聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜   作:水上 空

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死ねない勇者の謝罪巡礼・魔王軍遭遇編

 

1. 謝罪のステップ、森に響く

 

「ううっ……ひっ……私の聖女人生、真っ白に燃え尽きましたぁ……」

「セレナ様、もう泣くのはおやめください。お肌に障りますわ」

 

初夏の木漏れ日が差し込む美しい森。しかし、そこに流れる空気は墓場よりも重かった。

隣国の聖女セレナは、アイリスとルナに左右から支えられ、魂が抜けたような顔でヨロヨロと歩いている。その後ろでは、魔力の縄で首を繋がれたカイトが、ノアールの指示通りに「反省のステップ(※全力の反復横跳び)」を踏まされながら並走していた。

 

「ほらカイト! ステップが乱れてるわよ! 誠意が足りないわ!」

「無茶言うなよノアール! なんで謝罪に行くのに心拍数180超えなきゃいけないんだよ!」

2. 魔王軍の偵察隊、絶望と遭遇

 

その時、茂みをなぎ倒して黒い鎧に身を包んだ一団が飛び出してきた。魔王軍の偵察隊だ。

 

「ヒャッハー! 運の悪い人間どもめ! ここを通るなら――」

先頭のオークが威勢よく斧を振り上げた。……が、ノアールの顔を見た瞬間、その斧が地面に落ちた。

 

「……あ? おい、隊長、どうしたんだよ」

「バ、バカ……見ろ、あの女……あの、銀髪の慈愛の欠片もない冷徹な眼差し……! 間違いない、風の噂に聞く『地獄の再起動聖女(リブート・セイント)』だ!!」

 

偵察隊に激震が走る。

「えっ、あの、死体を0.1秒で戦線復帰させて、魂が壊れるまで働かせるっていう、魔王軍最恐の要注意人物か!?」

3. 全員一致の「ヤバい奴」

 

「ちょっと、誰が最恐なんですって? 失礼ね、私はただの清楚な聖女よ。……ねえ、カイト?」

ノアールが氷のような笑みを浮かべて振り返る。

 

カイトは激しい呼吸を整えながら、吐き捨てるように言った。

「……いや、魔王軍の言う通りだろ。あいつらの分析、完璧すぎてぐうの音も出ねえよ……。あいつ、マジでヤバいからな」

 

その瞬間。

アイリスとルナが、示し合わせたように深く、深く頷いた。

「(……全くだ)」

「(……異議なしです)」

 

さらに、泣きじゃくっていたセレナまでもが、魔王軍の言葉を聞いた瞬間にノアールをチラリと見て、弾かれたように顔を逸らしてガタガタと震え出した。

 

「……ちょっと!! アイリスにルナ、あんたたちまで頷かないでよ! セレナ様に至っては、なんで今、不浄の物を見るような目で私を見たの!? ここには私の味方はいないわけ!?」

4. 勇者(笑)の出陣

 

ノアールのこめかみに青筋が浮かぶ。彼女は八つ当たり気味に、魔力の縄を思い切り引っ張ってカイトを敵の前に放り出した。

 

「もういいわ! カイト、あんた女神様から『死なない体』なんて迷惑なギフトを貰ったんでしょ! 勇者らしく、その無駄に頑丈な肉体でアイツらを片付けてきなさいよ!」

 

魔王軍の面々は、放り出されたカイトを見てさらに絶叫した。

「なっ……あいつ、まさか噂の『会員制勇者』か!?」

「死んでも、死んでも、カロンのスタンプカードを埋めるために戻ってくるっていう……あの伝説のバカイトかよ!!」

 

「誰が会員制だ! あとバカイトって言うな! 好きで死んでるんじゃねぇ!!」

カイトが叫びながら突撃しようとしたが、魔王軍はすでに全力で背を向けていた。

 

「逃げろぉぉ! あいつは殺しても死なないし、後ろの女は死なせてくれない! 効率が悪すぎて呪われるぞ!! 撤収だぁぁぁ!!」

砂塵を巻き上げ、魔王軍は文字通り「一目散」に逃げ去っていった。

5. 三途の川、リストラの予感

 

そんな現世のやり取りを、三途の川のほとりで眺めていたカロンは、静かに愛用のスタンプを机に置いた。

 

「……。……困りました。女神様の契約のせいで、カイト様が本当に死ななくなってしまった。……。私の出番、これでもう終了(クビ)でしょうか」

 

カロンは少しだけ寂しそうに、窓の外を流れる三途の川を見つめた。……が、すぐに思い直してスタンプを磨き始める。

「……いえ。カイト様のことです。あの『死なない体』すらも、数分後には何らかのバカげた理由で台無しにして、ここへ戻ってくるに違いありません」

6. 隣町のギルド、受難の予感

 

魔王軍を「名前の恐怖」だけで追い払った一行は、ようやく隣町のギルドへと到着した。

門をくぐるカイトの顔には、チラシの角が刺さった時の絆創膏が痛々しく残っている。

 

「……着いた。ここが謝罪の第一チェックポイント、隣町のギルドか」

「さあカイト、ギルド職員全員に謝る準備はできていて?」

 

カイトの「死ねない地獄」は、まだ始まったばかりであった。

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