生者に恐怖を、少女に祝福を   作:狐畑

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 バイオハザード二次創作の初投稿です、暖かい目で見守ってください。
 本編より少し前の時系列です。


file1:狂い始めた歯車

 全てはもしもの物語、存在したかもしれない実験体の、あったかもしれない物語。

 

 時は2026年、8月、ローデスヒル療養所。元アンブレラの研究員、ヴィクター・ギデオンが所長を務める会員制高級クリニック。その裏では、世にも恐ろしい生物実験が行われていた。

 かつて行われていた実験のクローンを利用しての記憶の転移実験、現在この場所に捕らわれていたクローンはエミリー、マリ―、そして――もう一人の実験体"ソフィア"だった。

 

「う……ん」

 

 嫌な気配がして目が覚める、目に入るは薄暗い照明に照らされたガラス張りの部屋。物心ついた時からずっとここにいる、何も面白くない部屋。施設の人が偶に来て、色々外について教えてもらったり、学問? とか言うのを習ったりもしたけど。質問をすれば教えちゃダメとはぐらかされる。いつかは外に出て、自由に走ったりしたい、こんな狭い部屋とか、施設とかじゃなくて……もっと広い場所で、もっと自由に。今は無理でも、何年後か、何十年後かに……。

 

 私……"ソフィア"はもう13歳らしい。何年も前は同い年くらいの子がいたけど、1人、また1人といなくなっていった。そして、最後に私だけが残った。でも、年下の子が来てくれた。

 マリーとエミリー……私と同じ、ミディアム程度の伸ばした白い髪に真っ白な肌、顔立ちもよく似てるし、服までお揃いの白いワンピース……私のサイズはちょっとちがうけど、ここまで同じなのだから姉妹なんだと思う。私が姉で、あの子たちが妹だ。昔一緒だった同い年くらいの子も私によく似てた、我ながら姉妹が多い。エミリーとかは友達っていうけど、少なくとも私は大事な妹たちだと思っている。

 たまに一緒に遊んだりもした、あの子たちの好きなことも姉としてしっかり覚えた。マリ―はお人形遊びが好きで、エミリーは本をよく読んでる……あの子は白内障という病気で目が見えなくなってしまったから、点字というのを習ったらしい。私が好きなのは、勉強だろうか……覚えると、施設の人たちがたくさん褒めてくれたから。

 

 軽く伸びをして、部屋を隔てるガラスの外を見ると、別の部屋を割り当てられている2人はベッドでよく寝ていた。なんで全員別々なのかと思うけど、施設の人に言っても規則だとしか答えてくれない。

 

「起きていたのか、良い子とはいえないな」

「仕方ないじゃん……起きちゃったんだし」

 

 私たちの寝床とはガラスで隔てられた中央の部屋、外に続く階段の方から、男の声が聞こえた。そこには私よりも大きく、鱗みたいな柄のコートを着た男……ヴィクター・ギデオンさんがアタッシュケースを片手に立っていた。顔には相変わらず変な仮面みたいのを付けている。肌もがさがさで、ちょっと口が臭くて見た目が怖い人だ。

 

「で、こんな時間になぁに、ギデオンさん……」

 

 彼はこの場所の所長というものらしい、偶に私たちに会いに来る。何がやりたいのかはよくわからないし、偶に変な注射とか薬を飲ませたりしてくる。

 

「検診だ、大したことでもない。寝てるうちに麻酔を入れて済まそうと思ったのだが……君は慣れているだろうし、先に済ませよう」

 

彼は腕に付けた腕輪を機械にかざし、寝室のガラス戸のロックを解除して中に入ってくる。

 

「その……早めに終わらせてね……」

「ああ、すぐに終わる……君は嫌がらないから作業が楽だ」

 

手際よく手に持ったアタッシュケースから器具を取り出し、手際よく血を抜いたり、目に光を当ててのぞき込んだりしてくる。もう必要ないと思われてるのか、私には麻酔というものを2年ほど前から使わなくなったらしい。元々は痛くないためにやってるらしいが、使わないようになってもあまり痛いとは思ってない。

