愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!   作:イングラマン

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第四話 VS香貫花その2

「おりゃー!」

 

「ちょこざいな小僧ーッ!名を名乗れー!」

 

「コゾーじゃないぞ!お姉さんだーッ!」

 

 対峙する2体のドーファンがドタバタと標準装備の警棒を振り回してチャンバラを演じている。

 大袈裟で無駄な動きが多いが、逆に言えばドーファン――ひいてはイングラムの可動域が広いことを意味している。

 野明と遊馬……賑やかで楽しそう。

 

「デヤーッ!」

 

「タリャーーッ!」

 

「緊張感の欠片もない。第二小隊はどうなってるのよ……」

 

 一見してふざけているとも取れる両者の剣戟を観戦していた南雲さんが嘆いた。

 研修を共にしたボクからすると二人とも2週間という短期間で、よく動かせていると思うんだけどなぁ。

 

「いいんじゃないの元気があって賑やかで。まるでロボットみたい」

 

「二人とも楽しそうですね~」

 

 空振りを繰り返すドーファンを暢気に眺める。

 しばらくちゃんばらに興じていた二人だったが、不意に遊馬がドーファンの足を踏ん張り”させすぎて”機体を横転させてしまった。

 その隙を見逃さなかった野明機がすかさず警棒を突き付けた事で、1回戦目は野明の勝利で終わった。

 

「やろうふざけやがって」

「遊馬め、下手な三味線弾くぐらいならもっとちゃんとやりなさいよ」

 

「指摘する問題を根本的に間違えていないかしら……」

 

 下手な手抜きを働いて醜態をさらした遊馬にボクと榊さんがヤジを飛ばし、南雲さんが額を押さえている。

 ボクたちの罵声で遊馬機の横転が、純粋なマシントラブルではないと隊長も気が付いた。

 

「わざとですか」

 

「あぁ、わざとだ」

 

「イングラムに使ってるオートバランサーなら足を滑らせたりしません。わざとでもない限り」

 

 榊さんの答えを補足した。プロトタイプイングラムともいわれる教習用レイバーのドーファンにはイングラムと同じ篠原製のオートバランサーが用いられている。

 頭身が高く重心も高い所に位置している人型レイバーは僅かな振動でも大きく体幹がぶれる。それは安定感の少なさを意味しており、にも拘わらず走ったり飛んだり跳ねたりできるのは篠原製の足回りが高いレベルで完成している証拠だ。

 ボクが思うに篠原の一番の発明じゃなかろうか。

 

 教習用レイバーへの愚痴をこぼしながら観覧席に帰ってきた遊馬が、実は篠原重工の御曹司と知り野明が驚愕している。

 あいつは警官になったのは親父に嵌められたからと嘆いているが真相は定かではない。

 そんな二人を差し置いて第二回戦が始まろうとしていた。次戦は山崎ヒロミ巡査対進士幹泰巡査だ。

 

「ミキちゃーーん!がんばってーー!!」

 

 奥さんの黄色い声援が飛ぶ――が、ヒロミちゃんの体格が大きすぎてドーファンの搭乗口に収まらず試合は続行不能。

 ヒロミちゃんは不戦敗となり、進士さんが2回戦進出となった。

 

「根はいいやつなんだけどなぁ……」

 

 散々な試合結果に後藤隊長がひとりごちた。

 ヒロミちゃんが大きな体格を縮こませて悲しそうにしている。そして奥さんは旦那さんの不戦勝に喜んでいる。

 2回戦目は試合が行われなかったので、そのままの流れですぐに3回戦目が執り行われた。

 次戦は五味丘さん対クランシー巡査部長だ。巡査部長がこちらを一瞥しドーファンに向かっていく。

 今朝から妙に意識されていると感じる。ボクはドーファンに乗り込むクランシー巡査部長を見ながら後藤隊長に尋ねた。

 

「隊長、彼女になにかしませんでした?」

 

「え?…な、なにも…」

 

「……」

 

「やだなぁそうやってすぐに人を疑うのは……はは…あはは」

 

 これなんかしてるやつだわ。

 ボクがスッと白い目を向けると、後藤隊長は白々しく顎を伸ばして顔をそむけてしまった。

 もう40過ぎのおじんの癖に誤魔化し方が子供っぽい。

 

