崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第16話 Take a Photo⑦

 

 

「これはこれは鷹村様! お元気そうで何よりです」

「……」

「……」

「ひぃぃ……」

 

 計5名の武装した組員に囲まれながら、色付きサングラスのスーツ男と向かい合っていた。

 2大勢力、民間狩猟会社(PHC)

 そこの人間ってのはどんな奴かと思ったらこんなのか。想像した極道そのままだな……。

 もうちょっと隠せよ。

 

 ――武装は拳銃に短機関銃(サブマシンガン)かな。ブラーよりも対人想定の武装……ってとこか?

 

 中にはこの間すれ違った2人もいる。あいつ等下っ端だったか。

 そして唯一座っている、目の前の男。

 細身に派手な金の装飾品で着飾った()()()()なツーブロックのその男は、畠中というらしい。

 インテリ極道か金貸しかみたいなそいつが、見た目とは異なる丁寧な口調で話し始めた。

 

「それで? 返済の目途は経ちましたか? そろそろ色良いお返事をいただかないと……ねえ?」

 

 がちゃりと、奴らの銃器が音を鳴らす。

 明らかな威圧に、部屋の温度が一気に下がったような気がした。

 

「……」

「鷹村様?」

 

 ……駄目だ。周りの連中にビビって固まっちまってる。

 仕方ない。俺の方から口火を切る。

 

「ご要望のブラーの首2つ、用意はできてますよ」

「……今、なんと?」

「くーび、2つ。お望みのモノでしょう?」

 

 にっこりとそいつに笑みを返しつつ、指をぐるりと振る。

 

「その前に、この周りの方々はどうにかなりません?」

「……すみません。安全の都合上、どうしても必要なのですよ」

「へえ、何もしやしませんのに」

 

 俺らにこれだけ人数を割けるなんて、随分暇なんだな。

 この記者(ライター)が怖い筈もない。

 てかブラーの首くらい自分たちでとってくればいいのに。

 せっかくの短機関銃(サブマシンガン)が勿体ない……なんとかして貰えないかな。

 

「……失礼ですが、あなたは?」

 

 なんて考えてたら男の鋭い視線がこちらを向く。

 よく見れば、冷や汗が垂れ手が震えてる……?

 隣では記者(ライター)が目を白黒させながら肩を揺さぶってくるが、どうでもいい。

 

「ちょっと仕事を頼まれましてね。ここにいるのはついでです。ほら、出してください」

「あ、うん。……こちらを」

 

 運ぼうと一度仕舞っていた首を2つテーブルに並べると、男の目の色が変わった。

 

「……確かめても?」

 

 ぶんぶんと首を振る記者(ライター)に笑みを浮かべて、男が首の1つを手に取った。

 つぶさに観察している男に、記者(ライター)が恐る恐る問いかける。

 

「あの、これで借金は――ひぃ!?」

 

 彼女の言葉は、叩きつけられた首の音で途絶えた。

 静まり返った会議室で、男がサングラスを持ち上げ、溜息を吐き出す。

 

「……困りますねえ、鷹村さん。こんな()()を持ってこられては」

「え?」

「よくできた模造品ですが、こんな綺麗な頭部をあなたが入手できるはずがない」

「そんな……っ!! だってここに……!!」

 

 抗議の声は、取り巻きの1人が椅子を蹴った音で掻き消された。

 

「ひぃっ!?」

「あなたなら御存知のはずだ。この夜鳥羽の仕組みを」

「……」

「我ら民間狩猟会社(PHC)は、現在この夜鳥羽で活動はしておりません。そして、唯一活動が許されている漂白部隊(SBEU)があなたに首を提供するとはとてもとても……更に、あなたが我らの市場からブラーを買った形跡もない」

 

 とん、とん、と指を叩きながら1つずつ、種明かしを続けている。

 

 んん? てことは、そもそも記者(ライター)が首を持ってくるってことが不可能だったってこと?

 あとやるとしたら残留者(レジピポ)に頼むとか?

 それはそれで犯罪行為で一発アウトなんだろう。

 

 ……そうか。だから首なのか。

 心臓ならば流通してる。需要があるからな。

 つまり万が一、どっかから手に入れられる可能性がある。

 需要がない首なら絶対に手にはいらないってことわけだ。

 

 はは、つまりあれか?

 最初からこの記者(ライター)に選択肢はなかったってことか?

