というわけで、翌日。
俺は再び夜の街にゴミ漁りに来ていた。
「よく考えたら、こんなに目的が明確なゴミ漁りは初めてかもな……」
この間のペンダントはタスク品だから例外。
今日の目的はスマホかカメラ……撮影ができる何かの回収だ。
あの後、ジャンクショップにて拠点の話を軽くしてみた。
直したい拠点があり、そこにはジャンクどころかぶっ壊れた設備跡が残っていて、俺はそれを直したいのだと。
そう告げたら奴は嬉々として目を輝かせた。
『そしたらもっとジャンクが集められるんでしょ? なら協力するよ。で、その設備ってのはどんななの?』
『えっと……水場とか机とか……うーん、なんと言ったらいいのか』
多分
『ありゃ。もしかして用途もわかんない? んー、それは流石に無理だなぁ。写真とかないの?』
『写真……なるほど』
確かに、見せないと何もできないか。
連れていけば確かなんだろうが、あんまり拠点に人を入れるべきじゃないよな。
文香嬢を安易に入れたのも今考えればマズかった。
もし俺があそこで復活できるなんて事が『敵』に知れ渡ったら、リスキル祭りで即刻破産だ。
……いや、敵って誰なんだって話だが。
分からないけど、この世界の常識や歴史を知らない俺からすれば誰が敵なのかも判別不能。
あのジャンク狂いの天パ店主だって信用しすぎは禁物だ。
『でも、カメラを持ってないんですよねえ』
『んー、この状況じゃ店でも取り扱いはないかもね』
『……スマホとかお借りできたりは……』
『貸すと思う?』
『……いえ』
会ったばかりの客に貸すわけないよね。
文香嬢もスマホが壊れて困ってたし、この状況じゃ貴重な物らしい。
『それこそ拾えば? さっきのスマホは踏み砕かれてて駄目だけど、もっと保存状態がいいものがあれば直せるよ』
『ああ、確かに。それならデジタルカメラがあれば一番ですね』
『だね。フィルムは面倒だ』
というわけで、撮影用の機材を探しに来たというわけだ。
ついでに店主から集めて欲しい品々も頼まれてる。
いくつかあるが、最も要望が強かったのはPCパーツ。確かにこの情勢じゃ一般市民まで回るほど作られることはなさそうだ。
「さて、どこに行くか」
カメラ……カメラってどこにあるんだ?
スマホは多分どこにでもある。だから逆に探しづらい。
そもそもよっぽど慌ててたやつ以外は大抵持って逃げてるだろうから、希少価値も高そうだ。
カメラ屋とかあったら良いんだけどな。後は家電量販店とか写真館とか?
ただこの辺りは住宅街っぽいからなー。果たしてあるのかどうか……。
「あ、コンビニ」
パチンと指を鳴らす。
フィルムタイプだが確か売っていた記憶がある。
まあ、転生前の記憶だからこっちにあるのかは知らないが。
あの店があるのは北西地区の南側。裂け目の方に向かって進んでいけばいい。
行ってみるか。
「……ん?」
視界の先で何かが動いた。
銃を構えて物陰に潜む。
前にあるT字路、その右奥から覗くのは……白い光だ。
――人か。
ホッと安堵の息が漏れる。……やり過ごすか。遭遇は面倒だ。
しばらく覗いていると、現れたのは真っ黒な装備に身を包んだ兵士。
胸のあたりには特徴的な短刀が差さってる。
……あれ、この間の姉ちゃんか?
「どこにいる、どこに……!!」
なにやらずかずかと急ぎ足で真っすぐ通り過ぎていった。
なんか、急いでたな。またなんかあったのか……?