「ねー。ヒカルちゃん、五味丘さんって強いの?」

 

 とうとう沈黙を決め込んだ隊長をこれ以上追及しても仕方ない。

 野明の質問に答えることにした。

 

「強いよ。柔道四段、剣道三段、合気道二段。現場にいけば常に沈着冷静で度胸もある。第一小隊では切り込み隊長をやってる実力者だよ。ただクランシー巡査部長がどの程度の実力なのか……今朝のがハッタリじゃなければ見応えのある試合になりそうだけど」

 

「ねぇ。やっぱり格闘技とかやっておいた方がいいのかな」

 

「……まぁないよりはやった方がいいんじゃない?」

 

でも――と続ける。

 

「レイバーの操縦には格闘技の経験よりもっと重要なものがあるよ」

 

「それって?」

 

「それは……あっ」

 

 いつの間にかボクの話に耳を傾けていたみんなが一斉に前を向く。

 ズゥウウンと砂埃をたてて五味丘先輩のパイソンがドーファンの手で組み伏せられていた。

 試合開始わずか数秒の出来事である。

 

「な……何したの?」

 

 試合を見逃してしまった野明に代わって、震えた声でヒロミちゃんが答えた。

 

「一本背負いですよ……鮮やかなまでの一本背負い」

 

 五味丘先輩が操る97式改を相手取りながら、瞬く間に試合を制したクランシー巡査部長の早業に観覧者が呆気に取られている。

 後発機であるドーファンの方が運動性が高いとはいえ、五味丘先輩が搭乗するパイソンに一本背負いを決めるなんて……。クランシー巡査部長の実力は予想以上だった。

 そしてアレの次の犠牲者はボクというわけだ。

 

「あれとやらなきゃいけないのかボク……」

 

「ヒカルちゃん、ファイト」

 

 巡査部長の実力の一端を知り委縮したのか野明の声が小さい。

 トーナメント優勝を目指している野明としては巡査部長と戦うより、できれば身内で気心が知れたボクに勝ち進んでほしいんだろう。

 胸中を不安が掠めるが、野明の期待には添えられるようにせいぜい気合を入れて頑張ろう。ムンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準決勝1回戦目は特に見どころもなく、早々に決着がついた。

 

「それまで、泉野明巡査ーー!」

 

 泉野明巡査対進士幹泰巡査の試合は、野明が危なげなく勝利をおさめた。敗退して肩を落としている進士を妻のタミコが慰めている。

 次は準決勝2回戦目。クランシー巡査部長対太田ヒカル巡査部長。どちらも知る人ぞ知る実力者。激戦の予感に周囲の期待と熱量が高まっていく。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「んー。私はヒカルちゃんに勝ってほしいなぁ。クランシー巡査部長ちょっと怖いし……」

 

「ヒカルとやりたがるとか、お前見かけによらず度胸あるのな」

 

「むっ……なんだよそれ~」

 

 要領の得ない返答をした遊馬を野明が唇を尖らせ不満を露わにするが、彼は恍けたふりをして笑っている。

 ヒカルと遊馬。入隊して日の浅い野明には察する事のできない二人の信頼関係に、野明は疎外感を覚えていた。

 

「まぁ俺もイングラムでヒカルがどこまでやれるのか……興味あるね」

 

「おいキサマーッ!ヒカルヒカルと、うちの娘になれなれしいぞぉおお!」

 

 突如、横から大声で割って入ってきた男性に、野明と遊馬が目をパチクリと瞬かせた。

 白髪染めで黒くした頭髪をオールバックに固めた中年男性だ。更に太い眉に太い顎、短足でがっちりとした体形といかにも絵に描いた様な日本の頑固オヤジといった風体だ。

 上品で仕立てのいいスーツとネクタイで身を固めてはいるが、どちらかと言えば腹巻と白いステテコシャツのステレオスタイルが似合いそうだなと遊馬は思った。

 

「あ、ヒカルちゃんのお父さん…」

 

「だいたいお前ら巡査だろー!階級が下のもんは上のもんに敬意を払わんかー!組織としての示しがつかんだろうがーッ!」

 

「だ、だってヒカルちゃんがそれでいいって……」

 

「いいわけなかろうがーーッ!!」

 

