崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第24話 Forecast⑦

 

 

 

 状況を整理しよう。

 

 1月半ほど前、俺は神様モドキに連れられてこの世界にやってきた。

 説明は何もなし。

 ただ連中の誰かと『マッチング』なるモノをして、この無性別美少女の姿に転生させられた。

 

 以来、孤独にこの廃墟に暮らして探索を続けていたわけだが、この2週間ほどで怒涛の変化が起きた。

 

 文香嬢との出会いを筆頭に、特殊個体(ユニーク)との戦闘。

 鵲店主と記者(ライター)との出会いを経て――この予言者(シアー)というペンギンと邂逅したわけだ。

 

 ……いや、どういうことだ?

 改めて考えても、目の前のペンギンは理解不能である。

 

「転生者……マジか。他にもいたのか……」

『大マジ。あの神様……ほら、真っ黒い人が言ってたでしょ? マッチングしてるって』

 

 真っ黒い人型の神様モドキ。

 その存在を知ってるってことは、こいつはやはり転生者なのだろう。

 

「確かに言ってた。え、じゃあ他にもいる?」

『恐らくね。ただ、アタシも同類に会ったのは君が初めてだったけど』

 

 予言者の出現は俺がここに来た1月半よりずっと前だった筈。

 それで出会ってないのなら、少なくとも転生者がそこらをうろうろしてるなんてことはなさそうだ。

 

「そうなのか。探せば戦力になりそうだけど」

『そんなことしてる余裕はなーい! そもそも海外にいたらお手上げだし』

「……それもそうか」

 

 この夜鳥羽だけでも碌に回れてないのだ。

 海の向こうまで探す気にはならない。

 うんうん頷いてると、ペンギンが小刻みに跳ねる。

 

『で、君は何のゲーム?』

 

 ……その聞き方をするってことは、こいつもゲームでマッチングしたってことか……なんなんだよあの神様モドキ。

 ゲーム好きすぎだろ、仕事しろよ……て、おい待て。

 

「じゃあさっき言ってた『クールタイム』ってマジのクールタイム!?」

『そだよ。ターン制は再現できなかったんだろうね。行動にクールタイムが設定されてるの。だからほら急いで答えて。あと半分しかない。君が答えたゲームは何?』

「……ルートシューターだよ。ゴミ拾って脱出するやつ」

『なにそれ?』

 

 ……そんなにマイナーゲームですかね!

 仕方なく簡単にゲーム内容の説明をする。

 

「――というわけだ」

『へー、そういうゲームがあるんだ。そっか。だから死んでも復活したんだ。お金が尽きたらゲームオーバーってことね』

「……そういうこと」

 

 俺が爆死したとこ、ばっちり見られてたんかい。

 さぞ間抜けに映ったことだろうな……。

 

「で? お前は? 何のゲームだ?」

『……』

「おい、時間がないんだろうが」

 

 すっかり動かなくなった王冠ペンギンを睨んでいると。

 

『……箱庭シミュ』

「は?」

『街とかで建物つくったり、道作ったりして運営するやつだよ!』

 

 あーあるね。

 プレイヤーは神様視点になって、物作ってー、物資集めてー、戦ってーとか住民に指示出して、街や国を運営していくってやつだよな。

 俺もちょっと触ったことある。合わなくて直ぐにやめたけど。

 

 ただの街をつくるやつから、戦争できる国家運営ゲーまで幅広いジャンルだが、基本は住民を操ってのんびり街づくりをしていくゲームだよな。

 ……街づくり?

 

「化け物だらけの、この廃墟で?」

『そうなのー! 担当する都市は全部あの危険領域があるんだよ!? 信じられる? そんな場所でどうやって街づくりをしろってのよ!』

 

 悲痛な声を上げながらペンギンが揺れる。

 

『人も物資もブラーに奪われて直ぐ無くなるから限界ギリギリ。しかもどの都市も活性化寸前だし、今回は何故か最初の拠点が危険領域内なんだよ!? そんな状態でどうしろっての! ああ、答えるゲーム間違えた……』

「……ひょっとして、お前が地図で教えてきた場所って……」

『アタシがいるとこ。このままじゃブラーか追手に捕まってゲームオーバー……大ピンチなんだよね……』

 

 はー、なるほど。

 住民を操るゲームなのに、肝心の拠点が危険領域内にできちゃったと。

 

 そりゃ助けを求めるわけだ……。

 しかもこのペンギンアイコン、ひょっとしてペンギンの集落つくるチルゲーがベースに選ばれた、とか言わないよな。

 だとしたら……可哀そうに。

 

『まあ追手からも逃げられるから、ここも最悪ってわけじゃないんだけどさ』

「ふーん?」

 

 そういや漂白部隊(SBEU)とかが調べたとか言ってたか。

 色んな意味で安全な拠点が選ばれたってことなのかもな。

 

 てかルートシューターに箱庭シミュって。

 もっと強そうなゲーム好き連れて来いよ、あの神様モドキ……。

 

 すっかり元気を失くしたアイコンを眺めていると。

 

『でもいい加減何とかしたいの。もう3回も失敗してるし』

 

 ……ん?

