崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第22話 Forecast⑤

 

 

 

 全速力で学校内を駆ける。

 

「ヤバい、ヤバいヤバい……!!」

『■■■■――!!』

 

 背後からは特殊個体(ユニーク)のブラー、旋棍火炎鮫が追ってくる。

 さっきまでの静寂はどこへやら、どすどすと重たい足音が校内に鳴り響く。

 

 ――どうする、どう逃げる……!!

 

 倒す選択肢はない。絶対無理!

 こっちの装備は拳銃が40発ちょっとだ。

 十神とかいうあの姉ちゃんもいない今、特殊個体(ユニーク)を倒せる武力はない。

 

 できるのは逃げる一択――だがそうなると道中の罠が牙を剥く。

 無理してでも壊せばよかった……いや、むしろ使うか!

 

「――ほっ!」

 

 バリケードを飛び越え、振り向きざまに拳銃を3発撃ち込む。

 2発は皮に弾かれ、1発が開いた口の中に突っ込んだ。

 

 ――よし!

 

 と思ったのも一瞬、奴は止まらずバリケードをぶっ飛ばす。

 

「強っ……」

 

 そしてその口内に真っ赤な光が灯り、直後火炎放射が放たれた。

 

「おおおお……!!」

 

 なんとか横の教室に入って回避。

 とろける火炎に廊下が真っ赤に染まって空気が焼け焦げる。

 

「熱っ……!!」

 

 掠っただけでヤバイ!

 てか口に撃った弾、効いてないのかよ……ちょっとは痛がれよ!

 くそっ、やっぱマトモに戦うのは無理!

 

 ――てかなんで火ぃ吹いてんの!? ファンタジーかよ!

 

 ジャンルが違うって言ってんだろ!

 でも心臓から雷剣ができるなら、怪物本体も火くらい吐くか!

 

「んなわけあるかよクソがぁ!!」

 

 火が止んだ瞬間に飛び出し、奴の顔面に銃弾をばら撒く。

 といっても残弾は7発。大した威力はない。

 たださっきの奴らの連射で露出してた肉に1発当たって、化け物が僅かに怯む。

 

 その隙に、全速力で脇を駆け抜けた。

 

『■■■■――!!』

 

 咄嗟に振られた腕を飛び込んで躱すが、避けきれずに僅かに掠める。

 それだけで身体が吹き飛んで壁に激突。

 肺の中の空気がげぇ、と吐き出される。

 

「ぐっ……」

 

 それでもなんとか藻掻いて前に走る。

 服が裂けて外気に触れた左腕は熱くて痛い。ただ手は握れるし動くから問題なし!

 わざわざ怪我まで覚悟で反転したのは理由がある。

 

「……見つけたぁ!」

 

 駆け込んだ先に、さっきの乱入者の死体がある。

 首から先を失った奴らの横に落ちてる銃と、ベストに刺さったマガジンを拾う。

 

 突撃銃(アサルトライフル)……から僅かに銃身を削ったカービン銃。

 走りながらリロードを行う俺へと、ようやく振り向いた旋棍火炎鮫がドスドスと揺らしながら追いかけてきた。

 歩幅があまりにも違いすぎるから、音はどんどんと迫ってくる。

 

「速ぇぇ……!!」

 

 再びの追いかけっこ。暗い校舎を西に進む。

 今は校舎の半分辺り。そして悲しいかな道中の教室は檻で塞がれてるからぐるぐる逃げ回るのも無理。

 端の階段までの間に作戦を立てねばなるまい……が。

 

 ――そんなもん、1択だろ!

 

「罠で足を吹き飛ばす……!! そうすりゃ追えねえだろ!」

 

 道中にたっぷりあった殺意満点の罠の数々。

 あれで奴の足をぶっ壊して逃げる……それしかない。

 

 そうと決まれば作戦開始!

 真っ赤な光が廊下を照らした瞬間に、目の前のバリケードを飛び越した。

 

 火炎放射が机を焼くのを構わずに、火の向こうへとカービンを乱射する。

 狙いは足。

 だが奴は火を吐き終えるとそのまま燃えるバリケードをぶっ壊して追ってくる。

 

「熱っ……バケモンが!!」

 

 だがなんとか端にたどり着けた。ここからだ……!!