 

「終わり……?」

 

 彼が器具をしまい、いつものように用紙に何かを書いている。1度覗いたことがあるが、容態安定、くらいのことしか分からなかった。

 

「今日のところは終わりだ、特に変化はない……相変わらずの結果だな、君は」

 

 淡々とそう答え、ギデオンさんは少し残念そうにため息を吐きつつ、色々な器具を手際よくアタッシュケースにしまう。

 

「……それって、褒めてるの? 大丈夫なら、ちょっと出ていいかな……その、なんか落ち着かなくて」

 

 私は確かに、なんとなく嫌な気配がして起きた、でも……それはギデオンさんの気配じゃない、この人が怖いのは見た目だけだ。乱暴なこともしないし、欲しいものをくれる時もある。だから、違う……もっと嫌な気配、本能から来る恐怖と言うべきだろうか。

とりあえず、ここに居たくない、少しでもはやく外に出たい。この場所から離れたい。

 

「……わかった、散歩くらいなら許そう。だが、私もついて行く、だから私の検診が終わるまで――」

 

 ギデオンさんが言葉を紡ぎ終わる前に、バキバキ……と、なにかが折れるような音が部屋に響いた。その音の先は――マリーの寝てるはずの部屋だった。

 

『あぁ……アアアアァァァアア!!』

 

 マリ―みたいな小さい子から聞こえるはずのない、獣みたいな不気味な大声が部屋に響く。声がやまないまま、ばき、めきという音と共に、何かが破けるような音まで聞こえてきた。

 

「なに? 何があったの? この音、怖い……」

 

 エミリーの部屋の方から怯えた様子の声が聞こえてくる、どうやら今ので起きてしまったらしい、エミリーは目が見えないのだ、きっと不安で仕方ないだろう。

 ふとマリーの部屋の方を見れば、マリーの小さな体がベッドの上でビクビクとのたうち回っている。

いや、あれは本当にマリーだろうか、バキバキ音をならしながら腕が伸び、肌は真っ白というより、汚れた灰色で所々裂けているように見える。マリー、顔は見えないが、形が歪んでいるように見えた。そんなのがマリーとは、到底思えない。

 

「これは……ウィルスの反応が出たか。ひとまず沈静化を」

 

 ギデオンさんは焦る様子もなく、ぼそぼそとそう言って、ケースから大きな注射器を取り、マリーの部屋に早足で向かった。そしてベッドの上にてのたうつマリーらしきなにかの首に手を伸ばし抑え、もう片方に持った注射器を刺そうとしたとき。

 

 バンッ! と激しい衝撃音が響く、アレの腕が抑えようとしたギデオンさんをガラスの壁に吹き飛ばしたのだ。激突し、体勢を崩したあの人を気にもとめず、獣のような声をあげながら部屋全体をかこう石壁にあった小さな隙間を想像できない剛力で砕き、広げ、その中に入って行ってしまった。

 

「……マリー? いや、今のは違う……きっと知らない化け物じゃ」

 

 つい口に出してしまった……違う、マリーな訳がない。マリーは私の姉妹で、大事な妹なんだ。私が感じた嫌な気配の正体はきっとアレだ。マリーの部屋にいた化け物、本物のマリーは最初から別の部屋に居たんだ、きっと……そうだ、そうに決まってる。

 

「エミリー。気にしなくていい、今のは事故だ。ゆっくり……おやすみ」

 

 私が茫然自失としている間に、立ち上がっていたギデオンさんがエミリーを落ち着かせるために言葉をかけていた。特に怪我をした様子もなさそうだ。吹き飛ばされてぶつけた程度のことだろう。

あの人が私の方を見ると、しーっ……と人差し指を唇に当てるジェスチャーをしてくる”言うな”ということだろう。

 分かってる、今のをエミリーに言ったりしたら、きっと怖がってしまう。だったら私はギデオンさんに従うべきだ。

 

