崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第18話 Forecast①

 

 

 記者(ライター)こと鷹村さんの一件が終わった、その翌日。

 俺はいつも通り、廃墟となった夜鳥羽の探索を行っていた。

 

「お、懐中時計! ……なんでこんなとこに?」

 

 拾い上げた丸いシルエット。

 背面が金一色の、ずっしりと重い時計は高そうだ。

 ちなみに今俺がいる場所は雑居ビルの屋上。一体なんでここに……どっかから飛んできたのか?

 まあ、ありがたくいただくけど。

 

「……さて」

 

 縁に立って夜の街を眺める。

 

「確かにちょっと明るくなってる気が……しないでもないか?」

 

 果てまで見渡せないくらい広い街並みは、相変わらず金と青の光に照らされ揺れている。

 地方の都市としては最大規模だろうこの夜鳥羽。その面積はとにかく広い。とんでもなく広い。

 

「こんな中から1人の人間を探せって? 無茶言うなよ……」

 

 呟きは夜の廃墟に虚しく消えていった。

 

***

 

 

 ――予言者(シアー)を探して欲しい。

 

 突如送られてきた記者(ライター)からの依頼(タスク)、それはまさかの人探しであった。

 どうやら俺やレジピポ以外にもこの廃墟に住んでる人間がいるらしい。

 変わった奴もいるものだ。

 

 てか予言者ってなんだよという話なのだが、記者(ライター)曰く、夜鳥羽の裂け目が活性化することを予言した奴がいるんだと。

 ……活性化って何?

 

 ――LIZ:活性化って、具体的に何が起きるんでしょう

 ――Tak:ホント何も知らないのね!? 特殊個体とかの強いブラーが出て、ひどくなると大型が出て街が滅ぶ! 要は大災害!

 

 なるほど、超大変なことが起きると。

 ……え? それが起きるの?

 この夜鳥羽で?

 

 ――Tak:ほら、この間話した特殊個体いるでしょ? あれもその影響じゃないかしら

 

 あー、前触れ的な……?

 確かにあいつ強かったもんなー。

 ……あんなのが大量に出てくるの? マジで?

 はは、笑い事じゃないのに笑えてくる。

 

 この活性化って現象は前世でいう地震みたいなもので、観測はできるが予測はできない。

 だから気づいた時にはハンターやらレジピポやらが襲われてて、結構な数の死人が出るらしい。

 それこそ俺が遭遇した特殊個体(ユニーク)みたいに。俺と姉ちゃんのどっちかが欠けてたら大暴走してただろアレ。

 

 そんな厄介な活性化だが、この夜鳥羽では長らく起きていなかったそうだ。

 だから夜鳥羽の裂け目は死んだ――そう考えられていたが、その予言者とやらは違った。

 

『夜鳥羽に大規模浸食。過去最大。警戒を』

 

 そんな予言をSNSにて書いていたんだと。

 

 ――LIZ:予言って、もっと詩的な文章かと思いました

 ――Tak:どうとでもとれる文章で誤魔化すエセ予言者と一緒にしないで。こいつは本物。イカれてる

 ――LIZ:どう違うんです?

 

 予言者の違いとか知らん。

 

 ――Tak:こいつは危険領域内に潜んで裂け目の調査を行う。一度SBEUやハンターによる大規模捜索が行われたけど捕まらず、勿論ブラーにも殺されずに研究と予言を続けた。正直、この国の誰よりも裂け目研究を進めてる可能性がある。この私より……

 

 記者(ライター)のぐぬぬ顔が浮かぶメッセージである。

 

 だがそうなるのも納得の実績。

 実に3回。予言者(シアー)は全国各地で裂け目の活性化を予測したそうだ。

 そしてその全てを的中させている。

 

 ――LIZ:ちなみに、活性化が起きた街はどうなったんです?