1人だから
しかし、軍人ってのは大変だな。
あんなことがあったのに単独でここに来ないといけないとは。
人手不足ここに極まれりってやつだな。
しばらく待って気配も消えたので、奴が通り過ぎていった道に出る。
行き先は右と左がある。左が北で、右が南。
というわけで奴がやってきた右の方へと進んでいくと、倒れたブラーと出くわした。
「お……っと、死んでるか……」
綺麗に首を銃撃で破壊された死骸が2体並んで寝てる。
さっきの姉ちゃんだろう。1人でやったのは凄いが、殺して放置とは勿体ない。
よし、俺が中身をいただいてやろう。
目の前の家――石塚さん家に1体を運び込んで、さあ解体を始めようとしたその時。
「――動くな」
背後から声が聞こえた。
「……!」
「ふ、振り向くんじゃない……!! 銃にも触れるな。こっちは銃を持ってる……!!」
男の声だ。それなりに歳くってそうな低めのもの。
しかも銃持ち。完全に後ろを取られてて、圧倒的にこちらが不利。
……ぬかった。大して調べず家に入るんじゃなかった。
ただ、向こうの声は震えてる。
あちらとしても想定外の遭遇らしい。それに……。
「鉈を仕舞っても?」
「だ、駄目だ。そのまま落とせ……!!」
「……わかりました」
腕は動かさずに鉈を落とす。
狭い玄関に金属音が鳴り響いた。
途端に後ろが強張り、微かに声が漏れる。……こいつ、多分戦い慣れてないな。
いや、俺も慣れてはないけどさ。
何度も死んだせいで度胸だけはついてるんだよ。
「落としましたよ」
「よ、よし。じゃあそのまま家を出ろ。これは俺の獲物だ」
なるほど。ブラーが欲しいのか。
肉屋に売るのか? こいつが俺以外の顧客? それにしちゃ不慣れに聞こえるが。
――このまま振り返ってもいいんだが……。
一瞬だろうが相手も分かるし、奴の言葉がハッタリで、銃を持ってなかった場合は俺の勝ちだ。
が、もし本当に持ってたら8万の出費。道中で拾ったゴミもこいつの物。折角手に入れたモノたちを捨てる馬鹿はしたくない。
……仕方ない。
「わかりました」
そう告げてゆっくりと前に歩きだす。
……が。
「あの」
「っ……な、なんだ!?」
「もう1体外にありますけど、そちらは私が貰っても?」
「……っ、だ、駄目に決まってるだろ! さっさと行け!」
ちっ、駄目か。せめて何か情報が得られると良いんだが、何ができるか。
目、耳、鼻……ん?
……ふむ、なるほど。
「わかりました」
再びそう告げて、大人しく家を出た。そのまま元来た道を足早にひき返す。
ホントは先に進みたかったが、他に仲間がいたら面倒だ。
今日はやめておいた方がいいだろう。
再びT字路の所まで戻って……ようやく一息吐いた。
「ふぅ……全く、何なんだ今のは……」
いきなり銃を突きつけられるとは思わなかった。
あの野郎何者だ?
姉ちゃんの
ならハンターかと思ったが、どうもそうじゃなさそうだ。
何故ならあの男はとてつもなく……その、臭かった。
ブラーの血の臭いを越えて漂ってきた腐臭。
あれは多分何日も風呂に入ってない。
いくら金稼ぎが目的のハンターでも、わざわざこの危険地帯で何日も過ごすなんてことはしないだろ。
まあ間違いなく、あれは
この崩壊世界で人間社会から離れて、敢えて危険地帯に住むことを選んだ連中――屍肉漁りってところか。
この世界にああいったNPCポジはいないと思ってたが、ちゃんといるんだな……。
だってあの化け物がうろついているんだぞ? とっとと死ぬだろそんな連中。
「なんか方法でもあるのか……?」
風呂に入らない、とかだったら簡単なのにな。
「今度拳銃だけ持って探してみるか」
あの感じ、戦い慣れてるってわけじゃなさそうだった。
不意を突かれなければ問題なく制圧できそうだ。
そもそもブラーを殺したのは姉ちゃんだしな。まさしく屍肉漁り、自分じゃ殺せないんだろ。
まあ、そんな連中に獲物をかっさらわれた情けない奴がここにいるんですけど。
「……カメラ、探すか」
その日は拠点の近場を探すにとどめた。
当然ながらカメラは見つからなかった。
踏んだり蹴ったりである。
探索成果:生還
収入:―
支出:―
残額:¥615,150
進行中任務
1:夜鳥羽の裂け目の消滅
2:拠点の修復
3:修復予定機材の撮影
4:PCパーツの回収、引き渡し
***
そして翌日。
夕方ごろから面倒なジャンク整理を済ませて、俺はまた夜の探索に出る。
狙いは勿論カメラ。
今日こそ南のコンビニへと向かうのだ。
「はあ、全自動ジャンク整理機とかないかなあ……」
歩きながらボヤく。
ジャンクショップで売れると分かったからには、あの混沌ジャンクボックスの整理をしないといけない。
それにカメラが手に入れば拠点修理が始まる。
そうなった時に何がどこにあるのか探し始めても遅いのだ。
でもめんどくさいんだよ……おっ!