「大丈夫だよエミリー、お姉ちゃんは見えたけど……怖いお化けはいなかったよ」

「……ほんと? けど……ソフィアも言うなら……」

 

エミリーはまだ不安そうな表情を浮かべているものの、布団にくるまり、目を瞑る。震えながら眠ろうとするその様子を見て、私もやるせない気持ちになる。

 

「……面倒なことになった、すぐに捜索させよう」

「な、なにが起きてるの……?」

「君は気にしなくてもいいことさ、で……少し外に出たいんだったな」

 

 ため息を吐きつつ……アタッシュケースと器具を回収するためにギデオンさんは私の部屋に戻ってきた。いつものように私の質問をはぐらかし、ロックが解除されたガラス戸の方に立って軽く手招きをしてくる。私はそれに大人しく従った。嫌な気配は消えたけど、あんなものを見たせいで落ち着かない……外に出ればきっと気分転換にはなる。私はギデオンさんと一緒に階段を上り、私は広いエントランスに出た。今は夜だから職員さんは一人もいない、白を基調としただだっ広いエントランスに、2人の足音だけが響いている。

 

「君も物を言うようになった、今日見たことは……少なくとも今は忘れた方がいい。マリーは大丈夫だ」

 

 マリーは大丈夫。私もそう信じたい……でも、なんとなくわかってしまう。これは安心させるために言っているのだと。でも、今はその言葉を信じるしかないというのも同時に分かっている。そのことは察されたのか、ギデオンさんは考えるようなそぶりを見せ、口を開いた。

 

「話題を変えようか……そろそろ、君の進路について考えようと思っていてね。このまま何事もなければの話だが」

 

 進路、外では行く学校を決めることとか、働く場所を決めるときにそんな言葉を使うのは知っている。ということは、もしかしたらここを出て外に……そんな希望を感じてしまう。

 

「つまり……外に出られるってこと!?」

「……しーっ」

 

 ついつい、夜だというのに大声を出してしまった。ここには私達や職員さん以外にもたくさん患者がいる……騒音を出すのはよくないことだというのを私は忘れていた。ギデオンさんは不機嫌そうに口元をゆがめると、私の口を強く右手で押え、シーっと息を漏らす。

 

「嬉しいのは分かったが、あまり騒ぐな……今は夜だ、患者たちは皆寝ている」

「あ、ぅ……その、ごめんなさい……」

 

 口を解放された私は、弱々しい声で謝罪する。久しぶりに怒られてしまった。

 

「分かったならいい……まだ、検討の段階だ、あまり期待するな」

「……楽しみにしてるね、私の進路」

 

 期待するなと言われても、それは難しい話だ。だって、少し希望が見えたのだから……そのあと、強引に説得してマリーを探そうとしてみたりもしたけど、結局は中庭を軽く散歩して、私は部屋に戻された。

 毛布にくるまり考えを巡らせるうちに、私の頭は未来のことでいっぱいになっていた。明日は説得して、マリーを探そう。進路のことを妹たちにもまた今度話してみよう、もしかしたら一緒に外に出る……なんてこともあるかもしれない。

 それがほんのわずかな可能性だとしても、いくら淡い希望だとしても、私はそれを信じたかった――




 主人公のソフィアについて:
 エミリーをそのまま13歳程度まで成長させたような容姿をしています、ソフィアは実験体の中でも変異型Tウイルスに対する耐性が高く、13歳になるまでの実験で変異等の現象が確認されず、特に大きな変化も起こしていません。今のところは体が少々頑丈であることくらいです。ウイルス自体には感染しているため、風邪をひくようなこともありません。
 ギデオンから見ても、既に実験体としての価値は殆ど失われていますが、好奇心旺盛で自頭がよく、比較的言うことを聞くため、このまま何も進展がなければ、研究員として育てることも考えています。
 

 ギデオンはイメージ的に実験体として扱えど、無用な暴力はしないと考えたので、若干甘い人みたいになっています。が、本質はスペンサーの狂信者で、マッドサイエンティストというのは一貫しているつもりです。

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