崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第12話 Take a Photo③

 

 

 号泣し始めた記者(ライター)をなんとか落ち着かせて、居間にあるテーブルで向かい合った。

 部屋にはペットボトルやらのゴミが大量に積まれている。

 ただ臭いはないし、どれもゴミ袋で綺麗に纏められてる。綺麗好きなのか怠惰なのか良く分からん部屋だった。

 

「……それで? 殺されるというのは?」

 

 問いかけに、赤や青を通り越して黒くなった顔の記者(ライター)が頷き話し始めた。

 

「私、元々は地方新聞の記者をしてたの。ただトラブル起こしちゃって、フリーのライターになって……ここ、地元に帰ってきたってわけ」

「はあ……」

 

 なんか、昔話が始まったんですけど……。

 嫌な予感を覚えつつ、とりあえず話を聞いていく。

 

「なんとかライターで食いつないでたんだけど、それでも生活が厳しくて。おかしくなって夜の街をカメラ片手に走り回ってたの。あの時はどうかしてた……」

 

 ほんとにね。

 

「で、でもね? その時に、あの動画が撮れたの……」

「あの動画?」

「夜鳥羽の裂け目が現れる瞬間の動画」

「……!! それは、それは……」

 

 そりゃまた凄いものを撮ったものだ。

 俺はまだ裂け目の出現がどんな物かを知らないが……突如現れるっていうから、余程珍しいことだったんだろう。

 

「あの頃はまだ裂け目は国外の……テレビの中の出来事だった。ほら、夜鳥羽はウチの国でも3番目の裂け目だったでしょ? だから私が撮ったのは、国内では誰も見たことのなかった映像だったの」

 

 そうだったのか。

 ……なんか、どんどん凄い情報が出てる気がするんだが。

 

 俺がいる夜鳥羽は国内最古な部類の裂け目で?

 この記者(ライター)はそんな裂け目が現れる瞬間の撮影に成功した凄い奴ってことか?

 ……見てみたい。凄く見てみたいが、ただ――。

 

「その動画が、この状況と何の関係が?」

「大ありなの……!! ほら、ニュースとかで素人が撮影した動画や写真を使うこと、あるでしょ? あれには使用料が払われる。私の動画は誰も撮ったことがなかったものだから……すっごく、稼げたの」

「……はあ」

「他にも裂け目ライターってことで記事も色々書いたわ。テレビとかも出て……ほら、見た目も悪くないし。それはもう、我が世の春だった……!!」

 

 あー、その道の第一人者みたいな面でテレビに出てる人ね。

 じゃあそれなりの有名人だったわけだ。

 ……何故かそんな人が、この古びたマンションで震えてるわけだが。

 

「で、でもね? 2年もしないうちに新しい裂け目動画が出回って……ほら、私は夜中に咄嗟に撮ったから、画質があんまりよくなくて……」

 

 ああ、後追いの競合に負けちゃったのね……。

 

「収入は激減。仕事も学者とタレントに取られまくって……仕方なくパートを始めたわ。近所のスーパー。品出しにレジ打ち、炊き出しもやって……挙句、本部も別の裂け目に呑まれて、物資不足でクビ。天才美人記者の私がよ!? なんて屈辱……ぐぬぬっ!!」

 

 ギリギリと両手を握りしめながら、唸り声をあげる記者(ライター)

 凄まじい形相で顔を上げたかと思えば、その顔がぱっと明るくなった。情緒……。

 

「で、でもね!? 私は考えたの! それなら――もっと凄い動画を撮ってやればいいんだって!」

 

 ああ、すっごく駄目そうな導入だあ……。

 

「……それは?」

「裂け目出現の動画はそれなりにあるけど……()()()()()()()()()()()()()()()

「……?」

「そもそもまだ成功例がない。実は隠してるだけで、国が裂け目を閉じる技術を開発したって話は聞くけど、あくまで噂。漂白部隊(SBEU)と国の極秘事項だから映像が出回ることもない……でもさ! もしそれが撮れたら……どう? 最高のスクープでしょ!?」

「そ、そうなんですか……?」

「そうなの!」

 

 バン、と机を叩いて立ち上がって、部屋どころか隣にまで響き渡る声で張り上げた。

 ……この人居留守してたんじゃなかったっけ?

 まあ、今更だけどさ。

  

「この夜鳥羽の裂け目は何年もずっと静かなまま。ここなら行ける!って思ってハンターを雇ったの。裂け目消滅の方法を調べて、実践するためにね。……そしたら」

「そしたら?」

「お金だけ持って逃げられちゃってぇ……!!」

「ああ……」

「貯金じゃ足りなくて、借金もしちゃっててぇ……!!」

「あああ……」

 

 最悪だ……。

 遂には机に突っ伏して泣き始めてしまった。

 グジュグジュと色んな水の音が部屋に響く。

 

「ちなみに、おいくら程?」

 

 質問には指が4本返ってくる。

 

「……十です? それとも、百?」

「……百。400万……」

「それは、それは……」

 

