聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
ダンジョンのスライム溜まり。
隣国の聖女セレナの【至福への強制昇天(ホーリー・エグジット)】により、カイトの魂は黄金の光に包まれ、次元の彼方へと吸い込まれていった。
天界:女神スティアのプライベートサロン
女神スティアは、水晶モニターに映るノアールの般若顔を見て「あはは! 聖女ちゃん、血管切れそう!」とポテトチップスを頬張っていた。
その時、サロンの天井を突き破り、黄金の光に包まれた物体がスティアのティーテーブルへダイレクトに突き刺さった。
スティア:
「げふぉっ!? 鼻にチップスが……! こ、今度は何よ! 誰がこんな汚い魂(カイト)を私の聖域に投げ込んだのよ!!」
カイト:
「……。……。た、ただいま、女神様……。なんか、隣国の聖女さんに『もう頑張らなくていいんだよ』って言われて、気づいたら空の上だった……」
スティア:
「頑張りなさいよ! 頑張って下界で死に続けなさいよ! ここは私の癒やし空間なの! あんたみたいな『業の塊』がここに来たら、ノアールの『怒りの座標』がここに固定されちゃうじゃないのよ!!」
一方、ダンジョンの入り口。
カイトを連れ戻しに来たノアールは、カイトの魂が天界へ昇天していく光景を、杖を構えたままじっと見上げていた。
周囲が「ノアールの怒りで世界が滅ぶ」と戦々恐々とする中、彼女は……おもむろに、にこやかで慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
ノアール:
「……あら。……ふふ、あははは! アイリス、ルナ、見て! カイトが『成仏』したわ! つまり……もう、私が蘇生魔法(レザレクション)を使わなくて済むっていうことよね!?」
アイリス:
「……な、ノアール殿? 正気か? カイト殿を見捨てるというのか?」
ノアール:
「見捨てるなんて人聞きが悪いわ。女神様に『返却』したのよ! これで私、MPをお肌の美容魔法に使い放題だわ。……あ、セレナ様? 素晴らしい供養をありがとうございました。お礼に、この後わが家で最高級の紅茶でもいかがかしら?」
セレナ:
「……まあ! なんて心の広い聖女様。彼も今頃、天界で感謝していることでしょう……」
ノアールの「完全拒絶」の声は、天界のスティアにもハッキリと聞こえていた。
スティア:
「ちょ、ちょっと待って!? 今『差し上げる』って言った!? いらないわよ、こんな欠陥品!! 聖女ちゃん、冗談はやめて! これ、あんたの勇者でしょ!?」
カイト:
「えっ、ノアール!? 俺、捨てられた!? ……。……あ、女神様。ショックで……なんか魂が砕けそう……あ、砕けた。ガハッ!(116回目)」
スティア:
「ギャーーーッ!! 私のオーダーメイドソファがカイトの魂の脂(あぶら)でベトベトよ!! やめて! 死ぬなら他所で死んで! 1秒おきに目の前で死に顔を更新するのは、エンタメじゃなくてただのホラーよ!!」
「……。はい、ピッ。116回目。死因、『隣国の聖女による強制成仏と、女神に拒絶されたショック死』。……。……スティア様、残念ですが今のノアール様にとってカイト様は『処分に成功した粗大ゴミ』扱いです。……。あ、カイト様。天界での『自死ループ』、背景が豪華で映えますね」
スティア:
「映えないわよ! 呪いよ、これは呪いよ! ノアール様ぁぁぁ!! ごめんなさい、私が悪かったわ! 蘇生コストも肩代わりするから、この**『動く産業廃棄物』**を回収してぇぇぇ!!!」
天界に響き渡る女神の悲鳴と、地上で優雅に紅茶を淹れ直す聖女。
カイトの受難は、ついに神の領域を「汚染」し始めたのである。