「これはこれは鷹村様! お元気そうで何よりです」
「……」
「……」
「ひぃぃ……」
計5名の武装した組員に囲まれながら、色付きサングラスのスーツ男と向かい合っていた。
2大勢力、
そこの人間ってのはどんな奴かと思ったらこんなのか。想像した極道そのままだな……。
もうちょっと隠せよ。
――武装は拳銃に
中にはこの間すれ違った2人もいる。あいつ等下っ端だったか。
そして唯一座っている、目の前の男。
細身に派手な金の装飾品で着飾った
インテリ極道か金貸しかみたいなそいつが、見た目とは異なる丁寧な口調で話し始めた。
「それで? 返済の目途は経ちましたか? そろそろ色良いお返事をいただかないと……ねえ?」
がちゃりと、奴らの銃器が音を鳴らす。
明らかな威圧に、部屋の温度が一気に下がったような気がした。
「……」
「鷹村様?」
……駄目だ。周りの連中にビビって固まっちまってる。
仕方ない。俺の方から口火を切る。
「ご要望のブラーの首2つ、用意はできてますよ」
「……今、なんと?」
「くーび、2つ。お望みのモノでしょう?」
にっこりとそいつに笑みを返しつつ、指をぐるりと振る。
「その前に、この周りの方々はどうにかなりません?」
「……すみません。安全の都合上、どうしても必要なのですよ」
「へえ、何もしやしませんのに」
俺らにこれだけ人数を割けるなんて、随分暇なんだな。
この
てかブラーの首くらい自分たちでとってくればいいのに。
せっかくの
「……失礼ですが、あなたは?」
なんて考えてたら男の鋭い視線がこちらを向く。
よく見れば、冷や汗が垂れ手が震えてる……?
隣では
「ちょっと仕事を頼まれましてね。ここにいるのはついでです。ほら、出してください」
「あ、うん。……こちらを」
運ぼうと一度仕舞っていた首を2つテーブルに並べると、男の目の色が変わった。
「……確かめても?」
ぶんぶんと首を振る
つぶさに観察している男に、
「あの、これで借金は――ひぃ!?」
彼女の言葉は、叩きつけられた首の音で途絶えた。
静まり返った会議室で、男がサングラスを持ち上げ、溜息を吐き出す。
「……困りますねえ、鷹村さん。こんな
「え?」
「よくできた模造品ですが、こんな綺麗な頭部をあなたが入手できるはずがない」
「そんな……っ!! だってここに……!!」
抗議の声は、取り巻きの1人が椅子を蹴った音で掻き消された。
「ひぃっ!?」
「あなたなら御存知のはずだ。この夜鳥羽の仕組みを」
「……」
「我ら
とん、とん、と指を叩きながら1つずつ、種明かしを続けている。
んん? てことは、そもそも
あとやるとしたら
それはそれで犯罪行為で一発アウトなんだろう。
……そうか。だから首なのか。
心臓ならば流通してる。需要があるからな。
つまり万が一、どっかから手に入れられる可能性がある。
需要がない首なら絶対に手にはいらないってことわけだ。
はは、つまりあれか?
最初からこの
それがまさか俺っていう抜け道があったから焦ってるんだろう。
……俺って合法? 違法かなあ……。どっちみち駄目か。残念。
「……っ!!」
彼女もそれを理解したのか顔が青ざめている。
うーん、明らかな吹っ掛けだから抗議してもいいんだが……6人が相手。
しかも
万が一撃たれたら俺も
なにより気になる。
そうまでして
「無理してこんな玩具まで作って、残念でしたね。おい」
「はい」
男の合図に合わせて、取り巻きたちが部屋を漁り始めた。
乱暴に棚を開け、紙やら何やらがひっくり返される。
更に1人は俺の背後に回って、銃口を突き付けてきた。
「ちょっ、何を……!!」
「差し押さえですよ。あなたが必死に集めた裂け目に関するあらゆる情報――その全てをいただきます。ああ、特にあの裂け目の動画。あれは是非ともいただきたい」
「はぁ……!?」
流石の
「ふっざけないで! あれは私の全て……ぎゃっ!!」
だが男に腹を蹴り飛ばされて壁に吹き飛んでいった。
あらら……痛そう。酷いことするね。
……お、畠中の視界から外れた。いいね。
俺は背後の男――この間すれ違った大男の方――へ視線を向けると、おもむろに服の中に手を突っ込む。
顔が緩みやがった。気持ち悪い……が、丁度いい。
さっさと済まそう。
「ぐっ……」
「静かにしなさい。ご近所に迷惑でしょう? ……たかが記者の分際で調子に乗るからですよ。さあ、どこです? 例の、『
……シアー?