 

 まずは階段。手すりに飛び乗って滑り降りる。

 そんな俺を追うように奴が階段に突入して――ワイヤートラップが起動。

 階段の上で手榴弾の爆発が起きた。

 

「……っ!!」

 

 伏せるようにして爆風を回避……した直後に特殊個体(ユニーク)が飛び出してきた。

 お構いなしかよ……!!

 

「うおお……!?」

 

 ぶっとい腕の振り下ろしを転がって回避。

 轟音が響いて壁がぶっ壊れる。

 ば、馬鹿力……!!

 だが一瞬見えた奴の両足は、爆発で皮が剥げている。

 

 ――よし、いける……!!

 

 特に損傷の大きい真っ赤な右足首に残弾全部を撃ち込む。次で最後のマガジン。

 大したダメージにはならないが、少しでも奴の肉を抉る。

 

『■■■■――!!』

「おっと!」

 

 反応して火を吐こうとする寸前にこちらも飛び出し、また手すりに乗って滑り落ちる。

 次は有刺鉄線――は踏みつぶして追いかけて来た。

 そりゃ効かないよな! 爆発耐えんだから!

 

「――次!」

 

 3階から2階へは踊り場に飛び降り、奴を待ち構える。

 奴もまた俺を追って飛び込んで来るのを転がり避けて、素早く階段を上がった。

 

『――――!!』

 

 すぐさま追ってきた化け物が飛び掛かってくるのを、真横に転がって先に上らす。

 その先にあるのは――侵入者用のスパイク!

 スパイク辺りに数発乱射して、罠を起動させる。

 

「死ね!」

 

 ずどん、と鈍い音が響き、怪物は階段を転がり落ちていく。

 馬鹿みたいな威力。俺が喰らってたら即死だったが……奴は腹から多少の血を流すだけ。

 頑丈だな、おい!

 

 無視して3階へと走る。

 バリケードがあるから、多分大まかな構造は上と同じ。

 もう罠は気にせず進んでく。

 

『――――!!』

 

 階下から聞こえる咆哮を聞きながら考える。

 

 さてどうすっかなー。

 今死んだらタブレットを置いていくことになる。流石にあの一瞬で地図は覚えられてないから失う訳にはいかない。

 俺が逃げるか奴を止めるか、2つに1つだ。

 

 できれば逃げたいが……奴は元気満々。

 拠点まで追ってきたらゲームオーバーだ。

 ……あれ? じゃあここでやらないと駄目じゃん。

 

「せめて足はぶっ壊さないとか。面倒な……」

 

 爆発や罠は効いた。ならもっと威力があればいい。

 

「ぶっ壊す……でもカービンでも無理……どうするか……」

 

 もう音を気にする必要がないせいか、ぶつぶつと思考が声となって漏れ続けてた。

 銃撃を繰り返していることで脳内に快楽が弾けて仕方ないのだ。

 カービン銃の連射も凄いが、さっきのスパイクなんてヤバかった。

 弾ける果汁! 迸る快楽!

 そしたらどうだ、どんどんと素晴らしい考えが巡ってくるじゃないか!

 

「……はっ!」

 

 閃いた!

 あるじゃん、奴の足を吹き飛ばせる罠が!

 窓の外、別の棟が邪魔だがその先には……校庭がある。

 あの忌々しい地雷原が!

 

「ははっ! やってやるか!!」

 

 鞄を奥のバリケードに放り投げ、ローブをまさぐって隠してたそれを引っ張り出した。

 

 直後に階段辺りで轟音が鳴る。

 飛び起きてきたらしい化け物が壁とバリケードを壊しながらこっちへ来る。

 ギリギリまで引きつけて……。

 

「ついてこいよ、旋棍火炎鮫(もえシャーク)!」

 

 奴が到達する前に、俺は窓から外へと飛び降りた。

 3階なら大丈夫!

 素早く周囲を確認。俺がいるのは校舎のほぼ西端。つまり真っすぐ北が校庭。

 

 直後、奴も外へと飛び出してきた。

 着地で血が弾け飛ぶ。

 ……何回か飛び降りたら折れるか? その前に俺が捕まるか!

 

「こっちだこっち!」

 

 奴の足に数発撃ち込んで校庭へと全力疾走!

 そのままついて来い!

