崩壊世界でルートシューター   作:穴熊拾弐

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第25話 Cat house①

 

 

 

 予言者(シアー)から告げられた事実。

 それは、最悪の制限時間だった。

 

「あと5日って、マジか」

『大マジ。これまでの3都市も、この制限時間が終わったら直ぐに滅んだもの』

「……具体的には、何が起こるわけ?」

 

 乾いた声で尋ねる。

 時間が来たら即ゲームオーバーって訳じゃないだろう。

 それこそゲームじゃあるまいし。

 ということは……。

 

大型(テラ)が出る。それも最悪クラスのね』

「……ですよね」

 

 まあ予想通り。

 活性化の前段階である今、特殊個体(ユニーク)が出てきてるんだ。その先は……ボスだよね。

 確か、大型(テラ)はその身体から沢山のブラーを生むんだったな。

 今まで一兵卒か、多くて小隊相手に戦ってきたのにいきなり大軍が戦艦ごと突っ込んでくるようなもん。

 そりゃ勝てないわ。

 

漂白部隊(SBEU)とか、ハンターでも無理?」

『中央とかの戦力が来れば大丈夫。実際、裂け目が出来た時にも大型(テラ)は出たけど、旧陸軍の物理兵器で倒してた。でも今は救援には時間がかかるから、それまで耐えないといけないんだけど……今いる夜鳥羽の戦力じゃちょーっと、厳しいんだよね』

 

 救援が来る頃には街が壊滅してると。

 新たな裂け目が作られるのは阻止できるかも知れないが、街はぶっ壊れるわ、逃げ遅れたら多くの住民が死ぬことになるんだろう。

 

「そこをなんとかできないの? 箱庭管理してんだから、ユニット作ったりとかさ」

『無理無理。ゲームと違って人間をポンポン作れたりはしないの!』

「そりゃそうか」

 

 そもそも対処できてれば、5年で国土の半分近くが呑み込まれてない訳で。

 こいつも俺に助けを求めたりもしていない。

 つまり今ある戦力で対処するしかないってことか。

 ……無理じゃね?

 

『ただ、それは普通に戦わせた場合。そこにアタシの能力があれば……あ』

「ん?」

『ごめん、クールタイム終わる。また後……そうだな、3時間くらい後で!』

「あ、おい! ホテルに罠は!?」

『勿論あるよ。防衛拠点だもん! じゃ!』

 

 そう言って、タブレットは暗くなってしまった。

 ……慌ただしい。

 クールタイムってことは、箱庭――夜鳥羽の()()に戻ったんだろう。

 

「箱庭シミュ……昔速攻でやめたな、怠くて」

 

 一体、奴が見てるのはどんな視点なんだろう。やっぱり真上から見下ろす神様視点なのかな。

 あんまりやらないジャンルだったけど、現実世界を俯瞰して管理するってのはどんな面白さがあるのか。

 戻って来るらしいし、次に話す時に聞いてみよう。

 

「しかし、これで色々と分かったなー」

 

 うんと伸びをしながら呟く。

 予言者(シアー)がもたらした情報はあまりにも貴重で、とんでもなかった。

 

 俺みたいな転生者が他にもいること。

 今起きつつある活性化とやらが始まったら化け物どもが大挙して押し寄せて来て、それを止めなければこの街は終わるってこと。

 そして――それが起きるまであと5日しかないってことも。

 

 この街、想像以上にヤバい状況だったらしい。

 

「その上でホテルに行けって……そんな余裕あるのか?」

 

 そこに予言者(シアー)の『本体』がいるんだろう。

 危険領域から助け出せってことなんだろうが……肉体はちゃんとあるんだな。

 神様視点になれるゲームだから『ない』パターンもありそうだが、流石にそれは神様でも再現できなかったのかね。

 

「でもあいつを助けたとして……どうやって大型(テラ)を倒すんだ?」

 

 あいつは戦えないから俺に助けを求めてるんだろ?

 ……まさか俺にやれとか言わないよな?

 こちとら装備は拳銃と猟銃。大型(テラ)どころか押し寄せる雑魚に轢き殺される自信がある。

 

 てかルートシューターでウェーブ制の襲撃に対処とか不可能だろ。

 一瞬で弾も金も無くなってゲームオーバーするわ。

 

「それが分からない馬鹿じゃなさそうだが……どうするんだか」

 

 まあそこは奴に考えがあるんだろう。助ければ活性化もなんとかできる……今はそう信じるしかないな。

 

 ……ん? じゃあ、5日どころじゃなく今日とか明日には助けに行かないと駄目ってことか?

