聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
新居のリビングにて
窓の外は激しい吹雪。ゼニゲバ・シティは数年に一度の大寒波に見舞われていた。
ノアール:……動きたくない。一歩も外に出たくない。MPも凍りつきそうよ。
カイト:コタツ(魔導式)最高だな……。ノアール、みかん取って。
ルナ:……むにゃむにゃ。……落ち葉より、コタツの方が、100倍……幸せ……(完全に冬眠モード)。
アイリス:はっはっは! 我が実家から届いた最高級の防寒着だ! さあ、これを持って雪山へ特訓に……。
ノアール:アイリス、悪いけどその扉を閉めて。冷気が入るわ。今日は「絶対安静日」よ。
いつもなら、みかんの皮で滑ったり、コタツのコードに足を引っ掛けて首を折ったりするカイトだが、今日は違った。
カイト:ふふん……。俺も学習したんだ。一歩も動かなければ、死ぬ確率は限りなくゼロに近い。見てろよ、今日はノーデス(無死)記録を作ってやる。
ノアール:……あら、珍しく賢いじゃない。いいわよ、今日一日死ななかったら、明日の朝食に目玉焼きをもう一個付けてあげるわ。
カイト:よっしゃ! 燃えてきた……いや、燃えたら死ぬから、静かに情熱を燃やすぜ。
三途の川
一方、冥界の受付所では……。
カロン:(あくびをしながら)……。……。おかしい。
カロンが時計を見る。いつもなら1時間に3回は「ピッ!」とスタンプを押しているはずなのに、今日は数時間、誰も……というかカイトが来ない。
カロン:……カイト様、まさか「永久不滅のバリア」でも手に入れたんですか? それとも、ノアール様と喧嘩して蘇生拒否されてるとか……?
あまりの静けさに、カロンは受付のシャッターを半分閉めた。
カロン:……これは、歴史的な「暇」ですね。よし、決めた。カイト様が来ないなら、私も冬休みを取らせてもらいます!
カロンは「本日休業(カイト様不在のため)」の看板を出し、自分専用のこたつで冥界限定のアイスを食べ始めた。
現世の夕暮れ時。カイトは順調に無死記録を更新していた。
カイト:ふぅ……。あと1時間で今日が終わる。……あ、お茶が切れた。ノアールの分も淹れてこよう。
カイトが立ち上がった瞬間、足が痺れてガクガクと震える。
ノアール:……カイト、危ないわよ。座ってなさい。
カイト:大丈夫だ、これくらい……。おっと!(よろける)
カイトの手が、ルナが掃除し忘れていた「超重量級の魔導辞書(角が鋭利)」に触れる。辞書がゆっくりと傾き、カイトの眉間を目がけて落下を開始した――。
ガシッ!
間一髪、冬眠中だったルナが寝ぼけながら手を伸ばし、空中で辞書をキャッチした。
ルナ:……ダメです。……本が、傷つく……むにゃ……。
カイト:た、助かった……。
ノアール:……ふぅ。心臓に悪いわね。……でも、これで24時間達成よ。おめでとうカイト、今日は一度も死ななかったわね。
カイト:やったぁぁ! 俺だって、やればできるんだ!
カロン(三途の川にて):……チッ、結局来なかったか。……あ、いえ、おめでとうございますカイト様。おかげで私は、ゆっくりと新作の冥界アニメを全話消化できました。