愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!   作:イングラマン

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第二十二話 小隊、海を渡る!その2

 陽の落ちた札幌雪まつり会場、大通公園。降り注がれる月明かりが雪に反射し、札幌の街を薄っすらと照らしている。

 結局、後藤は安全に配慮して少年をヒカルとは引きあわせなかった。

 ヒカルを待機させている宿泊部屋には、信用における第二小隊の顔見知りだけを交代で出入りさせていた。今は2号機指揮の香貫花がヒカルの部屋に詰めて仮眠をとっている。

 昼間の件もあり、なんとなく寝つけなかった野明は女性隊員用に割り当てられた客室から外に出た。既に就寝時間を過ぎた旅館の廊下は静まり返り、蛍光灯も消えていた。窓から差し込む月明かりだけが、薄暗い廊下をぼんやりと照らしている。

 

 散歩がてらヒカルの様子が気になった野明は、なんとはなしに彼女の部屋の前まで足を運んだ。

 警備上の理由から、ヒカルの泊まる客室は隊員達とは別に旅館側から大きめの客室を用意され、他にもヒカルの警護のために北海道警の警官が部屋の前で張り付いていた。野明の存在に気がついた巡査が、すっと背筋を伸ばして彼女に敬礼した。

 その時だった。部屋の中から、すすり泣く女性の声が廊下まで漏れ聞こえてきた。

 

「……?」

 

 気になった野明が思わず部屋の中へ入ろうとするが、扉の前で警備をしていた巡査が申し訳なさそうにやんわりと手で制した。視線をやると、襖の隙間から嗚咽を上げるヒカルと彼女の背中をさする香貫花の姿が見えた。

 

「……どうしよう、香貫花……もしも、ボクのせいで……っ!」

 

「心配しすぎよ。あなたが思っているより、みんなしっかりしているわ」

 

「わかってるよ!………でも、ボクのせいで、みんなが傷つくようなことがあったりしたら……っ」

 

 いつも明るく気丈な姿を振舞っていたヒカルが泣いていた。

 時折しゃっくりをあげて震えるヒカルの背中をさすっていた香貫花と視線が合った。野明に気が付いた香貫花は、ここは任せてと言わんばかりに力強く頷いた。

 その光景を目にした野明はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。

 

「……大丈夫ですか?顔色が悪いです」

 

「いえ……なんでもないですから」

 

 巡査の気遣いも曖昧に受け流した野明はふらふらと歩き出し、当てもなく廊下を彷徨い―――気が付けば、野明はハンガーで待機しているイングラム1号機の前にたっていた。

 

「……」

 

 いつも職場を明るくしてくれていたヒカルが、さすがに今回の事件には精神的に相当参っているようで、部屋に詰めた時はいくらかその笑顔が陰っていたけど……決して野明や皆の前で弱音や泣き言を漏らすような姿をみせはしなかった。

 テロの原因の一端が自分にあると知り、それでも周囲を不安にさせまいと我慢して……心の中ではずっとヒカルは泣いていたのだ。

 

「……アルフォンスも、私も……ちょっとは強くなったと思ったのになぁ」

 

 ヒカルの活躍に隠れがちだが、彼女も幾たびの訓練と実戦を経てレベルを着々と上げていた。

 その蓄積は現場で活かされ、レイバー犯罪をヒカルとのコンビネーションで手早く鎮圧し続けてきた。

 おかげでここ最近の出動回数を減らせているし、街の治安だって向上している。レイバー犯罪による建造物破壊や器物損壊も最小限で済ませられているし、イングラムの損傷だって殆どない。

 にも関わらずたった一度の犯罪で、頼りの先輩がかつてないほどに苦しめられている。

 

「私たち、一生懸命やってると思ってたのに……まだ……足りなかったのかなぁ」

 

 ぼそっと己の無力さに打ちひしがれた野明は、凍てついたアスファルトの地面に視線を落とし膝を曲げた。

 警官であっても捜査員ではない野明では犯人逮捕の役に立てない。泣いている先輩を助けてあげられない。野明は事態を打開できない現状に悶々とした感情を持て余していた。物思いに耽っていると背後から微かな物音が聞こえた。

 振り返る。ハンガーの入り口に視線をやると自販機で売られている、安いスチール製の缶コーヒーがいつの間にか置かれていた。

 

「あいつ……」

 

 ハンガー裏に目を凝らすと見慣れたバックアップの冷血漢らしき人影が、第二小隊が詰めている宿泊所に向けて通りすぎていくのが見えた。

 野明は出入口に近寄り、凍り付いた地面に置かれた缶コーヒーを拾い上げた。

 