 はあ、ますます面倒なことに……うーん、どうするか。

 

「そうだ。チャット」

 

 パチンと指を鳴らして、放置していたPCに戻る。

 随分待たせてしまった。何から説明をすれば――って。

 

「はあ!? 動かないんですけど!?」

 

 PCのどこを押してもうんともすんとも言わない。

 え? ぶっ壊れた?

 なんで……って、原因は1つしかないか。

 

 ――ここから先は覗き見禁止。

 

 予言者(シアー)のその言葉通り、彼女についての情報を渡さないためにぶっ壊したのだ。

 

「あんの野郎……!! どうすんだよ、お前を助けるための会議してたんだぞ!」

 

 え、どうする? 今から鵲まで走るか?

 2日でホテルを攻略するならまだ多少の余裕は……いや、ないな。

 

 んなことしたら半日は確実に潰れる。

 今この時に、ただの報告にそんな時間は使えない。

 奴め、恐らくそれを見越してPCを使えなくしたのだろう。

 

 記者(ライター)たちじゃなく、予言者(アタシ)を信じろ――そういうことだ。

 

「ああ、くそっ。なら信じるからな!」

 

 3時間で戻ると言っていたから、今はそれを待つしかない。

 その間にできることといえば……弾と残機の確保かな。

 ホテル攻略には大量の弾と残機(タマ)がいる。

 

 肉屋なら全速力で向かえば余裕で間に合うだろう。

 

「よし、行くか!」

 

 こうなったら仕方ない。

 記者(ライター)たちの作戦に頼れなくなるのは痛いが、その分の責任はあいつにちゃんと取って貰おう。

 そうと決まれば行動開始。

 肉屋へ向けて、拠点を飛び出すのだった。

 

 

***

 

 

 時刻はお昼過ぎ。

 明るい街の中を自転車でかっ飛ばしながら目指すは肉屋。

 

 ――さて、何をどれだけ買うか。

 

 ホテル攻略に必要なのは拳銃と猟銃の弾。そして叶うなら、あの雷光手榴弾(ショックバン)のような特殊武装が欲しい。

 銃も武装もあればあるだけ良いのだ。

 ただ、金を使いすぎれば残機が減る。学校に5機も使い果たした以上、無駄遣いもできない。

 現状12機……さてどうするか。

 

「……ん?」

 

 なんて考えている内に、いつもの封鎖壁近くにやってきた。

 そこにはまた、あの三毛猫がいた。

 自転車を止めて、日向ぼっこ中らしい猫に近づく。

 

「お前まだいたのか。さっさと街の方いけよ」

「――――」

「……猫って人の言葉分かるんじゃなかったか?」

 

 あっさり無視して纏わりつかれた。

 まあこの様子じゃ放っておいても死ななそうだからいいけどさ。

 ブラーは人しか喰わないみたいだし。

 なんでだろうな。犬猫じゃ足りないのかね。

 

「ひょっとしてお前、また俺からたかる気じゃねえだろうな」

「――?」

 

 こいつ、呑気に首傾げてやがる。

 自分がどんだけ危険な場所にいるか分かってないのか?

 

「ここにいると危ないぞー。さっさと逃げな」

「――?」

 

 分かってなさそうだな……まあいいか。

 来世は猫になりたいなんて思ったもんだが、まさかこんな生活をすることになるとはなあ……。

 この生活は刺激だらけで楽しいけど、猫になれた方が気楽だったかもな。

 

「……何アホなこと考えてんだか。おい三毛、また後でな」

 

 別れを告げて肉屋へと入る。

 今日の本題はこっち。

 

「――おやおや、リズさん。いらっしゃい」

「こんにちは」

「ほほっ、今日もお美しくていらっしゃる。それでご要件は?」

 

 いつもの台詞を吐く店主に挨拶を済ませ、鞄から例の物を見せた。

 

「実は、特殊個体(ユニーク)を討伐しまして」

「ほほう……!! 遂に……!!」

 

 奴の心臓は、何故か赤く発光している。

 見た目から普通のブラーと違うその心臓を見て、店主は丸っこい顔に両手を添えてくねくねとし始めた。

 

「おほほっ、あなた様ならいつか成し遂げてくださると信じておりました……!! いやぁおめでたい……!!」

「は、はあ……」

「して、リズさん!」

「ひっ……!?」

 

 ずずん、と机を叩き腰を浮かすと、真ん丸な巨体がぶるりと震える。

 

「本日それをお持ちになったということは、わたくしどもに売っていただけるので!? で!?」

 

 剣幕と圧が凄い……。

 俺の3倍はでかそうだから、迫られるだけで恐ろしい。

 

