聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
1. 栄光の都(?)マイドシティへの道
「……。……。見えてきました。あそこが、美食と商業の都、マイドシティです。……。……あそこの噴水で、カイトさんをもう一度煮沸消毒できれば、私の鼻も救われます……」
包帯だらけのカイトを先頭に、一行はようやく隣町の巨大な城門の前に辿り着いた。昨夜、セレナに寝ぼけて聖水瓶で粉砕されたタンコブは、不滅の肉体によって綺麗に治っているが、カイトの精神はもはやボロ雑巾のようだった。
「煮沸とか不穏なこと言うな! ほら、さっさと入るぞ。俺はまともな、柔らかいベッドで寝たいんだ!」
カイトが威勢よく門をくぐろうとしたその時、ガシャン! と鋭い金属音が響いた。十数人の衛兵が槍を突き出した。その中心に立つ隊長が、掲示板から剥がしてきたばかりの「検疫・審査重点対象リスト」を広げ、カイトの顔と見比べる。
「止まれ! 隣町のギルドから緊急通報が入っている! 貴様ら、このリストに載っている『審査強化対象(要注意パーティー)』の一行だな!?」
「審査強化対象……!? 俺は勇者だぞ!」
「黙れ! 読み上げてやるから身に覚えがあるか確認しろ!」
2. 公開処刑の二つ名
衛兵隊長は、朗々とした声でリストを読み上げ始めた。
「まず一人目! 右と左の概念を喪失し、味方の安眠を破壊する女! 【死神の迷子騎士】アイリス・ライト!!」
「な、何だと……!? 私はただ寄り道が多いだけで……!」
「二人目! 感情を排し、味方の背中を撃ち抜く魔弾の射手! 【カイト狙撃用の磁石】ルナ!!」
「……。……。否定。……。……磁石なのは、カイト様の方です」
「三人目! 不滅の勇者と出会ったせいで『死なないなら雑に扱っても良い』という真理に目覚めた、【地獄の再起動聖女】ノアール!!」
「ちょっとぉ! 私は最初から聖女よ! カイトがすぐに汚物まみれになるから、私の清らかな蘇生魔法が効率重視の『再起動ボタン』になっちゃっただけじゃない!」
「そして最後! 以上の化け物を惹きつけ、排泄物からでも蘇る汚物の王! 【下水帰りのバカイト】カイト!!」
「……二つ名が、さらに進化してやがる……!!」
3. 聖女の「救済」と、残酷な選別
殺気立つ衛兵たちの前に、セレナが震えながら一歩前に出た。
「……。……。皆さん、落ち着いてください。私は、聖女セレナです。……。この厄介者たちを、責任を持って魔王の元へ廃棄……いえ、連れて行く役目です。……。どうか、道を通していただけませんか……?」
衛兵たちは可憐なセレナを見て、即座に敬礼した。
「聖女様! 貴女様お一人の入国を、心より歓迎いたします!」
「……え?」
カイト、ノアール、ルナ、アイリスの四人が、槍の壁によって「検疫ライン」の外側へ押し出される。
「待て! 俺たちは!?」
「不合格だ! 『死神』『地獄』『下水』を連想させる者を都に入れるわけにいかん!」
門がゆっくりと閉まり始める。中に入ったセレナが、涙目で振り返った。
「……。……。カイトさん……。日記に……書かなきゃ……。ようやく、本当の平穏(ぼっち)を手に入れた……って……」
「本音が漏れてるぞセレナぁぁぁ!!」
4. 救世主、岩の如く現る
「――おい。そこで何をしている、門番ども」
地響きのような低い声が響いた。門の奥から、豪華な馬車と共に現れたのは、顔に深い傷を持つあの男――隣町ゼニゲバシティのギルド長(マスター)だった。
「ギ、ギルド長!? なぜこちらに……」
「今日はマイドシティのギルド会合だ。……それより、その『特級審査対象』どもをどうするつもりだ?」
カイトが必死に叫ぶ。「おいおっさん! 助けてくれ! 俺たちはただの勇者一行なんだよ!」
ギルド長はカイトのひどい有様を見て、ふっと鼻で笑った。
「……衛兵。こいつらは確かに問題児だが、危険人物ではない。ただの、『極めて頑丈で、最高に運が悪いだけ』の連中だ。俺が身元を保証する。マイドシティの会合に、私の『余興』として連れて行くことにしよう」
「ゼ、ゼニゲバのギルド長がそう仰るなら……」
槍が引かれ、ついに重い門が再び開かれた。
5. 喜びよりも、絶望の再会
「へへっ! 助かったぜ、おっさん!」
カイトが意気揚々と門をくぐり、呆然と立っているセレナの肩を叩いた。
「おいセレナ! 残念だったな、ぼっちはお預けだ!」
「……。……。……。」
セレナは、真っ白な顔で日記をパタンと閉じた。
「……。……。そう……ですね。……。……マイドシティの神様は、私を見捨てたようです……。……。おかえりなさい、皆さん……。……。さあ、宿へ着いたら、まずはその汚れた根性を『浄化』して差し上げますから……覚悟してくださいね……?」
セレナの背後に浮かぶ黒いオーラ。そして、そんな彼女を「地獄の再起動」の準備をしながら見つめるノアール。
「よし! ギルド長に借りもできたし、会合の余興で一稼ぎするわよ! カイト、アンタはあと3回くらい死んで会場を盛り上げなさい!」
「死を売り物にするんじゃねぇぇ!!」
カイトの絶叫が、ようやく入国を許された都の夕暮れに響き渡る。
門は開かれた。だが、彼らの前途には、門の外よりも過酷な「聖女たちの洗礼」が待ち受けていた。