崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第2話 ゴミ漁りの亡霊②

 

 

 夜鳥羽ニュータウン。

 それはかつてのニュータウン構想の一環として計画され、複数の市に跨る形で開発が進められた関東最大規模の都市である。

 

 東西約7km、南北に約10kmと広がる巨大な都市建造計画であったが、景気悪化によって開発が遅延。

 7年程前に再度活発化するも、5年前の裂け目出現がトドメとなって開発は完全に停止した。

 

 怪物に追い出されるようにして住人たちは消え、今は都市の半分が封鎖壁に囲まれた、怪物の蠢く廃墟群と化している――というのがこのひと月で俺が得た情報である。

 

「おー、良く見える」

 

 あれからしばらく探索を続け、俺は目についた雑居ビルの屋上へと上った。

 少々道に迷ったので、高いところから帰り道を探すことにしたのだ。

 錆びついた扉を蹴っ飛ばして侵入し、縁に立って街を見下ろす。

 

「ははっ、上から見ると余計デカいな」

 

 地上より幾分か開けた視界。

 建物の背が低く間隔も広い地方都市。その中にあの巨大裂け目が鎮座している。

 

 あれがあるのは夜鳥羽の中央。都市を貫く鉄道と県道が集中する、文字通りこの都市の中枢だ。

 そこに裂け目が出現して、中からあの怪物たちが現れたらしい。そりゃ都市なんて一発で滅びるだろう。

 

 地方一の大都市を夢見て作られただろうこの夜鳥羽は、今となっては怪物たちの生息域。

 そんな寂しい夢の跡に、俺は突如連れてこられたわけである。

 何をさせたくてこんな事をしたのやら。

 

「まさかあの裂け目をぶっ壊せとか言わないよな……」

 

 俺がやらされてるのは剣と魔法のRPGじゃなく、ゴミと銃器のルートシューター。

 どう見てもSFかファンタジーなあの裂け目を閉じるなんて、天地がひっくり返ってもできそうもないんだが。

 

「こちとら、ただのゲーマーなんだけど」

 

 ……なんて、いくら考えても答えは出ない。ひと月経っても何もないのだ。

 俺にできるのは、何かが起きるまでこうして廃墟を歩き回ってゴミを拾い続けることだけだ。

 諦めの息を吐き出して、視線を他の場所へと向ける。

 

「しっかし、暗いなあ……」

 

 屋上から見える景色に灯りの類はほとんどない。

 さっきのコンビニとか、辛うじて残ってる街灯とか、一部しぶとく電源が残っているとこはあるけど……基本どこも真っ暗である。

 それだけで、この廃墟群がとっくに人の手から離れていることが良くわかる。

 

 代わりに月と裂け目の光が廃墟群を淡く照らしてる。

 金と青色の光が混ざって揺らめくのは海の底みたいで綺麗だが、照らされてる廃墟は壊され崩され……ボロボロだ。

 

 眼下に広がる往来も、崩れた建造物の残骸や道に開いた大穴で凸凹のぼっこぼこ。

 少し先を見れば倒壊したビルが道を塞いでて、車や電柱がそれらに潰されたり埋まってる。

 並ぶ家々も結構な数がぶっ壊れていて、それらの合間を白い怪物が現れ歩き回る……うーん、末期。

 

 何が厄介って、街がぶっ壊されてるせいで拾った地図と地形が違ったりするのだ。

 だから直ぐに迷子になる。

 慣れるまではまだまだ時間がかかりそうだ。

 

「……お、あの看板、さっき見たやつか? よし、多分あっち!」

 

 ざっくり進む方角を決め、うん、とひと伸びして縁から降りる。

 

 吹き抜ける埃まみれの風はそれなりに冷えていて心地よい。

 今は10月の終わり。夏の熱もすっかり抜けて、これから冬へと向かう季節の変わり目だ。

 ……まあ、この状況じゃ季節なんて熱いか寒いかの違いでしかないんだろうが。

 

 階段を降りる前。最後にもう一度見下ろした街は、暗く深い夜の底に沈んでいて――やっぱりどうしようもなく滅んでいた。

 

 

***

 

 

 それからしばらく廃墟の街を彷徨い、計2時間ほどの探索を終えて俺は拠点へと戻ってきた。

 

「なんとか死なずに帰って来れた……」

 

 拠点があるのは夜鳥羽の北西区画――その西の端。

 他の建物とも距離があるおかげか、化け物も近づいてこない安全地帯だ。

 ここだと裂け目の青い光は届かない。

 真上に輝く月の光を浴びながら、ようやく帰って来れた拠点を見つめる。

 

 相変わらず馬鹿デカい。

 

 見上げる程の高さのそれは、重厚な石の教会だ。

 並ぶ塔屋と会堂。そして何故か地下には同じくらいのバカ広い空間がある。

 その広さはビルのフロアが丸々2つある様なもので、正直完全に持て余している。

 多分ゲーム通りゴミを集めて修繕・改良してけって事なんだろうが……今は屋根があるバカでかい物置である。

 

