崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第14話 Take a Photo⑤

 

 

 十神が驚愕の声を上げた、その少し前。

 

 北東地区の西の端――そこに建つ、総戸数100を超す分譲マンション。

 その地下駐車場へとリヤカーを転がしていく男が3人。

 

「はは、今日は大漁だったな!」

「あの女、俺らにビビってブラーの解体諦めやがった。おかげで楽できるぜ」

 

 地下入口は集めてきた家具やら廃材やらでバリケードが設置されており、リヤカーがギリギリ通れる空隙に滑り込むようにして、先頭の男が中へと入った。

 中では肉や骨を切り裂くための丸鋸の音が響いている。

 作業中の解体班に手を挙げ、声を掛けた。

 

「――戻ったぞ。追加、3体だ」

「おう、お疲れ!」

 

 そのまま3人で協力してリヤカーごとブラーを中へと運び込む。

 ようやく自分たちの拠点(不法占拠)にたどり着いたことでようやく人心地つくことができた。

 いかに枯れた裂け目だと分かっていても、人食いの怪物がいる危険領域を歩くのは常に恐ろしい。

 

「3体も持ってきたのか。すげえな」

「いいカモがいてな。汀良(テイラ)さんの言う通り、ここは穴場だぜ」

 

 それなりの広さの地下駐車場を利用しつくったブラーの解体所。

 そこには放棄されていた車を電源や作業台代わりにして、各所から回収してきたブラーの死骸の解体と分類が行われていた。

 

 運んできた男の1人、高木が伸びをしながら2人を振り返る。

 彼はこの解体所のリーダーであり、活動拠点形成の定期報告を行う必要があった。

 

「後は任せるわ」

「ああ。書類仕事は大変だねー」

「汀良さん細かいんだよ。こういうのやりたくないから残留者(ここ)にいるってのにさ」

 

 ボヤキながら奥へと向かう高木を見送りながら、残された2人が顔を見合わせて笑みを浮かべる。

 

「でもラッキーだな。この調子じゃ、すぐにノルマ達成だろ」

「安全な裂け目にはウマいカモもいましたってな。最高だな」

「「ははは!!」」

 

 この前の裂け目の異常は直ぐに収まった。

 このまま落ち着き活性化はしない――そう他組織は考える、というのが彼らの『上』の読みだった。

 後から気づいて慌てて動き出すから、今のうちに稼いでこい、という話だったが――。

 

「汀良さんの予測はすげえな」

「な。これで俺らもすぐに戦闘員だ。しばらくは予定通り漂白部隊(SBEU)の残りをいただく。後は基地の作成を優先で――」

 

 などと話をしていた、その瞬間。

 

 バリケードで爆発が起こった。

 

「――は?」

 

 その音に、離れていた高木が振り返る。

 積んでいた瓦礫やら木材やらが吹き飛び、衝撃で入口付近にいた2人もまた倒れていた。

 

「あ……え?」

 

 ほんの一瞬前まで会話をしていた筈の仲間が倒れている。

 男はそれを呆然と眺めていた。

 

「なんだ!?」

「敵襲だ! 武器持って来い!」

 

 中で作業していたもう2名の声と、慌ただしく走る音が地下駐車場内部に響く。

 ここにいるのはこの5人だけ。たった今2人やられたから、残りは3名。

 

 ――何が起きたんだ? 一体、何が……。

 

 そう呆然とする男の耳朶に、高い声が鳴り響く。

 

「――グレネード!」

 

 入口を分厚く覆っていた煙の中から、何かが中へと放り込まれる。

 それが何かは叫んだ声が教えてくれている。

 呆然としていた男の意識がそれを見て急速に収束した。

 

 吹き飛んだ仲間の姿が頭に浮かぶ。

 

 ――爆発で俺も死ぬ……!!

 

「ひぃっ!?」

 

 慌てて身を縮めた男だったが、音も衝撃もやって来ない。

 代わりに鳴るのは、何かが駆けてくる足音。

 

「え?」

「1、2の……」

 

 咄嗟に顔を上げた時には、こちらへと駆け抜けてくるあの女の姿があって。

 やけに凶悪な笑みから、全力の右蹴りが男へと振り放たれた。

 

 ――くそっ、騙され……。

 

「3!」

 

 ゴッ、と鳴る鈍い音とともに男が吹き飛んだ。

 これで3人がダウン。残りは2人。

 

「……ははっ!」

 

 漏れ出る妖しい笑い声。

 黒いローブ姿のその侵入者は周囲を素早く確認、自身を狙う2人を認識すると、すぐさま近くの車に隠れた。

 

「高木がやられた……!!」

「おい! 無事か!?」

 

 ようやくボウガンと猟銃を手にした残り2名が仲間に呼びかけつつも侵入者に狙いを定める。

 時刻は夜だが、蛍光灯と解体用のライトが照らす駐車場内はそれなりに明るく、入口付近もしっかりと視認ができる。

 

(――閃光手榴弾(フラッシュ)は?)