 

『■■■■――!!』

「あははは!!」

 

 最後の追いかけっこ。

 まっすぐ走れば殺されるから、蛇行しながら奴に残った弾を奴の足にばら撒いていく。

 勿論攻撃は食らう。

 防弾ベストごと脇腹をイカれ、代わりに鉛玉を右足に叩き込む。

 

 吐かれた火が足を掠めて踵が焼け焦げる。

 お礼に引き抜いた鉈をぶん投げ叩きつけ、怯んだ隙に最後の全力ダッシュ。

 さっきローブから取り出したそれのピンを引き抜き、校庭のギリギリ手前で振り返る。

 

「前言撤回!」

 

 ここは命の使い時だろ、多分!

 てか血だらけ火傷だらけでキツすぎる!

 テメエとともに吹き飛んでやるよ。だから――

 

「ほら、おいで」

 

 当然ながら凄まじい速度で迫る怪物に笑みを浮かべた。

 

『■■■■――!!』

 

 振り回された腕を屈んで避けて――膝を喰らってもろとも吹き飛ぶ。

 

「ぐぇ……っ」

 

 それでも離すまいと奴の足にしがみつく。

 2人で勢いよく校庭へと吹き飛んでいき、俺は奴の背に肉屋から貰った雷光手榴弾(ショックバン)を叩き込んだ。

 

「――吹き飛べ!!」

 

 直後、視界を真っ白に焼く閃光と轟音が鳴り響き。

 俺の意識は一瞬で消し飛ぶのであった。

 

 

 


探索成果:死亡

 

収入:―

支出:¥50,000 【蘇生費用】

   ¥30,000 【拳銃補充】

   ¥ 3,400 【弾薬補充】

 

 

残額:¥1,049,550

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:予言者の潜伏場所の発見

4:衣類の回収、引き渡し

5:夜鳥羽中央の指定地点への到達


 

 

***

 

 

 ……それから、数十分の後。

 俺は西側のフェンスをよじ登って校庭に降り立った。

 ぼっこりと空いた穴は安全だとばっちりわかってありがたい。

 その分、着地の衝撃は中々だが……。

 

「……お、猟銃! 無事だったかお前!」

 

 吹き飛んだ荷物が散らばってる中にあった長い筒を拾い上げる。

 失くしたと思ったのにラッキー。

 それに丁度いい。

 

「こっちもいたいた」

『――……』

 

 最初より更にぼこぼこになった校庭を、腰から血をドバドバ流した旋棍火炎鮫が両手で這っている。

 顔やら腕は黒く焼け焦げ、あれだけ硬かった皮が弾けるように裂けていた。

 地雷もあるだろうが、あの雷光手榴弾(ショックバン)、相当な威力だったんだな……。

 

 薄っすらと地面からも白煙が昇ってる。

 俺らがさっきいた校庭の入口部分からここまで100mはあるか? 何度か爆発して転がってきたって考えると……すげえな。

 

「だが残念。こっちは金があれば死なねえんだ」

 

 猟銃は2発とも残ってる。曲がってる様子もないので、その頭に銃口を突きつけた。

 目のない顔がこちらへと向く。

 何とか俺を喰おうとガチガチと動かしてる。

 

 ……ヤバい化け物だなー。なにがどうしてこんな生き物がやって来るのか。全くわからん。

 ともあれ、こうなったら流石に負けない。

 空いた口に猟銃を2発叩き込んで、トドメも完了。

 

「……ふぅ。なんとか終わったな……」

 

 まさかの遭遇だったが、無事に倒せてよかった。

 あの殺傷力抜群の罠も使いようってな。

 ……運が良かった。いや、相性が良かったかな。

 

 トラップハウスに特殊個体(ユニーク)

 この復活できる身体じゃなきゃ、対処は不可能だった。

 例え漂白部隊(SBEU)の軍人たちを連れてきても何十人も死んでただろうな、ここ……。

 

「なんなんだこの場所……」

 

 あの乱入者もだ。一体なんだったんだ?

 武装は軍用銃だったが、前に会った漂白部隊(SBEU)とは着てる防具が違う。

 別の組織か? 後は謎のメッセージもよく分からないし。

 

『――待ってるよ。どうかアタシを助けてね』

 

「……んなガラじゃないんだけどなあ……」

 

 正直分からない事だらけである。

 念の為カメラを持ってきたから、その辺りの調査は記者(ライター)に任せるとしよう。

 

「よし、やるかー!」

 

 地雷で散らばった荷物を集めて、捨ててきた鞄も拾わないと。

 あと……こいつの解体もか。

 どうも特殊なブラーらしいからな。肉屋に渡せば喜んでくれるだろう。

 丁度良く穴が開いてて周りからも隠れるし、ここでやっちまおう。

 悲しいかな体力は有り余ってるしな。

 

