聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜   作:水上 空

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不滅の勇者と、下水道の茶色い奇跡

1. ギルドマスターの誘惑

 

隣町のギルド『安らぎの盾亭』。掲示板の前で自分の情けない二つ名(バカイト)に絶叫していたカイトだったが、その騒ぎを聞きつけて奥から一人の男が現れた。

 

顔に深い傷を持つ、岩のような大男。このギルドのマスターだ。

「ほう……お前が噂の『死なない勇者』か。ちょうどいい。我がギルドで長年、誰も受けたがらない【特別隔離案件】が塩漬けになっていてな。受ける気はあるか?」

 

提示された依頼書を覗き込んだカイトの目が、一瞬で「不滅モード」に切り替わる。

「特別依頼!? ヘッ、やっぱり俺の『不滅の肉体』が必要になったか! どんなドラゴンだろうが魔王だろうが、死なない俺の敵じゃねーよ!」

 

カイトはドヤ顔で自分の胸を叩いた。その背後で、ノアールの目が金貨の形に光る。

「……承認。承認よ! 死なないカイトを好きなだけ使い倒して頂戴! さあカイト、サインしなさい!」

「……。……。承認。……。報酬で、カイト様の悲鳴を感知して自動追尾する『新型・磁石の杖』を買います」

ルナが無機質に杖を握り、アイリスが拳を突き出す。

「ああ! 死なない体になったのだ、私がどんな死地に案内しても安心だな! さあ、出発だ!」

 

それを見ていたベテラン冒険者が鼻で笑った。

「おいおい、やめとけって。その依頼は『地下水道の排水溝掃除』だぞ。死にゃしねえだろうが、あそこは巨大ネズミが出るって有名なんだ。あの『バカイト』にゃお似合いだがな!」

 

「あぁん!? ネズミ? 下水? 楽勝だよ! 見てろ、俺の不滅っぷりに腰抜かすんじゃねえぞ!!」

 

一人、聖女セレナだけが虚無の目でソファに座り込む。

「……。死なない。……それなら、私の『祈り』も必要ありませんよね。……。私はここで、ジャガイモの皮むきでも手伝ってきます……。皆さん、どうぞお元気で……」

2. 無双からの、ぱくん。

 

「はーっはっは! 雑魚が! 雑魚がよぉ!」

 

地下水道。カイトは剣を振り回し、襲いかかる小柄なネズミたちを次々と蹴散らしていた。

「おい見ろよノアール! 全然齧(かじ)られねえ! 俺が強すぎてネズミがビビってんじゃねーか?」

 

調子に乗って奥へ進む一行。だが、アイリスの案内で辿り着いたのは、牛ほどもある巨大ネズミの巣だった。

「げっ、でけぇ……。だが! 今の俺は『死なない体』なんだよおおお!」

 

カイトが特攻する。巨大ネズミの鼻先に剣を突き立てようとした、その瞬間。

 

「ぱくん。」

 

巨大ネズミは、目の前に飛び込んできた「エサ」を、咀嚼することなく一口で丸呑みにした。

 

「……あ、食べられたわね」

「……。……。完食。……。……想定外です」

 

想定外の事態に、3人は一度入り口まで戻って作戦会議を開くことにした。

3. ルナの「精密」射撃

 

「……ねえ、アイリス。カイトを助けなくていいの?」

「案ずるな! カイト殿は『不滅』なのだろう? 胃袋の中で、今ごろ騎士道を説いているはずだ」

「それよりノアール様……」ルナが杖を握り直す。「……。……。私の魔法。……。カイト様が『磁石』なら、暗い下水道でも百発百中。……。狙わなくていい。……。楽勝です」

 

「……そうね。カイトを目印に魔法を撃てば、ネズミもついでに殲滅できるわね」

 

3人は再び地下へ。巨大ネズミの元へ戻ると、そこには満足げに腹をさするネズミと……その足元に、すでに排泄された「茶色の塊(カイトだった物)」が転がっていた。

 

「……あら? カイトはどこ?」

 

ノアールが辺りを見渡すが、そこには勇者の姿はどこにもない。湯気を立てる茶色の塊があるだけだ。

 

「……。……。ターゲット、確認」

 

ルナが無機質に杖を掲げる。瞳には、巨大ネズミを捉えていた。

 

 

「放ちます……」

 

放たれた誘導魔弾は、物理法則を完全に無視して巨大ネズミの鼻先を通り抜け、地面の「茶色の塊」へと一直線に急降下した。

 

ドガァァァァン!!!