「……あつっ」

 

 まだまだ熱の篭っていたスチール缶から慌てて手を放し、火傷した指先で耳たぶに触れる。慎重にプルタブに爪をひっかけ、開いた飲み口に唇をつける。微糖か……のどを通り過ぎる甘苦い液体が、野明のささくれていた心をほんのりと和らげてくれた。

 野明はコーヒーをちびちびと飲みながら、アルフォンスの傍でぼんやりと過ごしていると―――突如、激しい足音と共に血相を変えた遊馬がハンガーに飛び込んできた。彼の手には1号機ヘッドギアと起動用ディスクが握られている。びっくりした野明は声をかけた。

 

「どうしたの!?」

 

「野明、これつかえ!」

 

 戸惑う野明を無視して、遊馬はヘッドギアを強引に彼女の頭に被せ、更に1号機用起動ディスクを胸に押し付けた。

 

「わからんが、不明のレイバーが一体。公園の西の当たりで作動しているのが見えた。そっちむかえッ!」

 

「わかった!」

 

 イングラムに掛けられたタラップを伝い、すぐさま1号機のコックピットに潜り込む。データディスクをディスクドライブの挿し込み口に挿入し、イングラムのコンピューターを起ち上げる。順調にシステムが起動したイングラムが外に向けて歩き出した。

 

「遊馬、どいて!」

 

 声を掛けられた眼下にいる遊馬が、1号機の邪魔にならないよう道を譲る。

 ハンガーを飛び出した1号機が指示された場所に向かうと遊馬の言う通り、不明のレイバーが前照灯も点けずコソコソと人目を忍ぶように動いていた。それも真夜中に一機だけ、怪しい。

 胴体に対し短い足と狭い肩幅、頭部カメラに透明なカバーを被せられている。その外見から機種は菱井のレックス2500。あらゆる作業レイバーの上位互換を謳っている菱井のニューモデルで、国内の普及台数もまだそれほど多くはないハイエンドレイバーだ。

 ヒカルがレイバーメーカーから名刺代わりにと譲られたカタログに、レックス2500のグラビアが掲載されていたのを野明は覚えていた。

 

「そこの挙動不審のレイバー!止まりなさい!申請した時間外でのレイバーの操縦は禁止されています、搭乗員は速やかに降りなさい!」

 

 投降を呼びかけられたレックス2500がピタリと動作を止めた。

 けれどエンジンを止めたわけではない。注意深く探りながら野明はイングラム1号機をレックス2500に近づけた。あともう一歩近づけば、イングラムの手で触れられる――――その瞬間、レックス2500は1号機の手を払いのけた。

 たじろぐ1号機。すかさずレックス2500は手近な雪像を持ち上げると、1号機に向かって投げつけた。咄嗟に飛来してきた雪像から1号機は身をかわす。

 雪像は1号機の真横を通り過ぎると背後にあった別の雪像と衝突し、ぶつかり合った二体の雪像は鈍い音を響かせながら、あっけなく形を崩した。その無残な光景を前に野明の瞼がピクリと震える。

 

「…ッ!」

 

 皆で丹精込めて作り上げた雪像への破壊活動、いつも明るく励ましてくれた先輩が打ちひしがれて泣いている姿。助けられた少年の悲しい顔。先輩や子供の命を爆弾で奪おうとした卑劣で卑怯な攻撃。野明の脳裏に今日一日の出来事が次々と浮かび上がる。

 一つ一つの看過できない情景は野明の中で怒りの原動力となって吹き上がった。

 

「…フーッ………ぜんぶ……ぜんぶ……ッ!」

 

 落ち込んでいたはずの野明の頭の血流が一気に駆け巡り、アドレナリンが炸裂。

 視界は赤く染まり、野明の中で何かがブチっと千切れた音が聞こえた気がした。

 

「おまえのせいかぁあああぁあーーーーッッ!!!!」

 

 主の激昂に答える様にイングラムが走り出した。

 迎撃せんと振るわれたレックスの大振りだが、素早い一撃を飛びのいて躱す。その隙を殴りつけようとするが振り返しが速い。

 イングラムより腕も長く、これではカウンターも決まらない。

 

「ちぃいい!!」

 

 高速の左右の連打。しかも前進する動きも速くて迂闊に手が出せない。

 こんなの先輩なら苦もしないのに!ヒカルちゃんなら……。

 

