聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
1. 掲示板の「要注意人物」リスト
隣町のギルド『安らぎの盾亭』の入り口。カイトは道中で負った「アイリスに崖から落とされた傷」と「ルナの誤射による火傷」を、女神の不滅パワーで無理やり再生させながら門をくぐった。
そこに貼り出されていたのは、最新の「要注意・重要人物リスト」だ。
2. 確定した「二つ名」
カイトは、リストに並んだ名前を見て吹き出した。
「おい、見ろよこれ! お前らの正体がバレてるぞ!」
【死神の迷子騎士】アイリス・ライト
備考: 善意で道案内を申し出るが、騎士としての勘が壊滅的に外れており、常に勇者を死地(崖や罠)へ導く。
【カイト狙撃用の磁石】ルナ
備考: 放つ魔法が物理法則を無視して味方の勇者に吸着する。敵を狙うフリをした精密な身内撃ち。
【地獄の再起動聖女】ノアール
備考: 死者の安らぎを認めず、0.1秒で戦線復帰させる蘇生の鬼。彼女の視界内では「死」は休息にならない。
3. 至宝の絶望
そして、リストの最後にはひときわ大きくこう書かれていた。
【至宝の淑女】セレナ
備考: 隣国の宝。現在、上記の「死のカルテット」に同行中。ジャガイモ農家への転職を希望している。
「……至宝。淑女……。うっ、うわあああん! 私、至宝なのに、 全然淑女じゃないですぅぅ!!」
セレナがその場に泣き崩れる。
4. カイトの屈辱
アイリスは顔を真っ赤にして掲示板を凝視し、ルナは無表情に杖を握り直した。
「『死神』だと……!? 私はただ、カイト殿を最短ルートで案内しようと……」
「……。……。磁石。……。磁力で、この掲示板ごとカイト様を消滅させれば……」
それを見ていたノアールが、カイトの肩をポンと叩いた。
「あら、他人事みたいに笑ってるけど、自分の二つ名、見たのかしら?」
カイトが視線をリストの端へやると、そこには殴り書きでこう付け加えられていた。
【会員制勇者(バカイト)】カイト
備考: 三途の川のプレミア会員。スライムに負けるなど、死に方がとにかくマ抜け。
「……。……俺だけただの悪口じゃねーか!! 他の三人は二つ名に『騎士』とか『聖女』とか入ってるのに、俺だけ『バカイト』って何だよ!!」
受付嬢は震える手で防護障壁のスイッチを入れ、カイトの顔をマジマジと見つめた。
「……いらっしゃいませ。あら、カイト様。今日はまだ、一度も三途の川へ行かれていないようですね?」
カイトは全身泥まみれ(アイリスの崖落としのせい)で、服は焦げ(ルナの誤射のせい)、顔は引きつっているが、確かにピンピンして立っている。
「ああ、女神様に『死なない体』にしてもらったからな! 見ろよ、転んでも、スライムと戦っても、この通り生きてるんだぜ! ざまぁ見ろ、俺の勝ちだ!」
カイトが鼻高々に言い放つと、受付嬢はこれまで以上の「哀れみの眼差し」を向けた。
「……勝ち、ですか? 」
カイトの笑顔が、凍りついた。
ノアールが後ろから、カイトの肩を優しく(威圧的に)掴む。
「……ねえ、受付さん。この子、死なないから依頼とか、在庫ありません?」
「ええ、喜んで。死なない勇者様なら、ギルドとしても大助かりです」
カイトは、自分の手に入れた「不滅」が、「労働チケット」だったことにようやく気づき、膝から崩れ落ちた。
「……。……女神様……。……死なせて……。……一回だけでいいから、普通に死なせてくれぇ……!!」