聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜   作:水上 空

70 / 76
不滅の定義と、聖女の哀しきぼっち伝説

 

. 宿屋の夕食、湯気と石鹸の香り

 

無菌状態まで磨き上げられたカイトを囲み、一行はようやく宿屋『安らぎの盾亭』の食堂でテーブルを囲んでいた。カイトが動くたびに「キュッ」と鳴る摩擦音が、シチューの湯気に混じって虚しく響く。

 

「……ちょっと、さっきから言おうと思ってたんだけどさ」

ノアールがスプーンを叩きつけ、カイトを指差した。

「あんた、不滅の勇者とか豪語してるくせに、あっさり死んでんじゃないわよ! 魂のスタンプカード、もう何枚目よ!」

 

「死んでねーよ! ちょっと……その、三途の川の入り口まで観光に行ってただけだ! 俺は女神様に『普通に死なない体』を授けられたんだからな!」

2. 「死なない」と「死ねない」の境界線

 

ノアールは呆れたように鼻で笑った。

「……はぁ。それ、あんたの聞き間違いじゃないの? 今回のネズミの件といい、さっきの高圧洗浄といい……それって『普通に死ねない体』の間違いじゃないの?」

 

その言葉に、ルナが無機質に頷く。

「……。……。肯定。……。……カイト様は、どんなに汚物になっても、どんなに屈辱を受けても、存在だけは維持される。……。うん……(カイト様)になりましたね。」

 

「ルナ! その呼び方やめろ! 伏せ字になってねーぞ! それに『なりましたね』じゃねぇよ、現在進行形で俺は勇者だ!」

 

横でエールを煽っていたアイリスが、急に「ぶふっ!」と吹き出した。

「く、くく……。自らネズミに食われ、体内から攻撃を耐え抜く『盾』になるとは……騎士として……これほど斬新な戦術は見たことがない! ははは、傑作だ!」

 

「笑うなアイリス! お前らが俺を囮にしたんだろ! 盾じゃなくて、あれはただの丸呑みだろぉぉぉ!!」

3. セレナの予言と、衝撃の「秘密」

 

そんな騒ぎの中、ずっと静かにジャガイモを咀嚼していた聖女セレナが、ふと遠い目をして呟いた。

 

「……。……。こんな調子で、私たちは隣国の正教会本部まで、生きて辿り着けるのでしょうか。……。……いえ、私はともかく、カイトさんの『魂』が、原型を留めている自信がありません……」

 

カイトはふと、気になっていた疑問を口にした。

「そういえばさ、セレナ。俺たちって一応『勇者パーティー』だよな? 俺以外にも、女神に召喚された『他の勇者メンバー』はどうしたんだ? 別のルートで魔王軍と戦ってんのか?」

 

その瞬間、食堂がしんと静まり返った。

セレナの手が止まり、顔を伏せてプルプルと震え出す。

 

「……えっと……。……実は、勇者様たちは、もう……先に旅立ちました……」

 

「えっ!? やっぱり先に魔王のところへ!? カッコいいな、俺たちも負けてらんねーな!」

 

「……。……。いいえ、違います。……。……私が、あまりにもドジすぎて……、置いていかれたんです……っ!!」

 

「……は?」

4. 聖女、ぼっちの理由

 

セレナは涙目になりながら、例の黒い手帳(日記)を広げた。

 

「……。……。回復しようとして毒消しを飲ませたり……。……。祈りの最中に転んで、聖水の瓶を勇者様の頭で割ったり……。……。朝起きたら、私の枕元に『君は、一人で生きていったほうがいいと思う(切実)』という置手紙が残されていて……。……うっ、ううっ……!」

 

「……。……。……あー。……(一同、納得)」

 

ノアールとルナが、これ以上ないほど憐れみのこもった視線をセレナに向ける。

 

 

「いいじゃない、カイト! あんたなら死なないんだし、セレナのドジ(殺人未遂)も全部受け止められるわよ! 完璧な布陣ね!」

 

「全然よくねぇよぉぉぉぉ!!」

 

カイトの叫びが、再び宿屋の食堂に響き渡った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。