 ――Tak:大型が出て、2つは周囲の街が壊滅。3つ目は予言者の脅威が分かってたから、出現後に大型を討伐して……半壊で済んだ

 

 超大規模損害じゃん……。

 ええ、それがこれから起きるっていうのか?

 拠点とか絶対にぶっ壊れるじゃん。

 ……いや、でも。

 

 ――LIZ:でもそれって、自ら活性化させたら予言できますよね?

 ――Tak:勿論そう。でも、それは一体どうやるの? そもそも原理すらわかってない

 

 ……確かに。

 

 ――Tak:予言にしろ、自ら活性化させてるにしろ、奴は誰にも出来ていないことをやってる。そのせいでSBEUやハンターにはテロリストとして追われてる

 

 そりゃそうだ。

 予言だなんて嘘くさいし、裂け目を活性化させられる犯罪者と見るのが自然だろう。

 それでもまだ捕まってないんだから、相当強い護衛でもいるのか、何か攻撃されない方法でもあるのか。

 

 裂け目関連に精通した記者(ライター)でさえ分からない存在、予言者(シアー)

 その消息が突如途絶えたそうだ。

 

 ――Tak:ブラーにやられたか、どこかの勢力に捕まったか。前者だった場合、他の勢力に見つかる前に奴の拠点から情報を回収したい

 

 というのが、記者(ライター)からの依頼の全容である。

 ……あれ? これって助けたお礼なんじゃなかったっけ。なんで俺が頼まれてるんだ?

 まあ、PCもらったからいいか……。

 

 

***

 

 

「裂け目の予測をする戦場研究者……うーん、いかにも重要な奴だなあ」

 

 わざわざ化け物だらけの廃墟に潜んで裂け目を研究するなんて、大分イカれた人間である。

 んで俺はそいつとそのねぐらを、この広大な都市から見つけなければならない。

 ……無茶言うなよ。

 

 ただ、流石に何も情報がないわけじゃない。

 同封されていた地図には記者(ライター)が予測したねぐら予想地点が4ヶ所プロットされてる。

 中央の裂け目を囲うように、各区画に1ヶ所ずつ。

 まずはここを探してみろ、ということだ。

 

 というわけで、まずは拠点近くの北西区画から調査中である。

 

「えーっと、目的の場所はっと……」

 

 ちょこちょこ遠出をしてはいるが、まだ北西区画すら満足に探索できていない。

 こうして高所に登って周辺地形を確かめていかないと直ぐに迷子だ。

 ゲームと違って短期間で周回できないし、そもそも地図を作る所からだからな……。

 

「ここが大通りで……埋まってるけど……で? そしたらあっちか」

 

 指をさすのは当然裂け目のある中央側……から、ちょっと北にずれた方向。

 北西区画は北側に向かう程に住宅街に変わっていく。特に区画のど真ん中を貫く大通りを北に超えれば、平たい一軒家だらけの完全な住宅街に姿を変える。

 民家しかないから漁るもんもないだろうと避けてきたんだが、目的の場所はその北側寄り。

 

 何があるかというと、学校。

 駕籠市立たて石小学校。夜鳥羽の中にある唯一の小学校だ。

 そこの最上階と屋上が最初の予測地点。

 

「もっと近くてデカい建物、いっぱいあるけど……なんで学校?」

 

 そうは思いつつも他に当てもないので行ってみる。

 道中の家や店とかは覗きつつ、街を東に横断していく。

 

 ――しかし学校か。何か拾えるものあるかな。

 

 思いつくのはデカい定規とか、黒板消しとか……ガキの頃だからあんま覚えてねえな。

 最近はタブレットとか支給してるんだっけ? 置いて帰ってる奴がいればラッキーだな。

 職員室とかPCある部屋とかはあるだろうし、全く無価値ってわけじゃなさそうだが。

 後は部活とかそういうののイメージしかないな――。

 

 なんて考えてたら、背後で砂利の音が鳴った。

 建物から飛び降りる音――!!