「勿論そのつもりなんですが、実はお願いがありまして」

「ほほう? というと?」

「この心臓で私用の武装を作っていただくことは可能でしょうか」

「――ほほっ」

 

 分厚い肉で隠れた店主の細い目がきらりと光った、気がした。

 

「どうやら雷光手榴弾(ショックバン)はお気に召したようですねぇ」

「ええ。あれのおかげで勝てたと言ってもいいです。もし在庫があればまた欲しいのですが……」

「おほほっ、それはなにより。在庫もありますので勿論お売りしましょう。それで、武装の件ですが、可能ですよ」

「……!! 本当ですか!」

「はい。そうですねぇ……200万でいかがでしょう」

「に……!?」

 

 立てられた2本指に、思わず奇怪な声を上げてしまった。

 俺の情けない姿を見ても変わらず目を細めたまま、真ん丸肉屋は小さく頷く。

 

「ほほ、これでもリズさん価格です。色式兵装(カラージュ)にはお金がかかるのですよ」

「……そう、ですよね」

 

 残念、材料渡せば作ってくれる……なんて簡単な話じゃないか。

 

「単に素材としてお売りいただければ100万お支払いいたしますが、いかがしますか?」

「……少し、考える時間をください」

「勿論です。お待ちしておりますよぉ」

 

 結局、銃弾2種類をたっぷりと購入。

 後は雷光手榴弾(ショックバン)を2つだけ買い足した。

 

「ほほっ、お買い上げありがとうございます。他にご用件は?」

「あ、では……またお肉をいただいても? その、食用の」

 

 恐る恐る告げた言葉に、店主はにんまりと笑顔を浮かべた。

 

「そう仰ると思いまして、用意してますよ」

 

 そう言って、店主は猫缶をカウンターに出したのだった。

 武器じゃなくて猫の餌買ってどうするんだよ、俺……。

 心の中で溜息を吐きながら、金を取り出すのであった。

 

「――」

「お、まだいたか」

 

 封鎖壁内部に戻ると、三毛がまだ残ってた。

 猫缶をあけてその辺の葉っぱの上に載せ、空いた缶に水を注いだ。

 

「ほら食え、飲め」

 

 みゃあ、とか細く鳴いてからまた食べ始めた。

 たった一度餌付けしただけなのに警戒心ゼロ。

 図太い奴だな。

 

 しばらくその様子を眺めて平穏な時が流れる。

 秋風は冷たく、俺のヤケに温かい身体には心地よい。

 ただ普通の人にとってはそろそろキツくなる季節だろうな。

 

 ……今、街がぶっ壊れたら大変だよなぁ。

 

「なあ三毛。これって俺らのせいなのかな……」

「――?」

 

 俺が来た途端に夜鳥羽がこうなったんだ。こんな考えも頭をよぎる。

 神様モドキが俺らを使って楽しむためにこのゲームを始めた……なんてのは考えすぎかね?

 

 俺1人だけならまだ違ったんだが、予言者(シアー)みたいな他のプレイヤーがいると分かった今はその考えも変わりつつある。

 この世界が、俺たちを放り込むために作られた、ってな。

 流石に考えすぎだとは思うんだが、俺が原因の可能性がちょっとでもあるなら、止めないとな……。

 

「時間制限があるとか、似た転生者(やつ)がいるとか……せめて説明しろよ、あの神様モドキめ……」

 

 なんて愚痴ってたら、餌を食べ終えたらしい。

 ちゃんと鳴いて報せた猫の頭を撫でてからゴミを集める。

 ……缶は洗っても、使い道はないかな……後で捨てておこう。

 

「――」

「わっ! なんだよ、肩に乗って……連れてけってか?」

 

 急に岩から飛び乗ってきた猫が、自転車の荷台部分に器用に座り込んだ。

 どこまでも図太い奴だな……。

 

「……まあ、ここよりは拠点の方が安全か? 外に出た方が安全だってのに」

「――」

「調子がいい奴め……でも丁度いい。お前で試したいことがあったんだ。家賃代わりにちょっと協力しろよ」

「――?」

 

 呑気に鳴く三毛猫を乗せて、拠点へと帰っていくのであった。

 

 


探索成果:生還

 

収入:―

支出:¥200,000 【雷光手榴弾(ショックバン)代】

   ¥ 21,200 【弾薬補充】

   ¥ 2,700 【猫缶代】

 

残額:¥825,650

 

進行中任務

1:夜鳥羽の裂け目の消滅

2:活性化の阻止

3:拠点の修復

4:衣類の回収、引き渡し

5:夜鳥羽中央の指定地点への到達


 

 

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