り故郷に帰ってきた、かつての後輩の様子を見に来た以外に、一体何の所用があるのだろうか。

 ギョロッとした窪んだ三白眼を訝しませる後藤を他所に、木山は第二小隊の面々を見回しつつおずおずと尋ねた。

 

「……あの、太田ヒカルさんはいらっしゃいますか」

 

「あー、申し訳ありませんが、彼女はいま別件で席を外しておりまして……ご用件がおありでしたら私たちの方で承りますが」

 

「……実は、この子」

 

 木山は先ほどから隣にいる男の子の背に手を伸ばした。

 どこか怪我でもしていたのだろうか。何事かと見守る面々に彼女は申し訳なさそうに睫毛を伏せ、用件を伝えた。

 

「さっきヒカルさんに助けていただいて、その、お礼を言わせてほしいと」

 

「そうだ、君……さっきの!」

 

 イングラム2号機のフィギュアを抱えた少年は、ここにはいないヒカルを思い浮かべる様に胸に抱いたフィギュアをぎゅっと抱きしめて俯いていた。

 少年はあの時、身を挺したヒカルによってテロリストの爆弾攻撃から命を救われた少年だった。少年の寂しげなその顔に、第二小隊の面々は困ったように顔を見合わせた。




 南雲さんは積極的にメディアへ露出し、予算確保と知名度向上に貢献するばかりか、本庁や世間で「金食い虫」「税金泥棒」と蔑まれてきた特車2課の汚名をそそぎ、名誉を回復したヒカルにお礼を言いたい。しかし第一小隊隊長という立場上、他部隊の隊員をことさらに気にかける姿を見せれば周囲に余計な憶測を招きかねない。故に後藤隊長の放任主義には、内心やきもきさせられています。
 描写していませんが第一小隊の出動は市民から一定の評価を得ています。ただイングラムを運用する第二小隊と、しばしば比較されています。
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