 

「――っ!?」

 

 咄嗟に転がって一撃を避け、起き上がると同時に銃口を向けた。

 目の前には真っ白な巨体。ブラーだ。

 

「ぅおっ!?」

『■■■■――!!』

 

 叩きつけられる咆哮に合わせて猟銃の引き金を引く。

 轟く2連射の音が鳴り響き、奴の胴体に大穴を開けた。

 ブラーはそのまま力を失い、真後ろへと倒れていった。

 

「ははっ、散弾銃ってのはすげえな……!!」

 

 あれだけ苦労してたブラーが2発。

 流石に当たり所が良かっただけだが、それでも拳銃にはできない芸当だ。

 火力って正義……!!

 

「……っ!!」

 

 その分()()と溢れる快感も絶大。

 こんなもん連射したらおかしくなる。上下二連の最大2連発で助かった。

 ゆっくり息を整えながらリロードを済ませた。

 

「さて」

 

 そのまま解体……には行かずに、周囲の警戒。

 耳を澄ませて視線を振る。

 解体場所は真後ろのパン屋さんでいこう。硝子越しの店内は無人。念のためレジの向こうまで覗いてから、ブラーを運び込んだ。

 

 ドアを固く縛って、一息を吐く。

 レジピポに襲われたことを反省して、こうして毎回警戒をするようにしている。

 時間がかかるが、ここを怠るといつかまた痛い目を見る。

 

 おかげで今度は安全に剥ぎ取りができた。

 ついでに漁ったパン屋は流石に空っぽ。店の奥には調理器具があるが……まあいらないか。

 飴を放り込んで、目的の方角へと進む。

 

 そうして歩くこと数十分。

 目的の小学校へとたどり着く。

 

「思ったよりデカいな……」

 

 周辺は坂になっており、そのせいか腰辺りまでは石の塀に囲まれている。

 更に伸びるフェンスの向こうには、4~5階はありそうな建造物が見える。

 俺がいるのは西側。正門は南側かな。

 ……面倒だしよじ登るか。侵入防止の棘もないし。そう考えると学校って結構無防備なんだな。

 

 3mは優にあるフェンスをよじ登って、学校を見渡す。

 デカい校庭が北に向かって広がっていて、南に校舎が見える。

 

「……? なんか、ぼこぼこだな」

 

 校庭はいくつか大穴が空いていて、周囲には土砂が積もった小山ができている。

 小屋やら鉄棒やらもぶっ壊れてるから、ブラーが暴れでもしたのかね。

 その割にブラーの姿は見えないが。

 

 こんだけ広いのに1体もいないってのは不思議なもんだが……てか、よく考えたら危険領域内のブラーって普段何してんだ?

 餌である人間がいないのに外に出ないって、変だよな。

 これが熊なら餌を求めて山を下りてくるじゃん。それをしない理由があるのか?

 

 ……まあ、今考えることじゃないか。

 校庭に飛び降りて、南の校舎へと歩き出して数歩。

 ガチっと、機械音が足元から響いた。

 

「……ん?」

 

 首を傾げ、足元を見つめようとしたその直後。

 轟音とともに視界が弾け飛んだ。

 

 


探索成果:死亡

 

収入:―

支出:¥50,000 【蘇生費用】

   ¥30,000 【拳銃補充】

   ¥ 3,400 【弾薬補充】

 

残額:¥394,050

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:予言者の潜伏場所の発見


 

 

***

 

 

 遠くから聞こえてきた音に顔を上げた。

 すぐさまモニターに取りつき状況を確認する。

 

「……きた。きたきた来た……!!」

 

 この数日、待っていたものがやってきたのだ。

 キーを連打しながら操作を行う。

 あらゆる監視網を全力稼働。ここから先は1つたりとも見逃せない。全てを見通さなければ。

 

「いよいよ。楽しみ」

 

 ただ、それには色んな邪魔者がついて来る。

 まずは逃げる――そのためにも視界を外へと広げていく。

 