(――ある。近づいて投げ込むぞ)

 

 少しでも顔を出せば撃つ。

 2名は手で合図しあいゆっくりと侵入者が隠れた場所へと近寄った。

 

「――――」

 

 だが到達前に、拳銃の射撃音が鳴り響いた。

 

「うおっ!?」

 

 2人は咄嗟に身構えるも撃たれた気配はなく。

 代わりに天井で破砕音が鳴り響き――視界が暗くなった。

 

 ――蛍光灯を撃った!?

 

 ありえない下手くそなのかと思ったのも一瞬。

 続け様に発砲音が響き、電灯が次々に、正確に撃ち抜かれていく。

 その結果、入口付近は暗闇に包まれた。

 当然侵入者の潜む車も。

 

「ちっ、見えねえ……!! 逃げる気か!?」

「いいからライト! 照らせ!」

「お、おう!」

 

 片方が猟銃で狙いを定めている間にもう片方が捜索に動く――が。

 その間も銃撃音は止まらず、どんどんと明かりが消えている。

 

「なんだ……? 何をする気なんだよ……!!」

 

 逃げるだけならとっくに出来るはずなのに、相手はそれをしない。

 入口からこちらへとどんどんと暗闇が迫る。

 それはまるで『死』が近づいて来るようで、銃を構えていた男の身体が震えていく。

 

「ひぃ……ひぃ……は、早くライトを……!!」

「――あがっ!?」

「ほい、4」

 

 縋る様に告げた言葉には、悲鳴が返ってきた。

 振り返ると、視界に映るのは倒れてる途中のボウガンの男と――()()()()()()黒服の美少女。

 

 その手にはバチバチと青い光を放つスタンガンが握られており、もう片方の手で男の猟銃をしっかりと掴んでいた。

 抵抗しようにも腕が全く動かない。とんでもない怪力だ。

 

「あ、あ……」

「これで5と……お前で最後か」

 

 その美しい顔に似合わない苛烈な笑みを浮かべて、青い光が首に押し当てられ――。

 

「じゃあな」

 

 弾ける音と同時に男の意識は失われるのだった。

 

 

***

 

 

 最後の1人が気絶したのを確認して、俺は大きく息を吐き出した。

 

「……終わった」

 

 レジピポ共をぶっ倒すための作戦。

 それは奴らを追跡して拠点を割り出してぶっ飛ばす……という実にシンプルなものだった。

 追跡方法も至って単純。

 倒したブラーに忘れ物防止用のタグを入れ、スマートウォッチで位置を追っただけ。

 うーん、現代的。

 

 ブラーを運ばせたので、当然行き先は解体所となる。

 拠点完成前の今なら人員も装備も大したことはないってことで、乗り込んでぶっ潰すことに決めた。

 スマートウォッチとか、天パ店主にスタンガンを作ってもらったりと結構な出費になったが、奴らをぶっ潰すにはそのくらいは惜しまない。

 獲物横取りの罪は重いのだ。

 

「しっかし、思ったより楽に勝てたな」

 

 対人戦闘なんて初めてだったんだが、想像以上にスムーズにいった。

 まあ、あの怪物よりは全然弱かった。抵抗らしい抵抗もなかったし。

 

 あとやっぱり俺の身体は特殊のようだ。

 夜目が利くから灯りを破壊しても動けるし、この細い脚での蹴りで大の男が1撃だった。

 そもそも蘇るしな。ブラーなんて怪物と戦うには、どうも普通の人間じゃ駄目らしい。

 

「あっ、最初の連中」

 

 パチンと指を鳴らす。爆発で死んでないよな?

 手榴弾で吹き飛ばした連中の所に慌てて向かうが……良かった、生きてた。

 流石に爆発に巻き添えで殺すのは寝覚めが悪いからな。一安心だ。

 

 ただ見逃す気もない。見つけたテープで手足を縛って、他の連中と一緒に入口の外に纏めて放った。

 帰りにハサミかカッター辺りを近くにおいておけば何とかするだろ。

 

「……さて」

 

 ぱんぱんと手を叩いて立ち上がる。

 無事に解体所の制圧に成功したわけだが、内部は中々に凄い光景だ。

 車やポータブル電源に繋がれた機材が並び、吊るされ照らされたブラーが丁寧に解体されている。

 

 丸鋸とか使うんだな。こりゃ解体が楽でいい。

 小分けにされたブラーは保冷剤とともにクーラーボックスに詰められ、大型車の荷台に詰め込まれている。

 といってもまだ2箱だけ。流石に来たばかりだからそこまで解体は進んでないらしい。

 

 えーと、ここに書類があるんだったよな?

 記者(ライター)の情報では、ここに他の2拠点も含めた計画書がある筈。

 この馬鹿でかいマンションのどこかと言われれば絶望するが……お、あった。

 

 最後に倒した猟銃持ちのポケットに入ってた。

 地図と計画書……字きったねえな……手書きかよ。

 なになに、装甲車で荷を運んでんのか。ここにはないってことは追加を輸送中か?