 

「失敗? どういうことだ?」

『そのままの意味だよ。アタシは特定の街に入って、その管理をするわけ。建物つくったり、道を整えたりね。そうして、()に備える』

「波……」

『ほら、災害が来る系のシミュあるでしょ。あれって何日に『波が来る』かわかるじゃない』

「ああー」

 

 そこまで聞いて、ようやく色々と繋がってきた。

 確実に未来を当てる予言。

 捜索しても決して見つからず、こうして的確に俺に接触してきたのも。

 箱庭の上(システム)から街を見てたってんなら理解ができる。

 

「じゃあ今までの予言って」

『ゲーム……神様かな? 要はシステムからの警告通知(アナウンス)。戦いに備えろっていうね。アタシはそれを伝えてるだけだよ』

「そういう絡繰りだったのか」

 

 予言ではなくシステム通知。

 ただ、この世界からの人間からすれば正確無比な予言者に見えるってわけだ。

 俺が不死に見えるのと一緒。ただのゲームシステムも、現実に実装すれば化け物チートになる。

 見えるだけで、実際は限界縛りプレイだけどな……。

 

『そ。だから今回もヤバいの! あと5日しかない』

「……ん?」

 

 苦し気に――人工音声だから感情は分からんが――呟かれた言葉に、首を傾げる。

 なんか、とんでもないこと言わなかったか? こいつ。

 

「今、なんて?」

『だから、後5日なの。後5日で活性化が起きる。そうしたら――』

 

 冷えた空気が漂う地下空間。

 やけに響く声で、タブレットに浮かぶペンギンが揺れる。

 

『滅びるよ、この街』

 

 そう、予言を告げるのだった。

 

 

 突然連れてこられたこの世界。

 崩壊しかかって、人を喰う化け物が闊歩するこの場所で、どうやら世界の危機に立ち向かわなければならないらしい。

 それは別に構わない。やれってんならやってやるさ。

 ただちょっとでいい。

 ほんのちょっとでいいから……せめて説明をくれ、神様モドキ!

 

 俺は深い絶望の中、壁の向こうに浮かんでるだろう裂け目を見上げるのだった。

 

 


探索成果:―

 

収入:―

支出:―

 

 

残額:¥1,049,550

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:活性化の阻止

3:拠点の修復

4:予言者の潜伏場所の発見

5:衣類の回収、引き渡し

6:夜鳥羽中央の指定地点への到達

 

設置済み設備

冷凍室

ガンラック  Lv.1

ブラー解体所 Lv.1

照明     Lv.1

通信設備   Lv.1

 


 

 

***

 

 

 その時、夜鳥羽の中央区画、その南東エリア。

 展開した漂白部隊(SBEU)は、戦闘を繰り広げていた。

 

「撃て撃て撃て!!」

『■■■■――!!』

 

 横転した車両を台座に狙いをつけ、迫る白色の巨体に銃弾を叩き込む。

 分厚い皮は数発の弾丸を耐えた後に決壊。その奥に詰まった血肉を弾けさせる。

 

 それでも足が止まらない怪物は、顔面が半壊してようやく進路が斜めにずれて電柱へと激突。その動きを止めた。

 

「ブラー、死亡(ダウン)

「……どんどん耐久力が上がってる」

 

 夜鳥羽支部の新人、沢渡は呆然と呟いた。

 ウエポンライトが照らす巨体にこれまでとの差異は感じない。

 だというのに奴らの硬さが増している。

 

「中央だから……だったりしません?」

「んなわけないだろ。あれだけの数値異常だ。こりゃ、ひょっとするぞ」

「予言ですか。本当に、活性化するんでしょうか」

 

 夜鳥羽支部には既に予言のことは知れ渡っている。

 それこそ予言者を追ってきた特捜がいるのだ。ただ、支部のメンバーは半信半疑であった。

 

 ここは枯れた裂け目。

 ブラーこそいるが、定期清掃で十分対応可能な()()()()()()だった筈なのだ。

 だから新兵が訓練として回され、元局長の――裏切者と言われる男の長女が左遷されてやって来る。

 

 そんな温い現場だというのが、この国の認識であった。

 

 ――そんなくだらないこと、誰が言った。

 

 実際にやってきた夜鳥羽はそんな甘いことは言えない戦場だった。

 ブラーは少しでも油断すればこちらを喰らおうと襲い掛かってくる。

 左遷された十神は有能だし、5年を経ても街は未だボロボロだった。

 そして、この活性化だ。

 

「うわぁああああ!?」

「……!! ブラー出現、3体!」

 

 屋根上から忍び寄っていたのだろう。

 白い巨体が飛び降り、部隊員の1人が潰された。

 すぐさま赤く染まる怪物。

 慌てて連射しようとして、部隊同士の射線かぶりに手が止まる。

 

 その一瞬をついて、怪物が次なる獲物を求めて躍動を――。

 

「――らぁ!!」

 

 する寸前に飛び込んだ巨漢が、その頭を叩き潰した。

 白煙吐き出す、黒いスレッジハンマーを担いだ巨躯は――第一部隊隊長の甘木であった。

 皆が一瞬静止する中、彼は声を張り上げる。

 

「辰巳ぃ!! 右撃て!!」

「――了解!」

「沢渡ぃ!! 左!」

「――は、はい!」

 

 残った白皮ブラーを指示のまま処理をして、戦闘は終了した。

 呆然とする皆に、ハンマー以外非装備の甘木がずんずんと近づく。

 

「甘木隊長……どうしてここに?」

「緊急事態だ。部隊は俺が引き継ぐ。全員ついて来い!」

「へ……?」

「特捜様の指令でな、急ぎ近くの前線拠点を取り返す! ……どうやらあの予言とやら、本物らしい」

「そんな……じゃあ、夜鳥羽は!」

 

 滅ぶのか。

 その言葉を沢渡は口にすることができずに黙った。

 だが、それに対して甘木は快活に笑い、告げる。

 

「だから守るぞ、全力でな!」

「……あ」

「いいからついて来い! 時間がない!」

「……はい!」

 

 素早く走り出す一団。

 そんな彼らを見下ろすように浮かぶ裂け目は、青く強く輝きを帯び始めていた。

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