あれから解体や探索、撮影を済ませて帰宅したのは深夜3時くらい。
その後朝まで作業して爆睡して……目覚めたら昼前になっていた。
「ふぁ……眠……」
飯が不要なこの身体。
その寝起きってのは変なもんで、頭がぼんやりしている以外は元気満タン。
飴しか食ってないのにな。相変わらず変な身体だ。
「今日の飴は……ソーダ味〜♪」
味を楽しむだけの飴も、人らしさを保つための行為なのかもしれない。知らんけど。
寝ぼけ頭で飴を放り込んで地下へと降り、ブルーシートに座ってPCを開く。
さてどうなってるかなー。
「……げ」
やり取り用の非公開SNSには大量のメッセージが届いていた。
送り主は勿論
あの後、忘れないうちに見てきたものを文章にして、選抜した写真数枚とともに送っておいたのだ。
謎の拠点に、正体不明の侵入者。
そして何故か俺の行動を把握してメッセージを送ってきていたタブレット……。
あの学校で見たものは全てが謎だらけ。
――Tak:ブラーの牢屋ってどういうこと!? そりゃ怪しい場所を調べさせたけど、そんなものがあるなんて聞いてないんですけど!? しかも他に侵入者がいた!? なんなのそれ!?
映し出されたのは、そんな怒りや困惑だらけの超長文。
ああ、早口に捲し立ててる姿が思い浮かぶ。
これは駄目そうだ。
「読む気が失せる……」
寝起きの頭で読むのには苦労したが、要はとんでもなく興奮していることと、
裂け目マニアとでも言うべき彼女でも把握できてない施設……。
「うーむ、ますます謎だ……」
大量のメッセージは『何か情報がないか調べてみる』と締めくくられていた。
最後のメッセージからは6時間程が経ってる。
――LIZ:おはようございます。その後何かわかりましたか?
問いかけには直ぐに反応があった。
どうやら起きていたらしい。
――Tak:分からない。例えばあんたが遭遇した侵入者、これはSBEUの正式装備でもないし、ハンターや残留者がこんな装備はしないでしょう。別口なのは確か
あの2人の乱入者は、俺が戻る頃には結晶体になっていた。
身分を示すようなものは何も身に着けておらず、装備も見覚えがないものだった。
通信装置とかは持ってただろうが、頭は食われてるし、
結果、情報らしいものは何も持って帰れなかったのである。
――LIZ:施設の方はどうです?
――Tak:現状不明。旧陸軍の施設っぽいけど、なんとも言えない。もう少し詳しく解析してみる。もしかしたらまた調査を頼むかもしれないから、その時はよろしくね
――LIZ:わかりました
一先ず
隙を見て残りの写真も渡しに行こう。手当たり次第撮ったせいで、送りきれなかったんだよな。
――LIZ:あとはタブレットのメッセージに関してですね。こちらも得られている情報は少ないですが
現状、分かっているのは目的地のみ。
しかもその指定地点も裂け目付近の中央地区ときた。この夜鳥羽でも最も危険な領域なのは間違いない。
――Tak:そう! まさか向こうから接触してくるなんて、あんた一体なんなの?
――LIZ:なんなのと言われましても。しがないハンターですよ。あのメッセージも、本当に私宛かはわかりませんし
協力関係になりつつあるが、俺の正体を話すつもりはない。
念の為、ハンターじゃないってバレた時の言い訳も、考えておかないとな。
――Tak:まあ、タブレットをたまたま見つけたあんたに協力を依頼した、と考える方が自然か
――LIZ:それか、私じゃない誰かが見つける予定だったのかですね。メッセージも自動再生だったかもしれませんし
少なくともあの乱入者じゃなさそうだが。
それに、自動再生なら俺に『隠れて』と言ったのはなんだって話になるが……今ある情報じゃ考えるだけ時間の無駄だろう。
――LIZ:そもそもあの紅点がどこかは分かります?
――Kas:多分ホテルだね。夜鳥羽セントラルホテル
「……ホテルか」
立ち上がって、壁のデカい地図を見る。
駅の北側にバカ広いロータリーを兼ねた広場があって、そこにショッピングモールとかの大型施設が集中している。
当然間近には裂け目があって沢山のブラーがいるだろう。
裂け目から離れた北西地区にだって毎日何体もうろついてるんだ。それこそ渋滞する位いるんじゃねえか?
しかも予言者が待つホテルってことは、昨日の学校みたいな罠だらけの要塞になってる可能性が高い。
――LIZ:ちなみに、ホテルって何階建てか分かります?
――Kas:14階
……あれを、14階分?
ええ……めんどくせー。
4階の学校でさえあんだけ手間取ったのに、それの3倍以上……。
「今の装備じゃ無理だろ」
あの乱入者が持ってたカービン銃は全滅だった。
最後の爆発と、最初の火炎放射でそれぞれ駄目になっていた。残念……。
となると奇跡的に無事だった猟銃と拳銃で戦うことになる。
その猟銃も、死んだら復活はしない。
だから使えるのはここぞって時だけ。
何回か軽装備で調べてから本番……でもいいが、場所が中央となると何度も挑むのはあまりにも面倒だ。
「どうしたものか……」
――LIZ:今のままでは無理ですね。情報求む
――Tak:勿論! 何が欲しい?