「スマホ……じゃない。充電器か。紛らわしい」
並ぶ家やクリーニング屋さんとかの中を調べていく。
ただ正直、こんな広い街の中で特定の物だけ探せってのは結構ムズい。
大抵の室内は棚や引き出しやらがひっくり返って物が散乱してるし、踏み荒らされて多くのものが汚れてたり壊れてやがる。
そもそも建物自体がぶっ壊れてる所もそれなりだし、なにより体感6割位は鍵がかかってたりシャッター下りてたりで正面からは入れない。
食べ物なんかの変化しやすいモノは大体駄目になってるし、意外と拾えるものは少ない。
5年前――裂け目が出来た直後は相当な大混乱だったんだろうなぁ……。
ちなみに頼まれてたPCパーツはそれなりの数が見つかった。
流石に馬鹿でかいパソコン持って逃げれた奴はそんなにいなかったようだ。
ただ肝心のカメラがない。全然ない。
「スマホの普及がこんな形で牙を剥くとは……」
からころと飴を鳴らしながらボヤく。
駅周辺とか、東側に行けば店もそこそこあるっぽいんだけどなぁ。
転生してひと月程度じゃ、北西地区のほんの一部しか回れてない。
最初の頃は恐る恐る探索して、ブラーに何度も襲われ死闘を繰り広げてた。
気軽に探索できるようになったのもごく最近だ。
こんな調子じゃ、中央に鎮座する裂け目に行けるのはいつになるのやら。
行って何かあるかは知らんけど。
ただどう見てもアレが怪しいよなぁ……。
まあ、どちらにせよ先はまだまだ長そうだ。
「……よし、回収はここまで。行くか」
目的のコンビニがあるのは中央南端。
安全に移動するにはそれなりに時間はかかるし、拠点から離れるから危険度は増す。
例えば道を曲がった瞬間にブラーに出くわすとか――。
「……げ」
『――――!!』
轟く咆哮が耳朶に響いたその瞬間に構えていた拳銃をぶっ放した。
弾ける轟音がこちらからも鳴り響いて、奴の胸元に銃弾が数発叩き込まれる。
「……やべ」
やっちまった。今度は顔に狙いをつけてぶっ放す。
開いた口の中に弾丸をたっぷりと叩き込んで、瀕死の振り下ろしを避けながら、奴の後頭部へと鉈……はないので、全力の回し蹴りで奴の首を蹴りつぶした。
『――……』
鯨みたいな長い断末魔を上げてブラーが倒れていく。
念のため構えながら近づくが……動く気配はない。
「ははっ、ワンマガ使っちまった」
いきなりの遭遇だとつい連発しちまう。
おかげで快楽が爆発して大変だ。脈動が増し、視界がぐっと広がる。
ばくばくと脈動がうるさく鳴る中、素早く装填を済ませた。
「ふぅ……失敗した」
咄嗟だったからつい胸元を撃っちまった。
心臓が無事だと良いんだが……。
銃を仕舞って鉈代わりの包丁を引き抜こうとしたその時。
ごつり、と何かが落ちる音がした。
「ん?」
なんか、石が転がって――。
瞬間。破裂音とともに目の前が真っ白に染まった。
「おわっ――!?」
同時に腹に何かが激突して身体が吹き飛ぶ。
背中と足に衝撃が走って、それでもまだ目は見えない。
……多分死んでない。なら
んで、腹を蹴られた?
「……っ!?」
目が痛い、あと腹と、なんか右足がとんでもなく痛い……!!
てかマジでなんも見えないなこれ……。
とりあえず包丁を振り回し、手榴弾を左手で引き抜く。
ただでは死なんぞ……!!
「――――!!」
「――――!!」
なんとか耳を澄ますが、混乱と荒打つ脈動の音で大して聞き取れない。
ただ囁くような話声と、走ったり引きずったりしてるっぽい擦過音が響いてる。
これは、まさか……!!
「ぐっ……」
しばらく経ってようやく視界が戻ってくると、そこには当然何もなかった。
折角倒したブラーの死骸は、
鼻にはあの特徴的な腐臭が香る。……またあの連中かよ!
「くそっ、盗りやがった……!!」
今度は正真正銘、俺の獲物を奪いやがった。
ふざけんなよコンチクショウ……!!
「あの、くそ野郎どもがぁ……!!」
決めた。
奴らには絶対に許さん。
俺の金を奪ったこと、必ず後悔させてやる……!!
「覚えとけよ……って、めっちゃ痛てえ……」
意気揚々と立ち上がろうとして、右足に激痛が走った。
蹴り飛ばされた際に足をやられたのだろう。こりゃ折れてるな……。
奴らを追う前に、まずは治療が先。
ずりずりと尻を引きずりながらすぐ傍の家の門の中に入る。
幸いブラーが寄ってくる気配はない。助かった……。
鞄を下ろし、中から三角巾と木片を取り出す。
念のためと教わっていた応急処置方法で脚を固定するのだ。
「痛って……」
痛みで身体が固まるが、それでも無理やり縛り上げた。
正直、こんな事をしなくてもこの身体は
今は貯蓄にも多少余裕がある。頭を撃ち抜けばそれで治療は完了する。
だがこの程度の怪我でいちいち死んで治していたら今後が怖い。
よく知らねぇがあの白皮ブラーは最弱の雑魚だろう。
今後、
将来を考え、金はできるだけ溜めておいた方がいい。
可能な限り生き残る――今のうちにその訓練をしておく必要がある。
だから骨折程度で頭をぶち抜くのはナシ。
この骨折は治す。
そう決めて、痛みに耐えつつ固定を済ませる。
なんとか立ち上がって……よし、動けそうだ。
「
運よく医院は近い。
目の前の家から傘を借り、杖代わりにして街を南下して封鎖区画から脱するのであった。
あの野郎ども、絶対に許さん……。