「君のこと、手伝ってあげる。だからアタシを助けてね、亡霊さん」

 

 いつか来る邂逅の時。

 それを迎えるまで、アタシは絶対に生き延びてみせる。

 

 

***

 

 

「――はっ!?」

 

 気が付いたら拠点の塔屋でぶっ倒れていた。

 暗く冷たい岩の塔、その底に転がされている。

 

 見上げた先は当然何も見えないが、巨大な何かがずずっと奥に消えていくのがわかる。

 それを半分くらいぼーっとした頭で眺めている。

 

 ……この蘇生方法、何度死んでも良く分からん。

 

 だって大体唐突に死んで、こうしていきなり目が覚めるんだ。

 その間は意識がないから何が起きてるのか当然わかんねえし、俺が死んだ場所に行っても鞄とかがそのまま置いてあるだけ。

 死体は残ってない。

 

 多分消えていった何かに吐き出されてるっぽいんだが、暗くて何も見えない。

 窓がないから昼間でも関係ない。

 照明をアップグレードしていったら見える様になるんだろうか。

 見たくねえ……。

 

「……てか、なんで死んだんだ俺」

 

 硬い床から起き上がって呟く。

 ブラーにやられたか?

 ほら、あの漂白部隊(SBEU)の兄ちゃんみたいに地下からブラーに吹っ飛ばされたとか?

 

「んー、でも音と衝撃も凄かったから……爆発とか?」

 

 ブラーにそんな能力があんのか? 人を喰った個体ならそういうのあるのかも。

 ただそんな感じでもなかったから……ん、爆弾?

 え? まさか、地雷踏んだ?

 

 そんなこと……あるのか?

 

 

 ――Tak:ありうる。侵入者用の罠くらいならあるでしょうね

 

「先に言えや!!」

 

 俺じゃなくてブラーが爆発したことにして聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。

 てかなんで予言者が地雷なんて持ってるんだよ。

 軍の人間とかか? じゃなきゃおかしいだろ。

 もし一般人なら、5年でそこまで地雷が流通してることになる。怖すぎだろこの世界……。

 

 ――Kas:地雷は音で侵入者を報せる役割もあるから、もし予言者が生きてたら逃げちゃってるかもねー

 ――Tak:そうじゃない! ちょっと、絶対に鳴らさせないでよ!?

 

 天パ店主までそんなこと言いだした。

 だから何なんだよこいつらも……。

 

「無茶言うなよ……」

 

 既に鳴らしちゃったし。

 あ、でも死体が残ってないならバレてないか? 鞄の中身は飛び散ってるけど……あ。

 

「猟銃!」

 

 くそっ、折角手に入れた武器が……絶対壊れてるよなあ……。

 ま、まあそれでいえばブラーの中身も飛び散ってる筈だ。迷い込んだ間抜けなブラーが踏んだと、そう勘違いしてくれる可能性を信じよう。

 

「……ん? てかじゃあ、あそこが当たりってことか?」

 

 まさかの一発引きってこと?

 すげえな記者(ライター)。最強のストーカーだろ……。

 

 ともかくこれで場所は分かった。

 なんでか地雷が埋まってる超危険地帯だけど……なんでだよ、あそこ学校じゃないのかよ。

 

 どこかに安全な入口があるんだろうが、それを見つけるにはもう何度か死ぬことを覚悟しなきゃ駄目だろう。

 そうなると貯金がそろそろヤバい。 

 

 ちゃんと準備をして再度挑むとしよう。

 

「つっても拳銃で行くしかないよな。はあ、せっかくの武器が……逆戻りか……」

 

 またレジピポ君来ないかな。今度は機関銃とか持ってきてくれ……!!

 なんて願っても来るわけもなく。

 できることからやるしかない。

 

 こうして、今度はトラップだらけの校舎攻略が始まるのであった。

 

 

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