罠やブラーが盛り沢山な可能性がある拠点攻略。
それをやれってなると……思いつく方法はいくつかある。
まずその1――とにかく罠を破壊する。
例えばどっかからロードローラーを持ってきてそれでホテルまで爆走するとか。
罠の検知は少なくとも今の俺には無理。
なんとかして壊すしかない。
ただこれだと建物の中の罠破壊は無理だからあんまり意味はなさそう。
後できることは……。
「いっそ無視するか」
その2――罠を飛び越えてホテルに入る。
どこぞのヒーローみたいに、滑空なりワイヤーなりを使って上階に直接侵入する。
……できるのか? 流石に無理かなあ……。
「ヘリコプターとか……運転できないな」
――LIZ:空からホテルに入れる手段とかないですか?
――Tak:無理ね
――Kas:無理だねー
「じゃあ……」
――LIZ:該当の場所に人を送り込むとかどうです? 代わりに罠を解除してもらうとか
――Tak:は? 何言ってんの? 無理に決まってるでしょそんなの
……ですよね。
まあダメ元だったので仕方なし。
ただそうなるとどうするか。
破壊も検知も無視も駄目。どうしろっつうの。
「教えてくれよー、なー」
拾ってきたタブレットに話しかけるも、沈黙したまま。
俺が弄ってもあの地図が出るだけでなんも反応しないんだよな。
あの時みたいに話してくれたら楽なんだが――。
『――呼んだ?』
「うおおおお!?」
いきなり画面が光ったかと思うと、タブレットから声が響いた。
甲高い女性風の人工音声。
前世じゃ動画説明とかしてそうなアレだ。
突如響いたその声に思わず飛び上がって、白い画面が映るタブレットを見た。
そこには昨日見た黒い文字に加えて、なんか偉そうな、王冠被ったペンギンの絵が映っていた。
「……ペンギン?」
ジャンクを入れた箱の上に立てかけてたタブレット。
その中で、ペンギンがぴょこぴょこ上下に揺れる。
『うおお、だって。ははっ! 綺麗な顔からきったない声!』
「……こいつ」
何やらムカつく声が響いてきたので、警戒を解いて近づく。
どうやらカメラでこっちを見てるらしいから、仁王立ちしてレンズを睨みつける。
「お前が
『そうだよ。名乗ったことはないけどね』
人工音声のせいか、生意気な子供の様な声に聞こえるが……やはりこいつが予言者らしい。
丁度いい。気になること全部、直接聞き出してやる。
「よし、じゃあいくつか質問があるんだが、答えろよ」
『君、口悪いねー。別にいいけど、その前に……えいっ!』
「ん? ……おわっ!?」
目の前で開いていたPCの電源がいきなり切れた。
充電とかまだあったのに!
「なにすんだ!」
『ここから先は覗き見禁止。ほら、それしまって』
「はあ?」
覗き見? 良く分からんが、せっかく作戦会議してたのに……!!
「……ちゃんと教えてくれるんだろうな。嘘とかだんまりはナシだぞ」
『勿論! 言ったでしょ、アタシだって助けて欲しいの。ただ、今はあんまり時間ないから手短にお願いね』
「なんだ、忙しいのか」
『そう! 今クールタイム中なんだよね。だから……10分くらいかな! 勿論後でまた時間は作るよ』
「……ならいいけど」
クールタイムって、ゲームじゃあるまいし……まあいい。
急いで聞きたいことを纏めよう。
まずは……。
「ホテルに来いってメッセージ、あれって俺宛て? たまたま拾ったのが俺じゃなく?」
『オレっ娘……? うん、君宛てだよ。あの記者さんがアタシを追ってたのは知ってたから、利用させてもらった。多分、調査予定地点、4ヶ所あったでしょ? あれどこ行ってもこのタブレットがあったんだよね』
マジかよ。最初からこうなる様に誘導されてたってことか。
哀れ、
しかし、これで目的が俺なのがわかった。
わかったが……。
「なんで俺なわけ? 他にも選択肢あったろ」
『あるわけないでしょ! 君、自分が特別だって知ってるでしょうが』
「それは……」
言葉に詰まった俺に、ペンギンが捲し立てる。
『君は来訪者。この街で唯一の
「……来訪者」
昨日、こいつに言われた言葉だ。
てっきり言葉の通り、『学校に入ってきた奴』という意味かと思ったが……この様子だと違うらしい。
それが意味することは、まさか――。
『そ。
「なんでそれを……」
『だって、アタシもだもん』
「……は?」
突如告げられた言葉に、反応が遅れた。
だって、あまりにもおかしなことを口走るのだ。
「今、なんて言った?」
『だーかーら、アタシも神様とマッチングして連れてこられたの! 君と同じで!』
「……嘘だろ?」
そんなこと……あるのか?
『嘘じゃない! てか、じゃなきゃ君に助けを求めたりしないよ。君、自分がどんだけ怪しいかわかってる?』
「……」
うん、滅茶苦茶怪しいです……。
そんな奴にわざわざ接触するのなんて、俺が
それはつまり――。
「お前も、転生者……?」
『そ! これで分かった? アタシたちは同類なの。よろしくね、夜鳥羽の亡霊さん』
色んなトンデモ情報をあっさりと言い放ち。
白く光る画面の中、機械音声の王冠ペンギンは上下に揺れるのだった。