 もう少し遅れてたら人も装備も増えてヤバかったのか。危ない危ない。

 

 後は盗まれたブラーからタグを回収すれば、必須作業は完了だ。

 

「これで良し。じゃあ後は……待望の漁りタイム!」

 

 物資はたっぷり。何からいただこうかなー。

 

「まずはこれ……猟銃!」

 

 上下二連の散弾銃。

 直込め式なので連射は無理だが、拳銃と合わせて2体までなら連戦できそうだ。

 遂に手に入れたぞ、新しい武器……!!

 へへ、猟銃とはいえショットガン。これならブラーも楽に倒せるんじゃないか?

 楽しみだ……!

 

「ふふふ……!!」

 

 そしてボウガンもいただく。猟銃があるからこっちは使い道が分からんが……まあ持っていく。

 ポータブル電源はどうするかな。

 運ぶには重すぎる。リヤカーは爆発でぶっ壊れたし、手で運ぶのはちょっと……お!

 

「台車!」

 

 いいね、これをいただこう。

 ライトと丸鋸も乗せて、クーラーボックスも1ついただこう。

 ブラーは……駄目だな。丁寧にバラされてるから、記者(ライター)お望みの首は別で探そう。

 後は――あ。

 

「これだ……!!」

 

 ()()ときたそれを鞄に詰め込む。

 ああ、ありがとうレジピポ。おかげで色々と進みそうだ。

 

「……さて」

 

 回収作業も完了したので、最後に記者(ライター)に言われていた作業を済ます。

 やれって言われたからやるけど……これ、何の意味があるんだ?

 

「まあいいや」

 

 仕上げにピンを抜いた手榴弾を適当にぶん投げれば今度こそやることは終わりだ。

 ふふふ、帰ったら早速色々試すぞー!

 背後でくぐもった爆発音が響くのを聞きながら、鼻歌交じりに拠点へと帰っていくのであった。

 

 

***

 

 

「――隊長、見つけました! 地下駐車場です」

 

 それからしばらくが経った後。

 武装した黒ずくめの兵士たちが現場へと到着した。

 爆発を察知してやってきた漂白部隊(SBEU)である。

 

「……静かですね」

「ああ。終わった後らしい」

 

 顎でしゃくって、十神は突撃銃(アサルトライフル)のウェポンライトで地下駐車場の入口を照らした。

 そこには縛られ藻掻いている男たちが転がされていた。

 

残留者(レジピポ)ですね」

「この身なりに……この臭い。間違いないですね」

「よし、中を調べるぞ」

 

 顔をしかめながら兵士が駐車場へと入っていく。

 バリケード跡らしいそれは爆発で破壊されており、中には燃えている車や運び込まれた机などの家具が煙を吐き出していた。

 

「車か……消化を急げ。あれまで爆発したら敵わん」

「了解」

 

 動き出す部下たちだったが、その内の1人が十神を呼び止めた。

 彼は暴れる残留者(レジピポ)の足下を照らした。

 

「隊長、これを」

「ん? ……手紙?」

 

 よれて僅かに黄ばんだその紙束には殴り書きの字で『後はよろしく』と書かれていた。

 拾い上げて開いてみると……。

 

「……計画書か」

 

 残留者(レジピポ)たちの尖兵に渡される、汚い手書きの指令書。

 襲撃の実行犯はそれをしっかりと確保し、十神達に渡してきたのだ。

 

「なんのつもりでしょうか」

「他の拠点はお前らがやれと、そういうことだろう。舐められたものだ」

「……いいように使われたということですか。まさか、民間狩猟会社(PHC)が?」

「いや、ハンターの手口じゃない。奴らならもっと徹底的にやる。報復が面倒だからな。我々には任せない」

「じゃあ、一体どこのどいつが……」

「さあな。調べてみないと何もわからん」

 

 勝手に襲撃しておいて後始末は任せると。随分身勝手な襲撃者らしい。

 拠点が破壊され、尖兵が捕らえられたとなれば残留者(レジピポ)の本隊も黙ってはいない。

 そのことを考えてるのか?

 ……考えていないだろうな。この阿呆は。

 ともかく――。 

 

「今夜は長いぞ」

「……ですね。人手が足りてないってのに、困ったものです」

 

 そう呟いて。

 十神たちは自分の仕事を果たすために動き出すのであった。

 

 


探索成果:生還

 

収入:¥ 2,300 【残留者所持金】

支出:¥100,000 【スマートウォッチ費用】

   ¥ 30,000 【スタンガン修理費用】

   ¥ 5,000 【タグ費用】

 

残額:¥477,450

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:修復予定機材の撮影

4:PCパーツの回収、引き渡し

5:盗人をブッ飛ばす

6:幼体ブラーの頭部の入手、引き渡し


 

 

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