「覚えてやがれよ……!!」
「兄貴、重い……起きてくださいよぉ……!!」
そんな捨て台詞を吐きながら組員たちが仲間を引きずって帰ってくのを見送って、俺たちはようやく一息つくことが――できる訳もなく。
「――ありがとう! 本当に、ありがとう……!!」
「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ……っと!」
俺と
結局、俺も
何とか穏便に済ますことができたんだが、奴らの鳴らした銃声のせいで周囲は大騒ぎ。
街中でいきなり2発も銃声が鳴ったんだから無理もない。
幸いこの部屋ってことまではバレてない。
全部鞄に突っ込んで逃げるつもりだったんだが――。
「ほら、急いで! 纏めたら下の車で逃げるからね」
そう号令を出すのはジャンクショップ鵲の天パ店主。
慌てて出てきたのだろう、いつもの半纏姿に杖を突いている。
彼らはどうやら年の離れた幼馴染らしく、
「リズさんゴメンねー。手伝ってもらっちゃって」
「いえいえ」
足が悪いらしく、彼に代わって荷運びまでは手伝うことにした。
折角助けたんだ。
「お礼にいいもの持ってきたから、持って帰って!」
「……? はい」
なんだろう。
まあ貰えるなら何でもありがたい。
それに……。
「例の情報についても、よろしくお願いしますね」
「勿論。それに、元々私からも頼もうと思ってたから」
「……?」
あれ、じゃあ助けなくても良かったか?
……なんて、今更か。
「ちょっとタカムー。それいらないでしょ!」
「はあ!? 私の大事なデータなのよ!」
「時間がないって言ってるでしょ! 重要なやつだけ選んで!」
「うぁーん! 全部大事ー!」
「……うるせぇ……」
仲がいいのは結構だが、そのせいで
ただでさえ人が集まってきてるんだ。
急がないと……ええい、仕方ない。
「もう、私が全部運びますから鞄と箱に入れてください!」
「ありがとう……!! あなたは救世主よ……!!」
「……はぁ」
救世主……一応神様に連れてこられたけどさ。
こんな間抜けな光景のために読んだわけは、間違いなくないだろう。
じゃあ一体なんで呼んだんだって話だが。
あの神様モドキが何考えてるのか知らないけど、少しは話が進んだ――そう考えていいんだろう。
「ほら、急ぎますよー!」
「「はーい」」
ともあれ、
***
その頃、夜鳥羽の街の中。
住民たちに怪しい目で見られながら、
「……うぅ……」
「兄貴! 気が付きましたか……」
「ああ。……あの女……やりやがったな……!!」
部下が差し出すライターで煙草に火をつける。
この時代ではそれなりの高級品になったその煙を味わいつつ、重苦しい言葉を吐き出す。
「ありゃあ何者だ。ハンターじゃねえよな」
「……はい。あんな目立つ奴、登録してたらわかります」
「だよな。じゃあなんだ?」
問いかけには皆が黙った。
当然だ、あんな奇妙な女は見たことがなかった。
火みたいに鮮やかなオレンジの髪に町中で拳銃を持ってやがった、そして驚くほどの美貌。
「……あの」
「あ? なんだよゴリ」
一番下っ端――そして一番最初にあのオレンジ髪にやられた巨漢が恐る恐る手を挙げた。
「あの、アイツってもしかして、噂になってる『銃の亡霊』なんじゃ……」
「……何?」
「髪の色とか一緒ですし、ほら、拳銃持ってた……!!」
「あいつが……?」
つい最近、
それが『銃の亡霊』と呼ばれる不法侵入者だった。
ハンターの1人ではないかと問い合わせがあって即否定していたのだが、なるほど、確かに外見の特徴は一致する。
服装は違ったが、流石に町中で黒いローブだったら直ぐに捕まる。
それくらいの変装はするだろうが……髪色までは誤魔化せなかったらしい。
畠中は引きつる程の笑みを浮かべて、部下に指示を投げる。
「――ハンターを呼べ」
「へ?」
「近くにいて実績のある連中、誰でもいい。その『銃の亡霊』とやらを見つけて、俺の前に連れて来い」
「は、はい……!!」
上からの命令を遂行できなかったことで、畠中の地位も危うくなった。
あの鷹村という女は姿を消すだろう。
何とか探して捕まえなければならない。
そして、邪魔しやがったその『亡霊』とやらも。
必ず捕まえて……生まれたことを後悔させてやる。
泥の様に重く湿った滾らせ、畠中は動き出すのであった。
***
夜鳥羽から数十km離れた、とある沿岸都市。
未だブラーの侵略を受けていない東部最大規模の都市として、今や多くの製造拠点が集中し賑わいを見せるその中を2人組の男が歩いていた。
海に流れ込む直前の、ほんのりと潮風の香る橋の上。
ぼんやりと紫煙をくゆらせ、水面に反射する川沿いの店の明かりを眺めていた背の高い男のスマホが震える。
「おいレン、鳴ってるぞ」
「……」
「おい!」
隣を歩く小柄な男が鋭く告げる。
男にしては長い、首元まで伸びた髪は銀。しかも先端だけ紫に染めている。
「だって依頼だろ。今週は休みって言ってあるのに」
「それでも来たんだから緊急に決まってんだろ! 貸せ!」
「
「いいから寄越せ!」