 いかにも教会らしい、鉄の帯や鋲が幾つも打ち込まれた分厚い木の扉を開いて中へと入る。

 

「ふーん、ふーん、ふーん♪」

 

 不思議な幾何学模様の石床には、半分以上がぶっ壊れた長椅子の群れが並ぶ。

 そして天井は……裸電球が3つぶら下がっている。

 おかげで壁すら見えないくらいに薄暗い。

 


照明 レベル1

 

丸電球×3

最低限の照明器具


 

 ゲーム風に考えるとこんな感じ。

 ちなみに最初はそれすらなかった。

 元々はシャンデリアみたいな照明が吊るされてたが、当然こちらもぶっ壊れてて壁際に残骸を纏めてある。

 転生直後、真っ暗な中シャンデリアの土台?だけがプラプラと揺れてるのを見た時は絶望したね。

 

 ただどっかのご家庭で未使用の電球を見つけた時に、「あ、直せる」って分かったんだよ。

 で、試しに取りつけてみたら灯りが点いたってわけだ。

 

 あの感覚はなんだったんだろうなあ。

 神様が与えてくれたのか、この身体に元から備わってたのか。

 いつかシャンデリアも元通りに直せるようになるのかもしれない。

 直してどうすんだって話だが。

 

「さあさあ、倉庫整理の時間だよー」

 

 長椅子の間を進みながら、空しく声を響かせる。

 会堂奥にある階段を降りた先には物騒な鉄の扉がある。

 シェルターみたいなその分厚い扉を開ければ、地下空間にたどり着く。

 

 こっちはコンクリの打ちっぱなしみたいな、石造りのだだっ広い空間となっている。

 どこかから漏れる水滴の音が響くそこは、現状本当に何もない。

 ただ以前は水場だったり、何かしらの設備だったらしい残骸が至る所に積まれている。修理さえできれば使える様になるんだろう。

 

 ()()()、元が何か分かるモノがいくつかある。

 例えば入口の反対側には壁で仕切られた区画があり、細長い石の小部屋にはぶっ壊れた人型や紙の的が散らばっている。

 これは射撃場(シューティングレンジ)だろう。

 

 後はぶっ壊れた机は物を作ったりする作業台、こっちは資料置き場に使えそうな棚かな。

 良く分からん謎の装置もあるが……修理できればどれも便利設備なんだろう。

 ただ、必要なアイテムとかなんもわからん。

 

 上の電球は分かったから、キーアイテムが要るのか、レベルでも足りてないのか。

 当然ながらステータスなんて物はないので、色々試してみるしかなさそうだ。

 

 最悪、外から人を連れてくる。

 どうも滅びかけてるっぽいこの世界だが、ちゃんと人は住んでるのだ。

 人探し(そっち)こそ面倒なんだけどな……。

 

「……さて、嫌なことは一旦忘れて、今日の戦利品チェック!」

 

 分厚いベストを脱ぎ捨て、何故か最初から完備されてた設備その1――ガンラックに拳銃とマガジンを仕舞う。

 


ガンラック レベル1

 

銃器を保持する金網と、箱形のロッカーが組み合わさったラック

右端に開閉する透明な筒があるが、用途不明


 

 そうして身軽になって、待望の鞄に取り掛かる。

 入り口横に拾ってきたブルーシートを敷いてあり、今はそこが仮の倉庫だ。

 手を突っ込んで最初の戦利品を取り出す。

 

「まずは、このケーブル!」

 

 ノートパソコンにでも繋ぎそうな真っ黒な電源コード。

 接続先? 当然ない!

 でもこういうのって中が銅線だったりするんだろ?

 なら使える使える……多分!

 

「続いて、清潔な布!」

 

 可愛らしい動物の絵柄付きのタオルケット。

 これは俺が使う。

 このひと月ちょっと、上の長椅子でぼろ布敷いて寝てたからこれを布団代わりにする予定だ。

 

 俺がこの世界に来て1ヶ月が経ち、今は10月も終わる頃。

 つまり……これから冬が来るわけだ。

 暖房器具なんて文明の利器が手に入るのはまだまだ先だろう。

 なら最優先で集めないと駄目なのは防寒具だったりするんじゃね? と思う今日この頃である。

 

「そしてそして、その辺の箱に詰めた……なんか金属とかプラスチック!」

 

 比較的綺麗なプラスチックのボックスに見つけたネジやらレンチやらの小物を放り込んできた。

 ゲームじゃ省略されてたが、実際こういった小物はその辺の箱とか袋に入れて運んでるんだろうな。

 じゃないと鞄の中身がぐちゃぐちゃだ。

 

「後は化け物の肉と、拾った小銭、そして飴玉!」

 

 本日の収穫、以上!

