『ウソはつきたくない狂人』
こつんこつんとブーツの音を響かせて廊下を歩く。なんだかんだで来るのが遅くなってしまった。
毎日来れば彼が壊れる
期間を開ければ彼が死ぬ
彼の精神と命にあまり干渉はしたくない。閉じ込めてるだけ、程度。
だって彼は
「Good morning!やー、いい朝だねえ!」
そう言って思い切り扉を開けるとリドルは少し肩を震わせてこちらを向き、身構えた。かわいいなあ。
「…」
「耳寄り情報!!私の疑惑解消!!祝杯でも上げようか?ふふ」
「…一体何をした?」
「聞かなくてもわかってるくせに!同じ寮の子差し出しただけ」
くるくるその場で回って見せれば、静かな部屋に彼のくそっという声が反響した。荒々しい言葉遣い、現実での紳士的かつ魅力的な彼とはかけ離れている。
しかし私はこちらの姿の方が好きだ。うんうんと一人納得してからリドルに手を伸ばす。
「触るな!」
ぱちんと弾かれた手をじっと見て、彼をまたじっと見る。彼はそんな私を見てさあっと顔を青白くさせた。元から白いというのに。そういえば外に出ていないからさらに肌が白い。今度日向に出そう。
そんなことよりも。
「……ア、アリス」
「可愛いねえ」
引きつった喉で話す彼が可愛くて愛しくて仕方がない。危害を加えると思われたようだが、今のところその予定はない。
「怒られると思った?嫌われると思った?私があなたを嫌いになったりしたら、あなたがどうなるかわからないもんね?」
「……」
「優しいなあ、可愛いなあ。これだから君は手放せない」
思わず笑顔になってしまう。彼はそんな私を見て、何も言わないものの警戒した。
「優しくなんてない、それはもう充分わかったことだろう?早く僕を開放してくれ」
「開放?死にたいの?それはちょっと困るな。それと、君は充分優しいよリドル。私は、そんな、君が可愛くて、愛しくて、大切で……いっそのこと壊してしまいたいくらい好きなの」
「……! 僕を、どうするつもりなんだ」
「どうもしない。ずっと一緒にいてくれるって言ったもんね?なにもしなければなにもない、なにもなければそれでいい」
苦虫をかみ潰したような顔の彼は、もう悪態をつくこともなかった。頭の中で何を考えているんだろうか。この屋敷から、逃げ出す参段だろうか。それとも、自分の身を守る方法だろうか。
でも残念、どれだけここで身を守っても、生身の体じゃないからね。
「いい子だなあリドルは。そうそう、屋敷の階数だけど、今日は増やさないでおくよ。」
「……?」
怪訝そうな顔の彼の、横っ面を引っぱたいてやりたい気分をどうにか抑えて部屋を出る。
彼には生きていて欲しい。彼には絶望していてほしい。しかし、その中で希望が見えたそんな状態がたまらなく好きだから、早くこの屋敷から逃げ出す参段を立ててくれないだろうか。へし折ってかき抱いて、もうここから一生出られないと耳元で囁いたら、彼はどんな顔をするだろう?
ああ、彼は今なにを考えているんだろう?逃げ出すといえば、キャビネットのことでも考えているんだろうか?
彼が可愛くて、想像するのが楽しくて、私は今日も精神世界から現実に戻る。
【懇願する狂人】
誤字脱字などありましたら報告していただけると幸いです…( ˇωˇ )
暴力の予定はない、でもそんな欲求がないとは言ってない。