 

「ぎゃあああああああああ(霊体の悲鳴)!! 俺だ! 俺を狙ってるだろぉぉぉ!!」

 

地面で凄まじい爆発が起き、その衝撃波と「茶色の飛沫」が周囲に拡散。至近距離にいた巨大ネズミたちは、爆風と汚物まみれの衝撃に耐えきれず、一網打尽に殲滅された。

 

「……。……。任務、完了。……。……なぜか、うんこに吸い込まれました。カイト様が、うんこを磁石にしてしまったようです」

 

よくやったわルナ! ほらアイリス、その『カイトだった山』をバケツに詰めて回収して!」

 

「う、うむ……。騎士として、この匂いには耐えがたいが……うっ(嘔吐)」

 

4. カロンの入国審査

 

その頃、天界では女神スティアが耳をほじっていた。

「あ、そういえばカイトに授けたギフト……『普通に死なない体』って言ったっけ? まぁいいわ、『普通の方法では死ねない体』でも似たようなもんでしょ。……あ、今汚物ごと吹き飛んだ。ウケる」

 

三途の川のほとり。死神カロンは、重厚な防護服を着用し、鼻の穴に脱脂綿を詰め込みながらカイトを待っていた。

 

カロン:

「……はい、ピッ! 109回目。死因、……えーっと、『巨大ネズミによる、普通じゃない経路(消化管)の通過』。……おめでとうございますカイト様、三途の川の歴史上、初めて『排泄物』として入国申請された魂になりました」

 

カイト:

「カロンさん! 祝福してる場合か! それになんだよ、今回のスタンプカード、なんか茶色いシミがついてるぞ!?」

 

カロン:

「いえ、それはカイト様の魂から漂う『生活臭』ならぬ『下水臭』がカードに定着したものです。……近寄らないでください。……。……いえ、あの、カイト様。せめて洗浄してから来てもらえますか? ……『うん……カイト様』と呼ぶのすら躊躇われます。……あ、ノアール様がバケツの中身を睨みながら『蘇生魔法』を準備していますよ」

5. 肥料の目覚め

 

ギルドの裏口。バケツで回収された「茶色の山」の前に一行が立ち尽くしている。

 

「……分析完了。……。……カイト様は100%の純度で『うんこ』になりました。……あまりの汚物っぷりに、杖が故障しました」

 

「――ちょっと! こんな臭い山をいつまでも置いておかないでよ! 私の経歴(キャリア)が汚れるじゃない!!」

 

ノアールが怒鳴り込みながら放った蘇生魔法【いい加減にしろよこの産地直送・レザレクション】の衝撃波が、ギルド裏の空気を一気に浄化し、カイトを強制的に再起動させた。

 

「……臭っっっっっっせぇぇぇぇええええ!! 俺、死んでた間、ずっとネズミの腸内と爆発の中にいたぞ!! 女神ーー!! 『普通に死なない』って言っただろ! なんで『普通に死ねない』んだよ!!」

 

そこに、厨房からジャガイモを持ったセレナが、晴れやかな笑顔で現れる。

「あ、カイトさんが戻ってきましたね。……。ふふ、ちょうどいい肥料(うんこ)の臭いがします。……。さっそく、ジャガイモの畑に撒いてきましょうか」

 

「俺を肥料にするんじゃねぇぇぇ!!」

 

カイトの叫びは、隣町の空に虚しく響き渡るのだった。

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