レンと呼ばれた男の尻ポケットに突っ込まれたスマホをひったくる――前に、レンが自ら引き抜いて画面に触れる。
暗い夜に白い灯りが浮かび上がり、男の端正な顔を照らした。
暗緑色の髪色の奥、その頬には、口の端から吊り上がる様に伸びる傷跡が深く刻まれている。
それでも損なわれない男の美貌がうげ、と歪む。
「依頼だ。マツさんから」
「ほれみろ。どこだ?」
「……なにこれ」
呟いて、男が立ち止まる。
「おい、どこだよ。まさか帯留野とか言わないよな」
「いや、夜鳥羽だって」
「は? あんな枯れたとこで依頼? てかあそこまだ人いたのか」
そんな感想が出るくらいには夜鳥羽は
ハンターが活動しなくなって久しい土地だが……。
「で、何の依頼?」
「人探し。えーっと……?」
いちいち大仰に動きを止めるレンに、瑞希が頬を膨らませる。
「もったいぶるなよ、誰だ?」
「なんか、亡霊と予言者って書いてある」
「は?」
「ブラーを無断で狩ってるアホと、嘘をネットに垂れ流してるアホがいるんだと。そいつらを捕まえて来いって」
「……何だそれ? 報酬は?」
「1人1000万。2人で2000」
「最上位案件じゃん……マジでなんなんだそれ……」
「だってそう書いてある。ほら瑞希、これ」
ブラーを殺せとか、
だがレンの方は先ほどまでの態度はどこへやら、ニッと笑ってスマホを瑞希へと放った。
「でも丁度いいね。これで、また家が買える」
「……そうだけど……なんか怪しい……」
「いつもの事でしょ。どうせ僕らは命懸け」
そう笑うレンに、瑞希は今の話が事実であることを確かめ……首をブンブンと横に振った。
「……とにかく帰って作戦会議! 夜鳥羽なんて情報なんもないんだから……まずは調べるぞ」
「へーい」
「今更、夜鳥羽? 一体何なんだよ……」
凸凹な2人組は家路を急ぐ。そんな彼らは
5年前に出現して以降、沈黙を貫いた最古の裂け目。突如として騒がしくなったその場所に、各勢力の注目が集まり始めていた。
***
「ふへ、ふへへへ……」
おっと、いけない。
つい嬉しくて涎が垂れてしまった。
あの後、
その手には報酬として天パ店主から渡された謎のアタッシュケース。
『あいつ、助けてくれてありがとうね。後は、PCパーツも。助かったよー! これはそのお礼』
そう言って貰ったそのケースは、映画とかでよく見る真っ黒なやつ。
一体どんな貴重品が入ってるのかと思いきや。
なんと驚き。そいつはPCだった。
通信設備 レベル1
持ち運び可能なラップトップPC
現在は拠点でのみ使用可能
中にはモニターとキーボードが取り付けられていて、開くと同時に起動した。軍事映画とかにでてくるアレだ。
俺が集めて渡したパーツで作ってくれた、危険領域とかの劣悪な環境下でも動くラップトップである。
『いちいちこっちに来るの大変でしょ? 買取以外はメッセージでやり取り出来た方が楽だからさ』
て、天パ店主……!! なんていい人なんだ……!
衛星通信がまだ生きているらしく、通信も問題ない。
流石のブラーも宇宙までは行けてない様だ。……他の星とかにも現れてたりすんのかね。将来宇宙ブラーの侵略とか……まあ、あっても遠い未来の話か。
『本当に貰っていいんですか?』
『うん。さっき言ったでしょ。色々のお礼。それに、これは先行投資。君となら色々と楽しいことができそうだしね』
そう言ってニッと笑う天パ店主は頼もしかった。
その分たくさんゴミを集めて来いってことなので、頑張らせていただこう。
というわけで、PCにカメラのデータを取り込んで送信する。
非公開SNSを使って情報は共有。アクセスできるメンバーは俺と天パ店主と、後は
……あの2人、同じとこにいるなら分けなくていいだろ。
――LIZ:写真、送ります
――Kas:なにこれ!? 気になるモノばっかり!
――LIZ:一番上は多分シューティングレンジです。後は棚と、それ以外が分からずで
――Tak:射撃場? そんな施設夜鳥羽にあったかな……
Kasは鵲かな? あれ本名らしい。
てことはTakが
ただ、彼女の言う通り。なんでこんなものが教会の下にあるんだろうなあ……。
そのままやり取りをして、天パ店主には設備の確認を依頼した。
ふふ、さあ、これから拠点修理が本格化するぞ……!!
なんて思っていたら、メッセージが飛んできた。
送り主は……
――Tak:今日は本当にありがとう。報酬の情報なんだけど
お、来た来た。
なんだっけ、シアーって言ってたか。
やけに重要そうな単語だったが、一体……。
うきうきして待っていると、これまた予想外のメッセージが飛んできた。
――Tak:あなたにお願いがあるの。予言者を探して欲しい
「……予言者ぁ?」
なんか、ますますファンタジーになってません?
探索成果:―
収入:―
支出:―
残額:¥477,450
進行中任務
1:夜鳥羽の裂け目の消滅
2:拠点の修復
3:修復予定機材の撮影
4:PCパーツの回収、引き渡し
5:幼体ブラーの頭部の入手、引き渡し
設置済み設備
冷凍室
ガンラック Lv.1
ブラー解体所 Lv.1
照明 Lv.1
通信設備 Lv.1