 

 ……いや、今ある鞄じゃこれで限界なんだよ。

 タオルケットがデカすぎたし、金属重いし……。

 あの化け物もそれなりの数が徘徊してるから、あんまり荷が重すぎると逃げきれずに殺される。

 

 ちなみにもう何度か殺されてる。

 死ぬと自動的にこの教会で蘇るようになっている。

 何度も死ねるのはゲーム通りでありがたいが、その際に幾分か金が消えていた。

 

 治療費――蘇生費の方が正しいかな。

 後は置いてきた筈の拳銃やら鞄やらもリスポーンしてるから、その代金もある。

 

 その額およそ8万。そして現在の残金は……約30万。

 説明はないが金が尽きたらゲームオーバー、そう考えておいた方がいい。

 つまり俺の『残機』は現状3つか4つってわけだ。

 高いのか安いのか……よく分からんな。

 

「金稼がないと終わり。ただ、稼いで建てて……その先はなんかあんのかねえ」

 

 溜息を吐きながら、最後の戦利品である化け物の肉を仕舞う。

 何故か完備された設備その2――冷凍室へと入った。

 


冷凍室 レベル1

 

3畳はありそうな広い冷凍庫

どこからから供給された電源で常時稼働中


 

「……ただいま」

 

 冷気漂う青白い光が灯る室内。

 心臓を金属棚に並べて、俺は奥の壁を見る。

 

 そこには2人の人間の死体が並べて置いてある。

 俺が目覚めた時に周囲に散らばっていたあの死体だ。

 それなりに年老いた男女――多分、この身体の両親か何かだろう。

 なんとなく処分できなくて、綺麗にして袋に仕舞ってある。

 そのせいで見た目は完全に猟奇殺人鬼の冷蔵庫である。

 

「……これも、ゲームじゃ存在しない要素なんだよなあ……なあ、アンタら一体何者なんだ? んで、この身体(こいつ)は一体誰なんだ?」

 

 人形みたいに美しいマイボディを眺めて呟く。

 死んでも生き返るし、これじゃ本当に人形だよ。

 

「頼むからルールを教えてくれ……」

 

 進めていけば分かるのかねえ……現状、タスクどころか最終目標もわかんねけんだけどな。

 

「……まあ、やることないからやるけどさ。楽しいし」

 

 とりあえず、化け物の心臓もそれなりに溜まったから明日売りに行くとしよう。

 転生してひと月。そろそろなんか動き出すと良いんだけどなあ……。

 

 

***

 

 

「よし、じゃあ仕上げだな」

 

 荷物の整理を終えた俺は、探索後の最後の仕事――探索記録に取り掛かる。

 階段横、仮倉庫じゃない方の壁に向かうと、そこにあるのは巨大地図。

 

 町中にある金属の案内板あるだろ?

 あれをぶっ壊して持ってきた。どうせもう誰も使わないだろうし、構わないだろう。

 


地図 レベル1

 

錆び、折れ曲がった金属の案内板


 

 

 ただ運ぶ道中で化け物に襲われたせいで、角の辺りがひん曲がってる。おかげで浮かんで使いづらいったらない。

 デカいハンマーを見つけたら絶対に叩いて直す。

 

 その地図に今日の探索結果を記していく。

 ゲームじゃないから、どこに何があるかは自力で覚えないといけないのだ。

 

「ここが民家で、ここがコンビニっと」

 

 ただいくらデカいといっても、事細かに情報を書けるほど広い地図じゃない。

 なので適当にマークを決めて書くようにしている。

 民家は●、お店は▲……みたいな。

 それでも、まだ街のほんの一部しか探索できていない。

 率で言うと5%もいってない。

 こうしてみると、街って想像以上に広いんだなあ。

 

「街の反対側とか、いつになったらたどり着けるのやら」

 

 ちなみにこんな惨状ではあるが、ちゃんと生きた連中は存在してる。

 今は街の南側、後は東側の一部が未だ人間の領域らしく、そこに生き残りは暮らしている。

 多分、世界全体が化け物に奪われたわけではなく、俺の知る現代的な暮らしは維持できていそうだった。

 たまに巡回している兵士みたいな連中の装備はしっかりしてるし、店とかもちゃんと開いている。そういう意味ではギリギリ崩壊はしていないっぽい。

 

「大分怪しそうだったけどな……」

 

 残存戦力は2つ。

 国所属の漂白部隊(SBEU)とかいう軍隊と、民間狩猟会社(PHC)という武装を許可された民間のハンターたち。

 

 漂白部隊(SBEU)が東と南東。

 民間狩猟会社(PHC)が南西。

 んで、俺の拠点があるのは北西の端っこだ。

 

 それ以外は全部あの化け物どもの住処。

 他の街とか県とかは知らんが……この夜鳥羽の人類、多分結構苦戦中である。

 

「んなとこに連れてきて、一体何をさせたいんですかね、あの神様モドキは……」

 

 考えてもわかる筈もなく。

 明日に備えて、早速拾ったタオルケットで寝床の準備をするのだった。

 ああ、早くまともな生活環境が欲しい……。

 

 


探索成果:生還

 

収入: ¥780【拾得/収集】

支出:―

残額:¥301,150

 

進行中任務

1:■■■■

2:拠点の修復


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