「そうだこいつ…」

 

 ヒカルちゃんほど強くない。

 確かに動きは速いが前進しながらフックともいえない、我武者羅な左右スイングの単調な攻撃しかしてこない。

 

『おい、なにやってんだ!性能じゃイングラムが上だぞ、早くしとめろ!』

 

 現場まで指揮車で駆けつけた遊馬から叱咤が飛ぶ。

 逸る気持ちを抑えてタイミングを数える。1,2。

 

「……今だ!!」

 

 左腕から電磁警棒を抜き放ち、左右の連撃の僅かな間隙をついて真正面から電磁警棒を突き刺した。

 装甲を砕き、駆動部を貫いた電磁警棒から発生した高圧電流がレックス2500の全身に迸る。青白くスパークした電子機器はレックスの関節の隙間からブシューッと白煙を吹き上がらせた。

 

「やった!」

 

 レックス2500を仕留めた。レバーから伝わるしっかりとした手応えに、野明の口から歓声が上がった。

 やがて動きを止めたレックスはゆっくりと地面に尻もちをつき、その機能を完全に停止させた。

 戦闘は終わった……と、野明の注意が逸れた瞬間。レックスの操縦席にあたるキャノピーが外れ、搭乗者の男が機体から転げ落ちるように飛び降りた。

 

「あっ!!」

 

 3メートル以上もある高さからの転落。

 普通なら骨折等の大怪我をしてしまう所だが、男が転がり落ちた先には雪が積もっていた。

 大量の積雪が転落の衝撃を和らげるクッションとなり、男はそのまま振り返らずに斜向かいに逃走した。

 

『逃がすな!追え!』

 

「待てぇえ!!」

 

 1号機が走る。遊馬も指揮車を飛ばす。

 逃走した男は道路の先にある交差点を曲がっていく。凍り付いた札幌の道路を走る男の足は妙に素早い。1号機と指揮車が男の後を追って交差点を曲がる。

 たどり着いた先には、逃走していたテロ犯ともう一人、共犯者らしき男が第二小隊の面々に取り囲まれていた。近くの路側帯には逃走用と思しきミニバンがつけられており、狼狽える男たちの前で後藤がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべていた。

 

「はい、おつかれ~……抵抗したらどうなるか、わかるよねぇ」

 

 笑いながら語りかける後藤が傍らに向けて意味深な目線を投げた。

 よく見ると、テロ犯の仲間は元の顔の形が判別つかない程に顔面を真っ赤に腫れ上がらせていた。

 

「ハァイ」

 

 青ざめる男に香貫花が陽気な挨拶を投げかけた。額にはくっきりと青筋を浮かべ、振り上げた拳はブンブンと風を切っている。口元こそ三日月のような笑みを浮かべているものの、目は一切笑っていない。

 おまけに普段は気の弱い進士や温厚な山崎までもが、拳を固く握り締め今にも殴りかかりそうな剣幕で男たちを睨んでいる。

 一体ここで何があったのか想像するまでもない。観念した男は諦めた様に黙って膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明朝の雪祭り会場。道警テントの前でヒカルを除く第二小隊全員が、後藤隊長の前に整列していた。

 

「それでテロリストが自白するにはだな、この辺りの雪像に12時に起爆する爆弾をセットしたそうなんだ」

 

「「「「「えーーー!?」」」」」

 

「各自、雪像を片っ端からチェックしろ。爆弾は像のどこかに埋めてあるはずだ。進士は警備テントにいき、データを逐次指揮車に転送。他のものは泉が捜査した雪像を徹底的に洗え。以上ッ」

 

 イングラムで雪像を見て回り、ひとつひとつ詰まれた雪のブロックをセンサーで爆発物がないか検知して調べる。

 しかし、雪像のブロックは今日までに数多くのボランティアが協力して、積み上げてきただけにその数は膨大だ。野明たちの調査は遅々として進まなかった。調査中、思わず野明は愚痴を零した。

 

「…つったってぇ。こんなにあるぅ」

 

『泣き言言うなッ……と言いたいが、こんなにあるとな。雪の足跡とかから割り出すのはどうだ?』

 

 遊馬がレイバーの足跡を手掛かりに、爆弾の設置場所を探し当てる方法を無線越しに提案する。

 雪まつり会場には大量の雪像が展示されている。時間をかければすべての雪像を捜査できるかもしれないが、あいにくその時間に厳しい制限が設けられていた。

 

『現場は、昨夜のあなたたちの捕り物のドタバタで判別不可能よ』

 

