聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
ダンジョン「スライムの揺り籠」の入り口から、ギルドへと戻る一行の姿は、いつになく異様な空気を纏っていた。
ギルドの重厚な扉が開かれた瞬間、喧騒に包まれていた館内は、冷水を浴びせられたように静まり返る。
そこには、アイリスに支えられ、純白の法衣を涙で濡らして「ううっ……ひっ……」と咽び泣く隣国正教会の聖女セレナの姿があったからだ。
1. ギルドに刻まれる「大罪人」の刻印
セレナ:
「……ああ……。私の……一生懸命な祈りが……。彼を至福の天界へ送ったはずなのに……。天界にすら拒絶されて、あんなに汚い悲鳴と共にリバウンドしてくるなんて……。もう、聖女なんて辞めます……田舎に帰ってジャガイモを植えますぅ……」
ノアール:
「……。……(にこやかに周囲へ向かって)……皆さん、見ました? うちの『お荷物』が、隣国から親善に来てくださった最高位聖女様の『一生に一度の渾身の浄化』を、そのしぶとさだけで台無しにしたんです。……おかげで彼女、聖女としての自信を完全に喪失してしまわれましたわ」
ノアールの杖に魔力の縄で縛られ、ズルズルと引きずられて入ってきたカイトに向け、ギルド中の冒険者から冷たい視線が突き刺さる。
冒険者A:
「おい……マジかよ。カイトの野郎、生き返ったのはいいが、あの綺麗な聖女様をあんなにボロボロに泣かせたのかよ」
「スライムに負けるだけじゃ飽き足らず、国際的な善意まで踏みにじるとは……。人間じゃねえ、生ける粗大ゴミだ」
カイト:
「待て! 違うんだ! 俺は女神様に頼んで『普通には死なない体』にして貰っただけで、セレナ様の祈りをバカにしたわけじゃ――」
ノアール:
「(冷たい声)……その、誰にも望まれていない不快な頑丈さを、少しは世の中のために使いなさい。……。セレナ様、責任を持ってこのバカに、隣国正教会の本山まで謝罪に伺わせます。道中の護衛、好きに使ってくださいな」
セレナ:
「……ぐすっ。……ありがとうございます、ノアール様。……。でも、彼を見ていると、私の『光の加護』が、ただの『懐中電灯』レベルに思えてきて……うっ、うわあああん!!」
ノアール:
「さあ、カイト。あんたに拒否権はないわ。目的地は隣国の教会本部。道中、セレナ様の機嫌を直せなかったら……。その『普通には死なない体』をフル活用して、教会の階段雑巾がけと、聖歌隊の不眠不休バックコーラスを命じますからね。いいわね?」
カイト:
「……地味! 地味にキツいし、勇者の仕事じゃない!」
3. 三途の川の番人の見送り
カロン(冥界からモニター越しに):
「……。はい、スタンプ帳は一時預かりですね。……。カイト様、『普通には死なない体』を手に入れたせいで、謝罪の苦しみからも逃げられないとは、皮肉なものです。……。……あ、カイト様。隣国の国境には、凶悪な魔物が出るそうですよ。死なないだけで、『痛み』は据え置きだということを、忘れないでくださいね(ニッコリ)」
カイト:
「カロンさんまで楽しんでる!? ……あああ、待ってくれ! 俺はただ、普通に……普通に生きて、普通に死にたいだけなんだぁぁ!!」
カイトは、絶望に打ちひしがれるセレナを乗せた馬車の隣を、ノアールに命じられた「反省のステップ」を踏みながら並走させられる羽目になった。
こうして、ノアールのMP節約(美容)と、カイトへの社会的制裁を兼ねた、「死ねない男の謝罪巡礼」が幕を開けたのである。