 それがまさか俺っていう抜け道があったから焦ってるんだろう。

 ……俺って合法? 違法かなあ……。どっちみち駄目か。残念。

 

「……っ!!」

 

 彼女もそれを理解したのか顔が青ざめている。

 うーん、明らかな吹っ掛けだから抗議してもいいんだが……6人が相手。

 しかも短機関銃(サブマシンガン)持ちだろ?

 万が一撃たれたら俺も記者(ライター)も死ぬ。せめて、もう少し状況を見たい。

 

 なにより気になる。

 そうまでして記者(こいつ)をハメて……こいつらは何が欲しいんだ?

 

「無理してこんな玩具まで作って、残念でしたね。おい」

「はい」

 

 男の合図に合わせて、取り巻きたちが部屋を漁り始めた。

 乱暴に棚を開け、紙やら何やらがひっくり返される。

 更に1人は俺の背後に回って、銃口を突き付けてきた。

 

「ちょっ、何を……!!」

「差し押さえですよ。あなたが必死に集めた裂け目に関するあらゆる情報――その全てをいただきます。ああ、特にあの裂け目の動画。あれは是非ともいただきたい」

「はぁ……!?」

 

 流石の記者(ライター)も、恐怖より怒りが勝って立ち上がる。

 

「ふっざけないで! あれは私の全て……ぎゃっ!!」

 

 だが男に腹を蹴り飛ばされて壁に吹き飛んでいった。

 あらら……痛そう。酷いことするね。

 ……お、畠中の視界から外れた。いいね。

 

 俺は背後の男――この間すれ違った大男の方――へ視線を向けると、おもむろに服の中に手を突っ込む。

 顔が緩みやがった。気持ち悪い……が、丁度いい。

 さっさと済まそう。

  

「ぐっ……」

「静かにしなさい。ご近所に迷惑でしょう? ……たかが記者の分際で調子に乗るからですよ。さあ、どこです? 例の、『予言者(シアー)』の情報は」

 

 ……シアー?

 ナニソレ。なんか重要そうな奴だけど。

 ただなるほど、その情報が欲しくてこいつをハメたのね。

 

 重たい身体を支えて、音がしないように……そうだな。冷蔵庫の横の隙間に押し込んでおこう。次。

 

「なんであんたらがそれを……」

「あなたは分かりやすいんですよ。少し調べれば、何をしてるかはすぐ分かる」

「……っ」

「さあどこですか? 家の全てをひっくり返してもいいんですよ?」

 

 あー、そのための5人。

 色々とわかりやすいことで。

 ……ふむ、これで大体状況は分かったか。

 

 隣の部屋のタンスを漁っている男の背後にすすっと近づく。

 

「っ! そう、その情報が欲しかったのね……」

「そうですよ。あなたがアレを追ってることは有名ですから」

「……ざっけんな!」

 

 記者(ライター)の叫びが室内に響き渡った。

 銃口の恐怖も忘れて、立ち上がる音が聞こえる。

 

「あれは、私が命を賭けて集めた情報だ! あの映像も! 人生を失いかけた私が死に物狂いで手に入れた、私だけのものだ! お前らみたいなコソ泥に誰がくれてやるか!」

「……」

「借金? 最初から裂け目に行く気なんかなかったくせに! ブラーなんてどうでもいいんだろう! 金と薬と女があれば!」

 

 彼女の気持ちのいい啖呵を聞いてると……何故だか、文香嬢のことを思い出す。

 家も、友達も失って。遂には大事な思い出まで消えそうになって、命を賭けたあの子。

 それと比べて、人を騙して情報を盗み取ろうとしている大の男が6人。

 そりゃだっさいわ。

 

「世界がこんなにもボロボロになってるってのに、自分たちのことばかり!! だからあんたらはいつまでたっても残留者(レジピポ)なんかに出し抜かれるんだよ。ハンターなんて名ばかりの犯罪者集団が……!!」

 

 彼女の声は、銃撃の音に掻き消された。

 ……まじかよ、撃ちやがった。ここ住宅街だってのに。

 

「……なるほど、理解しました」

 

 静まり返った部屋の中、畠中が眼鏡を持ち上げながら呟く。

 

「あなたに返済の意志がないことはよおくわかりました。では、差し押さえを遂行します」

「……っ」

「あなたは……そうですね。適当なお店に入っていただきましょう。南西地区は男ばかりでね、あなたならすぐに返済できますよ?」

「ふざけ……っ」

 

 抗議の声には再びの銃声。

 煙を吐き出す銃口で記者(ライター)の顎を撫でながら優しい声色で告げる。

 