 唾を飛ばして怒鳴るヒカルの父に野明は耳を塞いで身を傾けた。

 泉たちと太田に階級差はあれど、本庁から島流し同然の扱いを受けてる特車二課では大きな意味は持たない。

 どちかといえば隊長や班長などの役職による差や為人が重視される、独特の風土文化が特車二課で醸成されていた。

 しかし警視庁から隔絶された環境で育まれた二課の風習を知らないヒカルの父にとって、上官である筈の娘が部下から軽く扱われているようにしか見えなかった。

 

「お前ら即席警官にはわからんだろうがなぁ!警察内部において階級差は絶対なんだぞぉ!うちの娘をもっと敬わんかーーッ!」

 

「警官じゃないでしょあんた」

 

「なんだとぉーー!だいたい貴様はウチの娘のなんなんじゃーーッ!!」

 

 軽口を叩く遊馬に食って掛かるヒカルの父。

 熱量を増していく二人の喧嘩を野明がまぁまぁと取りなそうとするが、効果は見受けられず二人はバチバチと火花を散らしている。

 ついには互いの襟首を掴みかかり場外乱闘が始まらんとしたその時――ドゴンッと強烈な打撃音と衝撃、深い地響きがグラウンドに大きく響き渡った。

 殴り合い寸前までヒートアップしていた二人も手を止め、地響きの発生源に目を向けた。試合会場であるグラウンドでは砂塵が激しく立ちこめていた。

 

 程なくして漂っていた砂埃が晴れる。真っ先に視界に入ったのは仰向けに倒れているドーファンだ。まるで気絶したかのようにピクリとも身動ぎしていない。

 次にもう一機のドーファンだが、大きく肩を前に突き出した奇妙な前傾姿勢で静止していた。

 周囲が奇怪な光景に戸惑う中、前傾姿勢のドーファンは構えをゆっくりと解くと、左腕部に格納されている模擬戦用の警棒を引き抜いた。そして倒れたドーファンに近づくと警棒の切っ先を突きつけた。この一連の動作の最中、対戦相手のドーファンは一切の抵抗を見せなかった。

 呆けていた佐久間教官が慌てて気を取り直し、バッと旗を振り上げた。

 

「お、太田ヒカル巡査部長ぉーー!!」

 

「ぉ……ぉおお!ヒカルぅうう!ぉおおおぉほぉおおおッ!」

 

 ヒカルの父は遊馬を突き飛ばし、娘の勝利に歓喜して万歳三唱を始めた。

 だが小躍りするヒカルの父とは対照的に、試合の一部始終を目の当たりにしていた筈の面々は、未だに信じられないとばかりに目を大きく見開き呆けている。

 

「え、え、え?ヒカルちゃんが勝ったの……何したの?」

 

「い、いえ、その…クランシーさんの攻撃を躱して…ただ体当たりだけしたような…」

 

「えーっそれだけーー?」

 

 試合の一部始終を目撃していた進士が野明の疑問に答えるが、彼にも試合の全容を掴みきれてはいないようだった。

 しかしそれは進士に限った話ではない。野明がキョロキョロと辺りを見渡すと、この場にいる誰もが目前の現象を理解できていないようだった。

 だが突如――くつくつと特車二課整備班長の榊が堪えるように腹を抱えて笑いだした。普段は寡黙な男の爆笑に、取り巻きのシゲや若い整備員がギョッと目を丸くした。

 

「お嬢……実戦であんなワザ使うとはな。カンフー映画だけの話かと思ってたぜ」

 

 目の前の現象がよほど愉快だったのか、滅多に笑わない榊の爆笑にシゲが頬を引きつらせている。

 そして観覧者の中でひとりだけ得心がいった榊の独り言により、後藤もようやくトリックのタネに思い至れた。

 

「八極拳の鉄山靠ですか。おっそろしいことするなぁあの娘……いつのまに中国拳法を仕入れたんだか」

 

「実際にお目にかかったのは初めてだが、一撃を躱した際に前足を差し込んで重心を崩していたから間違いないぜ。カウンターにもなっているから見た目以上に中身にダメージが入ってるはずだ。教習用のレイバーであれだ。イングラムに乗せたらどんな風に化けるのか今から楽しみだぜ……」

 

「クランシーからの攻撃を誘うために、銃を抜くフェイントまで混ぜていましたね……経歴には剣道と柔道しか書かれてなかったけどなぁ~」

 