「しっかしこんな場所があるなんて、この街、想像以上にヤバいだろ……」

 

 ぼやきながら、煙を吐き出す死骸へと鉈を振り下ろすのだった。

 

 


探索成果:生還

 

収入:―

支出:―

 

 

残額:¥1,049,550

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:拠点の修復

3:予言者の潜伏場所の発見

4:衣類の回収、引き渡し

5:夜鳥羽中央の指定地点への到達


 

 

***

 

 

 その頃、夜鳥羽の北東区画にて。

 別の戦闘が行われていた。

 

「リロード!」

「了解、援護する!」

 

 暗く沈んだ廃墟の中を照らす強烈なライトが3つ。そこから放たれた弾丸が真っ白な怪物を打ち砕いて巨体が崩れ落ちる。

 

『――……』

「ブラー、死亡(ダウン)

「よし運ぶぞ。お前らは警戒を」

「おう」

 

 武装した3人の男たちの前に、ブラーが2体倒れている。

 禿頭に灰色の襤褸を纏った彼らは、囲地よりやってきた残留者の戦闘員。

 ブラーも警察もやって来ない奥地で独自の戦闘訓練を受けてきた彼らは、現れた怪物を的確に処理していた。

 

 1人が指笛を吹くとリヤカーをひいた男たちが現れる。

 

「2体だ。運べ」

「「はい」」

 

 揃って頷くのは拠点形成を行う雑用係。

 まだ10代後半くらいに見える彼らは、この危険領域にあっても非武装であった。

 怪物に襲われたらひとたまりもない、どう見ても使い捨ての駒扱いだが、この危険を乗り越えた者が戦闘員になれる。

 

 どうせ元は地方都市の半グレとか借金持ちとか。大事に扱う相手でもない。

 戦闘員の3人もそこからなんとか這い上がった身のため、かつての恨みを下で晴らす。

 そんな、身分差による統制が彼らには敷かれていた。

 

「気をつけて運べよ。今度基地を壊されたら汀良さんに殺される」

「怖かったなあ……マジでブッ飛ばされると思った」

「あの人顔良いから、凄まれるとチビるよな……」

 

 ()()では活性化は数日先。

 だから今のうちに拠点の再構築を進める必要があった。

 前回謎の襲撃者に破壊されたため、20名を越える人員を送り込んで、大慌てで拠点形成を進めていた。

 輸送拠点は前回と同じ北東の物流倉庫。

 そこから南西に下った企業ビルを間借りして解体場を作っている。

 

 前任者たちのレポートを参考に、効率よくブラーが狩れるルートや拠点を確認。

 それを行いながらも、上からの指示で人探しを行っていた。

 

『――夜鳥羽にて活動を続ける『銃の亡霊』。そいつを連れてきてください。生死は問いません』

 

 例の襲撃者の捜索。

 そのために、戦闘員は散らばって探索を行っていたのだった。

 あくまでブラー退治のおまけだが上の指示。任務の合間にも行う必要があった。

 

「……一旦戻るか。近いとはいえあいつ等だけだと万が一がある」

「だな。その亡霊にまたやられたら汀良さんの前に赤兎さんに殺されるわ」

「特務戦闘員だか知らないけど偉そうなんだよなあの人――」

 

 そうぼやいていたその瞬間。

 後ろで鈍い音がした。

 

「……え?」

 

 振り返ると、非武装の下っ端が死んでいた。

 片方は胴を抉られ、もう片方の頭に巨体が覆いかぶさっていた。

 その姿は真っ白。ただし背はやけに伸びた棘のような構造体が生えていたのだが、それらがどんどんと赤みを帯び始めていた。

 

「は……?」

『――――』

 

 熱の籠った吐息を吐き出しながら、そいつがもう1人の死体を喰らう――前に、3人を見た。

 ぱきぱきと音が鳴る。

 それは奴の白かった表皮が色を帯びながら()()()していく音。

 ただでさえ硬い皮膚が鎧に覆われていく。それは絶望の音だった。

 

「ゆ、特殊個体(ユニーク)……? なんでここに……だって予言はまだ先……」

「いいから撃て! 死ぬぞ!」

『■■■■――!』

 

 それからほんのしばらく戦闘音が鳴り響いたが、直ぐに止むことになる。

 計5名。たっぷりと人を喰らった怪物が廃墟に解き放たれたのだった。

 

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