『そろそろ11時になります。前夜祭にあつまったお客様は道警の皆さんや市内放送を流して退避してもらっています』

 

 香貫花が遊馬の捜査プランを否定し、迫りつつある爆破時刻を山崎が忠告する。

 焦る隊員達。必死の捜索を続けるが、雪像のブロックが多く、捜査は思う様に進展しなかった。

 

『やるだけやるのよっ』

 

「でもどうやって見つければ」

 

 香貫花の叱咤に野明の弱音が零れる。

 与えられた困難な任務に、いつになく弱気になっている相棒を遊馬は叱りつけた。

 

『喋ってないで探せってば』

 

「でも闇雲に探したってぇ…」

 

『犯人の気持ちになって考えてみろ。野明、お前が犯人ならレイバーを使ってどう爆弾を隠す?』

 

 半ばヤケになった遊馬のアドバイスに、野明はうーんっと唸った。

 もし自分が爆弾を仕込む立場だった場合の状況を脳内でシミュレートする。

 

「雪像は脆いし、崩れやすい。それでも雪像に埋めるなら……ブロックを一つ外すんじゃないかな。そんで…隠したブロックにはレイバーの爪痕が残っている!」

 

『それだ!それを探すんだ!」

 

 手掛かりは見つかった――だがしかし、事件現場となった大通公園に無数にある雪像のブロックからレイバーの爪痕をみつけるのは困難であり、捜査は難航した。

 

『隊長!見つかりません!』

 

「なんとしてでも見つけてくれ!……とはいってもなぁ―――まてよ?」

 

 後藤は道警テントに設置されたテレビをちらりと見た。

 モニターには、爆破予告を聞きつけて飛来した報道ヘリからの、雪まつり会場の上空映像が流れている。バビロンの城を模した巨大な雪像。その周囲には、雪像で象られた『BABYLON』の文字までくっきりと浮かび上がっていた。

 昨夜、捕まえたテロリストは環境保護を名目に破壊活動を繰り返し、世界的な規模を誇る『地球防衛軍』傘下の過激派だった。そして『バビロンプロジェクト』を目の敵にし、それを推し進めている『新東京開発公団』が出品する巨大なバビロンの城の雪像。今回の雪まつりの目玉ともいえる雪像を、果たして連中が放置するだろうか。後藤はマイクを掴み、隊員に命令を下した。

 

「目標はバビロン……バビロンの城だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川崎から木更津の人工島を繋いだ大突堤『バビロンの城門』を記念して作られた『バビロンの城』の雪像を調査したところ、アルファベットブロック『L』の中にレイバーの爪で雪をかき出した痕跡を発見。

 1号機がモーショントレーサーを使用し、ブロックを取り出してみたところ隠された小型爆弾を発見することに成功した。喜んだのもつかの間、爆弾に仕掛けられたタイマーを見て野明はゾッとした。

 

「そ、それで…どうすればいいの?……これ」

 

 野明が雪像から掻き出した爆弾を見ながら言う。爆弾に取り付けられたタイマーには残り時間、3分と表示されている。捜索に時間を取られすぎてしまったのだ。

 

『そういえば香貫花、前に爆弾解体ができるとか言ってなかったか』

 

『たったの3分じゃ無理よ!』

 

『付近に爆弾処理班を待機させてはいますが、僅か3分では……」

 

「じゃあどうすれば」

 

 沈黙する一同に香貫花は作戦を提示した。

 

『タイムリミットまでに解体している時間も運ぶ時間もないわ、あなたが上空に投げて爆弾を狙撃なさい』

 

 最早作戦ともいえない、香貫花の無茶ぶりに野明は悲鳴を上げた。

 

「うぇええ!?……そ、そんなの私には無理だよぉ!!」

 

『他に手はないわ。やるのよ!』

 

「うぅう……っ」

 

 野明は頭を抱えたくなった。

 動く標的だろうと百発百中のヒカルならともかく野明の射撃訓練の成績は、お世辞にも褒められたものではなかった。

 

「……ッ」

 

『グズグズ泣いていても仕方ないだろ!やれ、野明!』

 

「ッ~~~このやろ~~っ!」

 

 他人事だからと容赦のない遊馬の命令にイラついた野明は唇を尖らせた。しかし遊馬の減らず口にストレスをためている間も、爆弾のタイマーは容赦なく時を刻んでいた。やるしかなかった。

 

「うぅ……やるしかないのかぁ……」

 