「さっきの五味丘との試合を見て、これしかないと思いついたのかもしれねぇな」

 

 ヒカルがイングラムでカンフーアクションする未来を幻視した後藤はぼやいた。

 二人の会話で試合が高い次元で行われていたことを周囲の者は悟り、勝者として悠然としているヒカルのドーファンを見上げている。

 

「く、クランシー巡査部長のレイバー、空飛んでましたけど大丈夫なんスカネ…」

 

 未だにピクリとも動かないクランシーのドーファンを恐る恐る指さすシゲに後藤は、ん~っと腕を組んで唸った。

 背中から体を当てる鉄山靠は一見体当たりのようにも見えるが、軽くしゃがみ込んで下から衝撃を当てる仕組みから、打撃技でありながら投げ技の性質も併せ持つ。

 

「まぁ、レイバーの中だし大丈夫なんじゃないの~?」

 

「第二小隊には勿体ないわねぇ……やっぱり彼女うちにくれない?」

 

 物欲しそうにせっついた南雲に後藤はにたりと笑った。

 

「あげない」

 

 試合終了後。ドーファンから降車し、観覧席に戻ってきたクランシー巡査部長がパイプ椅子に座った。

 周囲の心配をよそにクランシーは一言も口を利かず、脱いだヘッドギアを膝に置いて瞼を固く閉じている。

 一見、試合前と変わりない様子に見えたが、周りにいた者たちは彼女から発される針のような隔意を敏感に感じとっていた。

 

 ―――話しかけたら撃ち殺す。

 そんな殺気の様な鋭い気配をバシバシと周囲に放射しており、更にクランシーが日系美女なのもあって迫力が一層に増している。彼女の周りにいた者たちはじりっと間合いを広げた。

 そこへ戻ってきた太田ヒカルが彼女の隣の席に座った。

 クランシーの肩がぴくりと震える。だが当のヒカルは気づいていないのかそれとも無視しているのか。

 ヒカルの陽だまりの様なほのぼの温風と、クランシーの凍てつかせんばかりの地吹雪に当てられた周囲は恐れる様に遠巻きに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー遊馬どうしよーーっ!!」

 

 決勝戦直前。

 文武両道の五味丘巡査部長を印象以上の強さで制したクランシー巡査部長を、これまた一瞬で叩きのめしたヒカルの未曽有の力量に、すっかり怯えてしまった野明がヒカルとコンビを組んでいた遊馬に相談していた。

 野明の声が若干涙ぐんでいる。

 

「んー。当たって砕けろ」

 

 念願が叶うか否かの不安で泣いている女の子に対し遊馬は冷たかった。

 

「それがアドバイスを求めた人間にかける言葉かよーッ」

 

「とはいえヒカルがあそこまでやるなんて俺も知らなかったしなー」

 

 なにせ以前乗っていたのが96式だ。イングラムほど複雑な動作はできないし……と遊馬は心の中で舌を出した。

 

「俺たちのお仕事はどんな強敵だろうと逃げる事は許されないんだよ。逃げだしたくても逃げられない……そういう時は知恵と勇気で補え」

 

「知恵と…勇気…」

 

「あいつはそうしていたぜ」

 

 1号機用のヘッドギアを見る。

 野明にとってヒカルの第一印象は、身長が伸び悩んでいた高校バスケ部時代の頃の自分よりも更に一回り小さく、それでいて頼りになる警察官の先輩。

 そしてこの2週間の研修で実は一人称がボクっ子で童顔が愛らしい女の子、しかもお料理上手で、育ちがいいのか気立てもよく、更にレイバーの同好と知れてすぐに仲良くなれた。

 あと大浴場で確認したが、野明の知る人物の中で一番胸が大きかった。

 そして先ほど行われた準決勝戦で、先輩が実はレイバーの操縦と格闘のセンスに関しては知る限りで最強の人物だと判明した。

 頼りになる先輩が自分の夢を阻む最強の敵として立ちはだかったのだ。

 

「それでなんとかなる」

 

「むぅ……わかんないけど……なんかわかった」

 

 多少気が紛れた。

 ヘッドギアを被り、にへらと笑った野明はイングラム一号機に向かって駆け出した。

 その後、決勝戦は開始一分で終了しこの日のメインタイトルは無事に終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早々にトーナメントの全行程を消化してしまったこともあり、余った時間を警視庁からお越しいただいた皆様からのありがたーーーいお言葉で締めくくった。