 動画の利益で糊口を凌いでいたライターに稼げる額じゃなさそうだ。

 ちなみにハンター連中が所属している民間狩猟会社(PHC)だが、これは簡単に言うと極道さんたちである。

 

 元々は漂白部隊(SBEU)――当時はその前身組織の手が回らなかった過疎区域で生まれた、対ブラー用の自衛団だった。

 だが彼らに武器の携帯が認められた事で、そこに目を付けた連中――いわゆる裏稼業の人間たちが大量に流れ込み、規模も影響力も悪い方向に膨れ上がってしまった。

 

 大量のお金やら何やらが動いた結果、今では国の認可する唯一の民間ブラー駆除組織としての地位を築いた……ということらしい。

 

 国中に支部がつくられ、漂白部隊(SBEU)が賄いきれない区域の警護やブラー処置を行いつつ、薬物やら賭博やらのお家芸も続けている。

 要はブラー退治()する、その筋の方々である。

 

 まあ、全部肉屋や医者(ドク)との雑談で得た情報を纏めた推測だが……彼女の惨状を見るに間違ってはなさそうだ。

 

 てかさっきすれ違った連中、取り立て屋か。

 どおりで厳つい見た目だったわけだ。

 ブラーを相手にしてるせいか、俺はなんとも思わないけど、この人からしたら怖い相手だよなぁ。

 

「絶対に返せないって泣いて懇願したら『臓器を売るかブラーを持ってくるか選べ』って言われててぇ……!!」

「……なるほど。それでブラーが欲しいと」

「そうなの。あなた、危険領域に出入りしてるんでしょ!? お恵みを、どうかあ……!!」

 

 腕に縋られ揺さぶられる。

 ……そういうことね。ようやく話が理解できた。

 そして――。

 

「お、お願いぃ……!!」

 

 こちらを必死に見つめる顔面はぐちゃぐちゃ。

 

 ――うるさいけど無害……こういうことね……。

 

 とりあえず事情はわかったので落ち着いてもらう。

 待つこと5分。涙と鼻水を洗い流してきた記者(ライター)と改めて対面する。

 

「ご、ごめんなさい。取り乱したわ」

「いえ、構いませんよ」

「ありがとう……!! それで、手伝いについては……?」

「うーん……」

 

 それなぁ……。

 カメラを借りるだけにしてはかなり面倒になってきてるんだよな。

 しかも、ブラーを400万円分ねえ。

 

「ブラーを持ってくることは可能ですが、ブラーは1体の心臓で大体20万円くらいなんですよね」

「ええ!? そんなもんなの!? じゃ、じゃあ……20体?」

「では私はこれで――」

「嘘嘘嘘……!! じょ、冗談じゃない!!」

 

 慌てて腕をつかまれた。

 絶対に逃がすかと、とんでもない力で袖を引っ張られる。

 伸びる、伸びちゃうから。

 

「はぁ……具体的に何をすれば?」

「本当は部位で指示されてるの。首を2体分って」

「首を?」

 

 記者(ライター)が頭の上で三角形を作ってる。……首から先の頭ってことだよな。

 それはまた、奇妙な依頼だ。

 

「心臓とかは要らないんですね?」

「う、うん、そうみたいよ? だから、そっちはあなたの好きにしていいと思う」

「……ふむ」

 

 語尾が「思う」なのが怪しくはあるが、それが事実なら悪い話じゃない。

 カメラも借りれて、こっちは心臓を売って更に利益になる。

 首を壊さず倒すのは面倒だが……やってやれないことはない。

 

「首から上を2つ、ですね。分かりました」

「そうそう! 急いでお願いね!」

 

 調子のいい奴め……ただなあ。

 その依頼には面倒な障害が出てきてるんだよな。

 

「急ぎたいのは山々なんですが、実は今、危険領域にえっと……レジピポ?が出てきてまして」

 

 死体を作っても、そこをあいつらに狙われたら面倒だ。

 その事を伝えると、ようやく普通に戻った記者(ライター)がふんふん頷く。

 

「あーそっか、あいつらもこっちに来たんだね。それは面倒かも」

「……? 今まではいなかったんですか?」

「そりゃあ、あいつ等は臓物狙いだもの。ブラーが豊富にいると分かればやって来るわよ」

「えっと……どういうことですか?」

「何? あなた何も知らないのね!?」

 

 いいわ、説明してあげる、と嬉々として立ちがる。

 さっきまで号泣してたのに……情緒の変化凄すぎだろ……。

 部屋の中を歩き回りながら、記者(ライター)はリズムよく指を振って話し始める。

 

「ほら、1週間前に裂け目の数値異常があったでしょう? 特殊個体(ユニーク)が出たっていうやつ」

「……ええ、聞きました」

 

 なんなら現場にいました。

 

「奴らはどうやってるのか、そういった裂け目の動きを察知してやって来るの。そうすれば、沢山のブラーの心臓が手に入るから」

「……どうして彼らは心臓を集めるんですか?」

 

 まさか喰うわけでもあるまい。

 問いに、にんまりと笑みを返してきた記者(ライター)が告げる。

 

「だって、あれは兵器になるから」

「……兵器」

「知らない? 色式兵装(カラージュ)。ほら、漂白部隊(SBEU)の隊長さんとか上位のハンターなんかが使う奴」

「……あっ!」

 

 あの雷剣か!

