聖女ノアールの受難 〜私のMPはゴミクズ勇者のためにあるのではない〜 作:水上 空
そこへ、一行の噂を聞きつけたゼニゲバシティのギルド長が駆けつけてきた。道中で魔王軍が「カイトの汚物オーラ」に怯えて撤退した話を英雄譚だと勘違いした彼は、カイトをギルドの特設ステージへと引きずり出した。
「さあ皆の衆! 今日は特別ゲストだ。あの魔王軍を『顔を見ただけで撤退させた』という不滅勇者カイト殿による、武勇伝の披露である!」
カイトがステージ中央で、荒くれ者たちの期待と、客席の最前列で「116個目のスタンプ」を用意して待機するシスター・カロンの視線に挟まれ、必死に情けない実体験(自動ドアの挟まり事故など)を語り始めた。冒険者たちが「おおーっ!」と、どういうわけか感動の声を上げ、カイトが話に熱中せざるを得なくなったその隙に――。
5. 非情なる離脱と、再起動の咆哮
「……。……好機。……。ギルド長がカイト様に夢中になっている隙に、報奨金の回収を推奨します……。」
ルナの合図で、ノアールたちは受付窓口へ直行した。
「あの、あそこで喋っている『勇者の付属品』の者です。魔王軍撤退の報奨金、こちらで一括受領しますわ」
ノアールが聖母のような微笑みでずっしりと重い金貨の袋を受け取ると、セレナの機嫌は最高潮に達した。
「ふふっ……あはははは! このお金でジャガイモのフルコースを……! ああ、あいつの無様なステップ、心が洗われます……!」
四人はカイトをステージに残し、夜の帳が下りたマイドシティの街角へと音もなく消えていった。
しばらくして、一通り話し終えたカイトが「……あれ? 皆?」と振り返った瞬間、あまりの孤独感に魂がセルフ脱走して絶命。その死体を前に、ギルドの裏路地から、慈愛の欠片もないノアールの声が響き渡った。
「報奨金いっぱい貰ったから起きなさい、カイトぉぉぉぉ!! はい、ピッ!!」
ドガァァァァンッ!!!
「あぎゃあああ痛いぃぃ! 蘇生の衝撃が、金欲のせいで今までで一番殺意高いぞぉぉ!!」
金貨の輝きによってブーストされた殺伐蘇生を受け、カイトはバネのように跳ね起きた。
ギルド長や観客たちが「おおお! 勇者の目覚めは雷鳴の如し!」と拍手喝采を送る中、カイトは涙目で、声のした裏路地へと駆け出した。
9. 尊厳なき追跡
「はぁ、はぁ……。ノアール! セレナぁ! 俺の分の金は!? せめて一口、ジャガイモ食わせろよ!」
カイトが路地裏に飛び込むと、そこにはすでに馬車の影もなく、ただ一枚のチラシが地面に落ちているだけだった。
『カイトへ。報奨金はセレナ様の心のケア代(および私たちのフルコース代)として、私たちが責任を持って全額受領しました。宿は高いから、あなたはギルドの馬小屋の隅で寝なさい。明日の朝、一分でも遅れたら、また「ピッ」してあげるわよ(笑) ――ノアールより』
「…………全額……受領……?」
カイトは、チラシを握りしめたまま膝から崩れ落ちた。
遠くの高級宿からは、セレナの「あはは! このジャガイモ、あいつの顔みたいにホクホクです!」という、かつてないほど上機嫌な笑い声が風に乗って聞こえてくる。
「……ふふっ。セレナ様の機嫌も直り、ノアール様のお財布も潤い、私は116個目のスタンプが押せました。……。……全員が幸せ(?)な、完璧なマイドシティの夜ですね」
暗闇に溶けていくシスター・カロンの満足げな呟き。
一行の機嫌と財布を潤すための「生贄」として捧げられたカイトの巡礼行は、もはや「勇者の旅」ではなく、「動くサンドバッグによる資金調達作業」へと完全に変質してしまったのである。