 あとは会場のお片付けもあって時刻は既に夕刻。教習用レイバーを納めるハンガーには第二小隊の面々が揃っていた。

 リストが挟まれたクリップボードを持つ後藤隊長の前に、クランシー巡査部長を含めた第二小隊の6名が整列している。

 

「まぁ、一分もっただけ上出来だろ」

 

「……ひぐっ…うぐ…ぐぐっ」

 

「野明……落ち着いて。ねっ。咄嗟にボクの攻撃から抜けだしてすごかったよ」

 

 鼻を赤くして鼻水を啜り、泣き顔を堪えている野明を慰める。

 必ず勝たなきゃっていう強いプレッシャーがかかっていたのだろう。

 研修中より動きの硬い野明だったから一分で制したが、そうでなければもうちょっと仕留めるのに手こずっていたと思う。

 

「あー、静粛に静粛に。それではお待ちかねのポジションを発表します。1号機フォワードイングラムパイロット、泉野明巡査」

 

 くしゃくしゃに泣きはらしていた野明が、隊長からの配置発表を耳にした瞬間、ブンッと猛烈な勢いで顔を上げた。

 野明のクリッとした大きな目がガンガンにひん剥かれている。

 

「……え!ほんと!?ほんとうですかーー!嘘じゃないですよねーー!?」

 

「俺が嘘言ってどうすんのよ」

 

「や……やったーー!」

 

 泣いたカラスがもう笑った。機嫌をころりと変えて、ぴょんと飛び跳ねている。

 決勝戦敗退の絶望から一転、念願のポジションにつけた喜びからイングラムに向かって万歳三唱する姿が実にほほえましい。

 でも水を差すようで悪いけど、隊長の窪んだ三白眼で観察されている事実に気づいてほしい。

 見かねた遊馬が肘で小さく突っつく。諸手を挙げていた野明の視線が顎をしゃくる遊馬、後藤隊長と続き、歓喜の小躍りがピタリと止まった。

 

「アハハ、バンザーーイ!ばんざぁあ…………はうっ!?……す、すみません」

 

 赤面した野明は体を縮こませ列に並び直した。

 コホンっと隊長が小さく咳払いし、弛緩した場の空気を締め直した。

 

「……1号機バックアップ、指揮車担当。篠原遊馬巡査。同レイバーキャリア担当、山崎ヒロミ巡査。2号機フォワードイングラムパイロット、太田ヒカル巡査部長。2号機バックアップ、指揮車担当。香貫花クランシー巡査部長。同レイバーキャリア担当、進士幹泰巡査……以上だ」

 

 名簿が書かれたボードを下げて、ポジション発表を終えた後藤隊長は未だに浮かれ気分が抜けきらない野明をピタリと見据えた。

 覗き込むような隊長の視線に気づき、だらしなくにやけていた野明の唇が自然と引き締まる。

 

「ところで泉、どうしてお前がイングラムのフォワードに選ばれたのか……わかるか?」

 

 隊長から突然投げかけられた問いに野明の小さい肩がびくりと跳ねた。

 答えに窮した野明はキョロキョロと視線を彷徨わせている。

 

「えっ!?…えぇっと…決勝戦までいったから……ですか?」

 

「ちがうわよ。トーナメントはポジションを決めるための参考に過ぎないわ」

 

 試合が終了してからというもの、ずっと沈黙を保っていたクランシー巡査部長が後藤隊長に代わって答えた。

 

「研修期間は凡そ一年。一年たてばいなくなる人間に最新鋭のレイバーの学習データに癖をつけるわけにはいかないわ」

 

「一年……」

 

 野明がボソッと呟く。

 つまりボクはこれからの一年間、この人とコンビを組んで仕事をするのか。

 言い切ったクランシー巡査部長は野明―――ではなく、ボクを見ている。

 

「充実した一年にしましょうね……」

 

 クランシー巡査部長のにこやかな微笑みの奥にある、ボクを見つめる怜悧な瞳に寒気を覚えた。

 ………ずぇ~~~~ったい根に持ってる。

 

 




香貫花の研修期間は半年より長めのアーリーデイズ版を採用しています。

感想、誤字報告ありがとうございます。いつもお世話になってます。
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