ナニソレ。なんか重要そうな奴だけど。
ただなるほど、その情報が欲しくてこいつをハメたのね。
重たい身体を支えて、音がしないように……そうだな。冷蔵庫の横の隙間に押し込んでおこう。次。
「なんであんたらがそれを……」
「あなたは分かりやすいんですよ。少し調べれば、何をしてるかはすぐ分かる」
「……っ」
「さあどこですか? 家の全てをひっくり返してもいいんですよ?」
あー、そのための5人。
色々とわかりやすいことで。
……ふむ、これで大体状況は分かったか。
隣の部屋のタンスを漁っている男の背後にすすっと近づく。
「っ! そう、その情報が欲しかったのね……」
「そうですよ。あなたがアレを追ってることは有名ですから」
「……ざっけんな!」
銃口の恐怖も忘れて、立ち上がる音が聞こえる。
「あれは、私が命を賭けて集めた情報だ! あの映像も! 人生を失いかけた私が死に物狂いで手に入れた、私だけのものだ! お前らみたいなコソ泥に誰がくれてやるか!」
「……」
「借金? 最初から裂け目に行く気なんかなかったくせに! ブラーなんてどうでもいいんだろう! 金と薬と女があれば!」
彼女の気持ちのいい啖呵を聞いてると……何故だか、文香嬢のことを思い出す。
家も、友達も失って。遂には大事な思い出まで消えそうになって、命を賭けたあの子。
それと比べて、人を騙して情報を盗み取ろうとしている大の男が6人。
そりゃだっさいわ。
「世界がこんなにもボロボロになってるってのに、自分たちのことばかり!! だからあんたらはいつまでたっても
彼女の声は、銃撃の音に掻き消された。
……まじかよ、撃ちやがった。ここ住宅街だってのに。
「……なるほど、理解しました」
静まり返った部屋の中、畠中が眼鏡を持ち上げながら呟く。
「あなたに返済の意志がないことはよおくわかりました。では、差し押さえを遂行します」
「……っ」
「あなたは……そうですね。適当なお店に入っていただきましょう。南西地区は男ばかりでね、あなたならすぐに返済できますよ?」
「ふざけ……っ」
抗議の声には再びの銃声。
煙を吐き出す銃口で
「命は取りませんよ。安心してください」
「……」
「ただ、騒がれると面倒です。なので、これを」
懐から取り出した細長い箱。
そこから取り出したのは……注射器か。
「何よそれ……!!」
「気持ちのいいお薬ですよ。楽しく働けていいこと尽くしですよ? 嫌なことも全部忘れられます」
あはは、気持ちのいいクズだな。
……その方が都合がいい。
俺はゆっくりと作業している奴に組員に近づいて、口を塞いで――スタンガンを当てた。
「……っ!!」
これで、
あとはあの男を除いて2人。……もういいかな。
さあ、やるか。
***
「――報酬の話なんですけど」
不意に聞こえてきた声に、私は顔を上げた。
発生源は目の前の男――畠中じゃない。
いつの間にか姿を消していた、リズだった。
「え……?」
潤んで歪んだ視界。
その中で、オレンジの髪の美しい少女が、こちらに笑みを向けていた。
「だから、依頼の報酬の話です。先ほど話していたシアーの情報でいかがです?」
「……」
なんでその話をするんだろう。
こんな大ピンチで、呑気に話をしている暇なんて……あ。
「それでいい……!! それでいいから……!!」
「では、交渉成立ですね」
「……あなたは、何を……!! というかなんでそこに……!!」
畠中と一緒に、さっきまでリズがいた筈の場所を見る。
そこには彼女を脅していた筈の大男が、隙間に詰め込まれて気絶していた。
安い冷蔵庫しか買えなくて、できた隙間にすっぽりデブが埋まってる。
いつの間に……!!
「――駄目ですよ、よそ見しちゃ」
たたん、と軽い音。
視界の端に黒い塊が蠢き、続けて鈍い音。
多分、リズが畠中に空中回し蹴りを叩き込んだ音……ええ!?
「ちょっ……!?」
なにしてんの!?
すんごい勢いで吹っ飛んだ畠中に素早く近寄った彼女は、胸倉をつかんで片手で持ち上げ、身体を叩いて所持品検査を始めた。
「おや、いい刀」
滑らかな木の鞘に収まった
え、盗った……?
「
「あっ、はい!?」
「その小箱と拳銃、拾ってもらえます?」
床に転がったそれらを拾って立ち上がる頃には、異変に気付いた男たちがやって来る。
そうだ、彼らがまだ……!!
だが、やってきたのは2人だけだった。
……5人いた筈じゃ。
「兄貴! お前……!!」
「おっと、慌てちゃ駄目ですよ?」
リズさんは気絶した畠中の身体を彼らの方に向け、いつの間にか取り出していた拳銃をそのこめかみに当てた。
「……!!」
「大事なお兄さんを失いたくはないのでしょう? ここは穏便に行きましょうよ」
どう見ても不穏なことをしながら、彼女は明るい様子でそう告げる。
「ここにいる……畠中さんでしたっけ? それとそこの隙間に大きなお方。後は他の部屋に残りの2人も倒れてます」
「なっ……」
嘘、いつの間に……。
だって今の話し合い、10分も経ってないのに……。
――この人、本当に
正直話半分で聞いていたけど、この様子を見ると本当らしい。
鵲の紹介だから安心してたけど、自分はとんでもない人物に協力を依頼したのでは……?
寒気に震えつつ、拾った薬と拳銃を持っていくと、そっと彼女の背後に回された。
あ、これ、助けようとしてくれてたのか。いい人……。
「さっさとお仲間を連れて帰ってください。もし抵抗するようなら……この方に薬を打ちましょうか。あるだけ、たっぷりと」
満面の笑みでそう告げている。
わ、悪るっ……。
「お前……!!」
「自分たちもやろうとしたことです。やられる覚悟もおありでしょう? 人の大事なものを奪うなら、命を賭けないと……でしょう?」
「……」
「さあ、どうします? 帰るか、やり合うか。私はどちらでも構いませんけれど」
銃を構え笑みを浮かべるリズに逆らえる人間は、この場にはいなかったのだった。