 とんでもない威力だったが、あれはブラーの心臓を使ってるのか……。

 

「あいつ等は国中からブラーの心臓を集めて、色式兵装(カラージュ)を生産してる。あ、これ勿論違法ね? だから奴らは決して危険領域から出てこない。リーダーたちは当然最上位の指名手配犯よ。その首は生死を問わず(デッドオアアライブ)――いつの時代の話よね?」

「……あの危険領域の中で過ごせているのも、それが理由ですか?」

 

 つまり背後を取られた時に、俺はその色式兵装(カラージュ)?を向けられてたってことか?

 あんなもんで斬られたら即死だ。それどころか、システム貫通してそのまま消失とかしないよな……。

 ゾッとする俺だったが、記者(ライター)は首を横に振った。

 

「ああ、それは違うわ。あれはここに来るような木っ端が持てるような代物じゃないもの」

「そうなんですね……」

「それに、正確には危険領域に住んでるわけじゃない。あいつ等が居るのは囲地よ」

「……囲地?」

「そうそう。ええっと……ちょっと待ってて」

 

 部屋の奥に入っていってホワイトボードを引っ張ってきた。

 そこには地図が貼りつけられてて、沢山の赤い円が描かれている。

 

「この赤い円がこの国にあるブラーの浸食域」

「……こんなに? 半分くらい埋まってますけど……」

「凄いわよね。たった5年でこれなんだから。で、そのウチの1ヶ所を拡大したのがこれ」

 

 脇の紙束から引っ張り出してきた別の地図を張り付けた。

 多分、関東辺りの拡大図。当然拡大された赤い円が大半を埋め尽くしているんだが……。

 

「どう? これだと分からない?」

「あ……空いてるところがある?」

 

 パチンと指を鳴らす。

 拡大された地図には5つくらいの赤い円に囲まれながらも、どこにも属さない、赤くない土地があった。

 

「そう、これが囲地。こんな感じで、世界中には『危険領域に囲まれながら未だブラーの浸食を受けてない場所』ってのがあるの」

 

 多分、小さな村が一つ入るかどうかの範囲。決して広くはないが、共同体が暮らすには十分だろう。

 

「奴らはそこに根城を作ってる。大昔の忍者の隠れ里みたいなものね」

「……なるほど。考えましたね。ブラーの領域を、封鎖壁の様に使うんですね……」

「そうそう。おかげで国も迂闊に手を出せない……いわば独立国家ね、あれは」

 

 空からなら入れるんだろうが、わざわざそんなことをしてまで国が取り返すこともないだろう。

 安住の地ってわけにはいかないが、国の目を逃れて堂々と違法行為をする拠点としては十分だ。

 隠れ住むには丁度いいってわけか。

 

 ハンターを極道とするなら、レジピポは犯罪組織(テロリスト)

 そして国の半分は異形の侵略者(ブラー)に奪われてると。

 ……相当終わりかけてない? この国……。

 

「でもそっか。あいつ等がいるのね。なら厄介だなー。どうしたものか……」

「……」

 

 ……というか、この人……。

 

「その……お詳しいんですね? 色々と」

 

 聞いたらすらすら答えが返ってくる。

 さっきまでの惨状とはまるで違う。

 超有能な、ブラーに関する情報屋が目の前にいた。

 

「え? そりゃそうよ。こっちは裂け目ができてからずっと追っかけてるのよ? それくらい知ってて当然。常識よ」

「そんなことはないと思いますけど……」

 

 さらっと国やら漂白部隊(SBEU)の内情も知ってそうな発言してたし……この人、想像以上に有能なのかもしれん。

 記者(ライター)ね、こいつは良い情報源になりそうだ。

 カメラのこともある。この依頼は手伝った方がいいだろう。

 

「……わかりました。ブラーの首2つ、手に入れましょう」

「あ、ありがとう! 本当にありがとう……!! 私にできることなら何でもするから……!!」

「……へえ?」

 

 言ったな。

 てかこの人、絶対こんな感じで迂闊な事言って追い詰められてるだろ……。

 まあいい。

 やると決めたら徹底的にやる。

 

 俺の獲物を奪った罪は重いぞ、レジピポ……この名前、間抜けだなあ!

 

「……では、情報を。この街で奴らがとりそうな行動とその範囲をできる限り教えてください」

「勿論、任せなさい……!!」

 

 邪魔な連中は残らず掃除して、拠点の修復をさっさと開始するのだ。

 その後は夜まで作戦会議を行うのだった。

 


探索成果:―

 

収入:―

支出:―

残額:¥610,150

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:修復予定機材の撮影

4:PCパーツの回収、引き渡し

5:盗人をブッ飛ばす

6:雑兵ブラーの頭部の入手、引き渡し


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