聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
1. 聖女の「デトックス」
説教も一段落し、食堂には少し落ち着いた空気が流れていた。
ふと、ノアールがセレナの顔をじっと覗き込む。
「……ねぇ、そういえばさ。セレナ様、なんだかゆうべより機嫌が良くなってない? 顔色が明るいっていうか」
ルナも無機質な瞳で観察し、小さく頷く。
「……。……。肯定。……。……ゆうべまでの、置いていかれた『負のオーラ』が消えている。……。……。少し、笑顔が戻りましたね。」
「ああ、確かに。先ほどまであんなに青ざめていたのに、今は随分と清々しい表情だ。」
アイリスも腕を組んで感心したように言った。
2. 勇者の「いばり」
それを聞いたカイトが、全身の痛みをこらえながら、包帯だらけの胸を張った。
「へへん! 見たか! つまり、俺がセレナの『ストレス解消のサンドバッグ』になってやったおかげで、彼女の精神が安定したってことだろ? いやぁ、やっぱり俺って役に立つよなぁ! パーティーの柱だよなぁ!」
調子に乗っていばるカイトに対し、三人の視線が一気に氷点下まで下がった。
「「「………………。」」」
「……ちょっとカイト。そんなことで威張る前に、魔物を倒すときに役に立ちなさいよ」
ノアールの冷たいツッコミを皮切りに、アイリスも続く。
「そうだぞカイト殿。貴殿の役割は『浄化されること』ではなく、敵の剣筋を読み、戦線を支えることだろう」
3. 反撃の「お前らだって」
カイトはたまらず、椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。
「うるせぇ! お前らだって相当だろ! アイリス、お前は最強の騎士のくせに、ダンジョンの中で『あっちだ!』って自信満々に指差して、真逆の行き止まりに連れて行く方向音痴じゃねーか!」
「なっ!? あれは……その、敵を撹乱するための戦術だ!」
「嘘をつけ! あとルナ! お前、魔物を狙ってるフリして、さりげなく俺の背中に魔法を飛ばしてきてるだろ! 俺を『魔法の着弾確認用の的』にするな!」
ルナは視線を逸らし、静かに茶をすすった。
「……。……。気のせいです。……。……カイト様の背中が、あまりにも『ここに撃ってください』という形状をしていたので、不可抗力です」
「どんな形だよ!!」
4. まとめ役の受難
罵り合うカイト、アイリス、ルナの3人を見て、ノアールは深く、深いため息をついた。
「……。……はぁ。不滅(バカ)、方向音痴(ポンコツ)、精密射撃(味方撃ち)、そして夢遊病(爆弾聖女)。……このパーティー、魔王の城に着く前に内輪揉めで滅びるんじゃないかしら……」
ノアールは呆れ果て、残りの紅茶を一気に飲み干した。
宿屋の食堂には、朝から元気な(?)怒号と、それを見つめる聖女の清らかな笑顔だけが虚しく響いていた。