「命は取りませんよ。安心してください」

「……」

「ただ、騒がれると面倒です。なので、これを」

 

 懐から取り出した細長い箱。

 そこから取り出したのは……注射器か。

 

「何よそれ……!!」

「気持ちのいいお薬ですよ。楽しく働けていいこと尽くしですよ? 嫌なことも全部忘れられます」

 

 あはは、気持ちのいいクズだな。

 ……その方が都合がいい。

 俺はゆっくりと作業している奴に組員に近づいて、口を塞いで――スタンガンを当てた。

 

「……っ!!」

 

 これで、3()()()

 あとはあの男を除いて2人。……もういいかな。

 さあ、やるか。

 

 

***

 

 

「――報酬の話なんですけど」

 

 不意に聞こえてきた声に、私は顔を上げた。

 発生源は目の前の男――畠中じゃない。

 いつの間にか姿を消していた、リズだった。

 

「え……?」

 

 潤んで歪んだ視界。

 その中で、オレンジの髪の美しい少女が、こちらに笑みを向けていた。

 

「だから、依頼の報酬の話です。先ほど話していたシアーの情報でいかがです?」

「……」

 

 なんでその話をするんだろう。

 こんな大ピンチで、呑気に話をしている暇なんて……あ。

 

「それでいい……!! それでいいから……!!」

「では、交渉成立ですね」

「……あなたは、何を……!! というかなんでそこに……!!」

 

 畠中と一緒に、さっきまでリズがいた筈の場所を見る。

 そこには彼女を脅していた筈の大男が、隙間に詰め込まれて気絶していた。

 安い冷蔵庫しか買えなくて、できた隙間にすっぽりデブが埋まってる。

 いつの間に……!!

 

「――駄目ですよ、よそ見しちゃ」

 

 たたん、と軽い音。

 視界の端に黒い塊が蠢き、続けて鈍い音。

 多分、リズが畠中に空中回し蹴りを叩き込んだ音……ええ!?

 

「ちょっ……!?」

 

 なにしてんの!?

 すんごい勢いで吹っ飛んだ畠中に素早く近寄った彼女は、胸倉をつかんで片手で持ち上げ、身体を叩いて所持品検査を始めた。

 

「おや、いい刀」

 

 滑らかな木の鞘に収まった小刀(ドス)を懐から引き抜くと、満足そうにポケットにしまった。

 え、盗った……?

 

記者(ライター)さん」

「あっ、はい!?」

「その小箱と拳銃、拾ってもらえます?」

 

 床に転がったそれらを拾って立ち上がる頃には、異変に気付いた男たちがやって来る。

 そうだ、彼らがまだ……!!

 だが、やってきたのは2人だけだった。

 ……5人いた筈じゃ。

 

「兄貴! お前……!!」

「おっと、慌てちゃ駄目ですよ?」

 

 リズさんは気絶した畠中の身体を彼らの方に向け、いつの間にか取り出していた拳銃をそのこめかみに当てた。

 

「……!!」

「大事なお兄さんを失いたくはないのでしょう? ここは穏便に行きましょうよ」

 

 どう見ても不穏なことをしながら、彼女は明るい様子でそう告げる。

 

「ここにいる……畠中さんでしたっけ? それとそこの隙間に大きなお方。後は他の部屋に残りの2人も倒れてます」

「なっ……」

 

 嘘、いつの間に……。

 だって今の話し合い、10分も経ってないのに……。

 

 ――この人、本当に残留者(レジピポ)の拠点、壊滅させたのね……。

 

 正直話半分で聞いていたけど、この様子を見ると本当らしい。

 鵲の紹介だから安心してたけど、自分はとんでもない人物に協力を依頼したのでは……?

 寒気に震えつつ、拾った薬と拳銃を持っていくと、そっと彼女の背後に回された。

 あ、これ、助けようとしてくれてたのか。いい人……。

 

「さっさとお仲間を連れて帰ってください。もし抵抗するようなら……この方に薬を打ちましょうか。あるだけ、たっぷりと」

 

 満面の笑みでそう告げている。

 わ、悪るっ……。

 

「お前……!!」

「自分たちもやろうとしたことです。やられる覚悟もおありでしょう? 人の大事なものを奪うなら、命を賭けないと……でしょう?」

「……」

「さあ、どうします? 帰るか、やり合うか。私はどちらでも構いませんけれど」

 

 銃を構え笑みを浮かべるリズに逆らえる人間は、この場にはいなかったのだった。

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