 項垂れた野明は諦めてレバーを操作した。脹脛に仕込まれたガンホルダーがガクンッと音を立てて開くと、手首のレールを伸ばしたイングラムが、37mmリボルバーカノンを引き抜いた。

 空いているイングラムの左手に爆弾を慎重に握りこませる。野明の額に緊張の汗が流れ、乾いた唇を舌でペロリと舐めた。レバーを握る指先が震える。深く息を吸い込んだ野明はレバーを押し込んだ。

 イングラムが左腕を思いっきり振りかぶり、やけくそ気味に爆弾を上空に放り投げた。

 すかさずリボルバーカノンの照準を、上昇し続ける爆弾にピタリとつける。慎重に狙いを定めた野明は手元のレバーのスイッチを押した。瞬間、連動した1号機の指先がリボルバーカノンの引き金を引いた。

 甲高い炸裂音と共に放たれた37mmの弾丸は、爆弾とはあらぬ方向へと飛んでいった。

 

『続けて撃て!野明!』

 

 頬に汗が伝う。もう一度スイッチを押し、引き金を搾る。放たれた二発目の弾丸は一発目とはまた異なる方角に向け飛んでいった。

 ――当たらない。当たりそうにない。滞空距離とタイミング的につぎが最後だ。

 

「……く、ダメだ」

 

 もう一度。照準と重なるように狙いをつけて引き金を搾った。撃鉄が解放され火薬が爆ぜる。太く、甲高い銃声が辺りに轟き、銃口から対レイバー用ホローポイント弾が発射された。

 カチンという金属を砕く小さな音――瞬間、雪まつり会場の上空を覆うほどの大爆発が発生し、会場周辺にいた観衆は驚いて身を伏せた。爆発音が轟き、パラパラと大きな火の粉が地上に降り注がれた。それは道警の仮設テントに引火し、慌てた警官らが雪で消火した。

 もしこんなものが、地上で起爆していたら会場どころか周辺の建造物にまで被害が及んでいた。とんでもない規模の爆発に、暢気に野明のイングラムを見守っていた観衆も揃って青ざめていた。

 

『や……やったじゃないか!野明!』

 

 上空に放り投げた爆弾への狙撃を成功させた野明の腕前に遊馬が率直な賛辞を贈る。

 お前にこれだけの射撃の才能があったなんてな――!しかし。

 

「ちがう……私じゃないよ」

 

 1号機が上空へリボルバーカノンを構えたまま、野明は目の前の現象に呆気に取られていた。

 野明のアルフォンスが放った3発目の弾丸は爆弾とは全く異なる方向へと飛んで行ったのだ。

 

『はっ……お前以外に誰が?』

 

 遊馬は会場を見渡す。野明の瞳は銃声が重なるように放たれた弾丸の軌跡を辿っていく。

 辿り着いた先にはいつのまにか起動していたイングラム2号機が雪まつり会場上空にリボルバーカノンを構えていた。野明はグッと唇に力を入れて、大事な仲間の名前を口にした。

 

「――ヒカルちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話先の後藤から事の顛末を聞いた南雲は肩の力を抜き、背もたれに寄り掛かった。

 

「そう、何とか無事に済んだのねぇ……それによかったじゃない。仕掛けられた爆弾が一つで」

 

『え?……あ、あぁ、そうか、そうね!爆弾がふたつ、みっつと仕掛けられているってこともあったのか!』

 

「あぁっ?」

 

 南雲は受話器の先から聞こえる間の抜けた中年男の言葉にぐったりとした。

 

『いやぁ、でも雪まつり綺麗だよ。シノブさんにも見せてあげたかったなぁ』

 

「あら?……こっちだってちゃんと見てるわよ」

 

『え?……なんで?どーしてぇ?―――”ガチャンッ”』

 

 微笑みながら南雲は受話器を置いて、後藤との通話を切った。

 隊長室の隅に置かれたテレビには、雪まつり事件の舞台となった大通公園が映し出されていた。テロリストによる爆破予告の直前、爆弾を見事に解体した泉野明巡査のお手柄をキャスターが熱烈に報じている。

 やがて場面が切り変わる。そこにはヒカルと少年の隣に立つ野明の姿があった。彼女は照れくさそうに頭をかきながら、来場した子供たちや家族連れとともに、1号機を背景に写真撮影に応じていたのだった。




 被疑者が激しく抵抗したため、クランシー巡査部長がやむなくこれを無力化しました。と後に、後藤隊長は本部にそう報告しました。
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